二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

近衛騎士団長と免罪符

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「止まれ!ここはサーシャ王国第二王子ギャラン様の邸宅と知っているのか。近づくな!」

「こんな夜分にわざわざ襲う相手を間違えるか!」

 まぁ正論なのだが、襲いますと言って乗り込む方も乗り込む方だと思う。

 冒険者ギルドの長クロードの邸宅を襲撃した僕らは、抜け穴から逃れた彼を追って第二王子の邸宅へと向かった。
 流石に三メートルを越す巨体のゴーレムぽるぽる君を街中で走らせる訳には行かないので、今はお帰り頂いている。

 一足早く邸宅を調べたヤンが、クロードの姿を確認しているので、第二王子が匿っているのは間違いないが、それを追って正門に現れたフル装備の一団を門番が止めない理由も無い。

「そこにいるのはダズルじゃねーか!お前までいるとは!大人しく帰れ!」

「ルナ様コイツやっちゃって良いですか?」

 今宵は皆が殺気立っている様だ。

「まぁ待て、誰か来たようだ。」

 門が開かれると大勢の騎士に囲まれた、まさに王子という出で立ちの頭の悪そうな青年がこちらを睨んでいる。

「お前達何用だ!第二王子である私の邸宅に押し入ろうとは、それなりの覚悟があっての事だろうな。」

「クロードを出せ!さもなくば勝手に探させて貰うぞ!」

「王族に向かって、何という口の利き方を!」

「馬鹿にはこの程度で十分だ。良いからクロードを出せ!私は気が長くは無いぞ!」

「不敬罪、いや国家反逆罪を適用しても良いのだぞ!」

 その声に呼応した騎士達が抜刀し、僕らを取り囲む。

「師匠、殺しは無しです。」

「そこの第二王子とやらを人質にすれば良いだろう。」

「さっきから台詞が全て悪党のそれですよ!」

「むっ、それは如何な。下等なヤツらのせいでついつい口汚くなってしまったか。では、華麗に制圧してやろう。」

「お前達!何を勝手な事を言っておるのだ!この人数で取り囲まれて気でもふれたか!」

「偉そうな口を叩くのもそれぐらいにしておけ。雑魚を何人集めようが盾にもならんぞ。」

 緊張がピークに達する。
 師匠を中心に取り囲む騎士に対し、円陣を組んでいた僕らも抜刀し、杖を構える。
 次の合図で師匠が無力化するだろうから、第二王子を拘束して、決着だが……

「そこまでだ!両者とも武器を引け!」

 取り囲む騎士達を掻き分け、不意に女性騎士が割って入る。
 彼女の姿を見た騎士達の高まった緊張が弛緩していく。

「な、なぜここに近衛騎士長がいる!」

 第二王子を守る騎士とは鎧のデザインが少し違うので上役だと思ってはいたが、この国の王を守る側近の騎士、そのトップが彼女だ。

「ギャラン様、少し自重して頂けませんか?」

「何を言う!奴らがこの私を襲撃しに来たのだ!奴らを取り押さえろ!」

「これ以上事を大きくするなと、王のご命令です!」

「なっ、父上が!ば、馬鹿な……」

「伝言を預かっております。沙汰あるまで邸宅にて謹慎との事です。護衛の騎士は、全て団に戻します。これは王命です。」

「はっ!」

 流石に訓練された騎士は、近衛騎士長の命令にすぐ様反応し隊列を整える。

「お前達は冒険者ギルド長クロードを捕縛し騎士団に拘留せよ。明日騎士団長が取り調べる。」

「待て!何を勝手に進めている。こちらもクロードには用がある。」

「ルナ様、事情はこちらも存じておりますので、この場は預からせて頂けませんか?」

「ほぅ、私を知っているのか?」

「はい、まさかこちらにいらっしゃるとは思いませんでしたが、王より赤髪の魔女の話は聞き及んでおりましたので。」

「つまらん昔話を!しかし、その名を知っていたとしてもクロードを渡す訳にはいかんぞ。」

 師匠の容姿端麗は言うまでも無いが、近衛騎士長も師匠と同じぐらいの身長、黒髪に切れ長の目と凛々しい。
 その二人が一瞬即発の緊張感のまま対峙しているのだから、周りが口を挟む余裕は無い。

「こちらを。」

 不意に張り詰めた緊張が和らぐと、胸元から封筒を恭しく師匠に差し出す。

 おもむろに出された封筒から手紙を取り出し一瞥すると、こちらも緊張が和らぐ。

「分かった、手を引こう。但し、一つ貸しだと伝えておけ。」

「はい!ありがとうございます。承知致しました。」

「名を聞いておこうか。」

「はい。サーシャ王国近衛騎士長フレデリカ=オーヴです。」

「戻ったら訪ねる。」

 終わったらしい。
 月に照らされ輝く赤髪を揺らし歩き出す師匠に追随し、僕らは第二王子の邸宅を後にした。



「師匠!一体何が書いてあったのですか?」

 師匠が決めた事に一切反論は無いが気にはなる。

「ああ、知りたかった事と欲しかったものだ。」

「何ですか、それは?」

 意味深い事この上ない返答に少し声が上ずる。

「知りたかった事はクロードの狙い、欲しかったものは今回の件も含めた免罪符だ。」

「狙いが分かったのですか?それと免罪符って一体?」

「クロードの狙いは遺跡に行けばわかるから楽しみにしていろ。免罪符と言うのは、まぁ以前王城の橋桁を吹っ飛ばした件があったろ?あの件と今回の襲撃を全て無罪放免とするという王の証明書だ。」

「ホント何でそんな事したんですか?」

「まぁ、そのうち話してやる。それよりも、このまま遺跡に向かうぞ!騎士団に冒険者、コイツらは今の状況を知らない。敵としてあたるぞ。」

「はい!ところでダズル達はどうしますか?この街にいればもう危険は無いと思うのですが?」

「当然、俺達も行くぞ!」

「と言ってますが、どうします?」

「まぁ、良いだろう。」

「良いんですか!本気の戦闘になりますよ?」

「コイツらならば良いだろう。その代わり自分の身は自分で守れよ。」

「はい!勿論です。」

「ダズル達も後悔しても知りませんからね!」

「大丈夫だって!よろしくな。」

「はいはい、しかし一人は連れて行けませんよ。ザックス達に報告して貰わないと。」

「ならばそれは俺がやろう。パーティー的にも俺かリックはどちらかの方がバランスが良いだろう。」

「そうだな、ダズルとゲルドが前衛、斥候と遊撃を俺、ルナ様とレオが後衛って事だな。」

「いや、私達は臨機応変だな。」

「えっ、魔術士ですよね?」

 ダズルがリックの肩に手をやる

「戦えば分かるさ。」

「では、行くぞ!遅れるなよ。」
 
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