二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

代理戦争とノック

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「そうすると、魔術協会の協力者はギルバート第一王子ということですか?」

 宿を出た僕らはリックの案内で冒険者ギルドの長クロードの屋敷に向かっていた。

「ああ、十中八九間違いない。王位簒奪を目論むギャラン第二王子を支援しているのが冒険者ギルドならば、それに対抗出来るのはこの国では、第一王子を置いて他にはいない。」

「しかし、魔術協会は政治に関与しないという法があった筈ですが?」

「そんなものは既に形骸化してるさ。その証拠に冒険者ギルドも政治未介入の原則は掲げているが、貴族になっている冒険者がどれだけいるか。力は時に正義をも覆すものだ。この世界で冒険者と魔術士は力の二大巨頭、その組織力は軍隊にも勝る。それを利用しようとする者は跡を絶たない。例え為政者であってもな。」

 各国が加盟する魔法統制会議の傘下にある魔術協会と国の支配とは一線を画す冒険者の独立した互助組織である冒険者ギルドは設立の経緯と目的は違えど、武力の管理組織としての側面は同じだ。
 余談にはなるが、この両者が手を組めば世界最大の武力組織となる。
 しかし、両組織が政治不介入を掲げているからこそ独立した組織として成り立っているが、権力を欲する者には政治とのパイプは十分な魅力にもなる。
 この点で為政者やそれに準ずる者が利用しようとするのは必然とも言える。
 
 第一王子と魔術協会、第二王子と冒険者ギルド、どちらがどちらの代理戦争なのか微妙なところではあるが、対立する政治と武力が双方に分かれ雌雄を決しようとしているのが、属国とも言われ、穏健な国の代表格のこの国の実情である。

「武力が不足しているからこそ、利害関係が成立したとも言えるのか。」

「まぁ、そういう事だな。とはいえ些か度が過ぎる。」

「客観的に見ても、第二王子と冒険者ギルドは悪役ですが、そもそもなぜ王位簒奪など分の悪い賭けに出たんですか?」

「それは、第二王子が年上で母親が正室だからさ。」

 僕らの会話を聞いていたダズルが速度を速め隣を並走する。

「年上?正室?年下が第一王子なのですか?」

「ああ、その辺は少々歪んでいてな。代々この国の王は正室を商業国家ラーズの商家から招くことになっているんだ。」

 この国の興りと商業国家ラーズとの関係が発端というのだ。
 それは属国とも揶揄される所以でもあるのだが、婚姻の順番に依らず、ラーズの商家から妃となった者は正室として、国の内外特にラーズの式典など表舞台を担当する。
 側室となる妃は国母として、これまた誕生の順番に依らず、産んだ男子を第一王子として育て次の王とする。
 これはサーシャがラーズを重要視している事を内外に示す慣例として、代々守られている。
 その為、第一王子が第二王子よりも年下という他国ではあり得ない事が起こるのだが、これを快く思わない勢力も一定以上存在し、今回の王位簒奪へと飛躍したらしい。

「それって、この件ラーズが関わっていませんよね???」

「流石にそこまでは分からねぇ。関わっていたとしたら、不味いか?」

「まぁ、心配していたらキリがありませんけど、関わっているとしたらラーズがサーシャを正式に属国若しくは地図から消そうとしている、という事でしょう。」

「そんな面倒な事に巻き込まれたら、国ごと消滅させれば良いだろ?」

「師匠は簡単に恐ろしい事言わないで下さいよ!」

 この人なら、やりかねない……
 前科あるしなぁ。

「ルナ様に火の粉がかかるなら俺達も参戦しますぜ!いつでもご命令を!」

「師匠、ダズル二人ともバカ言ってないで!着いたようですよ。」

 先行するリックとヤンが手で止まれと合図を出して来た。
 暗がりに身を潜め屋敷を伺う。

「ここで五分ほど待っていて下さい。様子を確認して来ます。」

 リックがそう言うと、ヤンとともに一瞬でその場から、まさに消えた。

「消えた!ホントにあいつら暗部なんだな。身のこなしが普段と似ても似つかねぇ。」

「ゲルドは脳筋すぎるんだ!」

「ダズル後で覚えとけよ!」

 暗闇に潜みつつ軽口叩いていると、五分も経たず様子を確認して来たリックが戻って来る。

「ちと、不味い事になった。」

「どした?ヤンは?」

「ヤンは裏手から内部に侵入している。不味いのは正門と警備だ。それと増員されている。」

「ある程度予想の範囲内でしょう?」

「いや、あれは騎士団だ。それと正門と敷地内にはゴーレムが配置されてやがる。屋敷の敷地外も警ら隊が巡回しているから、ダズル達を残して行くのも危険だ。ヤンが戻り次第裏から全員で入った方が危険は少ない。」

「裏も大差ねぇぞ!」

 背後に気配が現れる。

「ヤン!」

「あの配置、襲撃されることは予想済みだぞ。残った暗部も護衛に回してる。下手な王族よりも警護は頑丈、加えて騎士団だ。これは今夜の襲撃は諦めた方が良い。」

「ルナ様、二人の話を聞くと俺もその方が良いと思う。一泡吹かせられないのは残念だが、このまま遺跡に向かいませんか?」

「来るのが分かって準備しているのなら下手な小細工はいらんな。堂々と正面からノックしてやろう。」

 言うが早いか「深淵」を握り締め暗がりから出ると、そのまま正面に向かって歩き始めた!
 慌てて後を追うと、魔力の流れを感じる。

「止まれ!何用だ?」

 真っ直ぐ門に向かいゆっくりと歩く赤髪の魔術士に、危機を感じた衛兵が怒鳴る。

 振りかざした「深淵」の宝玉から光が煌めくと正門と師匠の間の地面に魔法陣が出現し、そこからゆっくりと銀色のゴーレムが召喚され、せり上がって来る。

 三メートルはあるゴーレムは全身を銀色の騎士の様な鎧に身を包むデザインと赤く光る目が印象的だ。
 呆気にとられる衛兵に一瞥をくれると、羽根の様に師匠が浮遊しゴーレムの肩に乗る。

「魔術協会が責任を取ると言っているのだ!何を遠慮する必要がある!」

 あまりの事に動けない衛兵を尻目に正門前にたどり着くと、振りかぶった巨大な拳が鋼鉄の門を塞ぐゴーレムごと一撃で弾き飛ばした。

「さぁ、ノックしたら門が開いた、行くぞ!」
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