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片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
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『本当にごめん、明日はどうしても外せない用事があるの』
『それってプロポーズより大切なんですか?』
後輩の身勝手な要求など突っぱねてしまえばいいものの、プロポーズを引き合いに出されると罪悪感が生まれる。後輩だけでなく相手も色々支度しているに違いないし。
『先輩はアタシが不幸になってもいいんですね?』
『やっと出来た後輩だってみんなに言っているくせに』
『アタシの彼だって先輩を理解のある人と褒めてるんです。こんな時にその信頼を裏切らないで下さいよ』
などと強い言葉を重ねられ、どうしたら良いか判断がつかなくなってしまう。
誠との約束は守りたい、それでいて後輩のフォローもしてあげたい。どちらにも良い顔をしたがる自分に嫌気がさすが携帯を握ったまま鞄を見やる。急遽、誠の彼女となる運びだったのでやりかけの資料が入っていた。
アパートに帰り、徹夜で仕上げれば間に合う。
「あれ? プリン食べてないのか?」
誠がお風呂から上がってきた。
「……誠」
「ん? どうした?」
「や、やっぱり帰ろうかなって! 色々考えたんだけど着替え持ってないしね」
「それは朝早くに茜のアパートへ送っていくって話だったよな?」
誠の顔がまともに見られない。気配で冷蔵庫の前に屈んでいたのが立ち上がったと分かった。ペタペタ素足で近付いてくる。
「茜? 何かあった? カクテルの意味を調べてみてって試したのを怒ってる?」
「カクテルーーあっ!」
「調べてないのか。なら、どうして帰るって言う? ベッドは1つしかないけど茜に貸すつもりだよ」
「え? ベッド?」
カクテルについて検索するのを忘れ、ベッドが1つしかないのも気付いていない私。話が噛み合わず、嫌な空気が流れ始めた。
「気が変わったのを責めはしないが、理由を聞いてもいいかな?」
「それは……」
帰って仕事をするなんて答えられず、言い淀む。
「でも、お母さんに会う約束は絶対守るから心配しないで!」
「そういう意味で聞いてるんじゃない、分かるよな? 顔上げて、こっちを見ろ。俺、茜に避けられるような真似したか? したならちゃんと謝りたい。誤解されたくないんだ」
「誠は全然悪くないよ。私が悪いの」
目の奥が熱くなってきた。後輩の件を話した結果、そちらを優先していいと返されたらどうしよう。彼女の振りは別の人に頼むと言われたらーー。
涙が滲み、唇を噛んで耐える。涙をこぼさない分、心の中が情けなさで一杯になっていく。
人間関係において中途半端な立ち位置をとってばかり。嫌われたくないという臆病が先行し、はっきり意見が言えない。誠に好きと伝えて振られてしまうくらいなら、伝えない方を選ぶ。
温め過ぎた恋心は強固な殻で守られ、破れなくなっている。
「……着替えよっか。送ってく。飲んでるからタクシーだけど」
「あっ、そんな悪いから」
「アパートまで付いて行かない、安心しろ。タクシーを拾えるまで付き合うよ。さぁ、準備しよう。着替えるんだったら俺は廊下に出てる」
誠の声音は諦めたように落ち着き、確かに私を責めはしなかった。
「ご、ごめん。ごめんね? 彼女の振りはするよ。信じて?」
「はは、疑ってない。茜は優しいし、頼まれれば嫌と言わないもんな。ただそんな茜も泊まるのは嫌だったか。まぁ、そうだよな」
優しいとの発言が優柔不断で八方美人と変換される。
「……ごめん」
「だから謝らなくていいよ、気にしないで。俺こそ悪かった」
誠は励ましたり、心情に寄り添う際は軽くボディータッチをしてくるが、今はしてこなかった。ハンガーにかけてあるスーツを促すと廊下に出る。
結局、私は最後まで顔を上げ、誠を見られなかった。
『それってプロポーズより大切なんですか?』
後輩の身勝手な要求など突っぱねてしまえばいいものの、プロポーズを引き合いに出されると罪悪感が生まれる。後輩だけでなく相手も色々支度しているに違いないし。
『先輩はアタシが不幸になってもいいんですね?』
『やっと出来た後輩だってみんなに言っているくせに』
『アタシの彼だって先輩を理解のある人と褒めてるんです。こんな時にその信頼を裏切らないで下さいよ』
などと強い言葉を重ねられ、どうしたら良いか判断がつかなくなってしまう。
誠との約束は守りたい、それでいて後輩のフォローもしてあげたい。どちらにも良い顔をしたがる自分に嫌気がさすが携帯を握ったまま鞄を見やる。急遽、誠の彼女となる運びだったのでやりかけの資料が入っていた。
アパートに帰り、徹夜で仕上げれば間に合う。
「あれ? プリン食べてないのか?」
誠がお風呂から上がってきた。
「……誠」
「ん? どうした?」
「や、やっぱり帰ろうかなって! 色々考えたんだけど着替え持ってないしね」
「それは朝早くに茜のアパートへ送っていくって話だったよな?」
誠の顔がまともに見られない。気配で冷蔵庫の前に屈んでいたのが立ち上がったと分かった。ペタペタ素足で近付いてくる。
「茜? 何かあった? カクテルの意味を調べてみてって試したのを怒ってる?」
「カクテルーーあっ!」
「調べてないのか。なら、どうして帰るって言う? ベッドは1つしかないけど茜に貸すつもりだよ」
「え? ベッド?」
カクテルについて検索するのを忘れ、ベッドが1つしかないのも気付いていない私。話が噛み合わず、嫌な空気が流れ始めた。
「気が変わったのを責めはしないが、理由を聞いてもいいかな?」
「それは……」
帰って仕事をするなんて答えられず、言い淀む。
「でも、お母さんに会う約束は絶対守るから心配しないで!」
「そういう意味で聞いてるんじゃない、分かるよな? 顔上げて、こっちを見ろ。俺、茜に避けられるような真似したか? したならちゃんと謝りたい。誤解されたくないんだ」
「誠は全然悪くないよ。私が悪いの」
目の奥が熱くなってきた。後輩の件を話した結果、そちらを優先していいと返されたらどうしよう。彼女の振りは別の人に頼むと言われたらーー。
涙が滲み、唇を噛んで耐える。涙をこぼさない分、心の中が情けなさで一杯になっていく。
人間関係において中途半端な立ち位置をとってばかり。嫌われたくないという臆病が先行し、はっきり意見が言えない。誠に好きと伝えて振られてしまうくらいなら、伝えない方を選ぶ。
温め過ぎた恋心は強固な殻で守られ、破れなくなっている。
「……着替えよっか。送ってく。飲んでるからタクシーだけど」
「あっ、そんな悪いから」
「アパートまで付いて行かない、安心しろ。タクシーを拾えるまで付き合うよ。さぁ、準備しよう。着替えるんだったら俺は廊下に出てる」
誠の声音は諦めたように落ち着き、確かに私を責めはしなかった。
「ご、ごめん。ごめんね? 彼女の振りはするよ。信じて?」
「はは、疑ってない。茜は優しいし、頼まれれば嫌と言わないもんな。ただそんな茜も泊まるのは嫌だったか。まぁ、そうだよな」
優しいとの発言が優柔不断で八方美人と変換される。
「……ごめん」
「だから謝らなくていいよ、気にしないで。俺こそ悪かった」
誠は励ましたり、心情に寄り添う際は軽くボディータッチをしてくるが、今はしてこなかった。ハンガーにかけてあるスーツを促すと廊下に出る。
結局、私は最後まで顔を上げ、誠を見られなかった。
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