二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

文字の大きさ
41 / 69
一章

正義の視点と情報屋と年齢

しおりを挟む
「魔術協会と冒険者ギルドは相互補助の関係だと思っていましたが、それは表向きの話で裏側では仲が悪いというレベルを超えた関係だったのですね。」

「そうだな、流石に私もここまでとは思わなかったが、あの様子では魔法革命以来ずっと冒険者ギルドと魔術協会の対立と駆け引きは続いていたのだろうな。だが、その様子が表沙汰になっていないということは、末端にはその様な思想は無いのだろうな。つまり、一定以上の役職に在るもの、もしくは上層部やそれに連なる派閥内での秘匿事項なのだろう。五百年もの長きに渡りその思想は消えていないのだ、根が深いと言わざるを得ないな。この分だと今後も何が出てくるやら。」

 助けた礼として商人のザックスが用意してくれた宿の一室に戻った僕らは、ロズワルドの話を整理していた。

「結局遺跡調査を受けるかどうかは保留して戻って来てしまいましたが、何故ですか?」

「ただ単に利用されるのが胸くそ悪くてな。ただ今回は潰すしか無いだろうな。ロズワルドの話も分からんではない。」

「インディアの所業を見ると何ともやり切れませんがね。」

「それは私も同じだ。しかし、全てを公にする事が必ずしも正義とはならない。善悪、敵味方、人の思惑が介在し立場が違えば、どの視点で物事を見るかで全ての価値観と評価は変わる。単純な善悪で物事が計れるなら争いは起こりはしないのだよ。絶対の正義が存在する程、世界は簡単では無いのだから。」

「それは分かりますが……」

「これも綺麗事だ。ただし今回はインディアの所業を明らかにするリスクがあまりにも高すぎる。それに冒険者ギルドの利己的理由に起因するとなれば、一般市民は置き去りだ。しかも、いたずらに混乱と弾劾が始まっては何も得るものが無い。逆に魔術協会の利己的理由でこの様な隠蔽が他にあったとしたら協力する気はせん。というか早々と敵に回るだろうな。」

「そうならない事を祈ります。では明日引き受ける旨を伝えに?」

「そうだな、その足で出発しようと思う。」

「では、食料等の調達と少し街を見に行って来ます!」

「私も行くぞ?」

「お尋ね者が何言っているのですか!今回は大人しく待っていて下さい!」

 ふくれっ面をする師匠も可愛いなと思いつつ街に出ることにした。



「それはマジか?」

「ああ、既に息のかかったパーティーは出発しているとの事だ。」

「そいつらの情報は分かるか?」

 食い付いた!食い付いたからには絞れるだけ搾り取るのが俺の信条だ。

「分かると思うが、かかるぞ?」

「テッド!今は前金として金貨一枚情報の内容次第で金貨二枚までは払ってやろう。ただし、俺から必要以上に払わせようと思うな。分をわきまえなければ命は無いと思え。」

 なっ!?コイツいつの間にやら肝が座ってやがる。
 何があったかは知らねーが以前の甘さはねえ。
 一端の男になって来ているのだとすれば、敵に回すのでは無く、俺自身の価値を高く売りつけるべきだ。

「ああ、今金はいらねえ。俺の情報網を駆使して二時間で揃えてやる、その結果で払ってくれ。」

「良いのか?」

「二度は言わねえ」

 テッドが約束通り情報を揃えたのはそれからキッカリ二時間後。

 代償として左目を失っていたが後悔は無かった。
 諦めた左目を魔法で治すことが出来るというが、それは断った。
 自分への戒めと左目以上の価値のある人生が待っていた。
 失った左目に着ける魔道具の黒い眼帯に憧れたのはここだけの話だ。

「俺の新たな道はここからだ。」



「あれ?レオ様じゃ無いですか?」

「えっ?」

「忘れちゃいました?一緒に濃密な時間を過ごしたじゃ無いですか?あの時のレオ様ったら激しくて。」

「ストーップ!道の往来で誤解される言い方は辞めて下さい。ラメアさんですよね。」

 魔術士と一目で分かる濃いグレーのローブに身を包んだグリーンの髪でショートカットのラメアは、野営地の戦いで生き残った魔術士の一人で、依頼達成の帰りにパーティーと共に襲われたのだ。

「忘れられたと思ったじゃ無い。」

「いきなり声かけられれば、誰だってビックリしますよ!」

「細かいことは気にしない!でも良かった、ちゃんと御礼言えてなかったから。」

「いえ、皆出来ることをやった結果ですから。それにラメアさんはお仲間も亡くされてましたよね。お悔やみを。」

「いい奴だったけどね。冒険者になった時に覚悟はしてるわ。でも、あたし達だけじゃ家族にお金は残して上げられなかった、だからありがとう。」

「はい、お気持ちは頂きます。」

「さてと、湿っぽい話はこれで終わり!何してたの?」

「明日依頼で街を離れるので買い出しですよ。」

「えっ?もう依頼に出るの?こんな早いって事は指名?」

「その辺は守秘義務がありますので。」

「だよね。ごめーん。ところでレオ様は王都に詳しいの?」

「いえ、初めて来ましたよ。」

「なら案内してあげるわよ!これでもこの街の貴族だから、それなりに顔が効くわよ。」

「貴族なんですか!?」

「そうよ。本名はラメア=ケアセラ。父は文官だから領地無しだけどね。」

 この世界共通で名字があるのは貴族やそれに準ずる位を授かった者の証で、中にはミドルネームや位を表すフォンなどが着いたりする。
 要するに名前だけなのは一般人の証明の様なものだ。

「正直困ってたので、案内して貰えるなら助かります。」

「いいわ!何を買うつもり?」

「食料がメインなのですが、肉よりも新鮮な果物や野菜が良いですね。それとパンと調味料、これは値が張っても構いません。こんなとこですが、強いて言うなら武器と防具の店と魔道具も見てみたい。」

「要するに一通りってことね。」

「まぁ、夕方までに回れる限りでしょうか。」

「じゃ、まずは市場に案内するわ!この街には、大きな市場が四つあるけどここは最大ね。多分食料は全て揃うわ。」

「お願いします!」

「その前に……」

「はい?」

「その口調なんとかならない?」

「私も貴族だし、丁寧なのは好感持てるけど、もう少し砕けて貰えると嬉しいな。」

「では、僕の様付けも止めて貰えます?」

「オッケー!じゃ、レオ君!」

「君?」

「そうよ。だって私より年下でしょ?」

「二十一ですけど。ラメアさんは?」

「おっと、割といってたわね。私は二十二。一つ上ね。レオ君童顔って言われない?制服着てたら学生で通るわよ」

「ンナバカナ。」

「今度着てみたら?きっと似合うわよ。」

「やだよ。それより早く案内して欲しいんだけどな。」

「りょーかい!こっち!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...