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「見てみろよ。青山がまた告られてるぞ」
放課後、片桐の面白がる声にわたしは肩を竦めた。切ったばかりの襟足がちくちく首を刺激してきて、胸もつられて痛くなる。
「ミユと別れた途端、これだよ? まるで二人が別れるのを待ってたみたいじゃん」
「ーーだとしても関係ない。わたし達はお別れしたんだし、青山君が他の人と付き合おうと自由だから。ほら行こう、覗き見なんて趣味悪いよ」
窓辺に張り付き、野次馬精神全開の片桐。その茶髪を軽くバッグでこつく。すると見るつもりがなくとも青山君が視界に入り、困り顔で相女の子と向き合う姿を映してしまう。
相手の子のサラサラロングヘアーで大人しそうな雰囲気はわたしとは正反対だ。
まぁ、そもそも青山君みたいな人気者とわたしが付き合えたのが不思議で、交際期間は一ヶ月と短かったけれど幸せだった。
「失恋の傷が癒えないうちにバイト行くなんて、ミユは働き者だなぁ。偉い、偉い」
ちっとも尊敬していない口調で言われても。
「ただでさえ人手不足なのにシフトに穴開けたら店長に怒られるでしょ。それに忙しくしている方が余計な事を考えないで済むし」
片桐とはクラスメートであり、バイト仲間でもある。彼はバイクを買う資金を得る為、わたしは青山君の誕生日プレゼントを買おうと駅前のファミレスで働く。
誕生日を迎える前に破局したので目標は無くなったものの、話した通り、時間があると青山君を想ってしまうから。
「ふーん、ミユはまだ青山が好きなんだ? 思ってたのと違うって言われて振られたんだろう? そんな失礼な事を言う奴なんか、さっさと忘れたらいいのに」
「……そう簡単に忘れられれば、髪を切ったりしない。片桐みたく次から次へと気持ちを切り替えられる人ばかりじゃないんだよ」
軽薄な恋愛観をこれ以上聞きたくなくて先に教室を出た。
「ちょ、ちょっと、人聞きの悪い言い方するなよ!」
片桐は足音をさせて追い掛けてくる。わたしの周りを動き回り、茶髪も相まって大型犬みたい。
廊下を行き交う生徒等はコミカルな片桐を笑ったり、携帯電話のカメラを向ける。
「おっ、ツーショット撮ろうぜ! イェーイ!」
お調子者はレンズに気付くとわたしの肩を抱き、ピース。
「はぁぁ、片桐。こういう所だと思うな」
大きくため息を吐き、脇腹へ肘を入れておく。
「いっ、痛ってぇ! 何だよ? こういう所って?」
「いちいち馴れ馴れしいの。片桐って女の子を勘違いさせて泣かせてばかりじゃない。この間だってーー」
そこまで注意して、ふと前方へ意識が向く。校庭に居たはずの青山君がこちらに歩いてきた。
わたしはすかさず片桐の手を払い除け、脇に寄る。どうかわたしに構わず通り過ぎて欲しい。
「相変わらず仲が良いね。今からバイト?」
しかし願い叶わず、青山君は律儀に立ち止まる。別れたからといって無視をせず、行き合えばこうして挨拶してくれるが、わたしとしてはそれが辛くて。
「う、うん」
返事が上擦ってしまう。わたしはまだ青山君を友達扱い出来ないし、雑談に応じられそうもない。まともに顔だって見られない。
「マンゴーフェアやってるんだぜ、良かったら新しい彼女と食べに来いよ! カップル割りあるからさ」
と、片桐が再びわたしの肩を抱いた。
「見てみろよ。青山がまた告られてるぞ」
放課後、片桐の面白がる声にわたしは肩を竦めた。切ったばかりの襟足がちくちく首を刺激してきて、胸もつられて痛くなる。
「ミユと別れた途端、これだよ? まるで二人が別れるのを待ってたみたいじゃん」
「ーーだとしても関係ない。わたし達はお別れしたんだし、青山君が他の人と付き合おうと自由だから。ほら行こう、覗き見なんて趣味悪いよ」
窓辺に張り付き、野次馬精神全開の片桐。その茶髪を軽くバッグでこつく。すると見るつもりがなくとも青山君が視界に入り、困り顔で相女の子と向き合う姿を映してしまう。
相手の子のサラサラロングヘアーで大人しそうな雰囲気はわたしとは正反対だ。
まぁ、そもそも青山君みたいな人気者とわたしが付き合えたのが不思議で、交際期間は一ヶ月と短かったけれど幸せだった。
「失恋の傷が癒えないうちにバイト行くなんて、ミユは働き者だなぁ。偉い、偉い」
ちっとも尊敬していない口調で言われても。
「ただでさえ人手不足なのにシフトに穴開けたら店長に怒られるでしょ。それに忙しくしている方が余計な事を考えないで済むし」
片桐とはクラスメートであり、バイト仲間でもある。彼はバイクを買う資金を得る為、わたしは青山君の誕生日プレゼントを買おうと駅前のファミレスで働く。
誕生日を迎える前に破局したので目標は無くなったものの、話した通り、時間があると青山君を想ってしまうから。
「ふーん、ミユはまだ青山が好きなんだ? 思ってたのと違うって言われて振られたんだろう? そんな失礼な事を言う奴なんか、さっさと忘れたらいいのに」
「……そう簡単に忘れられれば、髪を切ったりしない。片桐みたく次から次へと気持ちを切り替えられる人ばかりじゃないんだよ」
軽薄な恋愛観をこれ以上聞きたくなくて先に教室を出た。
「ちょ、ちょっと、人聞きの悪い言い方するなよ!」
片桐は足音をさせて追い掛けてくる。わたしの周りを動き回り、茶髪も相まって大型犬みたい。
廊下を行き交う生徒等はコミカルな片桐を笑ったり、携帯電話のカメラを向ける。
「おっ、ツーショット撮ろうぜ! イェーイ!」
お調子者はレンズに気付くとわたしの肩を抱き、ピース。
「はぁぁ、片桐。こういう所だと思うな」
大きくため息を吐き、脇腹へ肘を入れておく。
「いっ、痛ってぇ! 何だよ? こういう所って?」
「いちいち馴れ馴れしいの。片桐って女の子を勘違いさせて泣かせてばかりじゃない。この間だってーー」
そこまで注意して、ふと前方へ意識が向く。校庭に居たはずの青山君がこちらに歩いてきた。
わたしはすかさず片桐の手を払い除け、脇に寄る。どうかわたしに構わず通り過ぎて欲しい。
「相変わらず仲が良いね。今からバイト?」
しかし願い叶わず、青山君は律儀に立ち止まる。別れたからといって無視をせず、行き合えばこうして挨拶してくれるが、わたしとしてはそれが辛くて。
「う、うん」
返事が上擦ってしまう。わたしはまだ青山君を友達扱い出来ないし、雑談に応じられそうもない。まともに顔だって見られない。
「マンゴーフェアやってるんだぜ、良かったら新しい彼女と食べに来いよ! カップル割りあるからさ」
と、片桐が再びわたしの肩を抱いた。
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