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幼馴染みと学級委員

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「はぁー」

 翌朝の食卓、わたしの溜息が淹れたてのカフェオレを冷ます。全然眠れなかった。

「今日は休んだら? お母さんもパート休むから」

「ううん、行く。授業に遅れたくない」

 強盗らしき侵入者と鉢合わせた精神面を心配し、暫く家の周りを警察がパトロールしてくれるらしい。お父さんも様子を見に帰ってくると言う。

「授業はともかく部活は入らないの? 入れば帰ってくる時間がお母さんと同じくらいになるのに」

「はぁ、入らないって何度も言ってるよね? それより授業はともかくって何? 勉強についていけなくなったらどうするの?」

 お母さんの言い分にイライラしてしまう。

「涼くんに教わればいいじゃない? 涼くんはサッカーがやりたくて今の高校にしたって聞いたけど、本当は【鬼月学園】にも行けたんでしょう? 凄いわよねぇ」

 涼くんの名を出され、ますます苛立つ。
 小中高一貫教育の鬼月学園。高校から入学するのは稀であり、確かに凄い。凄いからこそーー卑屈になる。

「これ以上、迷惑掛けたくない」

 目玉焼きをつつくと破れた黄身が流れる。添えたレタスをしっとりさせ、まるで涼くんに纏わりつくわたしみたいじゃないか。

 お母さんは涼くんとわたしが未だ仲の良い幼馴染みと思っている。涼くんの家族と旅行へ行ったり、庭でバーベキューをする付き合いがあるからだ。

 先月も卒業と入学を祝う食事会が開かれた。ただし、涼くんはサッカーの練習を口実に来ていない。きっとこういう交流が疎ましいんだろう。友達やチームメイトにからかわれているのかも。

「迷惑? よそよそしいわね。昔から桜子は涼くんにおんぶに抱っこ、涼くんの妹のようなものじゃない」

「だからそれが嫌だって言ってるの!」

 触れられたくない部分を無神経に踏み抜かれ、椅子を蹴って言い返す。
 とお母さんが視線を横へ流した。

「おはようございます。インターフォン鳴らなくて。声は掛けたんですけど……すいません」

 知らない間に涼くんが立っていた。

「あぁ、インターフォン! 昨日の件で壊れちゃったみたいなの。桜子、涼くんが朝練をやめて一緒に登校してくれるそうよ、早く支度しなさい!」

 ほぼ手つかずの皿を下げ、お母さんが急かす。

「おい、おばさんに怒るなよ。うちの母さんがお前の事だから休まないだろうし、一緒に行ってやれって言ったんだ。それに携帯盗まれたんじゃ連絡できない」

 食器を洗い流す音に紛れ、涼くんが小声ながら的確に釘をさした。話を聞かれてしまったわたしの気まずさまで流そうとする。

 今回の被害は玄関のドアが歪み、インターフォンが故障した。あと携帯電話を持ち去られた程度で済む。
 わたしに実害及ばなかったのも不幸中の幸いとはいえ、女子高生の新生活において携帯電話が無いなんて支障が大きい。

「桜子! まだ居たの? 涼くんを待たせちゃ駄目じゃない。ごめんなさいねぇ、この子ったら動きが遅くて」

 途端に登校したくなくなり気が重い。お母さんに涼くんの側まで引っ張られた。

 涼くんはお母さんにだけ頷き、先に玄関へ向かう。その背中には怒りが滲み、ますます憂鬱にさせられる。

「帰りも涼くんに送って貰えるようにお願いしてあるから」

「え、帰りも?」

「そうよ、涼くんは部活があるから終わるまで勉強するなり、本を読むなりして過ごしなさいね。この際だから美術部に入ったら?」
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