81 / 119
失った初恋
1
しおりを挟む
■
「起きた?」
目に涙を一杯溜めて、わたしは目覚めた。保健室の天井が滲む。
「悲しい夢を見ていたのかな?」
ベッド脇で雑誌を読んでいた四鬼さん。目隠しは外され、制服の乱れも直してあった。
「初恋を無くした夢を、見てました」
「……そう、それは悲しいね。相手は夏目君かな?」
四鬼さんの優しい声に涙が溢れる。仰向けのまま目元を覆う。
「初恋は実らないとも言われる。早くキレイで甘酸っぱい過去にしようか」
「四鬼さんの初恋は?」
「君だよ。あぁ、実らないのは困るな」
「わたし、ですか?」
「信じてくれないだろうけど、桜子ちゃんが初恋だ」
身体を起こすと四鬼さんが両手を広げた。わたしはゆっくり彼へ半身を預けて泣く。素直に頼れば何処までも甘やかしてくれそう。
「柊先生にキスマーク付けられました」
「あぁ、見た。次あったら殺しておくーーって言うのは言葉のあやで、やっぱり殺しておく」
「え、こ、殺さないで下さいね? ほんの少しですが先生の気持ちが分かるんです。柊先生の恋人は人だったと聞きました」
四鬼さんはギュッと抱き寄せる力で話題に反応する。
「先生、わたしと涼くんの関係に苛立ったんじゃないかと思うんです」
「君は夏目君を鬼にしたくないんでしょ? なら柊とは結末が違う」
包容からは優しさしか香らない。わたしを案じて労り、ひたすらに甘い。
「今、何時ですか? 四鬼さん、授業は出なくて大丈夫ですか?」
言いつつ、身は委ねたまま。四鬼さんのシャツに涙が次から次へと染み込む。
「僕は桜子ちゃんがいちばん。大事な人が泣いてるのに何処にも行かないよ」
背中を擦られれば、ますます弱音が漏れてしまう。
「なんて言いながら別の子と仲良くしたり、付き合ったりするんじゃないですか? 涼くんもわたしが好きだって言った次の日には高橋さんとーーっ」
頭を振る。言葉にすらしたくない。
「舌の根が乾かぬうちにってやつ、なら桜子ちゃんは僕と正式に付き合えばいい。夏目君を取られて寂しいんでしょう? 慰めてあげる」
「わたしは別にそういうつもりで言ったんじゃなくて!」
「慰めてあげるだけだよ。キスはしたいけど我慢する。それ以上も当然したいけど我慢する。君がいいよって言ってくれるまでお預けでいい。だから付き合おう?」
「付き合うって、そういうのじゃないと思いますけど」
「どういうのだっていいじゃん。彼氏なら彼女を甘やかして当然、彼女が彼氏に甘えるのは当たり前になる。ね? 付き合おう?」
居心地がいい。離れなきゃいけないのに離れられないな。このまま甘やかされてみたくなる。
「桜子ちゃん、僕と付き合ってください」
耳元で囁かれ、顔を上げた。
キレイで華やかで芸能人みたいな四鬼さん。一族の命でわたしと結婚する節は否定しきれないが、同じ鬼であり、良き理解者となってくれるはず。
「わたしでいいんですか?」
「君しかいらないよ。君じゃなきゃ駄目だ」
今すぐは無理でも四鬼さんを好きになりたい。好きになれそう。きっとそれがいい。
「起きた?」
目に涙を一杯溜めて、わたしは目覚めた。保健室の天井が滲む。
「悲しい夢を見ていたのかな?」
ベッド脇で雑誌を読んでいた四鬼さん。目隠しは外され、制服の乱れも直してあった。
「初恋を無くした夢を、見てました」
「……そう、それは悲しいね。相手は夏目君かな?」
四鬼さんの優しい声に涙が溢れる。仰向けのまま目元を覆う。
「初恋は実らないとも言われる。早くキレイで甘酸っぱい過去にしようか」
「四鬼さんの初恋は?」
「君だよ。あぁ、実らないのは困るな」
「わたし、ですか?」
「信じてくれないだろうけど、桜子ちゃんが初恋だ」
身体を起こすと四鬼さんが両手を広げた。わたしはゆっくり彼へ半身を預けて泣く。素直に頼れば何処までも甘やかしてくれそう。
「柊先生にキスマーク付けられました」
「あぁ、見た。次あったら殺しておくーーって言うのは言葉のあやで、やっぱり殺しておく」
「え、こ、殺さないで下さいね? ほんの少しですが先生の気持ちが分かるんです。柊先生の恋人は人だったと聞きました」
四鬼さんはギュッと抱き寄せる力で話題に反応する。
「先生、わたしと涼くんの関係に苛立ったんじゃないかと思うんです」
「君は夏目君を鬼にしたくないんでしょ? なら柊とは結末が違う」
包容からは優しさしか香らない。わたしを案じて労り、ひたすらに甘い。
「今、何時ですか? 四鬼さん、授業は出なくて大丈夫ですか?」
言いつつ、身は委ねたまま。四鬼さんのシャツに涙が次から次へと染み込む。
「僕は桜子ちゃんがいちばん。大事な人が泣いてるのに何処にも行かないよ」
背中を擦られれば、ますます弱音が漏れてしまう。
「なんて言いながら別の子と仲良くしたり、付き合ったりするんじゃないですか? 涼くんもわたしが好きだって言った次の日には高橋さんとーーっ」
頭を振る。言葉にすらしたくない。
「舌の根が乾かぬうちにってやつ、なら桜子ちゃんは僕と正式に付き合えばいい。夏目君を取られて寂しいんでしょう? 慰めてあげる」
「わたしは別にそういうつもりで言ったんじゃなくて!」
「慰めてあげるだけだよ。キスはしたいけど我慢する。それ以上も当然したいけど我慢する。君がいいよって言ってくれるまでお預けでいい。だから付き合おう?」
「付き合うって、そういうのじゃないと思いますけど」
「どういうのだっていいじゃん。彼氏なら彼女を甘やかして当然、彼女が彼氏に甘えるのは当たり前になる。ね? 付き合おう?」
居心地がいい。離れなきゃいけないのに離れられないな。このまま甘やかされてみたくなる。
「桜子ちゃん、僕と付き合ってください」
耳元で囁かれ、顔を上げた。
キレイで華やかで芸能人みたいな四鬼さん。一族の命でわたしと結婚する節は否定しきれないが、同じ鬼であり、良き理解者となってくれるはず。
「わたしでいいんですか?」
「君しかいらないよ。君じゃなきゃ駄目だ」
今すぐは無理でも四鬼さんを好きになりたい。好きになれそう。きっとそれがいい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
17
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる