約束された結婚ーー鬼の花嫁は初恋相手と運命の相手に求婚される

八千古嶋コノチカ

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君の為なら変われる、変わりたい

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「桜子ちゃん、大丈夫?」

 駐車場に取り残され、2人きり。四鬼さんの気遣いをわたしは無言で見た。
 会談での物言いや柊先生とのやりとりを振り返り、気まずい。

「走ってきたんですか?」

「途中までは車で後を追ってた。で、ここに入るのが分かって駆けつけた。柊がおかしな事をしてすまない」

「四鬼さんに謝られても」

「それもそうだよね、ごめん」

 どうあれ、助けて貰ったのに可愛げのない態度をとってしまう。

「柊に聞いたかもしれないけれど」

「キスやハグ、それ以上の行為も好きでもない人とするんですよね? 柊先生がわたしの事なんて全然好きじゃないのにしようとしたように」

「それを言われてしまうと……参るな」

「鬼の性質なので仕方ないですよね、分かってます。別に四鬼さんを責めてる訳じゃありませんので。ただ」

「ただ?」

「こんな風に柊先生に説明させるのはどうかと。わたしは四鬼さんから聞きたかったです」

「ごめん、本当にごめん」

 四鬼さんはひたすら謝罪する。

「一旦、ここを離れよう。僕とホテルに来たって勘違いされたくないでしょう? 車を呼ぶね」

 四鬼さんの振る舞いが何処かよそよそしかった。結婚したくないと言い切られれば、そうなるのも当たり前だが、露骨で面白くないというか。

「どうしたの?」

「なんでもありません」

 また可愛くない受け答えをしてしまった。

 縦に並んで駐車場を出る。四鬼さんのシャツがびっしょり濡れ、革靴には泥が跳ねていた。わたしを案じて走ってきてくれたのは確かだ。人目も気にせす、がむしらゃらに駆ける四鬼さんは想像しにくいが。

「桜子ちゃん、そのまま聞いてくれ」

「はい」

 真っ直ぐ見据えられ、甘えた囁きで許しを請われたら流されてしまう。なので振り向かず話してくれるとこちらも助かる。

「美雪には触れていない。柊の大事な妹に手を出したりしない」

「美雪さんには? というと?」

「他の女の子はーーうん、それなりに。それでも責任が取れない真似はしてこなかったよ」

「四鬼さんが思っていなくても、相手の女の子は四鬼さんが好きだったんじゃないんですか? 好きにさせた責任はありますよ?」

「好きにさせた責任、か。そうだね、あるよね」

「偉そうにすいません。わたしが怒る事じゃない」

「構わない。僕は変わりたいから。関わった全員とまではいかないけど、謝ってくる」

 ふいに立ち止まる四鬼さん。前方にハザードランプを点した車があり、運転手さんがわたし達の姿が確認すると後部座席を開けてくれる。

「乗って」

「え、四鬼さんは?」

「鬼が隣に乗ったら怖いでしょ? 今の僕も何かしそうで怖い。柊も一時とはいえ、理性を無くしちゃうくらいだからさ」

「先生は8割噓だと言いました。わたしを脅かそうとしたんですよ」

「そういう意味もあっただろう。一族にとって君がどんな存在であるか示したかったとか。でも本当のところは柊にしか分からないよね。いいから乗って」

 ジェスチャーで乗車を促す。わたしに触れようとしない。おずおず着席すると四鬼さんは頷き、ガラスに手を付けた。指輪がかちりと音をたてる。
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