二人の魔法使い ~死が二人を分かつまで~

渡邊まさふみ

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一章

反撃の刃

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 空気が変わり、緊張感が辺りに漂う。
 その中心点で光が一閃すると、騎士の首が胴からずり落ちる。

「ふはははは!下衆ども、もう我慢の限界だ!ここまで滑稽に踊ってくれるとはな。」

 今まで大人しく包囲され、俯いていた師匠はもうそこにはいない。
 風になびく赤髪を掻き上げた魔導師の手には一振りの剣が握られていた。

「なにー!」

 一瞬の事に騎士達は立ち尽くし、遠巻きに見ていた隊長は意外な光景に声を上げる。
 必死に抑えていた三人も目を見開き見つめる先から芯の篭った声が響く。

「魔法使いが魔法しか使えないと誰が決めた!」

 そう、師匠の魔杖「深淵」は所謂仕込み刀。
 一瞬で一振りの剣と鞘に形状を変え師匠の手に収まっている。

 普段は魔法使いらしいマントを纏い、杖を持っているが、逆にそれらが無ければその出で立ちは剣士と変わらない。

 返す刀で瞬く間に三人の首が飛ぶ。

 師匠の言う通り、ただの魔術士で魔法しか使えないと侮ったのが運の尽きだ。

「所詮、魔術士の悪あがきだ!怯むな!」

 予想だにしない事態に、もう何も見えていない。
 魔法を封じられて剣一本で瞬く間に4人の首を刎ねるなど、付け焼き刃で出来るものでは無い。
 剣の威力も無いとは言わないが、刃渡り約一メートルのやや長めの片刃に身幅約三センチの細い反りのない仕込み剣で骨ごと一刀両断するには技量無くして振えるものでは無い。
 師匠の剣は切る剣術だ。
 大刀の様に重さで叩き斬るものでは無く、スピードと技術で切り裂く。
 あの圧倒的な身体能力に裏打ちされた確かなものだ。
 そもそもスピードを重視した、僕らの戦闘はこの剣術の下地があってのこと、体捌きの上に乗っているのが、剣か魔法かの違いだ。

 不利と悟った近くの奴らが僕を人質に取ろうと襲いかかってきた。

 ゲルド達三人はあまりの状況の変化について行けないのか動くのが一瞬遅れたが、問題は無い。

「師匠が剣の達人なら弟子も達人なんだよ!」

 一振りで襲いかかる三人の腕を落とし、その勢いを借り首をはねて行く。

 動きの遅れた三人が更に目を見開いているが、構わず声をかける。

「目の前の敵だけに集中して下さい。僕らの間合いに入ると死にますよ。」

 慌てて剣を構えそれぞれが正面の敵と対峙する。
 流石に偉そうなことを言うだけあり、騎士達一人一人がなかなかの手練れだ。

 あの師匠が僕をしごかない訳がない。
 自分が魔法使いなのか剣士なのか分からなくなるぐらい、剣を振り続けた日々を思い返す。
 そして、師匠から下賜された魔杖「愚者の咆哮」にも当然剣が仕込まれている。
 しかも剣の質としては師匠を超える業物、剣の腕も今では互角か、少し僕の方が強いかなぁ

「うぉ!」

 本気の殺気が飛んできた

 何で乱戦の最中に僕の考えていることが分かるのでしょう…

 これ、一緒に切られるんじゃ……

「ちゃんと働きますから、殺さないで!」

「なら、さっさと斬り伏せろ!私より1人でも少なかったら殺す!強いんだろ?」

 あのニヤつき、楽しんでるな……

 五十人以上で巧みに囲み、結界で魔法封じる作を施した圧倒的強者と自負した精鋭が、今は逃げ惑う鼠のごとき敗者だ。
 一心不乱にこの場から逃げようと駆け出す者も現れるが、数メートル走ると見えない壁に弾かれる様に吹き飛ばされるのが見える。

「初めからやれば良いのに……」

「あっ?」

「いえ、流石です……」

 いつの間にやら結界が破壊され、師匠の結界に取って代わられている。
 確かに彼らの用意した結界は強力だが、それは並みの魔術士に対してだけだ。
 彼らでは手も足も出ないだろうが、僕らの魔力で反発すれば呼吸するかの如く無効化出来る。
 先程までの演技は一体何だったのか、ピンチでも何でも無いのは分かっていたが、何を遊んでいたんだか。
 いや、久しぶりに剣を振るいたかっただけなのでは無いかと思いますが……

 目の前の敵を斬り伏せ、師匠に合流する。

 結界に阻まれ退路が無いと悟った騎士が必死の形相で襲いかかってくる。

「師匠!さっきまでのは一体なんです?」

「打ちひしがれる薄幸の美女を演じたまでだ。」

「師匠……」

「なんだ?言いたいことがあれば言え!なんなら賛美する言葉を並びたてても構わんぞ。」

「大根役者って言葉知ってます?……危なっ!」

 顔目掛けて飛んで来たダガーをギリギリで避けると背後の騎士の眉間に突き刺さる。

「無駄口を叩くからだ!」

「まったく、ふざけるにしても酷いもんでしたよ。ダズル達を抑えるのに苦労しました。後でちゃんと謝ってくださいね。」

「迫真の演技の賜物だ!ほら、次が来たぞ!」

 背を合わせた僕らに臆することなく斬りかかって来る騎士の刃を二人共に剣で受け止め押し返す。

「力負けするとは!」

「鍛え方が違うんだよ!」

 そのまま空いた胴を切り裂き、その流れで次の敵と打ち合うが、二、三合も持たず空いた隙を切り裂き、元の位置に戻る。

「腕は鈍っていない様だな。」

「一応毎日振ってますからね!」

 剣の鍛錬は魔法の鍛錬と共に毎日の日課だ。
 元々好きなのもあって手を抜いた事はない。

「ここは任せて良いですか?」

「どうするのだ?」

「師匠のせいで精彩を欠いている三人に合流します。」

「あ、ああ……任せろ。」

 多少歯切れが悪いのは大根役者の一言が効いたのだろうか、少しは反省してもらわないと。

 そんなことを考えながら行く手を阻む騎士の右手を切り飛ばし三人に駆け寄る。
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