片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

八千古嶋コノチカ

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片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして 2

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 シャワーを済ませた私を誠は真顔で見た。

「かっーー」

「か?」

「い、いや、何でもない」

 何かを言い掛け押し止める様子に、やはり化粧は落とすべきじゃなかったと反省する。

 お風呂に入ったのに改めてメイクしたら、1人で良からぬ期待をしていると勘違いされそうで。
 前髪をいじり素顔を出来るだけ隠す。借りたシャツは大きく、肩が落ちてしまう。

 誠はまた黙る。部屋に入った時、彼は難しい顔でベッドを眺めていた。酔いが引き、この状況に冷静になったのかもしれない。

「……俺も入って来ようかな。あぁ、冷蔵庫にあるプリンを食べて待ってて」

「帰らなくていいの?」

「え? なんで? 帰りたい?」

「誠、酔ってるみたいだったし。私がお風呂に入ってる間に酔いが覚めて、考え直したのかなぁと」

「酔ってないよ」

 私の探る風な言い回しに誠は少し怒ったみたいだった。

「どのくらい飲んだかも覚えてる。茜はカシスソーダとプレリュードフィズを飲んでたよね?」

「う、うん」

「実は酔った勢いで部屋に連れ込みました、とか言うと思った?」

「そういう意味じゃなくて……」

「何かされそうで泊まるのが怖くなったとか?」

「ち、違う! そうじゃない」 

 私は1日限りの恋人というチケットを貰い、ドキドキワクワクのジェットコースターに乗っている気分。この夢心地が現実かと不安は過ることはあっても怖くない。本当だ。

 誠が好き、もうずっと前から好きなの。仮初の彼女が言っても信じてもらえないだろうな。

「ーーねぇ、茜はカクテルに意味があるの知ってる?」 

「意味?」

「調べてみて。それが俺の気持ちだから」

 そう言うと誠は出ていってしまった。すれ違いざまにまだ湿る髪に触れられ、シャンプーの香りが舞う。誠と同じ香りを纏っていると思うと嬉しくなる。

 うん、私はこのまま帰らない。

 さっそくカクテルの意味を調べるため携帯電話を取り出す。と、ディスプレイに後輩からのメッセージが表示されていた。

『休日出勤を代わって下さい』

 後輩は簡潔な内容に謝るポーズをしたスタンプを添え、明日の出勤が難しいと伝えてくる。
 私が残業を引き受ける条件で出勤をお願いしていたのに……。

『明日は私も用事があるので交代できません。部長に報告して下さい』

 遅い時間ではあるが引き受けられない旨を送信しておく。仕事の内容的には私でも処理は可能だし、予定が無ければ代わった。ただ明日は駄目、絶対に駄目だ。

 と、すぐに既読マークと返信がつく。

『先輩、お願いします! 明日、彼からプロポーズされると思うんです。仕事に行ったら予定が狂ってしまいます!』

 プロポーズ、その単語に指先が止まる。

 後輩には年上の恋人がおり、デートの度に私へ残業を代わって欲しいと言う。部長は業務時間内に終えられる仕事量を任せているのに、だ。しかし、後輩の指導が行き届いていないと指摘されればその通り。

 だけど今回ばかりは許して欲しい。
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