二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

連携と索敵

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 五台の馬車を取り囲む様に配置した魔術士が二射目の詠唱に取り掛かる。
 魔法の発現と次の魔法までには詠唱時間が介在し、冒険者達はその間を埋めるべく、前衛を含め弓を持つ者が埋めていく。
 詠唱が終わった魔術士から二射目が放たれる。
 二射目は各々得意な魔術、その中でもなるべく詠唱が短く高威力なものを選択し展開する。

 僕らも火の矢を二射目三射目と立て続けに放つ。
 弓の援護がいらない事を示唆して、冒険者に残りの魔術士に集中して貰う為だ。

 ファイアボールは牽制にしかならない様だが、火の矢を飛ばすフレイムアローと風の刃を飛ばすウインドは一撃でワーウルフの命を刈り取る。
 
 弓は進行を足止めし、数発が急所を的確に射止める。

「かかれ!」

 ダズルの号令と共に、僅かに怯んだワーウルフに前衛が一撃を加えて行く。
 流石に剣や槍の一撃は殺傷力が強く、流れる様な連携も相まって、次々とワーウルフは倒れていく。

 後数匹で全滅だ。

「第二波来るぞ!距離二百!」

 ほぼ同数のワーウルフが索敵に引っかかったらしく、ダズルの仲間の魔術士が叫ぶ!
 割と優秀な索敵を持っているらしい、これなら僕が余計な事をしなくても大丈夫そうだ。

「前衛戻れ!」

 第一波を危なげなく全滅させた前衛が再度布陣を敷きなおす。
 今まで前衛を務めていたエルがダズルの指示で入れ替わる。

「無詠唱とは驚いたぞ。俺はゲルド!引き続き頼むぞ。」

 僕らの前衛を務める冒険者から声がかかる。

「こちらはレオとルナ。怪我はありませんか?」

「ああ、こちらは無傷だ。あんたらもまだ魔力は大丈夫か?」

「はい、全然問題ありません。こちらは気にせずガンガン前に出て貰って大丈夫ですよ。」

「それは有難い。では遠慮無くやらせて貰う。」

 まだまだ余裕の様だ。
 こちらも支援に徹することが出来るのは有難い。

「来たぞ!撃て!」

 ダズルからの声に呼応する様、魔術士から第二波の魔物に魔法が飛ぶ。
 第二波もワーウルフだ!

 僕らも先程よりも火の矢の数を増やし、少し殺傷力を上げ、正確に魔物を正面から貫いていく。

「かかれ!」

 ワーウルフがたじろいだ瞬間を見逃さずダズルから的確な指示が飛び、前衛が突っ込む。

 僕らの前衛のゲルドは二メートルはある斬馬刀の様な巨大な太刀を使用している。
 刀の様に切るよりも重さ叩き斬る事に特化しているが、一撃の攻撃力が高い。
 その重さとリーチの長さを有効に生かす腕力が無ければ振るえない武器だ。
 それをいとも簡単に操り、重さと遠心力を利用し流れる様に斬り伏せていく。

「全く危なげないですね。」

「全くだ、これなら少しは楽出来そうだな。」

 関心しながらも、的確に前衛の穴を見定め魔法を叩き込んでいる。
 彼と師匠がいればこちら側が瓦解する事はないだろう。
 
「少し離れます!」

 こちらは問題無いので、多少差し込まれている別方面に向かう。

 正面側では前衛三人が十匹のワーウルフに囲まれていた。
 二人が槍、一人が片手剣にシールドを装備していて、槍の牽制に合わせ切り込んでいるが、後衛の魔術士は別の支援で手一杯、徐々に削られこのままでは、ジリ貧だ。

「ファイヤ!」

 囲まれた冒険者に聞こえる様に叫びながら、ファイヤボールを前面に三発立て続けに放つ!
 僕の威力であれば、このクラスの魔法でも一撃必殺だ。
 背後からの不意な一撃を成すすべなく被弾するワーウルフが弾ける。
 当たるとその場で小規模に爆発し周りに被害のない様調整した特別製だ。

 余波で、冒険者を傷つけては何の意味もないからな。

 普段無詠唱の僕らだが、混戦の中では放つ魔法を叫ぶ方が誤射も防げるし、連携も取りやすい。
 この辺りを臨機応変に対応出来るのも一流の証しだ。

「助かった!」
「ありがとな!」
「死ぬかと思った!」

 僕の魔法で空いた包囲網の空きから三人の冒険者が脱出し、僕を守る様に魔物と正対し構える。

 これでふりだしだ!

「行きます!ファイヤ!」

 せっかく包囲していた獲物に逃げられ、いきり立ったワーウルフ達が再度正対した僕らに向いた時を狙って火球を三発撃ち込む。

 当てると言うよりは牽制、撹乱が目的だ。
 足下に着弾した火球が爆発し、巻き込まれた四匹の足が飛ぶ。
 爆散した土と血が奴らの視界を遮ると、そこに呼応した、冒険者の斬撃と突きが放たれる。

 こちらも腕が良い。
 僕の魔法の意図を正確に読み取り、それに躊躇なく動けると言うのは、それなりに場数を踏まないと出来ない熟練の技だ。
 昨今の派手な魔術や大層な武器や防具に頼る風潮があるが、一撃必殺を求めるよりも、こうした経験に基づく連携や武技を極める方が生存確率は格段に上がるのだ。

「フレイムアロー!」

 死角に回り込もうとするワーウルフに火の矢を放つ。

「後一匹!」

 初弾で足を吹っ飛ばされた個体は無視して無傷の一匹を三人で囲っている。

 槍を使った高速の突きが、左右から放たれる。
 咄嗟に体をひねり躱すが、槍は突くだけでは無い。
 手首を返し、下段から上段に振り上げ点の動きから線の動きへと変化させると、流石に躱しきれずに横腹と右前足を斬りつける。
 足にダメージを与えれば、俊敏さをウリとした魔物など敵では無くなる。
 片手剣を構えた冒険者が上段から振り下ろし首を一撃で跳ねる。

 後は虫の息の魔物を絶命させれば終了だ。

「ホント助かったぜ!」

 このパーティーのリーダーらしき片手剣の男が声をかけてくる。

「いえいえ、お役に立てて良かったです。少し傷が深い所がありますね。」

「まぁ動けない訳じゃないから」

「簡単に治療しておきます。ヒール!」

 淡い光が傷を覆うとスーッと傷が消えていく。

「回復魔法まで使えるのか!」

「というかそれも無詠唱か、優秀なんだな。」

「それも早い!」

 槍の二人も僕の回復魔法を見て驚いている。
 まぁ、これで全員を瞬時に癒すエリア系のヒールとかを使ったら大騒ぎだろうな。

「みんなご苦労!どうやら防ぎきった様だ!まだ、残党がいないとも限らないので、警戒はそのまま、少し休んでくれ。周囲は俺たちで警戒して、脅威が去ったのを確認したら解散しよう!」

 ダズルが馬車の屋根に登りみんなを見渡す。

「魔物の素材は全てこちらで買い取るので、後で山分けだ。商人達から戦った皆にお礼もあるらしいので、そいつも後で貰ってくれ」

「おおっ!」

 方々から喜びの声や拍手歓声が上がる。
 緊張が緩むが、後始末も大事なことだ。

 師匠と合流し、無事を確認すると腰を落ち着け水分を補給する。

「被害が無くて良かったですね。」

「魔物に野営地が襲われる事は良くあるとはいえ、死なれると寝覚めが悪いからな。無事なのは良い事だ。……レオ!」

 語気を強めるとと同時に、僕の索敵に新たな魔物が引っかかる。

「師匠!」

「うむ、ちょっとまずいかもしれんな。」
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