二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

力量差と禁呪再び

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「お前達下がれ!」

 師匠の動きに呼応する様に、僕らを牽制していた騎士達が怒気を飛ばす。
 騎士は剣士が三人に魔術士が一名の四人パーティー、騎士団だから分隊だろうか。

 ダズル達三人組も新たな敵には気づいたらしく、必死にこちらに向かい剣を振るっている。
 いくら成長したとはいえ新たな騎士団に参戦されては全滅は免れないだろう。

 合流が先か新たな脅威に飲まれるのが先かギリギリの攻防戦を繰り広げている。

 一方我々も彼らの奮戦に鼓舞された師匠が動き出していた。

「お前達下がれと行っているだろう!魔術士風情が!」

 牽制にダガーの様な物が飛んで来るが、師匠が「深淵」で叩き落とす。

 その動きにいささか緊張感を増した様だが、相変わらずこちらが先手を打つまで手を出すつもりは無いらしい。

 まぁ、それは普通の魔術士を相手にする場合なのだが……

 鋭さを増す怒気を意にも介さず、ゆっくりと師匠が歩を進める。

「これ以上近づくならば斬るぞ!」

 流石に危機を感じたのか騎士達が抜刀し、剣先を師匠に向ける。
 魔術士もタクトを構え詠唱の準備に入る。

 騎士達は揃いの軽装鎧を着用し、剣士は少し大きめのラウンドシールドと片手剣を装備している。
 ダズルのラウンドシールドとは違い、しっかりと受け止めるタイプだ。
 魔術士は軍に良くある木製タイプのタクトと同じ軽装鎧と護身用のショートソードを装備している。

 堪り兼ねた魔術士が詠唱を開始し、タクトの先端に火球が構成される。

 詠唱省略はマスターしているらしくスピード、魔力共に申し分無いが相手が悪い。

 射出された火球が師匠に到達するが、そこで止まった。

 師匠が差し出す「深淵」の僅か数センチ手前で文字通り空中に停止したのだ。

 騎士達は予想だにしない出来事に唖然としているが、魔力防御結界を展開し弾く訳ではなくそこに吸着させている。
 魔法の多重展開と相手の魔法を相殺させないギリギリの魔力操作で可能な高等技術だが、その凄さを分かっているかは甚だ疑問ではある。
 僕が敵ならば、とてつもない恐ろしさと力量の差を感じ一心不乱に逃げるだろう。
 逃げる事が許されるならば。

「なんだあれは?」

「分かりません。私も初めて見る現象です!」

「何とかならんのか!」

「何ともなりません!がもう一発行きます!」

 魔術士はこのおかしな状況を打破するべく再度火球を撃ち込む。

 迫り来る火球に対し、ほんの少し魔力を加えた止めたままの火球を撃ち返す。

 空中で衝突した魔法同士は同系統であれば拮抗し爆散するが、音も無く吸い込まれ。
 そのまま魔術士に接近する。
 防御結界を張る時間は無いと踏んだ魔術士は威力から考えかわす事を選択したらしく、構えている。
 迫り来る火球は瞬時に軌道を変えかわした魔術士に向かう。
 普段身体を鍛える事のない魔術士は騎士に比べ身体能力に劣るとはいえ、咄嗟の判断としては上出来のはずだったが師匠の技術が一枚上手だった。
 着弾は免れないと悟った魔術士は魔法に耐えるべく腕をクロスするが、それは自身の威力を基準としての話だ。
 着弾と同時に業火が立ち登り一瞬で絶命する。

 あまりの威力に圧倒されるかと思った騎士達だが普段から魔術士を軽く見ていたのか、気にせず攻撃体制を整え僕らに迫り来るべく一歩を踏み出した。

 その視線の先に僕しかいない事に気がつくまでに一瞬の間があった。

「どこを見ている。」

 背後から優しく語りかけられる声に吊られるように振り向いた先には赤髪を掻き上げ「深淵」を携える師匠が不敵な笑みを浮かべている。

 ここに来てようやく相手が自身の予想もつかぬ化け物であったことを悟った騎士団に恐怖の形相に変わる。

「なっ!」

「残念だったな。この程度の動きも見えないとはあの世で鍛錬に精々励むが良い。」

 あの魔力の動きは師匠の禁呪だ。

「ここで使うか……」

 思わず声に出した瞬間、師匠の口から悪魔のささやきが発せられた。

「カーズ!」

 暴走する細胞が膨れ上がる。
 この魔法の恐ろしい所は、爆散するその瞬間まで意識があり、細胞異常が最後に訪れるのが脳という事だ。
 つまり、死ぬまでの過程を余す事なくその身で受けた上で絶望と共に絶命する。
 体内を駆け巡る細胞の異常増殖がもたらす激痛は想像を絶する事だろう。
 
 まさに悪魔の所業。

 一人また一人と爆散する。

 いきなりの火柱でこちらを注視していた騎士団があまりの凄惨な光景に歩みが止まる。

 これが師匠の狙いか。

 オークとの戦いで一度この魔法を見ているダズルとゲルドが一瞬の隙を突いて囲みを突破する。
 騎士団よろしく絶句していたリックも二人に引きずられて駆け出す。

「あれも魔法なのか?」

「ああ、俺達は一度見ているがそれでも恐ろしくて堪らないな。」

「射程距離が分からないが、あんなもの無詠唱で使われて防げるヤツがいるのか?」

「俺も同じ事を聞いたが、普通の奴にはまず無理、魔法感知に長けたヤツが辛うじて腕を切り落とせば助かるかどうかというレベルらしい。」

「とんでもないな。」
 
「ただな」

「なんだ、ダズル勿体ぶって」

「レオなら多分なんとかなるとの事だ。」

「マジか!」

「ルナ様の影に隠れちゃいるが、レオだって十分化け物って事だよ。」

「なるほどな。」

 不意に三人組の背後に炎の壁がせり上がる。

「うぉ!なんだいきなり!」

「そのレオの様だぞ。」

「助かった!これで合流できる。さぁ、走るぞ!」

 訓練された騎士団が動き出す前に機先を制した。

「レオ、余計な事を。」

「まぁ、師匠に追随するのも弟子の仕事です。それに彼らも十分頑張りましたからね。」

「それぐらいのご褒美は良いか。」

 息を切らし三人がようやく辿り着く。

「はぁはぁ、助かった。」

「まだ終わってませんよ。とりあえず三人とも僕らの後ろへ。」

「いや、まだやれる。」

「師匠が前に出ると言っているので、休んで下さい。これは命令ですよ。」

 師匠が出るとなっては彼らに出番が無いのは自覚しているのだろう。
静かにダズルが頷く。

「分かった。」

「とはいえ、何があるか分かりませんから息を整えたらポーション三人とも飲んでおいてください。」

 三人の返事を待たずに師匠から声が掛かる。

「行くぞ!」
 
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