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町おこしイベント
筍ダンジョン②
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「それでは行きますよ。ヨイショ」
二重さんが小さく平鍬を振りかぶると、足元から少し奥へと落とし、気持ち大きめに掘り起こすと根から生えたばかりの筍が大きく姿を現した。
「どうですか?」
「なんとか発射されずに済みました」
発射されるって何?!
二重さんが軽く腰を曲げて掘り起こした筍の頭部を摘んで引っ張り出す。
筍になぜか口の様なものがついており、それは「きゅう」と音を立てて青い粒子を残して筍の水煮パックを落とした。
流石プロ。一発目から成功させている。
「お見事」
「いやいや、面目躍如と言うやつです。お手本を見せるのに失敗したら恥ずかしいですから」
「さっき発射と言ったが、ここの筍って鉄砲玉みたいに飛んでくるのか?」
「ええ、ここにくる皆さんは事前に知識を仕入れてきてますから」
二重さんは私と今川さんを順に見た。
まさかそんな基本的な話を聞かれるとは思ってみなかったと言わんばかりである。悪かったよ、事前知識ゼロで来て。
今川さんに至ってはまるで悪びれもせずと踏ん反り返っていた。
二重さんの先輩なのだろうか、年功序列を感じられた。
「じゃあ、失敗するとどうなるかを確認してみましょうか」
「そんな方法がわかるのかい?」
「ちょっと裏技を使います」
二人に一言断って、壁を削った。
パター用のボールを三個削り出し、チェインクリティカルを発動して強めに撃つ。すると、
キュドドドドドドッとボールが通ったところに土煙を上げながら天井に刺さる筍達。
うーん、凶悪。
「こいつぁ、ヘビーだぜ」
「蜂の巣どころじゃないですよね。探索者の皆さんが備えてるわけだ」
「何事ですか!」
「言ってる側からかい」
駆けつけるスタッフのみなさん。
必死な形相である。
まぁあんな感じに大音量で筍が発射されたら慌てもするか。
「大丈夫大丈夫、怪我人は居ないよ。ちょっと素人がいるので失敗した時のリスクを知っておこうとあえて失敗したんです」
「びっくりさせないでください。肝が冷えましたよ」
「ごめんなさい」
「くわー(ごめんなさい)」
「ほら、キャディもごめんなさいしてるのでここは許してくれるとありがたいですね」
「わ、なんですかこの子? かわいー。撫でていいですか?」
スタッフの一人はキャディを見つけるなりしゃがみ込んで視線を合わせた。テイムモンスターを初めて見るのか、キャディを可愛がっている。
スカーフが似合っているからね。
「くわ(どうぞ)」
「いいって」
「わー、ありがとうございます」
ある程度撫でくりまわして満足したのか、スタッフさんは控え室へと戻っていった。
「そのちんちくりんに助けられたな」
「ええ、この子は愛嬌が売りですから。ただそれ以上にこの環境にも適応してますよ」
「手本を見せてもらおうかい」
「ええ、キャディ。君の実力をお二人に見せてあげようか」
「くわー(うん!)」
今川さんと二重さんが見守る中、キャディは開幕根を張るで筍の所在を掴み、私に大体の居場所を教えてくれる。
「ほい!」
普段使わないコアクラッシュを纏っての一撃。
「くわ!(上手く掘れたよ)」
「ようし、もう一本行くよ」
「くわ(はーい)」
意外なところで役に立った。ならばチェインクリティカルを併用して掘って回った。
「初心者とは思えないほどの腕前で」
「いやいや、キャディのお陰ですよ」
「そいつは俺っちにも取得できるのかい?」
今川さんがキャディを物欲しげに見つめる。
おや、この人にもこんな一面があったんだ。
ペットとか飼ったらハマりそうな雰囲気を醸し出してた。
「今川さんもテイムしてみます? 探索者になることが必須ですが」
「ライセンスなら持ってらぁ。レベルだって6まで上げたぜぃ? スキルっつーのはよくわからんから取ってねぇがな」
「それでいいと思います。テイマーを獲得するのに黒い星が5個要りますから」
「足りねぇな」
「推奨レベルは10からです。それまで幾つかレクチャーしますよ?」
「じゃあ世話になるぜ」
キャディを介しての筍掘りは和気藹々としながら収束した。
筍初めて一応モンスターの枠組みなので上手く仕留めるとレベルも上がるのだ。レベル差から私のレベルは上がらぬが、今川さんはレベルを9まで上げる。
ついでに壁を掘って水晶をいくつか入手した。
壁を掘っても宝石の類は出てこない。
あれは獣系ダンジョンの特徴か。ついでに天井も掘ってみるが何も見つからず。
「器用な子だねぇ」
「私と一緒に行動してたら、いつの間にかこうなってましたね」
「普通はこうならねぇってのかい?」
「テイマーがどう扱うかですね。私は探索の助手として彼を育てています」
「人によっては闘うための手段にもしちまうって事か」
「モンスターに何を求めるかですよね。こう見えてこの子も戦闘はできますし」
「そう言うところは育ての親に似たんだねぇ」
「二重にそう言わせる何かがあるのかい、笹井さんは?」
「ああ、今川さんがVRゲームでのこの方の噂を知らないんでしたね」
教えましょう、と私のしでかしたあれこれを多少盛って話す二重さん。
あなたの方も大概でしょうに。超絶ロマンな武術道場開いて弟子を育ててた創始者を名乗ってた人の口から出てきたものとは思えないやらかしの数々である。
「あっはっは! いやぁ、想像を超えてくるな、笹井さん! そうこなくっちゃ」
「それって褒められてるんです?」
「褒めてる、褒めてる」
「笹井さんは今川先輩の好意の対象ですよ、そこは自信を持っていいです」
「ほんとぉ?」
いまいち信用ならない。ゲームでの師父氏とはあまりにも違うんだもん。
この人案外タヌキだよ。欽治さんで懲りてるのでこれ以上参謀タイプは要らないです。
「まぁ、俺っちもここで一旗あげようだなんて思っちゃいねぇよ。でもな、仲間がいるってわかりゃこんな老骨でもなんかやってやろうって気持ちになる」
「なんだかなぁ、私はマイペースでやってるだけなんですけど」
「人はそれをマイペースだと受け取らないんですよ。あなたの場合は特に」
「担がれてるなぁ、もう少し穏やかに探索させて」
「無理じゃないですか? 孫から絶賛されてる時点で」
「違いねぇ、うちの孫もお前さんを尊敬してたぜ?」
全くもって、要らぬ尊敬だよ。
「今日はこれで上がります。査定をお願いします」
「はーい、少しお待ちください」
先ほどのスタッフの女性が受付の奥から出てきて私達も会釈をする。
「わ、大量ですね。先ほどの事態を引き起こしたチームとは思えない手腕です」
「うちにはプロの筍おじさんがいるからね」
「この中の8割を掘ったのはそこでモブに準じてる人だよ、私じゃない」
「あー、そこは黙って賞賛を受け取るところですよ!」
「嫌だよ、変に私への期待度あげないでよ。毎回こんなに求められるとか地獄だよ」
「こうやって自分の成果を相手に押し付けるのか、そりゃ恨まれるわ」
えー、ここは二重さんが華を持つところでしょ?
「ね、この人毎回こうで。少しくらいならいい気になれるんですけど、毎回この量の情報をポンと気軽に回してくるんです」
「そりゃ厄介だ。いい顔してられるのも最初のうちってわかるな」
「本当に、欲がなさすぎて周囲が迷惑を被るんです」
「良かれと思ってやってることが迷惑になる典型だな。こりゃ付き合いを深めすぎると俺っちも被害に遭うか?」
「まず間違いなく」
そこの二人、被害者意識が高すぎますよ?
合計40個の筍の水煮はキャディを含めて8個づつ分けた。
キャディの餌にはならないみたいなので、私が16個貰った形だ。
あとで孫にあげよう。
「そういえば、ダンジョン内でも炊き出ししてるんでしたっけ?」
「お、摂取していきます?」
「なんだ、その含みのある物言いは?」
まるで薬物の取引現場に遭遇した凄腕刑事の様な形相で今川さんが迫る。
二重さんは慣れたものなのかニコニコしながら説明をした。
「ここではドロップアイテムをダンジョン内で摂取する事でスキルに通じる要素を生み出していく場です。今川先輩の考えてる様なところではありませんよ」
そうして二重さんに案内されて向かった場所は、奇声を上げながら、狙ったステータスアップを目論む探索者のあまり人に見せられない姿があった。
どうみても邪教のミサでも見せられてるかのような不快感が強めな空間。
今川さんじゃなくたって訝しむ。
中には祈りながら筍ご飯をかき込み、ステータスと睨めっこしながらムンクの叫びを上げる者。
もう一方は一心不乱に筍を貪り食う探索者の姿もある。
これで健全な集まりは無理があった。
「この異常者の集まりが一般人だって? まるでこの世の地獄だ」
今川さんの例えは言い得て妙だった。
二重さんが小さく平鍬を振りかぶると、足元から少し奥へと落とし、気持ち大きめに掘り起こすと根から生えたばかりの筍が大きく姿を現した。
「どうですか?」
「なんとか発射されずに済みました」
発射されるって何?!
二重さんが軽く腰を曲げて掘り起こした筍の頭部を摘んで引っ張り出す。
筍になぜか口の様なものがついており、それは「きゅう」と音を立てて青い粒子を残して筍の水煮パックを落とした。
流石プロ。一発目から成功させている。
「お見事」
「いやいや、面目躍如と言うやつです。お手本を見せるのに失敗したら恥ずかしいですから」
「さっき発射と言ったが、ここの筍って鉄砲玉みたいに飛んでくるのか?」
「ええ、ここにくる皆さんは事前に知識を仕入れてきてますから」
二重さんは私と今川さんを順に見た。
まさかそんな基本的な話を聞かれるとは思ってみなかったと言わんばかりである。悪かったよ、事前知識ゼロで来て。
今川さんに至ってはまるで悪びれもせずと踏ん反り返っていた。
二重さんの先輩なのだろうか、年功序列を感じられた。
「じゃあ、失敗するとどうなるかを確認してみましょうか」
「そんな方法がわかるのかい?」
「ちょっと裏技を使います」
二人に一言断って、壁を削った。
パター用のボールを三個削り出し、チェインクリティカルを発動して強めに撃つ。すると、
キュドドドドドドッとボールが通ったところに土煙を上げながら天井に刺さる筍達。
うーん、凶悪。
「こいつぁ、ヘビーだぜ」
「蜂の巣どころじゃないですよね。探索者の皆さんが備えてるわけだ」
「何事ですか!」
「言ってる側からかい」
駆けつけるスタッフのみなさん。
必死な形相である。
まぁあんな感じに大音量で筍が発射されたら慌てもするか。
「大丈夫大丈夫、怪我人は居ないよ。ちょっと素人がいるので失敗した時のリスクを知っておこうとあえて失敗したんです」
「びっくりさせないでください。肝が冷えましたよ」
「ごめんなさい」
「くわー(ごめんなさい)」
「ほら、キャディもごめんなさいしてるのでここは許してくれるとありがたいですね」
「わ、なんですかこの子? かわいー。撫でていいですか?」
スタッフの一人はキャディを見つけるなりしゃがみ込んで視線を合わせた。テイムモンスターを初めて見るのか、キャディを可愛がっている。
スカーフが似合っているからね。
「くわ(どうぞ)」
「いいって」
「わー、ありがとうございます」
ある程度撫でくりまわして満足したのか、スタッフさんは控え室へと戻っていった。
「そのちんちくりんに助けられたな」
「ええ、この子は愛嬌が売りですから。ただそれ以上にこの環境にも適応してますよ」
「手本を見せてもらおうかい」
「ええ、キャディ。君の実力をお二人に見せてあげようか」
「くわー(うん!)」
今川さんと二重さんが見守る中、キャディは開幕根を張るで筍の所在を掴み、私に大体の居場所を教えてくれる。
「ほい!」
普段使わないコアクラッシュを纏っての一撃。
「くわ!(上手く掘れたよ)」
「ようし、もう一本行くよ」
「くわ(はーい)」
意外なところで役に立った。ならばチェインクリティカルを併用して掘って回った。
「初心者とは思えないほどの腕前で」
「いやいや、キャディのお陰ですよ」
「そいつは俺っちにも取得できるのかい?」
今川さんがキャディを物欲しげに見つめる。
おや、この人にもこんな一面があったんだ。
ペットとか飼ったらハマりそうな雰囲気を醸し出してた。
「今川さんもテイムしてみます? 探索者になることが必須ですが」
「ライセンスなら持ってらぁ。レベルだって6まで上げたぜぃ? スキルっつーのはよくわからんから取ってねぇがな」
「それでいいと思います。テイマーを獲得するのに黒い星が5個要りますから」
「足りねぇな」
「推奨レベルは10からです。それまで幾つかレクチャーしますよ?」
「じゃあ世話になるぜ」
キャディを介しての筍掘りは和気藹々としながら収束した。
筍初めて一応モンスターの枠組みなので上手く仕留めるとレベルも上がるのだ。レベル差から私のレベルは上がらぬが、今川さんはレベルを9まで上げる。
ついでに壁を掘って水晶をいくつか入手した。
壁を掘っても宝石の類は出てこない。
あれは獣系ダンジョンの特徴か。ついでに天井も掘ってみるが何も見つからず。
「器用な子だねぇ」
「私と一緒に行動してたら、いつの間にかこうなってましたね」
「普通はこうならねぇってのかい?」
「テイマーがどう扱うかですね。私は探索の助手として彼を育てています」
「人によっては闘うための手段にもしちまうって事か」
「モンスターに何を求めるかですよね。こう見えてこの子も戦闘はできますし」
「そう言うところは育ての親に似たんだねぇ」
「二重にそう言わせる何かがあるのかい、笹井さんは?」
「ああ、今川さんがVRゲームでのこの方の噂を知らないんでしたね」
教えましょう、と私のしでかしたあれこれを多少盛って話す二重さん。
あなたの方も大概でしょうに。超絶ロマンな武術道場開いて弟子を育ててた創始者を名乗ってた人の口から出てきたものとは思えないやらかしの数々である。
「あっはっは! いやぁ、想像を超えてくるな、笹井さん! そうこなくっちゃ」
「それって褒められてるんです?」
「褒めてる、褒めてる」
「笹井さんは今川先輩の好意の対象ですよ、そこは自信を持っていいです」
「ほんとぉ?」
いまいち信用ならない。ゲームでの師父氏とはあまりにも違うんだもん。
この人案外タヌキだよ。欽治さんで懲りてるのでこれ以上参謀タイプは要らないです。
「まぁ、俺っちもここで一旗あげようだなんて思っちゃいねぇよ。でもな、仲間がいるってわかりゃこんな老骨でもなんかやってやろうって気持ちになる」
「なんだかなぁ、私はマイペースでやってるだけなんですけど」
「人はそれをマイペースだと受け取らないんですよ。あなたの場合は特に」
「担がれてるなぁ、もう少し穏やかに探索させて」
「無理じゃないですか? 孫から絶賛されてる時点で」
「違いねぇ、うちの孫もお前さんを尊敬してたぜ?」
全くもって、要らぬ尊敬だよ。
「今日はこれで上がります。査定をお願いします」
「はーい、少しお待ちください」
先ほどのスタッフの女性が受付の奥から出てきて私達も会釈をする。
「わ、大量ですね。先ほどの事態を引き起こしたチームとは思えない手腕です」
「うちにはプロの筍おじさんがいるからね」
「この中の8割を掘ったのはそこでモブに準じてる人だよ、私じゃない」
「あー、そこは黙って賞賛を受け取るところですよ!」
「嫌だよ、変に私への期待度あげないでよ。毎回こんなに求められるとか地獄だよ」
「こうやって自分の成果を相手に押し付けるのか、そりゃ恨まれるわ」
えー、ここは二重さんが華を持つところでしょ?
「ね、この人毎回こうで。少しくらいならいい気になれるんですけど、毎回この量の情報をポンと気軽に回してくるんです」
「そりゃ厄介だ。いい顔してられるのも最初のうちってわかるな」
「本当に、欲がなさすぎて周囲が迷惑を被るんです」
「良かれと思ってやってることが迷惑になる典型だな。こりゃ付き合いを深めすぎると俺っちも被害に遭うか?」
「まず間違いなく」
そこの二人、被害者意識が高すぎますよ?
合計40個の筍の水煮はキャディを含めて8個づつ分けた。
キャディの餌にはならないみたいなので、私が16個貰った形だ。
あとで孫にあげよう。
「そういえば、ダンジョン内でも炊き出ししてるんでしたっけ?」
「お、摂取していきます?」
「なんだ、その含みのある物言いは?」
まるで薬物の取引現場に遭遇した凄腕刑事の様な形相で今川さんが迫る。
二重さんは慣れたものなのかニコニコしながら説明をした。
「ここではドロップアイテムをダンジョン内で摂取する事でスキルに通じる要素を生み出していく場です。今川先輩の考えてる様なところではありませんよ」
そうして二重さんに案内されて向かった場所は、奇声を上げながら、狙ったステータスアップを目論む探索者のあまり人に見せられない姿があった。
どうみても邪教のミサでも見せられてるかのような不快感が強めな空間。
今川さんじゃなくたって訝しむ。
中には祈りながら筍ご飯をかき込み、ステータスと睨めっこしながらムンクの叫びを上げる者。
もう一方は一心不乱に筍を貪り食う探索者の姿もある。
これで健全な集まりは無理があった。
「この異常者の集まりが一般人だって? まるでこの世の地獄だ」
今川さんの例えは言い得て妙だった。
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