二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

王位簒奪と謀

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「殺された?あのルーカスがか?」

「ああ」

「お前達が奴隷にされたのは分かったが、それは俄かには信じられん。ルーカスは元々騎士団の指導教官も務めた程の剣の達人だ。何より俺の教官でもあったんだぞ!それをクロードごとき事務方上がりが殺せる訳はねぇぞ、リック!」

「ゲルドの言う通り手を下したのは別のヤツだ。クロードは黒幕だ。」

「じゃ誰が実行犯だ!ルーカスに勝てるヤツなんざ……まさか?」

「ああ、それがこの街で最強と言われる冒険者、デュアルだよ。」

「意味が分からねぇ!理由も何も!」

「ヤツも暗部だ。それもクロード子飼いのな。」

「ますます意味が分からねぇ!ダズルどう言う事だ!」

「本題から少しズレてるが、今回この件も無関係じゃないから説明してやる。だが少し大人しくしてろ!声がでかい!」

「ああ、少し血が上りすぎた。すまん。」

「デュアルの本名はデュアルサム=サーシャ王族だ。」

 王族殺し!関係次第では僕らもやばい!
 師匠は腕を組み微動だにせず聞いている。
 まぁ今更関係ありませんは通用しないだろうが……

「ヤツは王族ではあるが、母親が側室でも無い生まれのため継承権は十番にも入っていない。そこをクロードに突かれて暗部となったんだよ。つまりデュアルの狙いはこの国、その支援をクロードがしていたと思い込んでいる。」

「思い込んでいる?」

「ああ、クロードの方が一枚上手だ。クロードの本当の支援者と言うよりも共犯は第二王子のギャラン王子。彼の王位簒奪が本来の狙いだ。」

 デュアルの憤りと野心を利用したクロードは王位継承の支援と引き換えに、彼を暗部とした。
 しかし、本当は第二王子の王位簒奪を目論む手駒として利用したのだ。

「お前達も知ってる十年程前にあった貴族や商人の連続死も、クロードが事故に見せかけてやらせたらしい。」

 王位簒奪最大の障害は第一王子ギルバート、その支援者である貴族、商人、王族をデュアルの王位継承権を上げる為とそそのかして亡き者とした。
 ギルバートの力を削ぎ王位継承権を持つ者がいなくなればデュアルの芽が出る。
 目的は違えど手段が合致した事もあり、疑う事無く実行された成果により、今では王位継承権第五位である。

「しかし、今度はクロードの目的が弱くないでしょうか?」
 
 第二王子の王位継承権を支援した所で、所詮は汚れ仕事を請け負ったに過ぎない。
 表舞台で公然と支持を表明する貴族に対する処遇と比べると遥かにリスクが高いはずだ。

「ああ、レオの指摘は正しい。裏の仕事でどんなに支援をした所で、貴族でも無いクロードが得られる利益は限られている。だが、ヤツが狙っているのはその限られた利益で十分なんだ。」

「そんなもので十分なメリットがあるのか?」

「ある、ヤツの狙いは魔術協会だ!」
 
 クロードは王族の後ろ盾と街の手練れの冒険者を手駒とし、支部機能を持つサーシャ魔術協会を潰す事が目的であり、その成果を持って、冒険者ギルドの中枢を駆け上がろうと言うのだ。

「つまりクロードは己の出世の為この街、いやこの国をも利用しようとしている言うことか?」

「その通りだレオ。なぜそこまでという思いが無いとは言えないが、事実だ。逆に魔術協会又は魔術士に対する憎悪と言うべき感情が全てに勝る程巨大とも言える。」

「それなら、その企みは潰えたと言っていいでしょう。その冒険者達、デュアルですか、彼らは僕達が始末した。」

「そう簡単にいかねぇ、今まで公表されていなかったとは言え相手は曲がりなりにも王族だ。殺されたと分かれば国は動かざるを得ない。襲わせたのは魔術協会を潰そうとしているクロードだ、この件を利用しないはずがない以上、当然無事では済まない。」

「ならば黒幕も目的も分かった今、手をこまねいている訳にはいかない。ヤツは僕らが叩き潰す!」

「待てレオ、気持ちは分かるがまだ続きがある。クロードには出世の為に是が非でも手に入れたい狙いがあるようなんだ。知っているかどうかは知らんが、古代魔法文明の遺跡この国にある。ヤツの狙いはここだ。既にヤツら動いている。」

「そうだぜレオさん!俺とヤンはその調査のために魔術協会に侵入し、あんたらの存在を知った。魔術協会も遺跡に向かうと知り、あんたらを消すためにここへ来たんだ。」

「そして私に返り討ちにされたという訳だ。」

 僕が街に出ている間、ダズルが師匠を尋ねて来ていた所にリックとヤンが暗殺に押し入った。
 情報として掴んでいたのは男女の魔術士二人、ダズルは僕と間違えられた。
 最初に襲われたダズルが彼らに気づかなければ師匠に殺されていただろう。
 拘束された二人が奴隷とされている事を見破り解除したお陰で、ダズルの情報と彼らの情報が合わさり今回の全容がほぼ見えて来た。
 ただ、クロードがどこまでこちらの事を掴んでいるのかが分からない。
 そこで師匠が襲われる可能性がある、ダズルのパーティーとザックスをここに集め今に至る。

「一つ分からないのですが、クロードはなぜ僕らを襲ったのでしょうか?自分で言うのもなんですが、僕らの存在は魔術協会の中でも特殊であまり知られていない。リックさん達がダズルを僕と誤認して襲った事から詳細に僕らの事を知っているとは思えない。だが、デュアル達は僕らを直接襲っている。この矛盾が分からない。」

「俺達は正確に言うとクロードの指示で襲った訳じゃ無いんだ。」

「どう言う事です?」

「クロードからの命令はあくまでも魔術協会の動向調査だ、俺達が襲ったのはこの奴隷契約にある、クロードに対する脅威の排除という内容による自発的行動だ。」

「なんて汚い!それではクロードは直接的な指示は与えず、奴隷契約に基づく強制力で各自に罪を犯させ、無関係を貫くのか!」

「その様だ、だがレオが疑問に思うルナ様を襲った件に関しては二人も知らなかったし、俺が調べた中でも分からなかった。」

「ならば直接聞くしかあるまい。」

 光沢を纏う赤髪を搔きあげる。
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