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本編

情報精査

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「あなた!」
「カーミラか。で、視察の程はどうだっ……」

 執務中のミハエルは妻の声を聞いて振り返り、続く言葉を失った。

「カーミラ……なのか?」
「見違えた、かしら?」
「びっくりしたよ。女神が現れたかと思った」
「お世辞でも嬉しいわ」
「世辞抜きで美しいよ」

 思わず席を立ち、抱き止めるほどにミハエルは胸の鼓動が止められずにいる。
 今までのカーミラに対し、こうまでドキドキすることはなかった。
 執務中であるにも関わらず、見惚れてしまった。
 すっかり瞳を奪われてしまって仕事が手につかない。

「視察先で?」
「ええ、腕のいいエステティシャンが居たの。私ったらすっかり仕事も忘れて満喫しちゃったわ」
「流石にそれは困るな」
「でも、アレはすごいわよ? 私のみならず、他国の間者と思われる人たちも骨抜きにしてた」
「誰が居た?」
「変装はしてたけどアレはおそらくハーベル聖教国の聖女リティス。そして北方のゼリツァー共和国の女王ミネバ」
「そんな大物がお忍びで?」
「女の美容にかける執念を甘く見てはダメよ? アレを一度知ったら今までの化粧品は全て欠陥品に見えてしまう」
「そんなにか?」
「そんなによ!」

 ミハエルは妻が美容にどれだけ資金を投資しているかを知っている。
 今でこそ容姿は整ったが、嫁いで来た時はそれはもう酷かった。
 生まれこそ王族でありながら、病弱だった為に寝たきりで骨に皮が張り付いていた。不健康が過ぎて肌も青白く死人の様だった。
 しかし今の彼女は別人だ。
 肉つきは良くなり、血色も良い。

「分かった。その者をウチで雇い入れれば良いのだな?」
「それはそれで他国に禍根を残しそうなのよね」
「各国の用心が贔屓にしているのだったな」
「ええ、それと。そのエステティシャンの背後に賢者の影をとらえています」
「賢者! なぜザーツバルグの決戦兵器がそんなところに!」

 カーミラはそれこそ見当もつかないと首を振る。

「分からないわ。でもあれほどの同時魔法術式。ただの魔法使いには扱えない!」
「君の眼で見ても異様だったのかい?」

 カーミラはミハエルの腕の中で頷いた。
 ダムピール家の魔眼は目に見えない魔力の奔流が色によって現れる。
 水属性なら青、火属性なら赤、風属性なら緑、光属性なら黄、闇属性なら紫。
 魔力の込められた強弱で色の濃度が変わって見える。
 そんな魔眼で濃度の強いカラフルな景色が網膜を通じてカーミラの元に届いたのだと言う。
 ミハエルを持ってしてもそれが異常である。

「しかしそうなると困ったな」
「はい」

 その存在がザーツバルグにあるウチは、戦争を仕掛けられない。
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