二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

散策

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「ここが王都で一番大きな市場。サントール市場よ。」

 ラメアに連れて来られたサントール市場は王都の東に位置し道の両端に常設の屋台が軒を連ねる。
 さすが最大の市場というだけあり、馬車で直接買い付けや卸が出来るだけの道幅が確保され、馬車と徒歩の人々が往来している。

「これはすごい!先が見えないや。」

「そうね、全長二キロはあるらしいわ。」

「一日で回りきれないな、これは。」

「一軒づつ見ていけば無理ね。ただ、この市場はどこも最低限の品質は兼ね備えているから、どこで買っても外れとは言えないわ。ただ、その中でも違いはあるんだけどね。」

「オススメの店はどんなとこ?」

「すぐそこよ。果物がメインだけど、農家から直接買い付けてるので、鮮度は抜群だし値段も安いわよ。」

「それはありがたい!」

 通りの入り口から五百メートルほどの、その屋台は、人だかりが出来ていた。割と繁盛店の様だ。

「混んでるなぁ。」

「大丈夫よ!あっ、おばちゃーん!」

「あら、ラメアじゃないかい。デートかい?」

「違うわよ!オススメのお店案内してるのよ。」

 威勢の良い恰幅の良い、まさにおばちゃんが声をかけてきたが、顔が効くのも本当の様で行列をかいくぐり、ちゃっかり店内に入り込んでいる。

「そりゃ嬉しいね!何が良いんだい?」

「レオくーん!こっちこっち!何か目的のものあるかだって?」

 行列の人に恐縮しながらラメアの呼びかけに人混みを掻き分け店内に入ると、色とりどりの果物がカゴで陳列されている。

「そうだなぁ、まずは柑橘系が数種類欲しいですね。」

「あいよ!それならレモンとオレンジ、グレープフルーツの定番と仕入れたばかりのライムがあるね。」

「それは全部貰います!」

「おっ、ありがとね!宿は決まってるのかい?数がまとまる様ならラメアの知り合いだし届けてやるよ。」

「それは有難いですね。お願いします!それならば、全てこのカゴで二つづつ貰いましょうか。後、オススメの果物があればそれも」

「二カゴ!?」

「ええ、小売用の出なくて、これですね。」

「いや、売れと言われれば売るけど、食べきれるのかい?」

「その辺は大丈夫です!」

「その量だとオススメもカゴ単位かい?」

「そうですね。大銀貨一枚置いておくので見繕って貰って良いですか?」

「大銀貨一枚って店でもやるのかい!」

「はは、せっかく鮮度が良いのであればこの機会にね。」

「分かったよ。レオさんって言ったね夜宿に届けておくよ!ラメア、良いお客様を連れて来てくれてありがとね。明日にでも寄っておいで、お礼に果物用意しとくから!」

「やったー!じゃ、おばちゃんまたね!」

 威勢の良いおばちゃんの掛け声を聴きながら通りに出ると、次は野菜とのこと。



「凄い量だね……」

 あれから食料調達に数軒を回ったがそこでも、それぞれ数十人前づつは購入している。

「紹介してくれた店の品質も品揃えも最高だったからね。ありがとう!僕だけじゃこうはいかなかったかな。」

「それなら良かったけど、とんでもないマジックバックでも持ってるの?」

 マジックバックは古代魔法文明時代に開発された魔道具で、カバンの中に空間を作り容量以上の物を入れることが出来る。
 原理は簡単なので、錬金術の授業の最初組み込まれ魔術学校で教えられている。
 しかし、その容量は名のある魔術士でも精々倍、生徒ならその半分以下にしかならず、残念ながら物流革命を起こす事は無く、街中で普通に売られている。
 しかし、古代魔法文明時代にはその容量が数十倍となるものも開発されていたが、現存する物は少なく、たまにオークションに出ても、過去一国の国家予算に匹敵する価格が付いた事があり、冷やかし以外本気で落札しようとする者はいない。
 その代わり数倍の物は高くはあるが、買える層も一定量存在し、流通はしている。
 当然、移動と戦闘の多い冒険者や魔術士には必須アイテムなので、出来る限り容量の大きな物を求めているが、そもそものバッグが小振りで身体に密着する物が好まれているため、数倍でも容量としてはたかが知れている。
 買った量から推測して、古代魔法文明時代のとてつもない容量のマジックバックを持っていると思われての質問だ。

「まぁ、そんな所だが……」

「もちろん誰にも言わないよ!家名にかけても!」

「助かります!」

「まったく急に怖い顔するんだもの。気を取り直して次は魔道具見にいこ!すぐそこなんだ!」

 逃げる様に駆け出すラメアに笑いながら謝りついて行く。

「マジックバックも持ってるけど、僕のは全く違う魔法なんだけどな。」

 と心の中で呟いた。



「ここで最後かな。」

 武器屋から出るとすっかり日が傾いていた。

「本当に助かったよ。ありがとうラメア!」

「いいえ、私も楽しかったわ。どうする?ご飯でも食べてく?」

「是非!と言いたい所だけど明日の用意しないといけないので、今日は帰るよ。」

「そっか、また依頼が終われば戻って来るんでしょ?」

「うん、そのつもり。」

「じゃ、その時今日のお礼にご飯でも連れてって!」

「ああ、良いよ!」

 またの再会を約束して宿に戻ると、宿の支配人が声をかけて来た。

「レオ様、おかえりなさいませ。市場の商店から商品が届いております。量が多かったので裏の倉庫に纏めてありますので、一度ご確認頂けますか?」

「はい、ありがとうございます。今から行きます!」

 倉庫に行くと馬車二台分の荷物が届いてるのを納品書と照らし合わせるが、途中で面倒になり、作業を見つめる宿のスタッフに声をかける。

「大丈夫です。ありがとうございます。」

「分かりました。荷物の運び出しはどうしますか?馬車を手配致しますか?」

「その辺りは全てこちらでやりますのでこのままで大丈夫です。明日旅立つ時には全て運び出しますから。」

「分かりました!では、私は一足先に支配人に伝えて参ります。」

「私も少し果物を見繕ったら戻ります。ありがとうございました。」

「では、失礼します。」

 頭を下げて戻るスタッフの姿が見えなくなるのを確認して、荷物に右手をかざす。

「さて、師匠は部屋に戻っているかな。」

 扉を閉めた倉庫にあった大量の荷物は消え、何も残っていなかった。
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