二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

野盗と冒険者

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「それにしても、奴らの目的はなんだったのでしょうかね?この国では、盗賊行為をしなくても食うに困ることは無いでしょうから。」 

 盗賊行為が無いということは、野盗が少なく、商隊が襲われることが少ないということだ。
 つまり治安は良い。

 そもそも僕らは街道を二人、徒歩で移動していた。
 少なくない数の商隊や冒険者、旅人ともすれ違っている。
 見通しの悪い場所とはいえ、いきなり襲われたのだから何かしらの目的があったと推測することはおかしな事でない。

「コイツら冒険者ですね。」

 野盗の集団を二つの魔法と体術のみで殲滅してしまっているので、最早何も聞き出すことは出来ない。
 何か手掛かりがあればとリーダー格と思われる三人の野盗を身体検査中だったのだが、冒険者の証明である銀のタグを首から下げているのを見つけたのだ。

 この国の冒険者は全て冒険者ギルドに所属している。

 冒険者は、魔物から街を守る治安維持の互助組織が発展した冒険者ギルドに所属する者の総称だ。
 ある程度の戦闘能力があり、ギルドが認めた者だけが所属する事が出来、その身分は全国にある国に属さない独立組織冒険者ギルドが保証している。
 冒険者は魔物の討伐が主な仕事だが、基本は独立採算制なので、冒険者になりたての経験の浅い者などは、それだけでは食えない。
 そこで、各街や村にある冒険者ギルドが依頼を仲介する事で幅広い仕事を斡旋している。
 依頼主は市民に限らず、商人や貴族、領主や王族など、その戦闘力を頼みとしたありとあらゆる依頼が飛び込み、それを冒険者の力量に応じて差配するのが冒険者ギルドの主な役割となっていて、人気の依頼には、定期便や商人が商品を運ぶ商隊、衛士の付かない貴族の移動など、移動の主流が馬車である事から、輸送に関わる人命を守るのが主な任務の護衛などがある。
 また、魔物討伐による治安維持の観点から討伐された魔物から取れる魔石や皮、貴重な素材も冒険者ギルドが買い取り、それを商人や貴族に販売するなどの商行為も行なっている。
 この様に戦闘力に裏打ちされた市民の味方、何でも屋が冒険者である。
 
 彼らが持つ銀のタグは冒険者としてギルドに所属する事を認められた者に支給される身分証で、中にはギルドから特別に認められた者には金やミスリルなど別の材質の物が支給されているが一般的な冒険者は、それぞれの強さや貢献度の様なランク制、レベルは存在せず、一律銀のタグが与えられている。
 もっとも、彼ら個人とそのパーティーの力量は各ギルドが把握しているので、力不足の依頼が斡旋されることは無い。

 タグには材質の違い無く、氏名と所属ギルドの名称が記載され魔法陣が打たれている。  
 この魔法陣は依頼主に渡されるスクロールにかざすと真贋判定ができるという優れもので、偽造防止と成りすましの予防に一役かっている。
 
「冒険者がこんな所で何をしていたのだ?」

「いや、だから、それを知りたくて生かしておきたかったのですが……」

 今更何をとも思うがスルーして分かったことを伝える。

「人数の多さも気になります。少なくとも三パーティー以上がいたと思われます。」

 冒険者は依頼を完遂するためにパーティーを組む事が多い。
 パーティーとは冒険者が依頼を行う際に組むチームのことで、一チームは四から六名が基本とされている。
 この人数になるのは最小構成で最もバランスが良いのが四人だからだ。
 また、ダンジョンに設置されている転移魔法陣で一回に運べるのが十人以内が最も多いことと、独立採算制の冒険者に取って収入割合は最も気にかけるところであり、出来る限り少人数で依頼をこなした方が当然収入は多くなる。
 だからこそ冒険者は最低限の人数で依頼をこなせる様、己を鍛え、情報を集め、仲間との連携を強化するのだ。
 
「全員冒険者ですね」

 焼き払った死体から、燃え残るタグを拾い声をかける。

「冒険者が十人以上で、魔術士二人に襲いかかったということか。」

「狙いは僕らですね。」

「そう考えるのが妥当か、正式な依頼が出ているのか、直接コイツらに依頼したやつがいるのか冒険者ギルドに確認する訳にもいかんし、一人残しておくべきだったな。」

「僕は言いましたよ!」

「そう言うな、まさか蹴り一発であの世行きとは思わん。軟弱な!」

 過剰防衛では無く相手が悪いらしい……

「それにしても背後関係が分からないとなんとも動きようがありませんね。とりあえずタグは全て回収して王都の冒険者ギルドに持ち込んでみますか。死体を見つけたことにして。」

「任せる」

 あ、面倒臭くなったな……
 仕方ないこの件は僕の方で調べるか。

 焼け残ったタグも全て回収して、残った死体を埋める。
 ここに放置すると、二次災害を起こさないとも限らない。
 この世界では死体は土葬が基本だ。
 死体がそのまま放置されると、その肉や血の匂いに引き寄せられた魔物や獣が集まり襲われる被害も少なく無い、
 また、死体を媒介とした疫病が発生する事もあるので、死体の処理はこの世界のマナーとも言える。
 決して証拠を隠滅する為では無い。

「この件は王都に行ったら僕の方で調べてみます。また襲われないとも限りませんので先を急ぎましょう。」

 まだエテルナを出たばかりだ、今回の移動は次の街セレナで馬か馬車を調達するまで、徒歩での移動としているので、僕らの足でも二日はかかる。

 まずは野営出来る所まで移動だ。

 
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