ダンジョンブレイクお爺ちゃんズ★

双葉 鳴

文字の大きさ
8 / 45
ダンジョン

報連相(今川視点)

しおりを挟む
 俺はその日、警視総監と懇意にしている大企業のお偉いさんと行動を共にすることになった。
 正直、あまりいい感情を抱けずにいる。

 無論、その人の人格に問題があると言うわけではない。
 世代の認識の違い、それに尽きる。

 我が家の祖父、今川義夫は何かにつけて口うるさい、小言の多い人だった。
 代々警察官を輩出している今川家で、祖父の父親もまた警官だ。
 祖父の頃までは叩き上げで、リアルでの生活の苦労も耳にタコが出るくらい聴かせられたものだ。

 しかし親父の世代では活動場所がVRに移行した。
 現場は会議室に移行し連絡の高速化に伴い、警察官の活動内容も大きく変わった。

 祖父の義夫はそれが気に食わなかったのだろう、その日を境に自分の若い頃の話だけを持ち上げた。
 それに伴って声の大きくなる「警察の在り方」が耳に煩わしく感じたのだ。
 俺にとって、第一世代というのはVR環境に適応できない時代遅れの化石。
 そういう認識だった。


「足元、気をつけてね。周囲の確認はできる? 最初は耳鳴りがひどいだろうけどすぐに良くなるよ」


 けれどダンジョンに入ってすぐ。
 こちらを伺う声かけは鬱陶しくも、有り難かった。
 正直、目の前が真っ暗で頼りになるのは身一つ。
 要警護対象が二人も居る。土地勘もなく、不安ばかりが込み上げた。

 事前情報で銃火器の類は扱えないと聞かされていた。
 ペンライトを持ち込むも、点灯する気配は見せない。
 ここでは俺が唯一の戦力。
 弱音を吐くことは許されなかった。


「そちらこそ、足元気をつけてくださいよ? もうお年なんですから」

「ご心配ありがとう。こう見えて健康には気をつけてるから平気だよ」


 何を呑気なことを、と思う。
 本当ならダンジョン入り口前の警戒任務だけで良かったのに、一緒に同行せざるを得なくなったのは誰のせいだと思ってる。
 喉元まで出かけた言葉を、なんとかして飲み込んだ。
 
 無碍に扱えば出世の見込みはなくなる。
 上司から言われて、出世レースに飛びついたのは己なのだ。
 慢心と油断が胸中で混ざり合った。

 初めて接敵した敵対生物はスライムだった。
 それは暗闇の中で唯一の光源。
 鮮やかに明滅するそれに、警棒を握る手に力が入る。


「どうしたの、ほら。攻撃しないと」


 付き添いの老人の声掛け。
 俺は一歩も動けずにいた。
 その間もスライムは距離を詰めて地を這ってくる。
 ゲームだったら、死んでも生き返ると言う安全がある。
 が、ここはリアル。
 もし自分が第一打を失敗したら、次に狙いを定めるのは後ろに控えている老人二人組。一人はよく知らないが、もう一人は上司の懇意にしている相手だ。
 怪我を負わせようものなら、エリートコースから脱落することを意味した。
 失敗は許されない。


「やぁ!」


 自分より背の低い相手への攻撃。
 マニュアルにはない為、腰が引けて威力が乗らなかった。
 スライムにもあまりダメージが通ってるようには見えず、手応えもない。
 そのスライムに、動きがあった。
 左右に飛散した肉体が泡立ち、後ろに控えていた老人Bに向かって飛び上がったのだ。


「!」


 俺はすぐに動き出せなかった。
 死んだ。自分の失態で死なせてしまった。
 生い先短い命といえど、失態は失態だ。
 しかし、その老人はスライムを一瞥するなり手にしていたパタークラブを縦に構えて振り下ろした。


「──コアクラッシュ」


 ヒュパッ
 空気を切り裂くような一撃がスライムに振り下ろされる。
 たったの一撃でスライムは絶命したのだろう。
 光源であったスライムはその肉体を維持できずに溶解し、再びあたりに暗闇が訪れた。
 そしてレベルアップの脳内アナウンスが響く。
 同行してる相手の誰かがモンスターを倒せば、レベルが上がる仕組みのようだ。


「お怪我はありませんでしたか?」


 ニコリ、と笑顔を向けられて羞恥心を覚えた。
 あれだけ自分本位に動いた結果、守られたのは自分の方で……


「ドロップアイテムを落としましたよ。ほら、これがスライムコアです」

「ゴミではなくて?」


 老人はまるでそれが何かわかってるような口ぶりで手渡してくる。
 意味がわからない。
 それよりも、なぜそんなことを知っているかの方が気になった。
 先ほどの技名だって、現実にはない。
 まるでゲーム的な要素だ。

 そこで質問をした結果、眼前の二人こそがダンジョン先駆者であることが判明する。
 本当はクリアするまで隠し通すつもりだったようだ。
 曰く、若い俺たちに花を持たせる為だと言う。
 だというのに俺ときたら、第一世代だからとどこか馬鹿にして見下していた。
 自分が恥ずかしくなり、それでも先駆者からの経験則に教えを乞う機会を得た。
 本人達も喋りたがっていたが、名前に関しては秘匿してほしいとお願いされた。


「どうしてです? 名を出せばダンジョンの立役者として功績を認められるじゃないですか」

「それを望んではいないからだね。私は現在養ってもらっている立場だ。娘夫婦がいて、孫娘だっている。変に持て囃されて家族に迷惑をかけたくないんだ。生い先短い人生だからね。そう言う手柄は君たちが役立てなさい」


 それを聞いて、自分の浅慮さを恥じた。
 エリートコースに憧れ、出世することだけを目的としてきた俺。
 けれど俺たちの背を後押ししようと気遣う先達の気持ちを受け取り、目頭が熱くなる。


「思えば、俺の祖父もそう言う気持ちだったんですかね」


 俺はいつの間にか祖父との思い出を語っていた。
 大手企業の社長はうんうんと頷き、もう一方は流石に押しつけが酷すぎると全く違う顔を見せていた。
 そこで俺は初めて二人の名前すら知らないんだと非礼を詫びた。
 事前に名前を聞いてはいるが、頭に入れるほどではないと言う認識だった。
 大手企業の社長は寺井さん。もう一人は笹井さんと言った。


「今川君のお爺さんの気持ちもわかるな。僕も孫には少し甘い顔をしてしまうが、基本は放任だね。こう言うのは手探りで手繰り寄せるのが基本だから。マニュアルがあって当然の世代だと、前のめりに執り行うことがなくてダメだ。ね、笹井さん?」

「そんなことないと思うけどね。今川君、こうやって理想を押し付ける大人になってはいけないよ? この人、自分が有能だからって他の人にも自分と同じことをしろって言って引かれてるんだ。私は彼の息子さんの苦労を知っているからね。真に受けてはいけないよ?」

「は、はぁ」


 ただ、つるんでるから仲良しなのかと思ったら腐れ縁みたいに隙あれば詰り合いをしているのが目についた。
 ご本人達はそんなことはないと否定してたけど、どっちの言葉を信じたものかと本気で悩んだのを覚えてる。

 実際、入手した情報はどれも有用なのだ。
 これが第一世代なのか、と思い知らされる気持ちだった。



 そんな話を祖父に話すと、


「桜町の笹井さん? お前、あの人に会ったのかい?」


 いつになく上機嫌な祖父。
 例の御仁は祖父の恩人なのだそうだ。
 まだ駆け出しだった祖父が、張り込み先で親身になって相談に乗ってくれたのがその笹井さんだそうで、笹井さんの話をする時の祖父はいつもの頑固ジジイではなくなっていた。
 当時を思い出したかのように、若かりし時代に気持ちが蘇っていく雰囲気を滲ませる。


「なぁ、国広」

「なんだいじいちゃん」

「俺もそのダンジョンていうところに行けばあの人みたいにできるのかねぇ?」


 いったいどれほどの有名人なのかと詳しく聞けば、色んな意味で話題の渦中にいる存在だったそうだ。
 社会人になった後、進む道は違えどいつでも手を貸してくれる憧れの先輩だったそうだ。
 そんな人と一緒に探索した。
 祖父にとっての憧れの人。
 そう言われて俺は、初めてすごい人とご一緒したのではないかと自覚する。


「今はまだ待って欲しい。まだ法整備も整ってないんだ。でも、第一世代だからって拒否は出来ないのも事実かな? 俺は寺井さんや笹井さんを見ちゃってるからなぁ。きっと爺ちゃんだって前に立てると思うよ」

「まぁ、その時が来たら教えてくれ。俺はそれまで鍛え直してくらぁ」


 あの祖父が、過去の栄光に囚われていた祖父が。
 笹井さんに当てられてやる気を漲らせていた。
 これはうかうかしてたら第一世代に全ての功績を掻っ攫われるのは時間の問題かもしれないぞ、と謎の危機感を覚えるほどだった。




「よ、昨日は災難だったな」


 翌日、同僚の後座候に日誌を渡されながら挨拶をされた。
 災難という心当たりはないが、それはきっとあの人たちをよく知らないから出てくる言葉だろうと思う。


「後座候も付いてくれば良かったのに」

「そうやって人を巻き添えにしようとすんな。まぁ、お偉いさんと顔繋ぎできて良かったじゃねぇか。エリートコースも安泰か?」

「茶化すなよ。俺たちの世代は現場を体験してないんだ。現場を知って、それどころじゃないと考えさせられたよ」

「お、どんな情報を仕入れてきた?」

「そうだなぁ」


 俺はVRでは体験できない臨場感を語った。
 同僚には吹かしてると信じてもらえなかったが、世代の差でこうも探索に影響が出るとは思わないというのが俺の認識だ。

 VRゲームにだったらついてて当たり前の補助機能がついてこない。
 そんな当たり前のことに、直面するまで気づかなかったのだ。
 序盤にそこに気づけたのは大きい。

 実際、警察官だけでダンジョンアタックした際。
 俺以外の誰もが最初の暗闇で脱落した。
 声を掛け合って励まし合うこともせず、勝手に前に出て油断して戦況を見誤る奴らが続出した。

 ゲーム慣れしてるからと、リアル慣れしていない差が如実に出たのだ。


「結局お前がトップか、今川」

「先達から良い経験を積ませてもらいましたので」

「そうか、これからも期待してるぞ?」

「ハッ」


 直属の上司である蜂楽さんも、父親同様現場を知らない。
 現場の判断がものをいうリアルが今、現実に面してる状況で。
 俺たちに取れる手段は効率でも、目に見える功績でもなく。

 もしかしたら最も泥臭い試行錯誤なのかもしれない。
 柄にもなく、そう思った。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

迷宮アドバイザーと歩む現代ダンジョン探索記~ブラック会社を辞めた俺だが可愛い後輩や美人元上司と共にハクスラに勤しんでます

秋月静流
ファンタジー
俺、臥龍臼汰(27歳・独身)はある日自宅の裏山に突如できた洞窟を見つける。 語り掛けてきたアドバイザーとやらが言うにはそこは何とダンジョン!? で、探索の報酬としてどんな望みも叶えてくれるらしい。 ならば俺の願いは決まっている。 よくある強力無比なスキルや魔法? 使い切れぬ莫大な財産? 否! 俺が望んだのは「君の様なアドバイザーにず~~~~~っとサポートして欲しい!」という願望。 万全なサポートを受けながらダンジョン探索にのめり込む日々だったのだが…何故か元居た会社の後輩や上司が訪ねて来て… チート風味の現代ダンジョン探索記。

部屋で寝てたら知らない内に転生ここどこだよぉぉぉ

ケンティ
ファンタジー
うぁー よく寝た さー会社行くかー あ? ここどこだよーぉぉ

処理中です...