二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

ハイキックと回し蹴りと体術

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「道中手頃な野盗でも狩って行こうか」

 犯罪者は人では無い!という師匠の理屈には多数の賛同者がいるだろう。
 僕も冷めた目で、卑劣な野盗を魔物と同じ扱いをする師匠には賛成だが、旅の始まりの一言としては、あまり適切では無いのでは無いか。
 とも思う今日この頃。

 みなさんお元気ですか!
 
 僕は現在絶賛戦闘中。

 相手は野盗です。

「師匠が変なフラグ立てるからですよ!旅立って初日でなんで野盗と出くわすんですか!」

 右手の集団を焼き払いながら不満を口にする。

「知るか!そもそもこの肥沃な国で野盗なぞ、そうは出るはずが無いのだが……」

 そう、この国は商業国家ラーズの属国とも呼ばれ、一国に防衛から貿易まで依存する農業国家なのだが、その恩恵で食うには困らないわりと豊かな国だ。
 富んでいるかというと、ラーズが貿易を独占している事もあり、そこまででは無い。
 要はやり手の商人に美味しいところは持って行かれているので、貧乏では無いが決して裕福では無いという、不満が出そうなちょっと上という、バランスが取られている。
 
 つまり野盗が襲いたくなる様な相手が少なく、飢えるなら、その辺の農産物を盗む方が人を襲うよりも罪は軽く手っ取り早く安全である。
 犯罪を正当化する気は無いが、この国では人を襲う事が最も割りに合わないのだ。

 というよりも、その辺の民家に、駆け込んで食料を求めれば、この温和な国の人ならば喜んで施してくれる気がする。

 要するに、この襲撃は何かがおかしい。

 一陣の熱波が押し寄せる。

 師匠が左方の一団を焼き尽くした様だ。

 後は正面の三名だけだが、まだ戦意は失っていない。
 先ほどの奴らもそうだが、そこそこ腕が立つ。

「さて、どういう了見か、説明してもらおうか!」

「魔術士風情が調子に乗るなよ!」

 正確には魔導師と魔道士の魔法使いなので、一緒にしないで貰いたい。

 三人は機動力を重視した革の鎧を着込み、盾と片手剣をそれぞれが装備している。
 種類は同じだが統一感は無い。
 魔力はあまり多くは無いので、剣主体の戦闘スタイル、いわゆる剣士だろう。

 装備の傷から、それなりに経験を積んでいる様で、動きも良いし、目立った隙を見せる事はない。

 が、敵じゃない。

 既に襲って来た溜飲は、二度の魔法で下がっているし、この間の教訓からちゃんとした事実は知らねばならない。

「師匠!一人は生かしておいて下さい。事情を聞きたい。」

「舐めるな!」

 三人が最も近い師匠に上段から斬りかかる。

「ぐっ!ぐおぅ」

 杖で受け止めてる。
 わりと余裕で。

 所詮は女で魔術士、鍛えた男の腕力とはわけが違う。
 そのまま切り裂いて終わるか、避けるという選択肢しか無く、二撃目を想定していたとしても、三人同時では防ぐ術はない。
 と思ったのだろうが、鍛え方が違う。

 杖をひねり三人の剣を左にズラすと、剣に込めた力を利用し、バランスを崩される。
 その隙を見逃す師匠ではない。

 鞭の様にしなるハイキックがカウンター気味に側頭部に決まり最も体格の良い男がその場に崩れる。
 蹴りを決めた足が地面に着く反動を利用しそのまま、流れる様な回し蹴りが、崩れた男の頭上を掠め、バランスを戻せない男の首に入る。

 あっ、折れた。

 一人は残してとお願いしていたので、まだ大丈夫か。

 あっ、切った

 残る最も小さな男は、ハイキックから回し蹴りと一回転する流れのまま、右手に逆手に持つ短剣が振り抜かれ正確に首の動脈を断つ。

「私は魔術士ではない、魔導師だ!魔法使いを甘く見て貰っては困るな」

 魔法を使わず、本職の剣士に体術のみで一蹴し、捨て台詞を吐く。

 一切心配してなかったですけど、勝ち方と捨て台詞にはツッコミ所が満載だ。

 しかし、これもいつものことなので、お見事です。
 それよりも最初にハイキックを食らわせた男だ。
 回復させないと喋れないだろう。

 満足そうな師匠を尻目に駆け寄り抱き起こす。
 当然師匠にやらせる訳にはいかない。

 師匠に抱き起こされるなぞ、百万年早い!

 というか、その時は死んだ方がマシという苦痛を与えてから、この手で……

「……死んでますけど」

 側頭部に入った一撃は彼の頭蓋骨を粉砕し、脳に深刻なダメージを与えた様だ。
 それも、死に至るほどの。

 結果瞬殺だ
 魔法使いが蹴りと短剣で……

「結局三人とも殺っちゃったじゃないですか!なんでそう、ポンポン人殺すんですか!最後の短剣なんか、必要ないでしょ!こういうのを過剰防衛って言うんですよ!」

「襲って来たのは向こうだ!」

「だーかーら!その理由を聞く為に一人残して下さいって言いましたよね!」

「いつ?」

「はぁ!何誤魔化してるんですか!今日という今日は朝まで説教ですからね!」

「きゃっ!」

「危ない!」

 追い詰める僕から逃げようとする師匠。

 後ずさりした所に運悪く突き出た木の根が!
 足を取られ、後ろに倒れる所を右手で抱き止めた。

 間一髪だ!
 まったく、妙な所で抜けているのだから。

「大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう」

「気をつけて下さいよ。変なとこで抜けてるんですから。それより……」

「ごめんね」

 上目遣いで見つめられる

「……」

「ごめんね、レオ」

 少し涙目だ、ウルウルした目で見つめてくる。

「……」

「次から気をつける」

 素直な上に指でイジイジしない!

「……気をつけて下さいね」

 うん、ちょろい。
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