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ーーその後、バイトを終えて裏口から帰るところ、告白の場面に遭遇する。
「ミユ、お疲れー。ちょっと告られてるから待っててくれる?」
そういえばマンゴープリンを食べる約束をしていたっけ。しかし、片桐は今それどころじゃないはず。彼の前には耳まで染め上げ、想いを打ち明ける人が立っているじゃないか。
「マンゴープリンはまた今度。ごめん、邪魔する気は無かった」
片桐にではなく新人の子に言う。
「俺はすでにマンゴープリンの口になってるんだ! 今度なんて嫌だし!」
「なら彼女と食べたらいいじゃない? 付き合ってみるんでしょ?」
感じの悪い言い方をしている自覚はある。
「さっきも言ったけど、お試しで付き合うなんて止めた方がいい。わたし達は試供品じゃないよ、思ってたのと違うって返品されるのってキツイから」
これも新人の子に訴える。どうせ片桐には響かないだろう。
「それからもっとキツイのは返品された後も好きだし、仮初めの彼女期間が幸せだったなぁとか感じる事だよ」
彼女の状況が重なって見えたのもあり、勢いで自分語りをしてしまい気まずい。それと青山君に未練タラタラだと改めて痛感し、鼻の奥がつんとする。
「いやいや、ミユが泣きそうになるのはおかしいだろ。てか、泣くほど青山が好きなのか? あいつの何処がいい訳? 仮初めの彼女って言って、ミユを大事にしてくれなかったじゃん」
「それを片桐が言う? 片桐も同じなのに?」
涙の気配を察知した片桐は渋々語り始めた。
「確かに俺は告白してくれればお試しで付き合ってみるかって聞くよ、実際この子にも聞いた。ただ、これには前置きというか条件があるんだ。ミユには言わないだけで」
「前置き? 条件? なにそれ知らない」
「ミユには言わねぇってば」
だからミユには言わない、片桐が繰り返し言った時だった。
「うわぁぁぁぁっ!」
突然彼女が大声を出し、しゃがみ込んでしまう。わたしは豹変に呆気にとられたが、片桐の方は彼女と目線を揃え、ぱちん、両手を合わせた。
「ごめん! 俺、こういう奴だからさ」
毎度わたしにする謝罪より心が込められていて、少し切なそうで諦めた顔をする。
「……お試しで付き合ってくれなくていい」
「うん」
どうやら片桐と彼女の間で何かが成立したみたい。
彼女は片桐の手は借りずに立ち上がると、状況が飲み込めないわたしを睨む。
「アタシ、バイト辞める! 一緒に働きたくない!」
そして一方的な決別宣言をし、足取り確かに去っていく。
「えっ、えっ、わたし!? な、なんで? 悪いのは片桐じゃないの?」
「あーあ、ミユのせいでまた新人が辞めちゃったか。こりゃ店長に言い付けないと。店長怒るだろうなぁー」
「なによ、それ。意味が分からない」
今度はわたしがその場に踞る。
「残念ながら意味が分かってないの、ミユだけだけ。他の人はとっくに気付いてる」
片桐はクイズを出題するみたいな口調で告げ、おもむろに前髪を撫でてきた。
「ははっ、ミユは髪が短い方が可愛い、似合ってる。おや、でもニキビが出来てるな。寝不足? ビタミン不足か? よし、マンゴープリン食べるぞ!」
「こんな時に? そんな気分になれないんだけど?」
「こんな時だからこそマンゴープリンを食べるんだって。帰ってもミユは青山の事を考えて泣いちゃうだろう? 俺はさ、ミユにお肌ツルツルで居て欲しいんだ」
ニコッと効果音が付きそうな笑顔で、こちらの憂鬱を掻き消そうとする。
片桐の笑顔を《太陽》と表現した子が居たけれど、わたしはどちらかと言えば《月》だと思う。月はわたしを優しく見守り、穏やかに照らす。それでいて裏側を絶対見せない。
「お肌がツルツルって……それより、わたしだけ分かっていない内容とやらは教えてくれないの? なんだか仲間外れにされた感じがして嫌だよ」
「ふーん、知りたいんだ?」
浮かべていた明るい表現をさっと引き、片桐は手を差し伸べてきた。
「ミユ、お疲れー。ちょっと告られてるから待っててくれる?」
そういえばマンゴープリンを食べる約束をしていたっけ。しかし、片桐は今それどころじゃないはず。彼の前には耳まで染め上げ、想いを打ち明ける人が立っているじゃないか。
「マンゴープリンはまた今度。ごめん、邪魔する気は無かった」
片桐にではなく新人の子に言う。
「俺はすでにマンゴープリンの口になってるんだ! 今度なんて嫌だし!」
「なら彼女と食べたらいいじゃない? 付き合ってみるんでしょ?」
感じの悪い言い方をしている自覚はある。
「さっきも言ったけど、お試しで付き合うなんて止めた方がいい。わたし達は試供品じゃないよ、思ってたのと違うって返品されるのってキツイから」
これも新人の子に訴える。どうせ片桐には響かないだろう。
「それからもっとキツイのは返品された後も好きだし、仮初めの彼女期間が幸せだったなぁとか感じる事だよ」
彼女の状況が重なって見えたのもあり、勢いで自分語りをしてしまい気まずい。それと青山君に未練タラタラだと改めて痛感し、鼻の奥がつんとする。
「いやいや、ミユが泣きそうになるのはおかしいだろ。てか、泣くほど青山が好きなのか? あいつの何処がいい訳? 仮初めの彼女って言って、ミユを大事にしてくれなかったじゃん」
「それを片桐が言う? 片桐も同じなのに?」
涙の気配を察知した片桐は渋々語り始めた。
「確かに俺は告白してくれればお試しで付き合ってみるかって聞くよ、実際この子にも聞いた。ただ、これには前置きというか条件があるんだ。ミユには言わないだけで」
「前置き? 条件? なにそれ知らない」
「ミユには言わねぇってば」
だからミユには言わない、片桐が繰り返し言った時だった。
「うわぁぁぁぁっ!」
突然彼女が大声を出し、しゃがみ込んでしまう。わたしは豹変に呆気にとられたが、片桐の方は彼女と目線を揃え、ぱちん、両手を合わせた。
「ごめん! 俺、こういう奴だからさ」
毎度わたしにする謝罪より心が込められていて、少し切なそうで諦めた顔をする。
「……お試しで付き合ってくれなくていい」
「うん」
どうやら片桐と彼女の間で何かが成立したみたい。
彼女は片桐の手は借りずに立ち上がると、状況が飲み込めないわたしを睨む。
「アタシ、バイト辞める! 一緒に働きたくない!」
そして一方的な決別宣言をし、足取り確かに去っていく。
「えっ、えっ、わたし!? な、なんで? 悪いのは片桐じゃないの?」
「あーあ、ミユのせいでまた新人が辞めちゃったか。こりゃ店長に言い付けないと。店長怒るだろうなぁー」
「なによ、それ。意味が分からない」
今度はわたしがその場に踞る。
「残念ながら意味が分かってないの、ミユだけだけ。他の人はとっくに気付いてる」
片桐はクイズを出題するみたいな口調で告げ、おもむろに前髪を撫でてきた。
「ははっ、ミユは髪が短い方が可愛い、似合ってる。おや、でもニキビが出来てるな。寝不足? ビタミン不足か? よし、マンゴープリン食べるぞ!」
「こんな時に? そんな気分になれないんだけど?」
「こんな時だからこそマンゴープリンを食べるんだって。帰ってもミユは青山の事を考えて泣いちゃうだろう? 俺はさ、ミユにお肌ツルツルで居て欲しいんだ」
ニコッと効果音が付きそうな笑顔で、こちらの憂鬱を掻き消そうとする。
片桐の笑顔を《太陽》と表現した子が居たけれど、わたしはどちらかと言えば《月》だと思う。月はわたしを優しく見守り、穏やかに照らす。それでいて裏側を絶対見せない。
「お肌がツルツルって……それより、わたしだけ分かっていない内容とやらは教えてくれないの? なんだか仲間外れにされた感じがして嫌だよ」
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