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保健医 柊

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 落ちたファイルから1枚、足元へ滑ってくる。古い写真だ。

「自分で拾いますので結構ですよーー浅見桜子さん」

 拾おうとしたら穏やかな口調で辞退され、白衣の人物がわたしの名を呼ぶ。

「カウンセリングの時間になってもいらっしゃらないので教室へ様子を見に行く途中でした。顔色が良くないですね、気分が優れませんか?」

 高橋さんが言った通り、スクールカウンセラーの顔立ちはかなり整っており、男性なのに美しいという表現が合う。

「浅見桜子さん?」

 首を傾げ様子を伺う仕草すらドラマのいち場面みたくスマートだ。

「浅見桜子さん?」

 繰り返されるまで見入ってしまった。

「は、はい! すいません、ぼーっとして。でももう大丈夫です! 平気です!」

「そうですか? ひとまず保健室へどうぞ」

 血を飲みたいとの呟きをここで掘り下げはしないらしい。なんならそのまま気に留めないで欲しい。

 白衣の後へ続くと、艷やかな黒髪に午後の日射しが絡まってきらきらしている。

 鬼月学園の保健医と聞いたが、四鬼さんといい学園には見目麗しい人材しか居ないのだろうか。

「あの、写真に写っていた女の人、キレイですね」

 じっくり見た訳じゃないが写真はモノクロで着物姿の女性が撮影されていた。拾い上げた際、胸ポケットへしまって、大切にしているのだろうと察する。

「彼女は私がその昔、愛した人です」

 胸に手を当て、微笑む。

「ーー彼女は随分前に亡くなりましたが。あまり思い出したくない話なので触れないで下さいますか?」

 プライベートな部分を覗かせた直後、さっと閉じてしまった。それからわたしへ投げかける。

「校長先生から話を伺っています。私で良ければ話し相手になりますよ。ただ無理強いはしません。浅見さんが話しても良いと思える事柄をゆっくり探すことから始めましょう?」

 保健室のドアを開け、招き入れた。写真の下りは、話したくなければ話さなくて良いとお手本だ。

「宜しくお願いします」

 頭を下げ、用意された椅子に腰掛ける。ベッドが2台とデスク、薬品棚が設置された室内は白色を基調とし消毒の臭いが漂う。
 担任教師の煙草の臭いといい、神経が昂っているのか臭いに敏感だ。

「はは、緊張しないで下さい。あぁ、私は柊と申します。鬼月学園で保健医をしていまして、こちらへは月に一度カウンセリングをしに通っています」

 胸のネームプレートを指差し、自己紹介。わたしも把握されているだろうが名乗っておく。

「浅見桜子です。柊先生のカウンセリングは凄く人気と聞きました」

「それはカウンセリング目当てというより、私が鬼月学園の関係者であるのが大きいですね。皆さん、学園内の様子を聞きたがりますので。
さて、こちらアンケートです。答えられる範囲でいいので記入して下さい」

 さらりと社交辞令をかわされた。
 学年、氏名を綴り、相談内容の欄でペンが止まる。
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