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9話 ウホッ、良い男
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ゴブリンの臭みの原因は血だと気がついたのは100匹目の解体と、照り焼きを作る過程の上だった。
そこで思い至ったのが、スライムコアを使っての血抜き。
ほんの思いつきだったが、臭みの原因である血を全て取り去ったらゴブリンの肝でも食えるのではないか? そんな気がした。
ここ最近アルバイトで貯めたモンスターポイント。
本来なら探索者ライセンスを持たぬ俺には縁遠いものだったが、受付のお姉さんから特別に俺もライセンスを作ってもらったのだ。
これは例外中の例外だと口を酸っぱくしていってくれたが、俺が料理の食材に困らないようにと言う配慮であった。
アルバイトの内容は、一度配信で流したレシピ、それの下処理したものを売ると言うものだった。
最初こそはこんなもの売れるのか? と半信半疑だったが、ほぼ100%スライム食品は受付のお姉さんが買うので、俺のライセンスにモンスターポイントが貯まることとなった。
何せこのダンジョンで出てくるモンスターの殆どが食品に向かないとされている。その原因の最たる理由は臭みだ。
泥ガエルにゴブリン、スライム、ラット、バット。
理由は明確で何を口にしてるかわからないと言うものだ。
血を這いずって泥を啜る連中が大半を占める。
が、身を酒で綺麗に洗って血をスライムで吸わせたら……
「なんか無茶苦茶うまそうな匂いするな……」
卵の黄身をハケで肝に塗り、打ち込んだ串で裏返して炭火の上で踊らせる。
「俺も、これが本当にゴブリンの肝なのか確証が持てなくなってきた」
「最初は酒が勿体無いと思ったが、こうなってくれば話が変わってくるな」
酒は臭い消しでよく使われるので、今回抜擢した。
少しでも美味くなってくれたら、失敗したら辞めようと決めての抜擢だ。
さてこれがどうなるか、運命の瞬間が訪れた。
じゅーーーーー
だが、いざ食べようと思ったら手が止まる。
素材元を知ってるからだ。
すぐそばに死体も転がっており、なんならその隣にはぐつぐつ煮込んだゴブリン肉のモツ煮もある。それ以外はモツ含めて全部穴に埋めてあるが……どうするか。
「ヨッちゃん、先に行けよ」
「いやいや、ここは作り手が先に行くべきだろ」
お互いに割を食いたくないと言う意地の張り合い。
食べれば美味いと言う感触は掴めるが、ゴブリンだしなぁ、と言う感情が上回ってダメだった。
そこで……
「なんだい、食べないんなら俺がいただくぜ!」
そんな声が横合いからかけられ、串が炭台から一つ攫われた。
行方を目で追うと、そこにはいつの間にか現れた大男。
髭面で、威圧感もすごい。筋肉だるまという言葉がよく似合いそうな男がいた。
ヨッちゃんは知り合いなのか「なんでここにこいつがいるんだ?」みたいな顔をしている。
「んめー! なんだこいつは! それとレベルが上がった!? こいつが俺の適合調理か!」
「支部長!? 遠征に行ってたはずじゃ!」
「何やらハプニングがあったみたいでな。打ち切って帰ってきたよ」
突如現れた大男に呼びかけるヨッちゃん。
「知ってるのか、ヨッちゃん?」
「この人が武蔵野市ダンジョンセンターの支部長、卯保津飯男さんだ」
「あだ名で呼ぶんじゃねぇよ、アホ。卯保津飯男だ。嬢ちゃんから噂は聞いてるぜ? あんた、調理の腕は凄いんだって? 面白いやつが探索者になったって聞いてな! こうやってツラを拝みにきたんだが……ちょうど良かったな」
卯保津さんはそう言いながら食べ損ねた二本目の串を奪い去ると、そのまま口に入れて咀嚼する。
美味いんだ、それ。
支部長になるくらいの相手が認める味だ。
舌も肥えてるだろう相手が絶賛したのなら間違いない。
俺は新しい調理の準備を始める。自分たちでも食べようと多めに仕込んだ。
「しかしEランクダンジョンでこんな極上の食材が取れるなんてな。これは一体なんの肉だ?」
「いやー、知らない方が身のためですよ?」
「教えろよ、減るもんじゃねーだろ」
「ゴブリンです」
「冗談はよせ、酒が不味くなるだろ?」
本当のことを言ったら神妙な顔をされた。
そりゃそうだ。誰だって自分の適合素材、ましてや適合調理がゴブリンだなんて聞かされたら怪訝な顔をするだろう。
多分俺もする自信がある。
お酒は常に持ち歩いてる卯保津さんが、素材の名前を聞いて訝しむ。
なまじ自分の適合調理だったのもあり、調理工程はじっくり見ていた。
「随分と丁寧な仕事だ」
「こいつらの血は臭いですからね、満遍なく抜き取ります。すると活発に動く特性から随分と発達したキモが出来上がるんです」
「だが肝臓といえば血液の循環装置。他の食材はどれくらい血を混ぜるかで旨味が変わる部分でもある」
「その血が肝のうまさを帳消しにしちゃうから問題なんですよ」
「素材変われば調理工程も変わるってか」
「俺もまだゴブリンについて知らないことばかりですよ」
「ポンちゃんの料理はゴブリンすら涎を垂らして寄ってくる格別の味わいだからな。ゴブリン肉を甘辛く煮た照り焼きを投げるだけで奴らは同士討ちをしちまうんですよ。そこをオレが魔法でチョチョイと」
ヨッちゃんは得意そうに言う。
肝の黄身焼きが適合調理だったのもあり、ゴブリンが適合食材な卯保津さんはそっちの照り焼きにも興味がありそうだ。
黄身焼きを焼き終えたらおひとついかがです? そう尋ねたら「良いのかい? 悪いね」と綺麗に平らげた。
先入観があって食べてこなかったゴブリン肉は意外とあっさり目で美味しい味わいだった。
カエル肉がよく鶏肉に例えられるが、血を抜いたゴブリン肉はもっと上質な味わいだ。
酒で身を洗ったのが良かったのか、今度からゴブリンを汚いモンスターだと見られなくなる俺たちだった。
その後卯保津さんとは仲良くなり、特別に探索者ライセンスを頂いた。
今までは荷物持ちとしてのライセンスに、探索者と料理人二つの項目が書き添えられている。
探索者の方は最低のFがついていたが、空ウツボを捌けることから料理人はBランク相当に上げてくれた。
Bランクといえばモーゼのシェフ達と同じ値だ。
自分なんかが信じられない、と言う気持ちと、このご恩はなんとしても返していかないなと言う気持ちでいっぱいになった。
それと卯保津さんの適合素材がゴブリンである事は俺たちとの秘密になった。
公の場所で食う場合、謎肉と称されるが、何をどう言い繕おうとゴブリンである。
受付のお姉さんに頼まれたアルバイト先でも謎肉ソテー、特に肝の黄身焼きは絶品だともてはやされた。
作り手としては嬉しいが、みんなを騙してるようで複雑な気分だった。
そこで思い至ったのが、スライムコアを使っての血抜き。
ほんの思いつきだったが、臭みの原因である血を全て取り去ったらゴブリンの肝でも食えるのではないか? そんな気がした。
ここ最近アルバイトで貯めたモンスターポイント。
本来なら探索者ライセンスを持たぬ俺には縁遠いものだったが、受付のお姉さんから特別に俺もライセンスを作ってもらったのだ。
これは例外中の例外だと口を酸っぱくしていってくれたが、俺が料理の食材に困らないようにと言う配慮であった。
アルバイトの内容は、一度配信で流したレシピ、それの下処理したものを売ると言うものだった。
最初こそはこんなもの売れるのか? と半信半疑だったが、ほぼ100%スライム食品は受付のお姉さんが買うので、俺のライセンスにモンスターポイントが貯まることとなった。
何せこのダンジョンで出てくるモンスターの殆どが食品に向かないとされている。その原因の最たる理由は臭みだ。
泥ガエルにゴブリン、スライム、ラット、バット。
理由は明確で何を口にしてるかわからないと言うものだ。
血を這いずって泥を啜る連中が大半を占める。
が、身を酒で綺麗に洗って血をスライムで吸わせたら……
「なんか無茶苦茶うまそうな匂いするな……」
卵の黄身をハケで肝に塗り、打ち込んだ串で裏返して炭火の上で踊らせる。
「俺も、これが本当にゴブリンの肝なのか確証が持てなくなってきた」
「最初は酒が勿体無いと思ったが、こうなってくれば話が変わってくるな」
酒は臭い消しでよく使われるので、今回抜擢した。
少しでも美味くなってくれたら、失敗したら辞めようと決めての抜擢だ。
さてこれがどうなるか、運命の瞬間が訪れた。
じゅーーーーー
だが、いざ食べようと思ったら手が止まる。
素材元を知ってるからだ。
すぐそばに死体も転がっており、なんならその隣にはぐつぐつ煮込んだゴブリン肉のモツ煮もある。それ以外はモツ含めて全部穴に埋めてあるが……どうするか。
「ヨッちゃん、先に行けよ」
「いやいや、ここは作り手が先に行くべきだろ」
お互いに割を食いたくないと言う意地の張り合い。
食べれば美味いと言う感触は掴めるが、ゴブリンだしなぁ、と言う感情が上回ってダメだった。
そこで……
「なんだい、食べないんなら俺がいただくぜ!」
そんな声が横合いからかけられ、串が炭台から一つ攫われた。
行方を目で追うと、そこにはいつの間にか現れた大男。
髭面で、威圧感もすごい。筋肉だるまという言葉がよく似合いそうな男がいた。
ヨッちゃんは知り合いなのか「なんでここにこいつがいるんだ?」みたいな顔をしている。
「んめー! なんだこいつは! それとレベルが上がった!? こいつが俺の適合調理か!」
「支部長!? 遠征に行ってたはずじゃ!」
「何やらハプニングがあったみたいでな。打ち切って帰ってきたよ」
突如現れた大男に呼びかけるヨッちゃん。
「知ってるのか、ヨッちゃん?」
「この人が武蔵野市ダンジョンセンターの支部長、卯保津飯男さんだ」
「あだ名で呼ぶんじゃねぇよ、アホ。卯保津飯男だ。嬢ちゃんから噂は聞いてるぜ? あんた、調理の腕は凄いんだって? 面白いやつが探索者になったって聞いてな! こうやってツラを拝みにきたんだが……ちょうど良かったな」
卯保津さんはそう言いながら食べ損ねた二本目の串を奪い去ると、そのまま口に入れて咀嚼する。
美味いんだ、それ。
支部長になるくらいの相手が認める味だ。
舌も肥えてるだろう相手が絶賛したのなら間違いない。
俺は新しい調理の準備を始める。自分たちでも食べようと多めに仕込んだ。
「しかしEランクダンジョンでこんな極上の食材が取れるなんてな。これは一体なんの肉だ?」
「いやー、知らない方が身のためですよ?」
「教えろよ、減るもんじゃねーだろ」
「ゴブリンです」
「冗談はよせ、酒が不味くなるだろ?」
本当のことを言ったら神妙な顔をされた。
そりゃそうだ。誰だって自分の適合素材、ましてや適合調理がゴブリンだなんて聞かされたら怪訝な顔をするだろう。
多分俺もする自信がある。
お酒は常に持ち歩いてる卯保津さんが、素材の名前を聞いて訝しむ。
なまじ自分の適合調理だったのもあり、調理工程はじっくり見ていた。
「随分と丁寧な仕事だ」
「こいつらの血は臭いですからね、満遍なく抜き取ります。すると活発に動く特性から随分と発達したキモが出来上がるんです」
「だが肝臓といえば血液の循環装置。他の食材はどれくらい血を混ぜるかで旨味が変わる部分でもある」
「その血が肝のうまさを帳消しにしちゃうから問題なんですよ」
「素材変われば調理工程も変わるってか」
「俺もまだゴブリンについて知らないことばかりですよ」
「ポンちゃんの料理はゴブリンすら涎を垂らして寄ってくる格別の味わいだからな。ゴブリン肉を甘辛く煮た照り焼きを投げるだけで奴らは同士討ちをしちまうんですよ。そこをオレが魔法でチョチョイと」
ヨッちゃんは得意そうに言う。
肝の黄身焼きが適合調理だったのもあり、ゴブリンが適合食材な卯保津さんはそっちの照り焼きにも興味がありそうだ。
黄身焼きを焼き終えたらおひとついかがです? そう尋ねたら「良いのかい? 悪いね」と綺麗に平らげた。
先入観があって食べてこなかったゴブリン肉は意外とあっさり目で美味しい味わいだった。
カエル肉がよく鶏肉に例えられるが、血を抜いたゴブリン肉はもっと上質な味わいだ。
酒で身を洗ったのが良かったのか、今度からゴブリンを汚いモンスターだと見られなくなる俺たちだった。
その後卯保津さんとは仲良くなり、特別に探索者ライセンスを頂いた。
今までは荷物持ちとしてのライセンスに、探索者と料理人二つの項目が書き添えられている。
探索者の方は最低のFがついていたが、空ウツボを捌けることから料理人はBランク相当に上げてくれた。
Bランクといえばモーゼのシェフ達と同じ値だ。
自分なんかが信じられない、と言う気持ちと、このご恩はなんとしても返していかないなと言う気持ちでいっぱいになった。
それと卯保津さんの適合素材がゴブリンである事は俺たちとの秘密になった。
公の場所で食う場合、謎肉と称されるが、何をどう言い繕おうとゴブリンである。
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