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一章

正義の視点と情報屋と年齢

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「魔術協会と冒険者ギルドは相互補助の関係だと思っていましたが、それは表向きの話で裏側では仲が悪いというレベルを超えた関係だったのですね。」

「そうだな、流石に私もここまでとは思わなかったが、あの様子では魔法革命以来ずっと冒険者ギルドと魔術協会の対立と駆け引きは続いていたのだろうな。だが、その様子が表沙汰になっていないということは、末端にはその様な思想は無いのだろうな。つまり、一定以上の役職に在るもの、もしくは上層部やそれに連なる派閥内での秘匿事項なのだろう。五百年もの長きに渡りその思想は消えていないのだ、根が深いと言わざるを得ないな。この分だと今後も何が出てくるやら。」

 助けた礼として商人のザックスが用意してくれた宿の一室に戻った僕らは、ロズワルドの話を整理していた。

「結局遺跡調査を受けるかどうかは保留して戻って来てしまいましたが、何故ですか?」

「ただ単に利用されるのが胸くそ悪くてな。ただ今回は潰すしか無いだろうな。ロズワルドの話も分からんではない。」

「インディアの所業を見ると何ともやり切れませんがね。」

「それは私も同じだ。しかし、全てを公にする事が必ずしも正義とはならない。善悪、敵味方、人の思惑が介在し立場が違えば、どの視点で物事を見るかで全ての価値観と評価は変わる。単純な善悪で物事が計れるなら争いは起こりはしないのだよ。絶対の正義が存在する程、世界は簡単では無いのだから。」

「それは分かりますが……」

「これも綺麗事だ。ただし今回はインディアの所業を明らかにするリスクがあまりにも高すぎる。それに冒険者ギルドの利己的理由に起因するとなれば、一般市民は置き去りだ。しかも、いたずらに混乱と弾劾が始まっては何も得るものが無い。逆に魔術協会の利己的理由でこの様な隠蔽が他にあったとしたら協力する気はせん。というか早々と敵に回るだろうな。」

「そうならない事を祈ります。では明日引き受ける旨を伝えに?」

「そうだな、その足で出発しようと思う。」

「では、食料等の調達と少し街を見に行って来ます!」

「私も行くぞ?」

「お尋ね者が何言っているのですか!今回は大人しく待っていて下さい!」

 ふくれっ面をする師匠も可愛いなと思いつつ街に出ることにした。



「それはマジか?」

「ああ、既に息のかかったパーティーは出発しているとの事だ。」

「そいつらの情報は分かるか?」

 食い付いた!食い付いたからには絞れるだけ搾り取るのが俺の信条だ。

「分かると思うが、かかるぞ?」

「テッド!今は前金として金貨一枚情報の内容次第で金貨二枚までは払ってやろう。ただし、俺から必要以上に払わせようと思うな。分をわきまえなければ命は無いと思え。」

 なっ!?コイツいつの間にやら肝が座ってやがる。
 何があったかは知らねーが以前の甘さはねえ。
 一端の男になって来ているのだとすれば、敵に回すのでは無く、俺自身の価値を高く売りつけるべきだ。

「ああ、今金はいらねえ。俺の情報網を駆使して二時間で揃えてやる、その結果で払ってくれ。」

「良いのか?」

「二度は言わねえ」

 テッドが約束通り情報を揃えたのはそれからキッカリ二時間後。

 代償として左目を失っていたが後悔は無かった。
 諦めた左目を魔法で治すことが出来るというが、それは断った。
 自分への戒めと左目以上の価値のある人生が待っていた。
 失った左目に着ける魔道具の黒い眼帯に憧れたのはここだけの話だ。

「俺の新たな道はここからだ。」



「あれ?レオ様じゃ無いですか?」

「えっ?」

「忘れちゃいました?一緒に濃密な時間を過ごしたじゃ無いですか?あの時のレオ様ったら激しくて。」

「ストーップ!道の往来で誤解される言い方は辞めて下さい。ラメアさんですよね。」

 魔術士と一目で分かる濃いグレーのローブに身を包んだグリーンの髪でショートカットのラメアは、野営地の戦いで生き残った魔術士の一人で、依頼達成の帰りにパーティーと共に襲われたのだ。

「忘れられたと思ったじゃ無い。」

「いきなり声かけられれば、誰だってビックリしますよ!」

「細かいことは気にしない!でも良かった、ちゃんと御礼言えてなかったから。」

「いえ、皆出来ることをやった結果ですから。それにラメアさんはお仲間も亡くされてましたよね。お悔やみを。」

「いい奴だったけどね。冒険者になった時に覚悟はしてるわ。でも、あたし達だけじゃ家族にお金は残して上げられなかった、だからありがとう。」

「はい、お気持ちは頂きます。」

「さてと、湿っぽい話はこれで終わり!何してたの?」

「明日依頼で街を離れるので買い出しですよ。」

「えっ?もう依頼に出るの?こんな早いって事は指名?」

「その辺は守秘義務がありますので。」

「だよね。ごめーん。ところでレオ様は王都に詳しいの?」

「いえ、初めて来ましたよ。」

「なら案内してあげるわよ!これでもこの街の貴族だから、それなりに顔が効くわよ。」

「貴族なんですか!?」

「そうよ。本名はラメア=ケアセラ。父は文官だから領地無しだけどね。」

 この世界共通で名字があるのは貴族やそれに準ずる位を授かった者の証で、中にはミドルネームや位を表すフォンなどが着いたりする。
 要するに名前だけなのは一般人の証明の様なものだ。

「正直困ってたので、案内して貰えるなら助かります。」

「いいわ!何を買うつもり?」

「食料がメインなのですが、肉よりも新鮮な果物や野菜が良いですね。それとパンと調味料、これは値が張っても構いません。こんなとこですが、強いて言うなら武器と防具の店と魔道具も見てみたい。」

「要するに一通りってことね。」

「まぁ、夕方までに回れる限りでしょうか。」

「じゃ、まずは市場に案内するわ!この街には、大きな市場が四つあるけどここは最大ね。多分食料は全て揃うわ。」

「お願いします!」

「その前に……」

「はい?」

「その口調なんとかならない?」

「私も貴族だし、丁寧なのは好感持てるけど、もう少し砕けて貰えると嬉しいな。」

「では、僕の様付けも止めて貰えます?」

「オッケー!じゃ、レオ君!」

「君?」

「そうよ。だって私より年下でしょ?」

「二十一ですけど。ラメアさんは?」

「おっと、割といってたわね。私は二十二。一つ上ね。レオ君童顔って言われない?制服着てたら学生で通るわよ」

「ンナバカナ。」

「今度着てみたら?きっと似合うわよ。」

「やだよ。それより早く案内して欲しいんだけどな。」

「りょーかい!こっち!」
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