二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

笑顔に捧げられた気持ち

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「近くにもう魔物はいない様です。」

 師匠の禁呪「カーズ」がオークジェネラルを死に追いやり危機は去ったが、そのあまりにエグい魔法で固まったままの皆に声をかけると、ようやく現実に戻った冒険者達から歓声が上がる。

「うぉぉぉ!」

「勝った!勝ったぞ!」

「助かった!」

 それぞれの感情が爆発する。
 そんな歓声はしばらく止むことは無かった。

 そんな歓声を背中で聞いていた師匠が振り返り声をかける。

「みんな、よく戦ったな。この勝利はお前達のお陰だ。落ち着いたら死んだ者たちを弔ってやろう。」

 皆がハッと息を飲む。

 そう、この勝利は僕らだけが成し遂げた訳では無い。
 ひとりひとりが勇敢に戦い、多大な犠牲を払いながらも何とか退けたのだから。
 
 皆の目には涙が浮かぶ。

 死んだ仲間の名前を叫ぶ者もいる。

「せめてこれを渡しておく。」

 ダズルに近づくと師匠の右手にシルバーのタグがいくつも揺らめいている。

「あの中で拾って頂いていたのですか?」

「ああ、これしか残してやれなかったがな。」

「ありがとうございます!」

 僕らとしては熟知たる思いがある。
 助ける力を持ちながら、助けられなかった歯痒さと、万能では無いという葛藤。
 この気持ちは忘れちゃいけないと思う。

 けど……

「泣くな!出来ることはやったさ。」

「でも、でも……」

「この悔しさを忘れるな。そして、今以上に手を差し伸べられる様精進しろ。無論私もだがな。」

「はい!これからもお願いします……」



 ひと息ついた僕らは野営地の後片付けを始める。
 戦いは終わったが、今日もまた新しい旅人がこの地に来るのだ。

「なぁ、もう魔物は来ないよな?」

「あんな特殊なことがそうあってたまるか!」

「それにしても、オークジェネラルなんて初めて見たぞ。」

「俺もだ、ルナ様達がいなきゃ間違いなく全滅してたろうな。感謝してもしきれんよ。」

「だな、何かで恩返し出来るか?」

「分からん、金も力もあるあの人達に返せるものなんか思いつかねぇ。でも、その気持ちは忘れちゃいけねぇ。」

「ああ、あの人が望むなら俺は命をかけることを誓う。」

 ダズルとゲルドが魔石を採取しながら新たな誓いを立てる。



 僕らも順番を整えると身なりの良い男が近づいて来る。

「あのー」

 ザックスと呼ばれた商人だ。

「はい?」

「改めて御礼申し上げます。」

「気にしないで下さい。野営地に集った全員でやれる事をやったのですから。」

「そうですか、では、せめて王都に向かうのであれば、ご一緒しませんか?無論護衛料は支払わせて頂きます。」

 行き先は同じだし、これ以上危険な事も無いだろう、師匠を見ると目で頷いている。

「分かりました。では是非ご一緒させてください。」

「有難うございます!では、ダズルに伝えて来ますので、ご用意ができましたら馬車までおいで下さい。」

 そう言うと身軽に駆けていく。フットワークの軽い商人は良い商人と聞いたことがある。
 彼もその類いなのだろう。



「ダズル!王都まで世話になる!」

「おう!レオにルナ様!こちらこそよろしくお願いします。」

 なんで声かけた僕を飛ばして師匠に話しかけるだ……

 師匠は何も言わずにただ微笑みを返したが、ダズルの緊張がこっちまで伝わってくる。
 ちゃんと仕事はしてくれよ。

 こちらに気づいたザックスが馬車から飛び降り駆け寄って来る。

「よろしくお願いします。ただ、その前にこちらの魔石をお渡しします。」

 先程みんなで集めた魔物の魔石だ。

「それは、私達のものでは無いぞ。」

「そういう訳にはいかねー。ルナ様達のお陰で生き延びたと、ここにいる全員が思っているってことだ。」

 ダズルが割って入る。
 その後ろには僕らを取り囲む様に共戦った者達の笑顔が見える。

「命の値段としては少ないとは思うが、誰も異論は無かった。精一杯のおれたちの気持ちを受け取ってくれ。もちろんザックスの旦那に売るも良し、持って行って貰っても良しだ。」

「しかし、それでは……」

 師匠が僕を腕で制す。

「分かったお前達の気持ちだ。有り難く貰おう。」

「そうして貰えると助かる。」

 皆が頷いている。

「で、どうしますか?ザックスに売りますか?」

「そうだな。まず、コイツを除いて全て換金してもらおうか。」

 オークウォーリアの魔石を一つ取り、ザックスに投げて渡す。

 ん?何の為だ???

 オークウォーリアの魔石はそれこそ売れば金貨数枚になるが、僕らにとっては希少な品とも言えない。
 更にオークジェネラルの方が遥かに希少で価値もある。金貨にして十倍は違う筈だ。

 ザックスは急いで鑑定し革袋を持って来る。

「お待たせしました!中をお確かめ下さい。その間に明細を作りますので」

「いらん。」

 つっけんどんに言うとその革袋をダズルに投げる。

「おっ、おっとと!」

 不意を突かれ腕利きの冒険者らしく無くオタオタと受け取るが頭にハテナ?が出ているのはここからでも分かる。

「ルナ様これは?」

「そこから一人づつ金貨を二枚取れ!残りは犠牲になった者の家族に渡してやれ!」

 ようやく師匠の意図が分かって、恥ずかしくなる。
 まだまだだなぁと思うし、尊敬といろんな感情で師匠を見る。

「それでは話が違います!」

「そうですよ!俺達の気持ちなのに!」

「ああ、だからお前達の気持ちは余さず受け取らせて貰ったよ。その上でそいつは私の物だ。どう使おうが私の勝手だろう!」

「そ、そんな」

「なんだお前達は私達への感謝を金で測ったのか?感謝の気持ちの現れとして魔石をくれたのか、どっちだ?」

 師匠も素直じゃ無い。

「そ、それはもちろん気持ちだ!」

「なら問題無いじゃないか。お前達の気持ちは受け取ったのだ、次は私達の気持ちを受け取ってくれないと困るな。」

 ここまで言われれば、もう返す言葉は無い。
 大粒の涙を流しながら絶叫の様な礼がこだまする。

 ツンデレ師匠最高にかっこいい!

「まぁ何かあれば頼らせて貰うよ。」

「は、はい!その時は命を賭けてお仕え致します!」

「私も!」

「俺もだ!」

「お姉様に付いていきます!」

 若干一名違ったニュアンスの声も響いたが、ここに文字通り命を賭ける親衛隊が誕生した様だ。

「ザックス!」

 感動に打ち震え、私も及ばずながら亡くなった冒険者に寄付するだとか依頼料を増額するとか、師匠の後では盛り上がらないが気持ちを共有する商人に、オークウォーリアの魔石を放る。

「はい?」

「そいつは王都に着いたら換金しろ!」

「今では無く?」

「ああ、打ち上げ用だ!全員の飲み代をここで使う訳にはいかんだろ?」

 砕けた笑顔が追い打ちをかけた。

 最後の最後に弩級の爆弾が炸裂した!

 老若男女を問わず、あの笑顔の前で勝てる者などいない。

 この日最大の歓声は彼女の笑顔に捧げられた。
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