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片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
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シャワーを済ませた私を誠は真顔で見た。
「かっーー」
「か?」
「い、いや、何でもない」
何かを言い掛け押し止める様子に、やはり化粧は落とすべきじゃなかったと反省する。
お風呂に入ったのに改めてメイクしたら、1人で良からぬ期待をしていると勘違いされそうで。
前髪をいじり素顔を出来るだけ隠す。借りたシャツは大きく、肩が落ちてしまう。
誠はまた黙る。部屋に入った時、彼は難しい顔でベッドを眺めていた。酔いが引き、この状況に冷静になったのかもしれない。
「……俺も入って来ようかな。あぁ、冷蔵庫にあるプリンを食べて待ってて」
「帰らなくていいの?」
「え? なんで? 帰りたい?」
「誠、酔ってるみたいだったし。私がお風呂に入ってる間に酔いが覚めて、考え直したのかなぁと」
「酔ってないよ」
私の探る風な言い回しに誠は少し怒ったみたいだった。
「どのくらい飲んだかも覚えてる。茜はカシスソーダとプレリュードフィズを飲んでたよね?」
「う、うん」
「実は酔った勢いで部屋に連れ込みました、とか言うと思った?」
「そういう意味じゃなくて……」
「何かされそうで泊まるのが怖くなったとか?」
「ち、違う! そうじゃない」
私は1日限りの恋人というチケットを貰い、ドキドキワクワクのジェットコースターに乗っている気分。この夢心地が現実かと不安は過ることはあっても怖くない。本当だ。
誠が好き、もうずっと前から好きなの。仮初の彼女が言っても信じてもらえないだろうな。
「ーーねぇ、茜はカクテルに意味があるの知ってる?」
「意味?」
「調べてみて。それが俺の気持ちだから」
そう言うと誠は出ていってしまった。すれ違いざまにまだ湿る髪に触れられ、シャンプーの香りが舞う。誠と同じ香りを纏っていると思うと嬉しくなる。
うん、私はこのまま帰らない。
さっそくカクテルの意味を調べるため携帯電話を取り出す。と、ディスプレイに後輩からのメッセージが表示されていた。
『休日出勤を代わって下さい』
後輩は簡潔な内容に謝るポーズをしたスタンプを添え、明日の出勤が難しいと伝えてくる。
私が残業を引き受ける条件で出勤をお願いしていたのに……。
『明日は私も用事があるので交代できません。部長に報告して下さい』
遅い時間ではあるが引き受けられない旨を送信しておく。仕事の内容的には私でも処理は可能だし、予定が無ければ代わった。ただ明日は駄目、絶対に駄目だ。
と、すぐに既読マークと返信がつく。
『先輩、お願いします! 明日、彼からプロポーズされると思うんです。仕事に行ったら予定が狂ってしまいます!』
プロポーズ、その単語に指先が止まる。
後輩には年上の恋人がおり、デートの度に私へ残業を代わって欲しいと言う。部長は業務時間内に終えられる仕事量を任せているのに、だ。しかし、後輩の指導が行き届いていないと指摘されればその通り。
だけど今回ばかりは許して欲しい。
シャワーを済ませた私を誠は真顔で見た。
「かっーー」
「か?」
「い、いや、何でもない」
何かを言い掛け押し止める様子に、やはり化粧は落とすべきじゃなかったと反省する。
お風呂に入ったのに改めてメイクしたら、1人で良からぬ期待をしていると勘違いされそうで。
前髪をいじり素顔を出来るだけ隠す。借りたシャツは大きく、肩が落ちてしまう。
誠はまた黙る。部屋に入った時、彼は難しい顔でベッドを眺めていた。酔いが引き、この状況に冷静になったのかもしれない。
「……俺も入って来ようかな。あぁ、冷蔵庫にあるプリンを食べて待ってて」
「帰らなくていいの?」
「え? なんで? 帰りたい?」
「誠、酔ってるみたいだったし。私がお風呂に入ってる間に酔いが覚めて、考え直したのかなぁと」
「酔ってないよ」
私の探る風な言い回しに誠は少し怒ったみたいだった。
「どのくらい飲んだかも覚えてる。茜はカシスソーダとプレリュードフィズを飲んでたよね?」
「う、うん」
「実は酔った勢いで部屋に連れ込みました、とか言うと思った?」
「そういう意味じゃなくて……」
「何かされそうで泊まるのが怖くなったとか?」
「ち、違う! そうじゃない」
私は1日限りの恋人というチケットを貰い、ドキドキワクワクのジェットコースターに乗っている気分。この夢心地が現実かと不安は過ることはあっても怖くない。本当だ。
誠が好き、もうずっと前から好きなの。仮初の彼女が言っても信じてもらえないだろうな。
「ーーねぇ、茜はカクテルに意味があるの知ってる?」
「意味?」
「調べてみて。それが俺の気持ちだから」
そう言うと誠は出ていってしまった。すれ違いざまにまだ湿る髪に触れられ、シャンプーの香りが舞う。誠と同じ香りを纏っていると思うと嬉しくなる。
うん、私はこのまま帰らない。
さっそくカクテルの意味を調べるため携帯電話を取り出す。と、ディスプレイに後輩からのメッセージが表示されていた。
『休日出勤を代わって下さい』
後輩は簡潔な内容に謝るポーズをしたスタンプを添え、明日の出勤が難しいと伝えてくる。
私が残業を引き受ける条件で出勤をお願いしていたのに……。
『明日は私も用事があるので交代できません。部長に報告して下さい』
遅い時間ではあるが引き受けられない旨を送信しておく。仕事の内容的には私でも処理は可能だし、予定が無ければ代わった。ただ明日は駄目、絶対に駄目だ。
と、すぐに既読マークと返信がつく。
『先輩、お願いします! 明日、彼からプロポーズされると思うんです。仕事に行ったら予定が狂ってしまいます!』
プロポーズ、その単語に指先が止まる。
後輩には年上の恋人がおり、デートの度に私へ残業を代わって欲しいと言う。部長は業務時間内に終えられる仕事量を任せているのに、だ。しかし、後輩の指導が行き届いていないと指摘されればその通り。
だけど今回ばかりは許して欲しい。
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