二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

オーク襲来

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「オークが来たぞ!油断するな!早く下がれ!戦線を維持しろ!」

 ダズルの指示は的確だが、乱戦のまま戦線を維持することになるのが少々厄介だ。

「嫌なタイミングで来ましたね。」

「ああ、直接的に来られないだけマシだな。ゴブリンが多少は盾になる。」

「いや、そうとも言えませんよ。」

 森の中からゆっくりと二メートルを越す十体以上のオークたちが出てくる。
 手には棍棒や斧、槍など持ち前の力を遺憾なく発揮出来る武器が握られている。
 そのオークが棍棒を横薙ぎに払う。

「あいつら敵味方関係無しかよ!」

 間一髪冒険者は避けたが、囲んでいたゴブリンが纏めて犠牲になった。

「この群れのボスはオークなんでしょう。ゴブリンの生死などどうでも良いと思いますよ。」

 ジルが冷静に分析するが、僕も同意見だ。
 ここまで慎重に事の推移を見守り、ここぞとばかりに攻めに転ずるのだから、相手の指揮官は相当な上位種に進化している可能性が高い。
 流石に僕の索敵でも数や一度見た魔物であれば魔力の違いで種族などは分かるが、細かな敵の戦力は相対しないと分からない。

「こちらにも来ます!」

「おぅ、任せろ!」

 二体のオークが森から出て来て正対し、ジルとゲルドがそれぞれ受け持つ。

 向こう側でも詠唱が始まった。
 魔術士の数も少なく、これまで支援と回復を繰り返しもうあまり大規模な魔術行使は出来ないだろう。
 僕と師匠が支援と回復を担っても全てをカバーしきれるかどうか、頼みは前衛だ。

「うわっ切れた!」

「変な声出すなジル!」

「だって……」

 振り回して来た槍を剣で受け止めようと構えたら刃ごと切った様だ。
 まぁ、武器の性能が段違いなのだからあり得る話ではあるのだが、初めて持った武器の性能に少々戸惑っている。

「だが、これで気にせずやれるってもんよ!」

 もう一体の同じ太刀を持ったオークに一太刀入れたゲルドが、太刀の中腹を切りとばす。
 ゲルドは見た目ゴツいおっさんなのだが、剣技はしなやかだ。
 本来武器の重さを遠心力に変え流れる様な連続技が持ち味なのだが、あまり重さを感じないアーティファクトの太刀では戦い方が変わる。

「見た目以上に器用だな。」

「聞こえたぞ!ここは任せてさっさと行け!」

「はいはい、とりあえずこれはかけときますね。」

「おっ、ありがとな!死ぬなよ!」

 体力を徐々に回復させる魔法と物理耐性のある防御魔法を二人にかけ、別チームの加勢に向かう。



 敵味方入り混じった中にオークが参戦し、より混沌を極め、最初のオークの被害者が出る。

 ゴブリンをいなしながら屠って来たが、力押しのオークが勝る。
 
 ゴブリンの攻撃を巧みに躱し、少しづつ武器の性能に助けられながら確実に仕留めていたのだが、オークはその全てを圧倒的な腕力で粉砕した。
 巧みな剣に遮られ懐まで入り込むことができなかったゴブリンが少し引いた。
 するとおもむろにオークが目の前のゴブリンの頭を掴みそのまま投げつけたのだ。
 咄嗟のことにそれを切り避けたまでは良かったが、左から接近するゴブリン諸共棍棒の直撃を受けたのだ。
 オークの腕力に質量が加算された一撃は、肉をひしゃげゴブリンのものか人のものか分からぬ肉の塊と化した。

 すぐにその残骸を求めゴブリンがハイエナの如く群がる。

「下等で悍ましい!死ね!」

 一瞬で焼き尽くす業火を放ちながら、赤髪の端麗な女性が近づいて来る。
 説明するまでもなく師匠だが……

「杖はどうしたのですか?」

 彼女の代名詞とも言える長尺の魔杖「深淵」は見当たらず逆手にショートソードよりは短く、ナイフよりは長い独特の片刃の短剣もしくはロングナイフを持っている。
 
「ああ、混戦になっては杖は邪魔でな、丁度コイツが血を吸いたいと嘆いていたので実戦投入だ。」

 黒い刀身を覆う禍々しい紫のオーラが視認できるほど顕現しており、一目でヤバイものだと分かる。

「それ呪われていませんか?」

「ああ、アーティファクトの一つでな、魔物の血で育つ小太刀の逸品だ。血が足りぬと使用者の生き血を吸うのが厄介で、かつては封印されていたがヤンチャだがデザインが気に入ってな、育てている。」

 どこの殺人鬼だ!
 
 見つけた時は、軽い飢餓状態で相当逆らったらしいが、師匠曰く優しく諭した。
 当初柄よりも短かった刀身は今や立派に育ち禍々しいオーラと抜群の切れ味を誇っているらしい。
 今は小太刀というなら、これから進化したらどこまで長くなるのだろう……

 呪いの品は数多くあるが、要は使用者が呪いの力よりも強ければ呪いを受けない。
 その点でこの人を呪える品があるのだろうかと思う。

「あぶな……」

 不意に背後から迫ったオークの武器を持つ右手を切り飛ばし、返す刀で頸動脈を切り裂き、その勢いのまま回転し、心臓に一突き入れた。

「……くないですね。」

「当たり前だ!オーク程度に遅れを取るか!」

 倒されたオークを見ると、瞬く間に干からびている。
 突き立てられたヤンチャなやつがお食事中の様だが、気にしないことにしよう。

「それにしても防衛戦というのはキツイですね。」

「ああ、そうだな。高威力の魔法が使えないというのは不便だ。しかし、力量差のある味方との乱戦は考えることも学ぶことも多い。そのうち護衛依頼をこなすのも良いかも知れんな。」

「あまり過酷なのは勘弁して下さいね。」

「過酷で無ければ意味は無いだろう?」

「いや、まぁそうですけど……」

「ここを切り抜けてからの話だ。」

「そうですね。僕は右を援護してきます。師匠は左を」

「任されよう。ただ、油断はするなよ!まだ上位種が出てきていない。」

「はい!では行ってきます!」

 少し休憩出来た。
 体力というよりも精神的に。

「少しは成長したかな。」

 食事の終わった小太刀を引き抜き、聞こえぬように呟いた。
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