2 / 9
2
しおりを挟む
「か、片桐!」
元彼を前に大胆な密着をされ身を捩ったーーが、びくともしない。がっしり掴まれている。
「さっき告られてた子、清楚な子だったなぁー。羨ましい。で、付き合うの?」
片桐はプライベートにずけずけ踏み込む物言いを人懐っこさで中和した。もしわたしがこんな発言したら非難されるが、片桐なら許されてしまう。
にこにこ八重歯を見せ答えを待つ片桐に、青山君は額へ手を当てる。
わたしが知る限り、青山君と片桐の性格は真逆だ。例えば突然雨が降ってきたら青山君は雨宿りしてやむのを待つ、一方片桐の場合、誰かの傘に入れてもらう、もしくは傘をささず濡れるタイプ。
お互い目立つ存在なので名前と顔は認識していても、友人関係を築くとなると難しそう。
「君には、いや君達には関係ない」
君達と言い直した辺りから含みを感じた。つまりわたしが片桐側の人間と言いたいのかもしれない。
「だよねぇ、お前が誰と付き合おうと俺やミユには関係ないよな」
うん、うん、と一人で納得する片桐。
「同時にミユが誰と付き合おうと青山には関係ない訳だ」
なぁ? 同意を求められて、げんなりした。
「そんなの当たり前でしょ。もういい? バイトに遅れちゃう」
周囲の目もあり、この場に留まりたくない。片桐の袖を引っ張って促すと、何故か嬉しそうな顔をした。
「なぁなぁ、バイト上がったらマンゴープリン食べない? ミユ、好きだろ?」
「分かった、分かった。早く行こうってば!」
「よっしゃあ、ミユの奢りな!」
などと、たかっておいて、片桐がわたしに奢らせた事は一度もない。
■
バイトでの持ち場はわたしがキッチン、片桐はホールを担当する。
片桐のキャラクターは接客に向いていて、もくもくと皿洗いする中でも彼の明るい笑い声は届く。最近では片桐目当てのお客さんも居るそう。
「ねぇ、片桐君って彼女居るのかな?」
「え?」
新人の子が頬を赤らめ尋ねてくる。
(あぁ、スタッフもか)
声に出さないで落胆する。せっかく同年代が採用されても彼女等は必ずと言っていいほど片桐に好意を持ち、恋に破れると辞めていく。もはや片桐のせいでバイトが定着しないと断言できる。
「片桐君と仲良いでしょ? 知ってると思って」
わたしが眉をしかめた理由を勘違いし、頭を下げられた。
「片桐、告白してくれればお試しで付き合ってみるって言ってたよ」
質問にいつもと同じ答えを返す。
「そ、そうなんだぁ。お試しでも付き合えはするのか」
それでいつもと同じ反応を返される。
「あのさ、わたしが言うべき事じゃないと思うんだけど、お試しで付き合うとか止めておきなよ」
「どうして? そこから本当に好きになるかもしれないじゃん? 自分を知って貰うチャンスなのに?」
彼女の言い分はよく分かるし、否定はしない。というか否定なんか出来ない。何故なら青山君に告白した際、わたしも仮初めの彼女でもいいからと食い下がったから。
まぁ、この仮初めの彼女というのも片桐を見ていて思い付いたんだけど。
「ミユ、オーダーいける?」
噂をすれば影、片桐がキッチンを覗く。
「あっ、アタシやるよ!」
さっそくアピールしようと張り切る新人に片桐は柔らかく微笑む。バイトの時は前髪をピンで留めて襟足を結っており、表情がよく見える。
「じゃあ、お願いできる? 無理っぽかったら一人でやり切ろうとせず、ミユにフォロー頼んでね?」
「は、はい! 頑張る!」
「あははっ、頼もしい。ミユ、期待の新人が入ってきて良かったな。人手が足らない足らないってグチってたじゃん」
流石、大型犬。鼻がよく効く。自分に好意を寄せる相手を嗅ぎ分ける能力が高い。
元彼を前に大胆な密着をされ身を捩ったーーが、びくともしない。がっしり掴まれている。
「さっき告られてた子、清楚な子だったなぁー。羨ましい。で、付き合うの?」
片桐はプライベートにずけずけ踏み込む物言いを人懐っこさで中和した。もしわたしがこんな発言したら非難されるが、片桐なら許されてしまう。
にこにこ八重歯を見せ答えを待つ片桐に、青山君は額へ手を当てる。
わたしが知る限り、青山君と片桐の性格は真逆だ。例えば突然雨が降ってきたら青山君は雨宿りしてやむのを待つ、一方片桐の場合、誰かの傘に入れてもらう、もしくは傘をささず濡れるタイプ。
お互い目立つ存在なので名前と顔は認識していても、友人関係を築くとなると難しそう。
「君には、いや君達には関係ない」
君達と言い直した辺りから含みを感じた。つまりわたしが片桐側の人間と言いたいのかもしれない。
「だよねぇ、お前が誰と付き合おうと俺やミユには関係ないよな」
うん、うん、と一人で納得する片桐。
「同時にミユが誰と付き合おうと青山には関係ない訳だ」
なぁ? 同意を求められて、げんなりした。
「そんなの当たり前でしょ。もういい? バイトに遅れちゃう」
周囲の目もあり、この場に留まりたくない。片桐の袖を引っ張って促すと、何故か嬉しそうな顔をした。
「なぁなぁ、バイト上がったらマンゴープリン食べない? ミユ、好きだろ?」
「分かった、分かった。早く行こうってば!」
「よっしゃあ、ミユの奢りな!」
などと、たかっておいて、片桐がわたしに奢らせた事は一度もない。
■
バイトでの持ち場はわたしがキッチン、片桐はホールを担当する。
片桐のキャラクターは接客に向いていて、もくもくと皿洗いする中でも彼の明るい笑い声は届く。最近では片桐目当てのお客さんも居るそう。
「ねぇ、片桐君って彼女居るのかな?」
「え?」
新人の子が頬を赤らめ尋ねてくる。
(あぁ、スタッフもか)
声に出さないで落胆する。せっかく同年代が採用されても彼女等は必ずと言っていいほど片桐に好意を持ち、恋に破れると辞めていく。もはや片桐のせいでバイトが定着しないと断言できる。
「片桐君と仲良いでしょ? 知ってると思って」
わたしが眉をしかめた理由を勘違いし、頭を下げられた。
「片桐、告白してくれればお試しで付き合ってみるって言ってたよ」
質問にいつもと同じ答えを返す。
「そ、そうなんだぁ。お試しでも付き合えはするのか」
それでいつもと同じ反応を返される。
「あのさ、わたしが言うべき事じゃないと思うんだけど、お試しで付き合うとか止めておきなよ」
「どうして? そこから本当に好きになるかもしれないじゃん? 自分を知って貰うチャンスなのに?」
彼女の言い分はよく分かるし、否定はしない。というか否定なんか出来ない。何故なら青山君に告白した際、わたしも仮初めの彼女でもいいからと食い下がったから。
まぁ、この仮初めの彼女というのも片桐を見ていて思い付いたんだけど。
「ミユ、オーダーいける?」
噂をすれば影、片桐がキッチンを覗く。
「あっ、アタシやるよ!」
さっそくアピールしようと張り切る新人に片桐は柔らかく微笑む。バイトの時は前髪をピンで留めて襟足を結っており、表情がよく見える。
「じゃあ、お願いできる? 無理っぽかったら一人でやり切ろうとせず、ミユにフォロー頼んでね?」
「は、はい! 頑張る!」
「あははっ、頼もしい。ミユ、期待の新人が入ってきて良かったな。人手が足らない足らないってグチってたじゃん」
流石、大型犬。鼻がよく効く。自分に好意を寄せる相手を嗅ぎ分ける能力が高い。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!
翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。
侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。
そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。
私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。
この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。
それでは次の結婚は望めない。
その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。
藤原遊
恋愛
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」
街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。
だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!?
街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。
彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った!
未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!?
「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」
運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる