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囚われのお姫様を救う者

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「こちらが下手に出てやってるのに、ふざけた真似をするな! 鬼姫の力が使えなければ単なる女でしかない、生意気言うんじゃない」

 髪からポタポタと滴を落として見下す。

「これが最後通告。大人しく私の言う通りにしなさい。そうすれば優しくしてやる」

「これで優しく?」

 組み敷いておきながら、よく言えると鼻を鳴らしてそっぽを向く。すると顎を掴まれた。

「この可愛い顔に傷を残したくないだろう? 私も殴りたくはないが、口の聞き方がなっていない人形には躾をしないといけない」

 告げられたのと同時、口の中に血の味が広がる。手の甲で叩かれたと把握すると2度目の衝撃に襲われた。

「千秋も昔はこうして躾けてやったな。あれも小さい頃は反抗的な態度ばかり取っていた」

「っ、子供を殴るなんて最低!」

「まだ逆らうか!」

 当主はわたしの首に手をかけ、片足をみぞおちへ乗せる。恐怖心を煽ってわたしの心を折ろうとしているのだ。

 事前に人払いをしているらしく、誰も止めに入る気配がない。当主の腕に必死で爪を立てて抗う。

「離して、離せ!」

 足をばたつかせ、もがく。

「夏目涼」

 当主がぽつり、呟いた。

「え?」

「服従しないのなら夏目涼を使おうか? 彼、サッカー選手を目指しているんだって? 足を怪我したらどうなるのかな? あぁ、私はサッカー協会とも繋がりがあるんだ。たとえ怪我を治してもプレイする場所を取り上げる事が可能だよ」

「卑怯者! 軽蔑する!」

「私は交渉している。取引きだよ、姫」

 吐き気がする。貧血起因ではなく、心から当主を嫌悪して吐き気をもよおす。

「涼くんを人質にすれば、わたしが従うと思ってるの?」

「そうする他ないだろう? 姫の身辺を徹底的に洗い出した結果、夏目涼がいちばん有効な取引材料だ」

「食料と言ってみたり取引材料と言ったり、涼くんを軽々しく扱わないで!」

「夏目涼だけでは不足ならば、姫の元両親や千秋、柊、それから美雪にも不幸な目に遭って貰おうか?」

「ーーっ!」

 勝ち誇った顔でわたしを起き上がらせると、当主は片膝をつく。そして握り締めた手の甲へ口付けを落としてきた。

「これは、なんの真似?」

「忠誠を誓う儀式だな。姫が私の伴侶となり後継者を授かる。これは一族の悲願だからね」

「脅しておいて忠誠? 冗談じゃなーー」

 悪態をついてる途中、今度は壁際へ追いやられる。後頭部を強く打ち、眩む。甘く纏わりつく香りに追撃され力が抜けそうになった。

「絶対に嫌、あなたになんか従いたくない!」

「まだ私を睨むか。恐怖で支配するのは好まないのだがな!」

 腹部を蹴られ、悲鳴を上げさせない為なのか首が締められる。当主は片手で軽々とわたしを持ち上げ、爪先が浮く。

「姫、私の物になると言え!」

「っ、や、嫌!」

「夏目涼等がどうなってもいいのか?」

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