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育成2
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試着を含め1時間程度と見積もったドレス選びが難航した為、次の写真撮影はおしてしまう。
撮影を担当するのはアイドルの写真集を手掛けるカメラマン。ヨリはこの機会に宣材写真を撮る算段でプロに依頼した。
場所はサロンに併設される庭園で、管理の行き届いた花々が香り高く季節を讃えている。
「美容院なのに庭まであるんですね?」
「ここでカットモデルの撮影やお茶会をやるんだって」
「そうなんですか! お茶会かぁ、別世界って感じがします」
薔薇のアーチを見上げるあかりもレースをふんだんにあしらったドレスを纏い、そこそこ現実離れした姿ではあるが……。
「リボンのドレスを着なかったのを怒ってます?」
「怒ってない! オレはお姉さんが気に入ったドレスを着ればいいって最初から言ってた」
確かに言っていたし、確実に怒っている。
「……そうですね、あぁいう可愛らしいデザインのドレスは本物のお嫁さんに着て貰って下さい」
案件の時と同様、あかりにポーズは取らせず、自然な表情が撮影されていく。
小気味良いシャッター音を聞きながら、ヨリはメロンソーダーを飲み、どうやらツーショットを撮るつもりはない様だ。
「そうだ、ヨリ様は結婚願望ないんです?」
撮影中の会話は禁じておらず、あかりが質問を飛ばす。
「は? 今なんて?」
ぶはっと飲んでいた物が吐き出される。
「結婚願望ないんです?」
「違う! ヨリ様って何、ヨリ様って?」
「ヨリスのブログに書いてあったので」
【ヨリス】のワードに一瞬だけ顔が曇った。
「ヨリスを知ってるのか。まぁ、その呼び方は即刻やめて。お姉さんに呼ばれると、ちょっと怖い」
「ならヨリヨリ?」
「お姉さん、わざと言ってるだろ!」
庭の隅で座っていたヨリは挑発にのって、日向へ連れ出される。
あかりの思った通り、太陽の下のヨリはきらきら輝く。
ヨリスはウェディングドレスがヨリの隣に立つのを見たくないが、薔薇を背景するヨリは見たいはず。まるで絵本から抜け出した王子様みたいに眩い姿を。
輝きの代償とし、煽った口元を容赦なくギュッと摘まれ、情けない表情をおさめられてしまったがあかりは満足した。
あかりの撮影が無事終わり、ヨリの番となる。
「居ると気が散る」との理由で追い出されたあかりは施設を見学する事にした。
ちょうどメイクアップアーティストとバイヤーが喫煙所へ入っていくのが視界に入り、嫌味も言われたがお礼は言おうと近付く。
「あんな喪女を使って再生回数稼ごうなんて、ヨリも必死だよな。顔しか取り柄ないし、もうイロコイするしかねぇか」
振り掛けた手が止まった。
「ヨリはオワコンよ。散々擦られたネタをルックスの良さでどうにかしようとか、ヒネりがないわ」
「あれ、協力してやるんじゃなかったっけ? お友達なんだろ?」
それぞれ携帯電話をいじり、あかりの気配に気付いていない。
「利用できるうちは、ね。さっきの撮影でうちの商品が映るようにしたの。映えない子があんなにキレイになる化粧品、問い合わせ殺到かしら? まぁ、あの子は化粧慣れしてないだけで素材は良かったけど」
咥え煙草を灯すカチカチという音はあかりの導火線にも火を付ける。カッと身体が熱くなった。
「ひでぇーーって俺も同じ。彼女のスタイル良くなかったら、あのドレスは着せなかった。お互い、旨味が薄ければ引き受けないよな、こんなクソつまらない企画」
指先がパタリと落ち、ドレスを握る。煙と陰口を笑いながら吐く2人に怒りが抑えられず、あかりは急いで庭へ戻った。
「思い付きました! 庭での撮影もいいんですけど教会で撮るとかどうですか? 映えませんか?」
勢い良くドアを開け、ヨリに向かいながら進言する。
「突然なに? カメラマンは帰ったよ」
ヨリは動画のチェックをしており、目線を落としたまま思い付きをあしらう。あかりの突拍子もない言動に対して抗体が出来つつある。
「念のため聞いておく。どうして教会に行きたいの? 教会は愛を誓い合う神聖な場所、映えたいだけで行くのは良くない」
発言の成分には倫理観とロマンチストの要素が多分に含まれ、そのうえ正論だ。
「でも私、再生回数を稼ぎたくて」
「はぁ、何度も言わせないで。お姉さんはそういうの気にしなくていいから」
「……いや、その、じゃあ、この姿を見て貰いたいなぁって」
「じゃあって何? 誰に見せたいの? 企画かバレるのだけは勘弁してよ」
企画内容の露見をヨリは一番警戒している。もしもバレたらご破算、これまでの作業が水の泡。
撮影を担当するのはアイドルの写真集を手掛けるカメラマン。ヨリはこの機会に宣材写真を撮る算段でプロに依頼した。
場所はサロンに併設される庭園で、管理の行き届いた花々が香り高く季節を讃えている。
「美容院なのに庭まであるんですね?」
「ここでカットモデルの撮影やお茶会をやるんだって」
「そうなんですか! お茶会かぁ、別世界って感じがします」
薔薇のアーチを見上げるあかりもレースをふんだんにあしらったドレスを纏い、そこそこ現実離れした姿ではあるが……。
「リボンのドレスを着なかったのを怒ってます?」
「怒ってない! オレはお姉さんが気に入ったドレスを着ればいいって最初から言ってた」
確かに言っていたし、確実に怒っている。
「……そうですね、あぁいう可愛らしいデザインのドレスは本物のお嫁さんに着て貰って下さい」
案件の時と同様、あかりにポーズは取らせず、自然な表情が撮影されていく。
小気味良いシャッター音を聞きながら、ヨリはメロンソーダーを飲み、どうやらツーショットを撮るつもりはない様だ。
「そうだ、ヨリ様は結婚願望ないんです?」
撮影中の会話は禁じておらず、あかりが質問を飛ばす。
「は? 今なんて?」
ぶはっと飲んでいた物が吐き出される。
「結婚願望ないんです?」
「違う! ヨリ様って何、ヨリ様って?」
「ヨリスのブログに書いてあったので」
【ヨリス】のワードに一瞬だけ顔が曇った。
「ヨリスを知ってるのか。まぁ、その呼び方は即刻やめて。お姉さんに呼ばれると、ちょっと怖い」
「ならヨリヨリ?」
「お姉さん、わざと言ってるだろ!」
庭の隅で座っていたヨリは挑発にのって、日向へ連れ出される。
あかりの思った通り、太陽の下のヨリはきらきら輝く。
ヨリスはウェディングドレスがヨリの隣に立つのを見たくないが、薔薇を背景するヨリは見たいはず。まるで絵本から抜け出した王子様みたいに眩い姿を。
輝きの代償とし、煽った口元を容赦なくギュッと摘まれ、情けない表情をおさめられてしまったがあかりは満足した。
あかりの撮影が無事終わり、ヨリの番となる。
「居ると気が散る」との理由で追い出されたあかりは施設を見学する事にした。
ちょうどメイクアップアーティストとバイヤーが喫煙所へ入っていくのが視界に入り、嫌味も言われたがお礼は言おうと近付く。
「あんな喪女を使って再生回数稼ごうなんて、ヨリも必死だよな。顔しか取り柄ないし、もうイロコイするしかねぇか」
振り掛けた手が止まった。
「ヨリはオワコンよ。散々擦られたネタをルックスの良さでどうにかしようとか、ヒネりがないわ」
「あれ、協力してやるんじゃなかったっけ? お友達なんだろ?」
それぞれ携帯電話をいじり、あかりの気配に気付いていない。
「利用できるうちは、ね。さっきの撮影でうちの商品が映るようにしたの。映えない子があんなにキレイになる化粧品、問い合わせ殺到かしら? まぁ、あの子は化粧慣れしてないだけで素材は良かったけど」
咥え煙草を灯すカチカチという音はあかりの導火線にも火を付ける。カッと身体が熱くなった。
「ひでぇーーって俺も同じ。彼女のスタイル良くなかったら、あのドレスは着せなかった。お互い、旨味が薄ければ引き受けないよな、こんなクソつまらない企画」
指先がパタリと落ち、ドレスを握る。煙と陰口を笑いながら吐く2人に怒りが抑えられず、あかりは急いで庭へ戻った。
「思い付きました! 庭での撮影もいいんですけど教会で撮るとかどうですか? 映えませんか?」
勢い良くドアを開け、ヨリに向かいながら進言する。
「突然なに? カメラマンは帰ったよ」
ヨリは動画のチェックをしており、目線を落としたまま思い付きをあしらう。あかりの突拍子もない言動に対して抗体が出来つつある。
「念のため聞いておく。どうして教会に行きたいの? 教会は愛を誓い合う神聖な場所、映えたいだけで行くのは良くない」
発言の成分には倫理観とロマンチストの要素が多分に含まれ、そのうえ正論だ。
「でも私、再生回数を稼ぎたくて」
「はぁ、何度も言わせないで。お姉さんはそういうの気にしなくていいから」
「……いや、その、じゃあ、この姿を見て貰いたいなぁって」
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