二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

襲撃の算段とロズワルドの覚悟

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「ならば直接聞くしかあるまい。」

「直接って、師匠は冒険者ギルドに乗り込むつもりですか?」

「そう言っているのだが。」

「いやいや、気持ちは分かりますけど……」

「先に手を出したのは向こうだ!相応の報いはくれてやる!」

 あっ、マジのやつだ……

「ルナ様!冒険者ギルドには無関係の奴らも多い。夜になればクロードも屋敷に戻る。そこを狙うのはどうですか?」

 ダズル、余計なことを……

「それで行こう。レオが何やら心配しておるが、やられっ放しでは舐められるだけだ。敵が分かった以上報復しないでどうする!反抗できないぐらい恐怖を与えてやれば良いだけだ。」

「鬼ですか!」

「何が鬼だ!なんども言うが先に手を出したのはヤツだ。それで報いを受けないというのは神が許しても私が許さん。」

「そうだ!ルナ様を襲うなんざ、天にツバ吐く行為と変わらねぇ!俺もやるぞ!」

「ゲルドがやるなら俺とヤンもやるさ!なぁ?」

「ああ!俺達にとっても復讐だからな。」

 これはもう止められないか……
 手段はともかく、言っている事は正論だ。
 王族が関わっている以上、まともな裁きなど望めない。
 となると打つ手は限られ、この場合自分達で己の身は守らねばならない。

「分かりました。ただ、全員はダメです。王家が関わっている以上、不測の事態が無いとは言い切れません。少数精鋭で可能な限り速やかに拉致もしくは尋問を行います。ただし、姿を出すのは僕らのみです。ダズル達はこの国の人間ですから支援に回って貰います。それで良いなら。」

「まぁそうだな。ダズル私たちに任せてくれ。ただ、支援は頼むぞ。」

「は、はい!それでは、リックとヤンに屋敷を張って貰いその合図で突入、一緒に行くのは俺とゲルドのみです。」

「私達は?」

 それまでことの推移を見守っていたダズルのパーティーメンバーで、あの時弓を射ていた冒険者のカトレアが口を挟む。
 今更だがダズルのパーティーは五人。
 ダズルをリーダーとし、共に前衛を務めるゲルド、中衛に弓と遊撃を兼ねるカトレア、後衛は師匠をお姉様と崇拝する魔術士のリファと回復に重きを置く寡黙な男前で同じく魔術士のテルドアとバランスの取れたパーティーでこの街の冒険者の中では火力こそ劣るが、デュアルのパーティーと双璧を成す実力者だ。

「お前達は留守番だ。というか残ってやって貰いたい事がある。ザックスの旦那を呼んだのは本来、ルナ様達を商隊に紛れ込ませて貰い国外に脱出させる為だったが。正直、俺達の存在がバレていないとは言い切れない。だからザックスの旦那には俺達のアリバイと脱出に手を貸してもらいてえ。お前達にはその準備をザックスの旦那と共にやっておいてくれ。明日、俺達は行商に出る商隊に紛れ、国外で暫く身を隠す、旦那!頼めるか?」

「ああ!そんな事ならお安い御用だ。」

 ダズルが一息に話し、ザックスは間髪入れずに承諾する。
 二人のやりとりを聞き、静かに師匠が口を開く。

「その提案に乗ろう。」

 安堵の表情を浮かべるダズルに一瞥をくれ、口を挟もうとする僕を手で制し続ける。

「勘違いするな。逃げる訳では無い。街を出るまでは身を隠すが、国外にはお前達だけで行け!私達は街を出たらその足で遺跡に向かう。」

「いや、待ってください!今までの話聞いていましたか?命が危ないんですよ!」

「まぁ、そう興奮するな。とりあえず座れ。続きは飯を食いながらにしよう。レオ、ダイニングに用意を」

「はい!すぐに」

「ちょっと待ってください!今そんな事をしてる場合じゃ!」

「食える時に食っておくというのは鉄則だろう?」

「そうですが……」

「お前もリーダーなら周りの状況にも目を向けろ。」

 そう言われて皆を見ると一様に緊張と事の大きさに萎縮している。

「そういう事だ。幸いここはザックスが手配した部屋だ。私もいるし周囲を索敵してもここを伺っている者はいない。つまり安全と言う訳だ。だからこそ飯だ!」

 状況を理解したダズルが頷き腰を下ろす。

「私、手伝います!」

 カトレアが緊張を振りほどき申し出るが、それを固辞してダイニングに向かう。
 色々な事態を想定し、常にそれなりの料理はストックしてあるので並べるだけ、時間はかからないし、用意する所は流石に見せられない。

「用意できました!」

「はやっ!」

 ものの数分で戻ってきた僕に一斉に突っ込んで来るとは、コイツら結構余裕だな。
 と思いつつ席に促し、食事を始める。



 不意にノックする音が聞こえ、カトレアが応対に出ると、宿の者が来客を告げに来たらしい。

「お姉様、どうしましょ?ロズワルド支部長が来たとのことです!」

「まったく、タイミングが良いのか悪いのか、通す様に伝えてくれ。」

「はいっ!」

「我々は席を外しましょうか?」

 食事も終わり、お茶を飲み寛いでいたザックスが気を利かせる。

「いや、お前達がいるのは知っているだろう。この際だ巻き込んでしまおう。」

 うん、悪い顔をしている……

 五分ほど経ち扉が開く。

「こんばんは!いやー皆様お揃いですね。」

「ぬかせ!知っていたのだろう。」

「誤魔化せませんな。」

「私は忙しい!これから出るのでな、単刀直入に問うが何の用だ?」

「本日の返答を聞きに参りました。」

「後日と言った筈だが、明日ではダメなのか?」

「明日、魔術協会に立ち寄る時間は無いでしょう。なんなら今晩中に立って頂いても結構です。儀礼的ではありますが、依頼を受理せず遺跡に向かわれては我々と無関係を貫抜けてしまいますので。」

「魔術協会は当事者になるというのか?」

「ええ、この国の冒険者ギルド、いやクロードはやり過ぎました。そろそろ表舞台から退場して頂く頃合です。それに元は魔術協会と冒険者ギルドの浅からぬ因縁が発端、若いお二人に背負わせるのは酷というもの。」

「まったく、お前も相当なタヌキだな。何もかも知ってて、我々を利用しようとしていたのだな。」

彼らを見渡し肩をすくめる。

「否定はしません。私どもにも暗部はありますし、冒険者ギルドにも王家にも協力者はいます。ただ、この街を代表する冒険者に商人、更には暗部のお二人までが、あなた方の協力者とは思いませんでしたが。して、どうされますか?」

「まぁ、良いだろう。今回は乗ってやる。この依頼、特級魔術士の我々が請け負った!」

「分かりました。全面的な協力と責任は全て私が取りましょう。なお、遺跡の方には既にクロードと第二王子の息のかかった冒険者と騎士団が複数向かっています。お気をつけて。」

「分かった。レオ、ダズル、ゲルド行くぞ!ザックス後は任せた。」
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