二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

野営地

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 街道を半日ほど進むと街道の脇に野営地の案内板が見えてきた。
 街道の脇の平坦で開けた場所は野営地として、簡単な整備がされていることが多い。
 この場所は少し奥まった所に野営地に適した場所がある様だ。

 徒歩と馬車が中心の移動では、街と街の間の移動には数日を要するため、その間の宿泊は野営を行うしかない。
 野営に適した場所というのも、そう多くはない事から、長い年月をかけて、野営を行う人の手で少しづつ整備されて来たのだ。
 この場所もその一つで次の街までには同じ様な野営地がもう一つある。
 つまり馬車で二泊三日の距離に互いの街がある事になる。
 
 複数の小隊や冒険者パーティー、旅人や馬車が野営出来るよう、見通しの良い開けた土地は地面がならされ、複数の焚き火の後がある。
 誰が置いたのか、簡易な雨よけの下には焚き火に使える焚き木が積まれている。
 誰もが明るい時間にこの場所まで辿り着くとは限らない、そんな明かりの無い中で焚き木を拾いに行くのは命に関わるのがこの世界のだ。そこでこの焚き木を拝借し、翌日使用したらその分補充しておくのがマナーだ。
 周囲には野営地を囲う様にかがり火を焚くための石塔が設置してあり、夕方になるとこの場所で野営をするものが手分けしてかかげて行く。
 獣や魔物には火を苦手とするものも多いことと、仮に襲われた時でも明かりがあるのと無いのとではそれこそ、生死を分ける。
 夜目の効かない状態で戦える者の方が少ない上、野営地には少なからず複数の戦えるものがいるので、安全度はかがり火がある方が高くなる。
 野営地での危険は誰もが等しくリスクを負っているので相互補助のマナーは当然の結果とも言える。
 更に、野営地を避けて野営をするよりも、それなりに戦力の整った者達で固まっていた方が敵のほとんどが魔物である以上、安全なのは言うまでも無い。

「本日ここで野営をさせて頂きます。レオと言います。連れはルナ二人とも魔術士です。」

 野営地に着くとそのまま、先に野営の準備を始めていた商隊の護衛を務めている身近な冒険者に声をかける。

 僕の声に反応し、顔を上げた冒険者が絶句している。
 その視線の先は師匠だ。

 今日の師匠は珍しくパンツスタイルだ。
 いつものマントの中は黒のパンツに白のシャツとラフなスタイルだが、ピッタリとしたパンツスタイルは逆に足の長さとスタイルの良さを際立たせる。
 これはこれでセクシーだ。
 いつも一緒にいる僕がそう思うのだから、初めて見た彼ら息を飲むのも、仕方がない。

「あのー?」

「あ、あーすまん。私はダズルこの商隊を護衛するエテルナの冒険者だ。」

「これはご丁寧に、僕たちは丁度エテルナから来たところです。あの奥の焚き火後周辺で休ませて頂こうと思いますがよろしいですか。」

「ああ、私達はこの辺り三つほどに陣取らせて貰う。何かあったら私の所に来てくれ」
 
 この後、何組かやって来るだろうことを見越して、それなりに間隔をあけてお互いの場所を確認する。
 それぞれの安全は自己責任に変わりはないので、無用なトラブルを起こさない為、お互いに簡単な自己紹介をすると基本的に不干渉がマナーではある。

「この後、焚き木になりそうな枯れ木を拾って来ようと思いますが。何かご指示ありますか?」

 野営地では、一番人数の多い隊が仕切る。
人数が多いということは、それなりに周りに影響を及ぼすので、暗黙の了解で環境の整備や不測の事態ご起こった場合の陣頭指揮を取る事が暗黙の了解となっている。
 これも野営地でのマナーの一つだ。

 ダズルの護衛しているのは馬車五台、ざっと見たところ三十人程の人達が動き回っているので、中規模の商隊と言ったところだ。

「いや、既にある程度準備は出来ているので、自分達が使う分だけ拾って来て貰えば大丈夫だ。備蓄の薪も使わずに済むので明日はそのまま出て貰って良いぞ」

「それは助かります。お言葉に甘えさせて頂きます。では、失礼します。」

 師匠を連れ立って、定めた焚き火の後に向かう。
 ここは若干、彼らからは死角があるので目立つ事はなさそうだ。

「じゃ、師匠焚き火に使う枯れ木を拾って来ますので休んでいて下さい。」

「ああ、そうさせて貰おう。」

 焚き火後を囲む様に配置された石の腰掛けに座るのを尻目に奥の森に入って行く。



 一晩間に合うぐらいの焚き木を拾い、戻ると慣れた手つきで組み上げ火を灯し、お茶の用意を始める。

 見た目荷物を持っていないので、テントなど大きな物を出す訳にはいかない。
 それでも最低限のお茶と食事はしっかりと用意しないと師匠が納得しないので、妥協せず準備を始めると、人の気配を感知した。

「失礼しますよ。」

 火からそちらを見ると、焚き火を抱えた冒険者と思われる青年が近づいてきた。

「かがり火に火を灯しますね。」

「あっ、ありがとうございます。手伝いましょうか?」

「魔術士でしたよね。もし差し支えなければ、この周り四つ程に火を着けて貰えると助かるのですが。」

「ああ、任せてくれ。ご苦労様」

 師匠から声がかかると、彼も固まった。
 またか……

「いえ、やはり自分がやります!やらせて下さい!」

「そう?悪いわね。ありがと。」

 元気の良い返事と共に凄いスピードで火を着けて回る。
 
 こうやって師匠の美貌にやられた男達が、特に何を言わずとも、察して何から何まで彼女の為に動いてくれる。
 当然の様に従え、奉仕される様はまさに女王様……

 おっと、睨まれた。
 怒らせる前に食事にしよう。
 
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