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【ソルベ村】女神の加護で過剰豊作!

ルディは背伸びしたいお年頃

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 洋一がシータとお風呂を一緒した事件の数週間後、弟子二号であるルディは焦りのようなものを感じていた。

 「あの人、お師匠様との距離がやたら近くない?」というものだ。
 女性らしいボディラインですっかりメロメロになっているのかもしれない。
 それはルディの妄想でしかないが、組織に配属していた頃、男は胸の大きい女に惚れやすいというデータを仕入れていたため、自分もそのうちそうなるのだろうと考えて嫌な気分になっていたことがある。

 胸なんて仕事をする上で邪魔だ。それくらいに思っていたのだが、それが今では後悔に変わりつつある。
 それが姉弟子のヨルダの胸元がふっくらしてきたことにあった。

「キアラー、ちょっと胸元キツくなってきた。今度肌着作る時で良いからさ、少し大きめにしてくれない?」

 そんな呼びかけに、地獄耳が大きく反応してしまうのも無理のないことだろう。

「ヨルダ、どうやってそれ大きくしたの!」

 入浴時、一緒に入ることの多いヨルダとルディ。
 当然ボディーラインの起伏はそこまで大差のないものだった。
 しかし朝方の事件によってその均衡は大きく覆ることになる。

 前まではタッチすればそこまででもないと思っていた膨らみが。
 今や少しの弾力を持って弾き返されるほどにまで成長していたのである。
 ルディに激震が走ったのは無理もないことだろう。

「ん? お前とおんなじもん食ってるんだからどうやってと言われてもな」
「何か他にやってることない? そう、運動とか。明日からマネするから!」

 明日の仕事はお休みさせてもらって、そこでコツをモノにする。
 ポッと出のデカ乳女にお師匠様を独占させないために、ルディができることと言ったら、もうそれしかなかったのだ。

 しかし、同じ仕事をしてもルディに成長の兆しは見られなかった。

「あー、あと。毎朝豆乳飲んでるぐらいかな?」
「それだ!」

 思い出したようにヨルダが言い、早速真似るルディ。
 単純に成長期がまだきてない、背伸びしすぎな発想なのだが当のルディにはそんなことを考えてる余裕がない。
 普通にバランスの良い食事をとって、運動をこなしていれば自ずと肉付きは良くなるモノである。
 しかし彼女はそれを許せない自分と戦っていた。

 少しでも遅れを取り戻さねばならない。
 女の戦いである。

 洋一はそんな差異で弟子たちを見ていないのだが、暴走中のルディは全く耳に入れなかった。
 そしてようやく、念願かなう。
 キアラより育ってるのは尚のこと。
 ヨルダには圧勝し、シータに僅差で勝ち越した。
 これで魅力的な女性であるルディに洋一はメロメロになるそう思っていたルディであるが、いつものようにくっついていると途端に距離を置かれたのだ。

「あの、お師匠様?」
「その、あまりくっつかないでもらえるか? 動きづらくて作業に集中できないんだ」

 それは自分の胸が大きいから?
 自尊心に溢れるルディだったが、とうとう洋一から本気で怒られて我に返った。

「うわぁああああああああ!」

 あまりにも盛大に怒られたのにショックを受けて叫びながら目を覚ます。
 洋一は胸を大きくするのに時間をかけすぎて、仕事を途中で放り出すような子になっていたルディにきついお小言を放ったのだ。
 これには身に覚えのありすぎるルディにクリティカルヒット!

 しかしそれは夢!
 現実は非常である。
 眼前には全く成長してない起伏のない見慣れた風景が広がっていたが、逆にホッとしたルディがいた。
 夢の中でくっついたりすると、決まって洋一は怒ったのだ。

 しかし、胸は平坦でも仕事をきっちりこなすルディにはいつも笑顔を見せてくれた。
 コッコの卵を持って返った時、廃棄肉を持ち帰った時は普段より豪勢なご馳走を振舞ってくれる。
 それを求めたのは他ならぬルディだったではないか。

「僕、周りの状況に追いつこうと必死になりすぎて、焦ってたのかな?」
「何の話?」
「おっぱいの話」
「なんじゃそら」

 一緒のベッドに寝てるヨルダは、ルディの絶叫によって叩き起こされた形だ。
 少し眠り足りないとばかりにあくびをし、窓の外が明るくなってきたのを確認してから起き出す。

 ヨルダは胸の成長があっても、肝心の身長が伸びてないことに一喜一憂している。
 背は確かにルディより低い。
 年齢を考えたら小さすぎるくらいだ。
 だからもう少し背を伸ばすために弛まぬ努力をしているのだ。
 女性的魅力を伸ばすためでは決してない。

 そこがヨルダとルディでは決定的に乖離している。

「背を伸ばす理由か? いっぱいあるけど、リーチが伸びれば多く歩けるし、多く収穫できる。腕があと何センチ長ければなって恵まれてるお前は思ったこともないだろ?」

 そんな観点で物を見たことがなかったルディは、確かに自分は人より恵まれてるのだと我に返った。

「僕は生まれた時からこうだったから、それが普通になってたんだよね」
「無い物ねだりしてる自覚はあるから言いたくないんだけど、お前は普通に恵まれてる。何をそんなに焦ってんだよ。オレがいつか乗り越えるべき壁が、そんなつまんないことで成長を止めるのなんて許さないからな?」
「僕が、ヨルダの乗り越えるべき壁?」

 ルディは自分が何を言われてるかわからないと言った顔をする。
 だろうなという顔でヨルダは柄にもない言葉を追加する。
 ライバルであるルディに、こういうことはあまり進言したくないと言わんばかりである。

「ああ。お前、他人よりも優れてるところいっぱいあんだろ? オレはそれが羨ましいし、師匠はそういうルディにしかできないことをいっぱい褒めてる。なんでお前はそれが他人にできないことだって自覚できてないんだ? お前は十分にすごいやつだよ。ちっとは自覚しろ。胸のデカさでお前の存在のデカさを測るやつなんてこの村にはいねーよ」
「そうなの?」
「そうだよ。魔法が使えるのがこの村で唯一の誇りであるオレだったが、それは別に魔法がなくたってできることだ。でも、お前は魔法ではない方法でコッコの世話をしてるじゃん?」
「うん、まぁ」
「それはオレにはできないことだ。多分師匠にも無理。キアラだって途中で飽きてしまうだろう。お前だけが、飽きることなく世話し続けられる、それは才能だよ。オレたちには備わってないもんだ」

 言われて初めて自分の素質に気がつくルディ。
 今まではこれぐらいしか取り柄がないと思っていた。
 でも違うのかな? ヨルダに言われてようやく気がつく。

「僕は料理もできなければ、魔法も使えないよ?」
「ああ、だがそれは今はまだって話だろ? 正直、この馬鹿げた村の中で、今や魔法は珍しくもなんともない。キアラの創造だって魔法の最上位だし、オレの出番は徐々に奪われていく。でも、お前はそれがない」
「マチルダさんだってテイマーによる動物との意思疎通は使えるでしょ」

 断言するヨルダに対し、ルディはそんなことはないと否定する。

「使えるのと、実際に使うのは大きな隔たりがある。その能力を持っていたとしても、なぜマチルダさんは畜産をやっていない?」
「それは……村長夫人としての仕事があるから?」
「違う。単純に向き不向きの問題だ。ロウドのじいちゃんは多分お前より早く死ぬ。そうしたらいよいよこの村で畜産をできる奴はお前しかいなくなる。それをわかっててそんな自虐してんのかって話だよ」
「あ……うん、ごめん。確かにそうだ」
「それがわかればいいんだよ。正直、おっぱいに固執してるお前を見るのは辛かった。師匠もさ、コッコの世話を放ってまでやることかって嘆いてたよ」
「本当にごめん」
「ま、シータ姉ちゃんがウチに住んでからやたら師匠に絡みにいくのを見てりゃ気持ちはわからんでもないがな」
「やっぱりヨルダもそう思ってるんじゃん」
「だが、正当な弟子であるオレたちと、この村で住むようになっただけのキアラの知り合い。師匠が大切に思ってるのはどっちだ?」
「考えるまでもない」

 ルディはようやく自分が恵まれてる境遇なのだと理解した。
 ヨルダもここまで言ってようやくか、と重い腰を上げた。
 
 その日からのルディの仕事に打ち込む姿勢はメキメキと上昇し、ついには新規参入したレッドベアーまで使役下に置くことになる。
 デーモングリズリーに比べて肉質や旨みは大きく劣るが、災害級ディザスターであるレッドベアーは村人の新たなタンパク源を担うのだった。

 これはロウドでは成し得ない成果である。
 胸が育たなくても、ルディは洋一からべた褒めされた。
 自分はこれでいいと強く認識できた瞬間でもあった。


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