御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

八千古嶋コノチカ

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御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで2

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「浅田さんが姫ちゃんとは結婚出来ないそうだ」

 場所を屋敷に移し、伯父様は深いため息を吐く。
 病院や車内で声を荒らげなかったのは周りの目があるからで、伯父様は世間体を何よりも気にする。

「式場を抑え、招待状も出しているのに今更過ぎないか? 聞けば、姫ちゃんから婚約破棄を申し出たらしいじゃないか? どうしてだい?」

 この言い方だと、浅田さんは斗真さんの事を伝えていないのだろう。
 私に一方的な非があると言い付ける際、斗真さんの話を持ち出せば叔父は手のひら返しをするに決まっている。斗真さんに擦り寄る。

 屋敷内は伯父様と二人きり。家人はまだ父の病院に居る。
 伯父の口調は段々と怒りを滲ませ、ボリュームも上って響く。

「浅田さんの資金援助が無ければ、この家はおしまいだと本当に分かっているのかい? こんな綺麗な洋服だって着られないんだよ?」

 肩を揺さぶられ、よろける。そして伯父様は傾いた我が家の象徴だと言わんばかり、私を突き飛ばすと床に広がるワンピースの裾を踏みつけた。

「お父さんの治療費はどうする? また発作を起こしたんだってね。退院の目処は立たないのだろう?」

「父の医療費だけは私がなんとかします」

「なんとか? どうやって?」

 叔父も屈み、私の顔を覗き込む。膨れた腹部が姿勢維持を難しくするのか、グラグラ定まらない。それがまた不気味で。

「姫ちゃんの取り柄は従順で可愛い所じゃないか? その若い身体を差し出す以外に何が出来るの?」

「酷い! 初めからそのつもりで浅田さんを紹介したんですか?」

 やっと気付いたのか、伯父様の目が物語る。この奥まり淀んだ瞳に飲み込まれそうだ。

「あぁ、そうだよ。伯父さんはね、姫ちゃんのお父さんがずーっと、ずーっと憎かったんだ」

 幼い子に言い聞かせるよう、はっきり丁寧。かつ種明かしをするマジシャンみたいに得意気に言う。

「君のお父さんは若くして成功し、お母さんと結婚した。君のお母さんはそれはそれは美しい女性で、伯父さんの初恋の人でもあったんだよ? お父さんは伯父さんの欲しい物を何でも持っている」

 私の前へ手を翳し、父の得た物を言うたび指を折り始めた。

「まず社会的地位、鳥類研究の第一人者として名が通っている。次にこの屋敷や伊豆の別荘などの不動産、私にも権利があったが結婚しているという理由で姫ちゃんのお父さんに相続された。それからーー」

 やめて聞きたくない、耳を塞ぎたい。

「ほら、ちゃんと聞きなさい。お父さんーー弟が妻の忘れ形見として慈しみ、幸せな巣立ちを心待ちにしていた君という雛鳥を蛇にくれてやる。さぁ、浅田さんへ謝りに行こう? 許して貰えるよう、伯父さんも一緒に謝ってあげるから」

 父が伯父と疎遠であった理由を理解する。
 唯一の肉親である伯父と交流がないのが不思議で訊ねた際、父は曖昧に言葉を濁すだけで本音は言わなかった。というより言えなかったと思う。

「嫌です! 浅田さんの所には絶対に行きません。私は父の側にいます!」

「だから治療費は? 職を失う使用人や研究員の補償は? 結婚式のキャンセル料はどうする? もう諦めなさい。ここへ寄ったのは実家に帰るのもこれが最後だからだ」

「は、離して!」

 髪の毛を鷲掴みにされ、窓辺に引き摺られていく。

「庭から見える景色も見納め、存分にご覧よ。姫ちゃんは花を眺めるのが好きだろう?」

 カーテンを開け、解錠する。私は固く目を瞑り抵抗を示す。

 と、ふわりーー柔らかい風、それから薔薇の香りが頬を撫でた。

「そうか、悪い魔法使いはもう一人居たんだな。窓から登場するのは少々決まりが悪いが、迎えに来たよ姫香」

 声と共に頭部の痛みが消え、睫毛を誘うようなぞられる。

「おやおや、お姫様はキスをしないと目を開けてくれないのかな? 可愛いおねだりには是非応じたいけれど、先ずは悪い魔法使いをやっつけようか。ね? 目を開けて。もう悪夢は終わりにしよう」

 目を開けてみると斗真さん、それと彼に吹き飛ばされたであろう伯父様が転がっていた。
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