強くてニューゲームな契約彼氏ー恋も愛も無理ゲーではありません

八千古嶋コノチカ

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育成3

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「……これを渡したくて今日は来て貰ったんだ。報酬。どうぞ」

 紙コップの横に封筒が添えられる。あかりはすぐさま押し戻そうとした。

「受け取れません! だって育成終わっていません」
「気にしないで、こっちの都合で中止にするんだ。明日引っ越しの期日じゃなかった? 餞別も兼ねてるから受け取って欲しいな」

 関係ないと突き放し、引越し先を聞かないくせ餞別を渡そうとするヨリ。
 ふいに指と指が触れ、彼はしっかり封筒を握らせた。
 手を握られて、あかりは彼の手の冷たさを知る。そうだ、ヨリだって緊張するし、ヨリだって怖いのだ。

「わ、私のせいで、すいません。私がウェディングドレスを着たいなんて言わなければ」
「なんでそうなるの? オレは楽しかったよ、お姉さんの育成。短い間だったけどありがとう」
「私も、私だって楽しかったです。でも」
「でも?」
「ヨリさんが声を上げて笑うの、見てみたかったです。これでおしまいは寂しいです」
「……そっか。残念だけど、お姉さんのお願いをきいてあげる時間は終わったよ。声を出して笑ってはあげられない」

 シンデレラの魔法が解けると告げるヨリの顔は優しい笑顔。あかりもそれに応え、部屋を出るまでは泣かなかった。
 泣かないくらいしか、あかりがヨリにしてあげられる事が見付からない。

 ヨリは窓からあかりがマンションを去るのを見届け、緊急と銘打ち配信を始める。
 即座に多くのヨリスが集まり、説明を求めるコメントが大量に打ち込まれた。

「こんにちは。今日はまず報道されている件について、オレの口からみんなに話をしたいと思います」

 不祥事を起こした訳ではないので口調はいつもと変えない。襟足を染め直さず、スーツを着用していない事で謝罪ではなく釈明を意図する。

「かの写真ですが、進行中の企画が撮られてしまい、オレは結婚していません」

 ヨリは左手の薬指をかざす。

 未婚の文言と空っぽの薬指をとれ、ヨリスは大盛り上がりする。
 この配信回は収益化しない設定をしてあるため投げ銭を行えないが、通常時のヨリならここで数十万を稼ぐ。

 ーーだよね、ヨリがあんなオバサン相手にするはずないのに、みんな騒ぎ過ぎ
 ーー女が写真を流出させたんじゃないの?
 ーーあの写真が出て、得するのって彼女だけだもん

 やはり、あかりへの非難が集中する。
 すごい速さでコメントは流れても、ヨリは馴染みのヨリスのアイコンを記憶しているので彼女等の発言を拾う。

「企画が後発ではないかとの指摘もあるので、編集中の動画で見苦しい箇所が残っていますが、公開したいと思います」

 画面を暗転させ数秒、冒頭のナレーションが聞こえてくる。

「ある日、Aさんは【恋人と人生のパートナーは別、ひとりの女性に全部求めるのは無理】だと言われて振られてました。オレは無理ゲーじゃない、見返してやろうとAさんの育成に着手しました」

 人気配信者によるアラサー女子の育成ゲーム。
 カフェであかりが振られているのを見掛け、再生回数を稼げる手軽な企画だとヨリは思い立つ。
 社長となり社員を雇った責任から、練習などの拘束時間が多いゲーム実況をしにくい現状を打破したい、そのために計画を持ち掛けた。

 最初こそヨリが舞台を回していたが、気付けばあかりに振り回され、予定調和なシナリオは脈絡のない会話、向こう見ずな行動力によって破壊される。
 箱を開けてみればあかりと冒険をしているみたい。

 あかりと居ると退屈しない、次から次へと面倒が起きる。それでも楽しいと言ったのは本心でヨリはメンタルが鍛えられた。

 アトランティスの宝をパジャマ姿でプレイする様子をヨリスに見せるか、彼は最後まで悩み、以前のヨリならば下せなかった決断をする。

 ーーえ、実家に泊まるとかやばくない? 
 ーーヨリ、めちゃくちゃ笑ってゲームやってるんですけど
 ーーパジャマゲームってやりすぎじゃない?

 ウェディングドレス姿を祖父母に見せるまではヨリスも肯定的であったが、というより肯定的に取られるよう編集してある。

 しかし、ヨリの活動の原点であるゲーム部分をそのまま流した事で風向きが変わった。

 ーー待て待て待て、ヨリ、女に手を回してない?
 ーーヨリ、たかがゲームにムキになりすぎ。萎えるわ

 ヨリはコメントをじっと追う。
 あかり協力してプレイをするほど距離感が近くなり、逆にヨリスとは離れた。

 損得の天秤が揺れ、これまでとこれからを巡らす。

(決めた)
 ヨリの天秤はーー水平を保つ。

 画面の空が明るくなる頃、ヨリはどうにかゲームクリアに漕ぎつけ、あかりはというと連続の夜更しが耐えられず眠る様が映される。
 そんなあかりの寝顔をヨリが穏やかな顔で眺め、動画は終わった。

 ーーは? なにこれ、結婚してないけど付き合ってるって意味?
 ーーありえない! 見て損した! こんなのヨリじゃないよ!
 ーー裏切られた! 彼女居ないって言ってたくせに! ノロケ配信とかないわ!

 ライブ配信へ切り替った時には配信は炎上状態。編集の切り口からして、あかりと交際していると受け取られるのは仕方がない。

「みんなと同じ映像を見て、オレはAさんに恋をしているんだと気付きました。何なら愛を育てたいと分かりました。
 どうか、オレが大事にしたい女性を誹謗しないでください」

 ヨリは静かにゆっくり頭を下げ、配信を閉じた。

 配信が終わった途端、さっそく携帯電話が震える。友達なので話くらい聞いてやるかとボタンを押す。

「ヨ、ヨリ! お前の女がやばいの!」
「は? やばい?」
「写真を流したのはアタシだろってすごい剣幕で言ってきたから、盗撮はしたけど週刊誌には売ってないって正直に話したのよ。そしたら誰に横流ししたか詰められて」
「誰に流した?」

 ヨリが人に向けた事の無い低い声を出した。

「ヨリスのブログ書いてる娘で、アタシのお客さんよ」
「……ふーん、楽ませてくれるねぇ、お姉さん」
「え、ちょっとヨリ! あんた何を」

 ヨリは通話を切り、駆け出す。写真の流出について咎める時間が惜しい。
 重い鎧を脱ぎ捨てた彼の足は軽やかだ。

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