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育成3
育成3
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祖父母の家から戻ると、ヨリはこれまでの編集作業に取り掛かる。
あかりは育成の最終段階が開始されるまでに荷造りを終わらせたい。祖父母に相談し、また一緒に暮らす事としたのだ。
ヨリは配信のネタが撮れ、あかりは祖父母と和解する。思い付きの帰省であったが結果オーライだろう。
ヨリは編集作業の合間に他愛もないメールをくれるようになり、それを待ち遠しく感じ出した自分に気付いた時、あかりはヨリスが自己投影しやすくなる為にも彼の近くに居ない方がいいと考える。
田舎に帰ってお見合い結婚するのに以前ほどの抵抗を感じなくなり、それは恋人と人生のパートナーは別、ひとりの男性に全部求めるのは無理だからかもしれない。
【大人気ゲーム配信者ヨリが極秘結婚?】
引っ越しの前日、あかりの目にこんなニュースが飛び込んできた。
【ヨリはかねてから交際していたAさんとウェディングフォトを撮影した。撮影場所は業界人御用達の某サロン、定休日に関わらずヨリと親交のあるスタイリストが出勤する様子や、Aさんの物と思われるドレスを搬入する現場も同誌は写真に収める】
「誰がこんな事を?」
あかりは記事に添えらた写真を見て、愕然とする。居ても立っても居られなくなり、ヨリのマンションへ向った。
ヨリのマンションの周りには記者と思われる人達が集まっていたが、幸いあかりは注目されず中に入る事が出来た。
写真に映るウェディングドレス姿と普段着との落差があって成り立つ擦り抜け術といえる。
最上階に着くと緊急事態とあって、ヨリの関係者が居た。事態の対応に追われ、慌ただしい。
「あなた?」
あかりに気が付いたひとりが鋭い視線を寄越す。
「あなた、元宮あかりさんですよね? どうして此方へ?」
「ヨリさんに今から行くと連絡して、セキュリティを解除してもらったんです」
「鍵の開け方を聞いたのではないですよ。何をしにいらっしゃったのかと尋ねているんです!」
怒鳴り声に周囲がしん、となる。すると誰かが「写真を流出させたのは彼女じゃないのか?」と疑い、同調の波が起きた。
「わ、私じゃありません! あの記事は企画だって説明すれば誤解は解けると思います!」
「あなたは全然分かってない! ヨリの支持層は女性。スキャンダルは致命傷なんだ。どうせ噂になるなら女優やモデルにしてくれないと格好すらつかないよ!」
「……だから説明を」
「説明、説明と言うなら、あなたが外で張り込む記者達に経緯を説明してきて下さい!」
「ーーオレが説明するから」
ヨリだった。
「みんな、今回の件は本当に申し訳ない」
ヨリは興奮する関係者、事態の収集に動くスタッフ等へ深く頭を下げた。
「準備が整い次第、生配信で釈明するから。もう少し踏ん張ってくれ」
配信者生命を脅かされる中、ヨリは怖いくらい冷静で声に自信を宿らせる。
こうして社長がどっしり構えてくれれば社員も落着きを取り戻せ、指示と判断を仰ぐ事ができ、滞っていた空気が循環されていく。
それぞれが担当の持ち場についたのを確認し、ヨリはあかりを住居スペースへ連れて行った。
「騒がしちゃってごめんね?」
こんな形で招かれると思っていなかったヨリの部屋。モデルルームのように生活感がなく、最低限の家具しか置かれていない。
広い空間なのに、あかりは息苦さから肩で息をする。この件でヨリを支持する人達にどんな感情を抱かれるか、身を持って感じた。
「大丈夫? オレはお姉さんが写真を横流ししたなんて思っていないから安心して?」
「じゃあ誰が?」
「さぁ? 誰だろうね。こういう足の引っ張り合いなんて珍しくないし」
ヨリはキッチンでコーヒーを淹れるとひとつカップ、もうひとつは紙コップへ注ぐ。
自分を貶めた犯人に興味をあまり興味を示さない。
「でも育成は中止かな」
大きな冷蔵庫に背を預け、深く息を吐いた。
「これからどうなるんですか?」
「配信でお姉さんとの企画を説明するよ」
「ヨリスは分かってくれますよね?」
オープンキッチンのカウンターへ乗り出す、あかり。
「さぁ、どうかな。ガチ恋勢多いし。そういうアプローチをしてた」
確かにネットニュースのコメント欄は荒れに荒れていた。ヨリへの失望と共にあかりに向ける中傷も多い。
「ーーだとしても、ヨリさんが私なんかと結婚するはずないし、付き合うにしても可愛い人やキレイな人のはずです! 写真を見ればそのくらい分かりますよ! 目元にモザイク入ってますが」
「あのさ、そういう事を自分で言ってて悲しくない? お姉さんなんかって言い方、やめなよ」
ヨリは肩を竦め、呆れた。
「か、悲しいですけど本当の事です」
「可愛いとかキレイとかは別として、付き合うのも結婚するのもオレが決める事。お姉さんが勝手に決めないで」
「決めつけるなんて、そんな」
「これはオレの問題。お姉さんに関係ない」
半分以上残っていたコーヒーをシンクにこぼし、蛇口をひねる。あかりは排水口に飲み込まれたコーヒーへ自分を重ねた。
あかりは育成の最終段階が開始されるまでに荷造りを終わらせたい。祖父母に相談し、また一緒に暮らす事としたのだ。
ヨリは配信のネタが撮れ、あかりは祖父母と和解する。思い付きの帰省であったが結果オーライだろう。
ヨリは編集作業の合間に他愛もないメールをくれるようになり、それを待ち遠しく感じ出した自分に気付いた時、あかりはヨリスが自己投影しやすくなる為にも彼の近くに居ない方がいいと考える。
田舎に帰ってお見合い結婚するのに以前ほどの抵抗を感じなくなり、それは恋人と人生のパートナーは別、ひとりの男性に全部求めるのは無理だからかもしれない。
【大人気ゲーム配信者ヨリが極秘結婚?】
引っ越しの前日、あかりの目にこんなニュースが飛び込んできた。
【ヨリはかねてから交際していたAさんとウェディングフォトを撮影した。撮影場所は業界人御用達の某サロン、定休日に関わらずヨリと親交のあるスタイリストが出勤する様子や、Aさんの物と思われるドレスを搬入する現場も同誌は写真に収める】
「誰がこんな事を?」
あかりは記事に添えらた写真を見て、愕然とする。居ても立っても居られなくなり、ヨリのマンションへ向った。
ヨリのマンションの周りには記者と思われる人達が集まっていたが、幸いあかりは注目されず中に入る事が出来た。
写真に映るウェディングドレス姿と普段着との落差があって成り立つ擦り抜け術といえる。
最上階に着くと緊急事態とあって、ヨリの関係者が居た。事態の対応に追われ、慌ただしい。
「あなた?」
あかりに気が付いたひとりが鋭い視線を寄越す。
「あなた、元宮あかりさんですよね? どうして此方へ?」
「ヨリさんに今から行くと連絡して、セキュリティを解除してもらったんです」
「鍵の開け方を聞いたのではないですよ。何をしにいらっしゃったのかと尋ねているんです!」
怒鳴り声に周囲がしん、となる。すると誰かが「写真を流出させたのは彼女じゃないのか?」と疑い、同調の波が起きた。
「わ、私じゃありません! あの記事は企画だって説明すれば誤解は解けると思います!」
「あなたは全然分かってない! ヨリの支持層は女性。スキャンダルは致命傷なんだ。どうせ噂になるなら女優やモデルにしてくれないと格好すらつかないよ!」
「……だから説明を」
「説明、説明と言うなら、あなたが外で張り込む記者達に経緯を説明してきて下さい!」
「ーーオレが説明するから」
ヨリだった。
「みんな、今回の件は本当に申し訳ない」
ヨリは興奮する関係者、事態の収集に動くスタッフ等へ深く頭を下げた。
「準備が整い次第、生配信で釈明するから。もう少し踏ん張ってくれ」
配信者生命を脅かされる中、ヨリは怖いくらい冷静で声に自信を宿らせる。
こうして社長がどっしり構えてくれれば社員も落着きを取り戻せ、指示と判断を仰ぐ事ができ、滞っていた空気が循環されていく。
それぞれが担当の持ち場についたのを確認し、ヨリはあかりを住居スペースへ連れて行った。
「騒がしちゃってごめんね?」
こんな形で招かれると思っていなかったヨリの部屋。モデルルームのように生活感がなく、最低限の家具しか置かれていない。
広い空間なのに、あかりは息苦さから肩で息をする。この件でヨリを支持する人達にどんな感情を抱かれるか、身を持って感じた。
「大丈夫? オレはお姉さんが写真を横流ししたなんて思っていないから安心して?」
「じゃあ誰が?」
「さぁ? 誰だろうね。こういう足の引っ張り合いなんて珍しくないし」
ヨリはキッチンでコーヒーを淹れるとひとつカップ、もうひとつは紙コップへ注ぐ。
自分を貶めた犯人に興味をあまり興味を示さない。
「でも育成は中止かな」
大きな冷蔵庫に背を預け、深く息を吐いた。
「これからどうなるんですか?」
「配信でお姉さんとの企画を説明するよ」
「ヨリスは分かってくれますよね?」
オープンキッチンのカウンターへ乗り出す、あかり。
「さぁ、どうかな。ガチ恋勢多いし。そういうアプローチをしてた」
確かにネットニュースのコメント欄は荒れに荒れていた。ヨリへの失望と共にあかりに向ける中傷も多い。
「ーーだとしても、ヨリさんが私なんかと結婚するはずないし、付き合うにしても可愛い人やキレイな人のはずです! 写真を見ればそのくらい分かりますよ! 目元にモザイク入ってますが」
「あのさ、そういう事を自分で言ってて悲しくない? お姉さんなんかって言い方、やめなよ」
ヨリは肩を竦め、呆れた。
「か、悲しいですけど本当の事です」
「可愛いとかキレイとかは別として、付き合うのも結婚するのもオレが決める事。お姉さんが勝手に決めないで」
「決めつけるなんて、そんな」
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