二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

新たな脅威

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 野営地を魔物が襲うというのは良く起こる出来事だ。
 特に農業の盛んなこの地域では肉食の魔物にとって、人は貴重な食料とも言える。

 だからこそ襲われる人間側も当然それなりの対応はしている為、護衛や同じ野営地に集う者同士が協力し合う自衛手段が発達しているのだが、その防衛力を超える場合、少なからず被害は出る。

 索敵に引っかかったのはゴブリンにオークの混合部隊五十以上。
 魔物はある程度の数や種族が複数集まると、それらを纏める者が出て来る。
 上位種と呼ばれる存在や知能の高い更に強力な魔物が烏合の衆を纏め指揮を取るのだが、弱肉強食の魔物の世界では力こそ全て。
 つまりは総じて全ての能力が高く、指揮官としての能力とは別に純粋に戦闘力が高い。

 今回はオークの上位種がいる。

「既に取り囲まれているな。私達だけなら何とでもなるが、この人数だと乱戦になるな。」

「はい、高火力の魔法は味方にも被害が出ます。更にこの奥まった野営地から馬車を逃すのにワーウルフなら弾き飛ばして逃げる事も出来たでしょうが、質量のあるオーク相手では街道まで距離がありすぎ無理です。」

「やはり面倒だが少し前に出るしか無いか」

「ええ、被害を最小限にするには仕方ないでしょう。それでも、避けられないかと。」

 明らかにこちらの防衛力を上回る。
 更に商人を中心とした非戦闘職がいるという事は守りながら戦う防衛戦になるのだが、敵味方両方の数が多すぎて乱戦になるのは避けられない。
 敵味方が入り混じるとなると頼みの火力は役に立たない。
 つまり、ある程度の被害が出る事を覚悟しなければならないのだ。

「ダズルのとこに行ってきます。」
「ああ、私は彼らの生存率を少し上げてやる準備をしよう」

 覚悟を決めすぐに動く。

「ダズル!ちょっと話がある!」

「ん?何だ慌てて」

 戦闘が終わり仲間と談笑し、気の無い返事が返ってくるが、時間が無い。

「ゴブリンとオークが五十以上向かってる。」

 パニックにならない様、声を落とし伝える。

「な、なに!バカな!こんな所で」

「大きな声を出すな!」

 パーティーの奴らが集まってくる。

「どした?でかい声出して」

「いや、コイツが……」

「すいません、時間がありませんので簡潔にみなさんにも伝えますが、大きな声を出さず質問はダズルさんのみにしてください!ゴブリンとオークが五十以上こちらに向かっています。」

「なっ!」

 パーティーメンバーが五人とも絶句している。
 忠告はいらなかったな……

「何でそんなことが分かるんだ!いや、確かにさっき索敵してたのは正確だったが、そんな詳細に」

「すまんが事実だ。こちらの魔法について詳しくは言えないが、ここにいる魔術士達よりも遥かにランクは上だ。とにかく時間が無い!」

「確かに無詠唱で魔法ぶっ放してたが……分かった後情報はあるか?」

 流石は歴戦の冒険者、こちらを疑って対応が遅れた場合のリスクがすぐに計算できるのは頼もしい。

「既に取り囲まれていて、こちらの様子を伺っている。さっきのワーウルフは奴らの飼い犬だった様だ。街道に戻る道は封鎖されていて馬車での突破は無理。とりあえずはこんな所だ。」

「分かった。おい、ウチの奴らとさっきの戦闘で主だった者を集めろ」

 返事をし、パーティーの奴らがすぐに動く。

「それで、レオと言ったか。他には?」

「上位種がいる。それも数体」

「ちっ、それだけの数ならいてもおかしく無いか。まあ、奴らの前で伏せてくれてありがとよ、この情報はパニックになるからな。」

「勝てるか?」

「勝てるかと言えば勝てるだろうが、少なくない被害は出るだろうな。問題は馬車の奴らだ。仕事だし守るがパニックになったら全滅もありえる。」

「そうか、そいつはどうにかしよう。」

「出来るのか?」

「約束は出来ないがやれる事はやろう。」

「頼む!」

 ダズルが丁寧に頭を下げて来る。
 それなりに力量差は感じているのだろうが、年下のものにこうやって頭を下げられるのも将としては有能なのだろう。

「何があったのですか?」

 先程の戦闘で見知った奴らが集まり、商人とおぼしき身なりの良い恰幅の良い中年がダズルに問いかける。

「ああ、今から説明するが、声を立てないでくれ。死ぬぞ。」

 ダズルの真剣な表情に皆の顔色が変わり、コクコクと頷く。

「ゴブリンとオークに取り囲まれている。逃げる事は無理だ。ここで迎え撃つ。」

「そ、そん……」

「黙れ!でかい声を出すな!」

 声を出そうとした若い冒険者が口を押さえられている。

「議論している暇は無い。やらねばやられる。陣形は先程と同じ馬車を守るが、すまんが二台は諦めてくれ」

「命の方が大事だ、指示には従うが……」

「ありがとなザックスの旦那。数が多すぎて守りきれ無い。非戦闘員は三台の馬車に乗ってくれ。二台はバリケードとしてその前に置く。それでもギリギリだ。」

「分かった、ワシはすぐに準備を支持して来る。死ぬなよ!無事に帰ったら報奨金を出すからな!」

 そう言うとザックスという商人は馬車にかけて行った。

「みんな!ますます死ねなくなったな」

 皆に笑顔が、少し緊張がほぐれた様だ。
 後は任せて、僕も仕掛けを施しに行くとするか。

「ダズル、馬車の方に仕掛けをして来るから続けてくれ、すぐ戻る。」

「分かった!なるべく早く頼む。」



 馬車に近づくとザックスが指示出し、馬車の配置替えと人の移動が始まっていた。

「ザックスさん!魔術士のレオと言います。」

「これはこれは先程はご活躍でしたな。馬車から見ていましたよ。して何か御用でしょうか?」

「はい。ザックスさんが馬車に乗り込めば準備完了ですか?」

「そうですね。」

「分かりました。そうしましたらこの後少し魔法を掛けますので、早速乗り込んで下さい。」

「魔法ですか?それはどの様な」

「詳細は言えませんが、簡単なシールドみたいなものです。気休めにしかならないかもしれませんが無いよりはマシということで」

「それは、ありがとうございます!では早速お願いします。」

 馬車に乗り込むのを確認し、杖を振りかざす。
 結界系の魔法は自身も中にいる必要があるので、今回は無理だ。
 そこで、弓矢から守る風の魔法と、バリケード役の馬車を強化し重力魔法で重くする。
 これで例えオークに突進されても簡単に破られる事はないだろう。
 小石を投げ、魔法が稼働しているのを確認してダズル達の所に戻る。



「待たせたな。これで少しは持つと思う。」

「何をしたんだ?」

「なんて事は無い、弓矢に強くしたのとオークの体当たりぐらいでは壊れない様にした。」

「あのー、魔法は大丈夫なのでしょうか?」

 魔術士の冒険者がおずおずと聞いて来る。

「魔法?」

「はい、これだけの数だと上位種が発生すると習ったことがあって、確か魔法を放つものもいるとか」


「安心しろ、そいつらは既に片付けた!」
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