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「か、片桐!」
元彼を前に大胆な密着をされ身を捩ったーーが、びくともしない。がっしり掴まれている。
「さっき告られてた子、清楚な子だったなぁー。羨ましい。で、付き合うの?」
片桐はプライベートにずけずけ踏み込む物言いを人懐っこさで中和した。もしわたしがこんな発言したら非難されるが、片桐なら許されてしまう。
にこにこ八重歯を見せ答えを待つ片桐に、青山君は額へ手を当てる。
わたしが知る限り、青山君と片桐の性格は真逆だ。例えば突然雨が降ってきたら青山君は雨宿りしてやむのを待つ、一方片桐の場合、誰かの傘に入れてもらう、もしくは傘をささず濡れるタイプ。
お互い目立つ存在なので名前と顔は認識していても、友人関係を築くとなると難しそう。
「君には、いや君達には関係ない」
君達と言い直した辺りから含みを感じた。つまりわたしが片桐側の人間と言いたいのかもしれない。
「だよねぇ、お前が誰と付き合おうと俺やミユには関係ないよな」
うん、うん、と一人で納得する片桐。
「同時にミユが誰と付き合おうと青山には関係ない訳だ」
なぁ? 同意を求められて、げんなりした。
「そんなの当たり前でしょ。もういい? バイトに遅れちゃう」
周囲の目もあり、この場に留まりたくない。片桐の袖を引っ張って促すと、何故か嬉しそうな顔をした。
「なぁなぁ、バイト上がったらマンゴープリン食べない? ミユ、好きだろ?」
「分かった、分かった。早く行こうってば!」
「よっしゃあ、ミユの奢りな!」
などと、たかっておいて、片桐がわたしに奢らせた事は一度もない。
■
バイトでの持ち場はわたしがキッチン、片桐はホールを担当する。
片桐のキャラクターは接客に向いていて、もくもくと皿洗いする中でも彼の明るい笑い声は届く。最近では片桐目当てのお客さんも居るそう。
「ねぇ、片桐君って彼女居るのかな?」
「え?」
新人の子が頬を赤らめ尋ねてくる。
(あぁ、スタッフもか)
声に出さないで落胆する。せっかく同年代が採用されても彼女等は必ずと言っていいほど片桐に好意を持ち、恋に破れると辞めていく。もはや片桐のせいでバイトが定着しないと断言できる。
「片桐君と仲良いでしょ? 知ってると思って」
わたしが眉をしかめた理由を勘違いし、頭を下げられた。
「片桐、告白してくれればお試しで付き合ってみるって言ってたよ」
質問にいつもと同じ答えを返す。
「そ、そうなんだぁ。お試しでも付き合えはするのか」
それでいつもと同じ反応を返される。
「あのさ、わたしが言うべき事じゃないと思うんだけど、お試しで付き合うとか止めておきなよ」
「どうして? そこから本当に好きになるかもしれないじゃん? 自分を知って貰うチャンスなのに?」
彼女の言い分はよく分かるし、否定はしない。というか否定なんか出来ない。何故なら青山君に告白した際、わたしも仮初めの彼女でもいいからと食い下がったから。
まぁ、この仮初めの彼女というのも片桐を見ていて思い付いたんだけど。
「ミユ、オーダーいける?」
噂をすれば影、片桐がキッチンを覗く。
「あっ、アタシやるよ!」
さっそくアピールしようと張り切る新人に片桐は柔らかく微笑む。バイトの時は前髪をピンで留めて襟足を結っており、表情がよく見える。
「じゃあ、お願いできる? 無理っぽかったら一人でやり切ろうとせず、ミユにフォロー頼んでね?」
「は、はい! 頑張る!」
「あははっ、頼もしい。ミユ、期待の新人が入ってきて良かったな。人手が足らない足らないってグチってたじゃん」
流石、大型犬。鼻がよく効く。自分に好意を寄せる相手を嗅ぎ分ける能力が高い。
元彼を前に大胆な密着をされ身を捩ったーーが、びくともしない。がっしり掴まれている。
「さっき告られてた子、清楚な子だったなぁー。羨ましい。で、付き合うの?」
片桐はプライベートにずけずけ踏み込む物言いを人懐っこさで中和した。もしわたしがこんな発言したら非難されるが、片桐なら許されてしまう。
にこにこ八重歯を見せ答えを待つ片桐に、青山君は額へ手を当てる。
わたしが知る限り、青山君と片桐の性格は真逆だ。例えば突然雨が降ってきたら青山君は雨宿りしてやむのを待つ、一方片桐の場合、誰かの傘に入れてもらう、もしくは傘をささず濡れるタイプ。
お互い目立つ存在なので名前と顔は認識していても、友人関係を築くとなると難しそう。
「君には、いや君達には関係ない」
君達と言い直した辺りから含みを感じた。つまりわたしが片桐側の人間と言いたいのかもしれない。
「だよねぇ、お前が誰と付き合おうと俺やミユには関係ないよな」
うん、うん、と一人で納得する片桐。
「同時にミユが誰と付き合おうと青山には関係ない訳だ」
なぁ? 同意を求められて、げんなりした。
「そんなの当たり前でしょ。もういい? バイトに遅れちゃう」
周囲の目もあり、この場に留まりたくない。片桐の袖を引っ張って促すと、何故か嬉しそうな顔をした。
「なぁなぁ、バイト上がったらマンゴープリン食べない? ミユ、好きだろ?」
「分かった、分かった。早く行こうってば!」
「よっしゃあ、ミユの奢りな!」
などと、たかっておいて、片桐がわたしに奢らせた事は一度もない。
■
バイトでの持ち場はわたしがキッチン、片桐はホールを担当する。
片桐のキャラクターは接客に向いていて、もくもくと皿洗いする中でも彼の明るい笑い声は届く。最近では片桐目当てのお客さんも居るそう。
「ねぇ、片桐君って彼女居るのかな?」
「え?」
新人の子が頬を赤らめ尋ねてくる。
(あぁ、スタッフもか)
声に出さないで落胆する。せっかく同年代が採用されても彼女等は必ずと言っていいほど片桐に好意を持ち、恋に破れると辞めていく。もはや片桐のせいでバイトが定着しないと断言できる。
「片桐君と仲良いでしょ? 知ってると思って」
わたしが眉をしかめた理由を勘違いし、頭を下げられた。
「片桐、告白してくれればお試しで付き合ってみるって言ってたよ」
質問にいつもと同じ答えを返す。
「そ、そうなんだぁ。お試しでも付き合えはするのか」
それでいつもと同じ反応を返される。
「あのさ、わたしが言うべき事じゃないと思うんだけど、お試しで付き合うとか止めておきなよ」
「どうして? そこから本当に好きになるかもしれないじゃん? 自分を知って貰うチャンスなのに?」
彼女の言い分はよく分かるし、否定はしない。というか否定なんか出来ない。何故なら青山君に告白した際、わたしも仮初めの彼女でもいいからと食い下がったから。
まぁ、この仮初めの彼女というのも片桐を見ていて思い付いたんだけど。
「ミユ、オーダーいける?」
噂をすれば影、片桐がキッチンを覗く。
「あっ、アタシやるよ!」
さっそくアピールしようと張り切る新人に片桐は柔らかく微笑む。バイトの時は前髪をピンで留めて襟足を結っており、表情がよく見える。
「じゃあ、お願いできる? 無理っぽかったら一人でやり切ろうとせず、ミユにフォロー頼んでね?」
「は、はい! 頑張る!」
「あははっ、頼もしい。ミユ、期待の新人が入ってきて良かったな。人手が足らない足らないってグチってたじゃん」
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