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初夜

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「秀人様に、秀人様に全てを委ねたいです」 

「そんなんじゃ駄目だ“わたしを抱いてください、お願いします”と言い直せ」

 ついに優子の目に涙がたまる。泣いて許して貰おうなんて甘いが、もう恥ずかしくて惨めで泣くしかない。
 唇を結んで開いて、暫し迷いを噛みながら言う。

「わたしを、抱いて、ください。お願いします」

 たどたどしく告げると荒々しく唇を奪われた。

「言ったな、俺に抱いてくれと頼んだよな? これはお前が望んだんだ。いいな?」

 強要しておきながら秀人が念を押す。既に優子は口付けに降参してしまい、肩で呼吸をする。

「お願い、します。他の人にわたしをやらないで、下さい」

 涙が落ち、不安も一緒に溢れ出す。泣き顔を鬱陶しがられるかもしれない、優子は秀人の胸へ表情を隠した。

「安心しろ、大人しく飼われれば誰にもやったりしない。お前は俺を楽しませればそれでいい」

 優子の後頭部を撫で、髪をすく。秀人だけをみ、秀人の言うことだけ聞くお人形になれーー次はそんな呪(まじな)いをかける。
 と、さっそく効果が現れ、優子は自らの意思で秀人へ唇を預けにいった。先程より大胆に、かつ深く。

「ふ、はぁ、秀人、さま」

 秀人が応えて舌を吸い上げる。甘く鳴き、しがみつけば、もっと仕掛けられた。秀人は長椅子へ優子を横たえ、胸から腰、腰から腿にかけての曲線を辿る。

「女の身体付きは大差ないと思ってたが、お前は細すぎるな。うっかりすると壊してしまいそうだ。なぁ、明日から肉を食え」

 このまま秀人と溶け合ってしまってもいい、優子の理性の天秤が傾きかけた時ーー秀人がまたもや無神経な言い方をした。

 抱き心地が物足りないみたいな言い草をされ我に返り、胸を覆う優子。抱かれるにしろ家に帰ってからだ。こんな明るい部屋では全てを比べられてしまう。

 秀人がこれまで関係を持った女性はみな豊満な身体付きで、肌を重ねることに慣れているはず。優子は彼女等と比較されると、ただでさえ持てない自信がますます無くなる。

「何故、胸を隠す?」

「か、帰ってから続きをお願いし、ます?」

 疑問系で返す優子。説得力が欠けて秀人は納得しなそうだが、なぜか素直に動きを止めた。さっと優子と距離をとる。

「……そうだな。で、お前は俺の家に来るんだな?」

 秀人は今も昼間も簡単に熱を逃す。一人で盛り上がり昂ぶって、これでは優子は道化だ。

「はい、そのつもりですが」

「ふん、ならいい。お前ら入っていいぞ」

 合図があると酒井と徳増が戻ってきた。一体いつから扉の前で控えていたのか、室内の様子が漏れていたらどんな顔をすればよいか、優子は口をぱくぱくさせる。
 秀人は着替えながらその口元を眺め、酒井へ肉を手配を指示したのだった。




 案内された暁月の屋敷は郊外に建てられ、優子が思っていたより控えめな作りである。なにせ、あんな豪華絢爛な結婚式を挙げたくらいなので屋敷も華美と決めつけてしまっていた。

 まず自然に囲まれた立地を尊重し、門がない。門がなければ門番はいない。日が落ちて庭の様子は把握しずらいが、庭師も在中しているとは考えにくい。

「よもや優子様を別宅へお迎えするなんて、どういうつもりだ!」

 そして使用人を介さず、優子は来客室へ通された。隣の徳増は嘆きを人気がない空間に響かす。
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