【完結】シナリオブレイカーズ〜破滅確定悪役貴族の悠々自適箱庭生活〜

双葉 鳴

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三章 箱庭

情報戦

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 傀儡の王を操ってる時、クーシャの耳に王女が凶兆を宿すスグエンキルに行きたいと我儘を言うので監視がてら向かわせた。
 なぜか聖女まで一緒に赴くと言うのだから怪しいことこの上ない。

 きっと何か隠し事があるに違いない。
 そう思ってマーナの視界から状況を覗くクーシャだったが……

(は? 何でこの時代にアイスクリームとかあんのよ!? 時代背景考えたことあんの!?)

 そのスイーツが表に出るのは早くても五年後。
 そうなる様に仕組んだのは他ならぬクーシャである。

「どうかされましたか、マーナ様。ご気分がすぐれない様ですが。寝室でお休みになられますか?」

 心配するスグエンキル子息。クーシャはもっとガン見したいが為に下手な芝居を打って場に残ることを選択した。

「アイスクリームを出すには早すぎましたか。ではこちらを」

 そう言って目の前で綿飴を作り出すスグエンキル。

(え!? 何でそれを知ってるの? 原作にそんなもの出してない。こんな偶然ってある!?)

「マーナ様、要らないのならわたくしが頂いてもよろしいでしょうか? わたくしこれには目がなくて」

 クーシャが判断に戸惑ってる間に、横から出てきた聖女がクーシャの目の前で綿飴を奪い去って美味しそうに頬張る。

「美味しいですわぁ♪ 」
「こらこら、マーナ様にお出ししたものだぞ?」
「だって、こんな暑い時期に早くお召しになられないんですもの。やっぱりお具合が悪いと思って頂いたのです」
「確かに今日は好物をろくに摘みもなさらない。やはりお具合が悪いのだろう」

 まるでこの場所から引き離そうと話がまとまる中、クーシャは歯噛みしながら傀儡状態を切る。
 監視モードがなくても、後から記憶をいくらでも保持くれるからだ。


 ◆◆◆


「う、ううん……ここは?」
「お目覚めになられましたか? マーナ様」
「私……お父様と出会ってからの記憶が曖昧なの。ここはどこ?」
「我がスグエンキル邸ですよ。ご自分の足でここまで来たのです。覚えておりませんか?」
「分からないわ。でも、ずっと意識はあったの。ただ、思考にモヤが掛かったみたいで。カーミが私の目の前で綿飴を頬張ってる姿を非常に不愉快に思ったところまでは思い出せるわ」

 マーナの不調は、見た通りのものだった。
 コモーノはカーミへ素早く目配せし、カーミもコモーノにだけ見える様に空中に光で文字を描く。

 言葉には出さず、記憶に留める。
 その内容は洗脳状態にあったこと。
 解呪の方法はなく、上位存在の憑依が外れない限り元に戻らない。
 まるでアルフレッドの擬鎧の様だと思った。

「取り敢えず、長旅の疲れが出たのでしょう。お部屋へ案内いたします。アルフ、姫様を客室へ」
「畏まりました。さぁ、姫様こちらに」
「お世話になるわね。カーミ、貴方はどうなさるの?」
「私は元気ですので、これからコモーノ様と色々スイーツについて問答をするつもりです」
「では先に休ませていただきます。食事の際はいつも通りお願いしますね?」
「はい、おやすみくださいまし」

 アルフに案内されて、マーナは退室した。
 残されたコモーノとカーミは、さっきまでの状況を思い出す様に会話する。
 
「さて、あれは演技なくマーナ様だと思うか?」
「いつもの意地汚い一面が見えましたので、おそらくは」
「そこで判断するのは流石に不敬だぞ?」
「ご本人がいらっしゃらない時くらいはいいではないですか。それよりも……例の噂がまるで収束してない件ですが……」

 例の教会主催の楽園の噂。
 霊亀の存在流出と、今なら敬虔な教徒になればお布施次第で楽園に入れると言う胡散臭いものである。

「ああ、あれか。アレはわざと放置してる。情報を丸々改竄してな」
「噂の出所を突き止めただけではなく、丸め込んで手の内に置いた?」
「そんなところだ。食うのに困ってたから、うちで従者として働くか提案したら付いてきた」
「三食おやつ付きですか?」
「それプラス、雨風の凌げる家屋、暖かい布団、シャワーとお風呂浴びたい放題」
「それ、私でも参加できますか?」

 シュバッと挙手するカーミ。
 男爵家は貧乏とは聞いてるが、そこまで食うのに困ってるのだろうか? コモーノはジトっとした目で聖女をみやる。

「お前は聖女の自覚はないのか?」
「だって、聖女って戒律厳しいんですよぉ~~」
「泣くな泣くな。しかしな、うちは見ての通りの軍閥だ。当然だが従者の水準は高い方だ」
「守護結界ならお任せください!」

 胸を張るカーミ。

「国の為の魔法だろ、それ。侯爵家の防衛には大袈裟すぎる。それに、オレの部下のアルフが防衛においては右に出る者がいないぐらいに間に合ってる」
「そんなぁ」
「そもそもだよ、お前はルード様かケーベン様に嫁げば王太子妃としての生活が待ってるんだぞ? 侯爵相手にしてる暇なんてないだろ?」
「何言ってるんですか? 王族が羨むスイーツが食べられるところなんてスグエンキル家以外無いんですよ!?」

 目が本気だ。コモーノはそれほどまでに甘いものが食いたいか、と呆れ果てた。

「まぁ、うちに遊びに来たければいつでも来い。お父様も聖女と懇意にしてるてなれば嫌な顔はしまい。オレは学園入学まで波風立てずに行きたいんだ」
「まぁ、今までにご自身が何をしでかしたのかまるでわかっていない様ですね」
「え? たいしたことしてないだろ」

 コモーノは腕を組んで首を捻るが、別にたいしたことはしてないと判断する。それを聞き捨てならないとカーミが断言する。

「まずはスイーツの流出。お茶会限定とはいえ、それで令嬢や婦人たちから注目されております!」
「まぁ、それは汚名返上の一手だし?」
「そしてマーナ様からの選任職人としての指名。それで王家御用達と、今までの菓子職人から敵視されていますのよ?」
「それはマーナ様が……」
「それだけではありませんわ! ファルキン様との決闘を圧倒されておりますよね?」
「アレは流石にファルキン様も本気を出されてないだろ? オレは勝たせてもらったんだよ」

 興奮気味に語るカーミに、コモーノは宥める様に返事をする。
 なぜこうもコモーノは自己肯定が低いのか。カーミはそれが不満でならない。

「もう良いです! 言質は頂きましたので遊びにこさせてもらいます!」
「ああ、くる前に一度手紙の一つでもよこせばアルフに案内させるよ。だがマーナ様にスイーツの配達する日は外せよ? 王家御用達毒味係さん?」
「分かっています。私にとっての役得、誰が手放すものですか」

 そんな他愛もない会話を交わす中、ノックの音が響いて入室を許可すると、アルフが顔を覗かせた。

「マーナ様は?」
「そのままお休みになられました。アレは僕と同じ王の力でしょうか?」
「分からん。カーミ曰く、呪いの類ではない様だ。解呪はできないらしい」
「どうされます? もしも僕と同じ能力なら、記憶を除くくらいはしてくるかもしれません」
「お前はそれは可能だと?」
「遠隔操作を手始めに、憑依、記憶リンクはお手のものってくらいです」
「ならばそうだな、散々マーナ様を操ってる相手にスイーツを自慢してやるか。憑依中は食事はできないんだろう?」
「僕はできるけど……マーナ様の憑依主は熟練度が甘いみたいだね」
「お前は何ヶ月掛かったっけ?」
「忘れた。思い出したくないね」
「ならば、他人ならどれくらいで覚えられる?」
「さぁ? そこにどれだけのものを求めるかじゃない?」

 コモーノとアルフレッドの会話は、回数を重ねるたびに気安くなってくる。従者と主人というよりは、親しい兄弟の様だ。
 カーミはずっとアルフレッドの存在を気にかけている。
 従者の割に主人にあまりに気安いのだ。これではまるで……

「カーミ嬢、あまり我が家の事情に首を突っ込むのはお勧めしないぞ? 軍閥なんだ。裏で血生臭いことのいくつかもこなしてる。翌朝教会の前に晒し首を置かれたくはないだろう?」
「……!!」

 わかりやすいくらいに顔を青くするカーミ。

「冗談だ。だが、踏み込み過ぎれば冗談では済まなくなる。これでもオレはお前のことは気に入ってるんだ。オレの手を汚させないでくれ」

 すれ違いざま、肩に手を置かれ忠告される。
 口調こそ軽いものの、放たれた殺気はカーミをその場に縫い付けるのに十分な威圧を放っていた。
 秘密を握ることで貴族内を有利に動こうと考えていたカーミにとって、コモーノとは友達のままでいたほうが良さそうだと判断させるには十分なやり取りだった。

 まだ10歳やそこらの子供が放つにはあまりにも強すぎるさっきに当てられたカーミは……

(全く、普段は飄々としておいでなのに、ここぞというときは恐ろしいお方。お召し物を変えなくてはいけなくなりましたわ)

 吊り橋効果以上の緊張に囚われていた。


 ◆◆◆


 翌朝、またも憑依されたマーナの前には。
 この時代にはまずお目にかかれないスイーツのフルコースが展開され、それを目の前で平らげられるという屈辱に似た光景がクーシャの射倖心を煽った。

(何でぇええ! 何で目の前にあるのに私は口にできないの!?  あぁあああああああ、口惜しい! 味覚を獲得しちゃうと憑依レベル上がりすぎて元の肉体に戻れなくなっちゃうのよね、不便なもんだわ。にしたって、この子達王女の前で不敬すぎない? 無礼講って言葉を額面通りに受け取りすぎなのよ。誰か私の元まで持ってきなさいよ! なんで王都のレストランにないものがここで食べられるの!? うわぁああああああああん)

 ジタバタと、その場で駄々を捏ねそうになるクーシャ。
 だが、彼女以外人の気配のない空間で、彼女が駄々を捏ねようと気にかけるものは居なかった。

 全てを見通せるものとして、人払いをしたのは他ならぬクーシャなのだから。



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