御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

八千古嶋コノチカ

文字の大きさ
12 / 16
斗真side

しおりを挟む


 姫香が立ち去った後、暫し動けなかった。彼女の身に何が起こったのか、さっぱり理解できない。ただ今にも泣き出しそうなのを無理やり引き戻せず、結果、見送る他なかったのだ。

「はい」

 しつこく震え続ける携帯を耳に当てる。

「お忙しい中、度々申し訳ありません。確認ですが婚約者をお連れになるのですよね? パーティーなどは如何しますか? せっかくですし皆様にお披露目しては?」

「……あぁ、その話だが無しにしてくれ」

「と、おっしゃりますと? こちらへお出で頂けないのでしょうか?」

 長年、秘書として側に置いている男は露骨に不満げな声を上げた。溜息に続き、小言が続くのを察知して先手を打つ。

「俺だって訳が分からないんだ。俺も姫香を紹介したかったさ」

「目に入れても痛くない程のお姫様でしたよね? 私に仕事を押し付けて帰国したというのに何をやってるんですか?」

「そう言うなよ」

「言うに決まってます。あなたはこれまで姫香さん一筋、どんな好条件の縁談も断ってしまいました。あなた程の立場の方がいつまでもパートナー不在とはいきませんよ?」

 毎度、毎度同じ話をされ、通話を切りたくなる。

「結婚……相手は姫香以外に考えられない」

「ならばそう伝えるべきでは?」

「伝えた」

「で、振られたんですか?」

「振られてなどいない! 振られてないよな?」

「ーー私に聞かれましても。今、お隣にいらっしゃらないのなら、それが答えなのでは? あなたは昔から詰めが甘い。これは秘書ではなく友人としての忠告ですが、女性の言葉を額面通り受け取ってはいけません。例えば女性が気にしていない、怒ってないと言っても内心は気にしているし怒ってます」

「姫香はイタリアへはすぐに行けないと言った。つまり?」

「そもそも行く気がない、とか?」

 秘書の導く結論に目眩がした。悪い方へ悪い方へと思考が引っ張られてしまう。新鮮な空気を求め、庭先へ出る。

 そういえばジャストタイミングで姫香の家の者がやってきたが、あれはどういうカラクリだろう。姫香の携帯電話はボストンバッグに入れられたままで、事前に迎えを手配する手段は無かった。浅田が嫌で別荘を飛び出す時に連絡していたとしたら、もっと早く到着している。

 姫香をお姫様扱いして、大事に大事に育む家人等が彼女のSOSを無視する訳がない。即座に車を出すはず。

 花の香りだろうか。甘さが鼻孔をくすぐり、薔薇を見やる。

 名は体を表す。姫香はお姫様みたいで、優しい香りがする。メールのやりとりで姫香が庭の花の様子を楽しく語る姿が浮かび、日々仕事に追われ、潤いのない生活をしていた自分がどれほど癒やされていたか。

 胸が痛む。姫香の笑顔がみたい。

「もしもーし、もしもーし、悲劇のヒーロー気取りのところ申し訳ございませんが、まだお話の途中ですよー」

「……聞こえている。大体、君が次から次へと仕事を入れてくるからいけないんだぞ」

「私は秘書です。あなたのこなせる仕事量を把握し、無駄なくスケジュールへ落とし込むだけですよ。あぁ、愚問でしょうがーー」

「ここまで来て諦める訳ないだろ!」

 俺は遮り、こう続けた。

「優秀な秘書なら先程の商談日程をコントロールして貰えるよな?」

「それは商談相手がどなたかお分かりになった上で仰ってますよね? 社運を左右する大きな取引より色恋を選ばれるのですか?」

 と言いつつ、キーボードを叩く音が聞こえる。苦楽を共にしてきた相棒は口が悪いが、最良の選択をする俺のサポートを惜しまない。

 仕事は大事、そして姫香も大事。どちらか一方だけじゃ俺の世界は成り立たない、ガラスの靴は両足あってこそ。

 俺は薔薇を失敬し、姫香の後を追った。
 彼女を乗せたかぼちゃの馬車はとっくに見えなくなっており、それでも必ず探し当ててみせるから。

 ーー待っていろよ、シンデレラ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた魔王様と一緒に田舎でのんびりスローライフ

さら
恋愛
 美人な同僚・麗奈と一緒に異世界へ召喚された私――佐伯由香。  麗奈は「光の聖女」として王に称えられるけれど、私は“おまけ”扱い。  鑑定の結果は《才能なし》、そしてあっという間に王城を追い出されました。  行くあてもなく途方に暮れていたその時、声をかけてくれたのは――  人間に紛れて暮らす、黒髪の青年。  後に“元・魔王”と知ることになる彼、ルゼルでした。  彼に連れられて辿り着いたのは、魔王領の片田舎・フィリア村。  湖と森に囲まれた小さな村で、私は彼の「家政婦」として働き始めます。  掃除、洗濯、料理……ただの庶民スキルばかりなのに、村の人たちは驚くほど喜んでくれて。  「無能」なんて言われたけれど、ここでは“必要とされている”――  その事実が、私の心をゆっくりと満たしていきました。  やがて、村の危機をきっかけに、私の“看板の文字”が人々を守る力を発揮しはじめます。  争わずに、傷つけずに、人をつなぐ“言葉の魔法”。  そんな小さな力を信じてくれるルゼルとともに、私はこの村で生きていくことを決めました。

猫になった悪女 ~元夫が溺愛してくるなんて想定外~

黒猫子猫
恋愛
ディアナは欲深く、夫にも結婚を強いた悪女として知られた女王だ。当然のように人々から嫌われ、夫婦仲は悪く、病に倒れた時も誰も哀しまなかった。ディアナは、それで良かった。余命宣告を受け、自分の幸せを追い求める事などとうに止めた。祖国のためにできる事は全てやった。思うままに生きたから、人生をやり直せると言われても、人間などまっぴらごめんだ。 そして、《猫》になった。日向でのんびりと寝ている姿が羨ましかったからだ。いざ、自堕落な生活をしようと思ったら、元夫に拾われてしまった。しかも、自分が死んで、解放されたはずの彼の様子が妙だ。 あなた、隙あらば撫でようとするの、止めてくれる? 私達は白い結婚だったでしょう。 あなた、再婚する気がないの? 「お前を愛したりしない」って嬉しい事を言ってくれたのは誰よ! 猫になった孤高の女王×妻を失って初めて色々気づいてしまった王配の恋のお話。 ※全30話です。

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

【完結】一途すぎる公爵様は眠り姫を溺愛している

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
リュシエンヌ・ソワイエは16歳の子爵令嬢。皆が憧れるマルセル・クレイン伯爵令息に婚約を申し込まれたばかりで幸せいっぱいだ。 しかしある日を境にリュシエンヌは眠りから覚めなくなった。本人は自覚が無いまま12年の月日が過ぎ、目覚めた時には父母は亡くなり兄は結婚して子供がおり、さらにマルセルはリュシエンヌの親友アラベルと結婚していた。 突然のことに狼狽えるリュシエンヌ。しかも兄嫁はリュシエンヌを厄介者扱いしていて実家にはいられそうもない。 そんな彼女に手を差し伸べたのは、若きヴォルテーヌ公爵レオンだった……。 『残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました』『結婚前日に友人と入れ替わってしまった……!』に出てくる魔法大臣ゼインシリーズです。 表紙は「簡単表紙メーカー2」で作成しました。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

処理中です...