ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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38話 老舗の味

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 屋台を始めたことをダンジョンセンターで触込みしたおかげか、大勢の人が来てくれた。

 朝はダンジョンの入り口で。

 昼に素材の仕入れと仕込みで夕方にまたダンジョンの入り口で店を構える感じにしたら、見るからに探索者ではない人たちも酔ってくれる。

 その中で一際厳つい「親方!」と言う風貌の方が俺の前で菓子折りを差し出した。

「ありがとう、あんたが発見してくれたスライムシュガーのおかげでうちの店を建て直せる」

「頭を上げてください。まずはお話をお聞かせください。粗末な場所ですがどうぞ」

 人によっては粗末と取られかねないパイプ椅子に腰を落ち着かせ、水を一杯差し出す。

 ちょうどヨッちゃんが出払ってる時の来客だ。
 口下手な俺はどう対応すべきかと悩んだ末に話を聞くことにした。

 店、と言う様に何かを販売しているのだろう。
 業種こそ違うが、そこに何かヒントが隠されてるのかもしれない。

 そう思い、菓子折りを開けると底辺の俺でも知ってる老舗の和菓子屋の栞が現れた。

 中には羊羹と饅頭、練り切りが入れられていた。
 どれもプロの技だ。俺には想像もつかない技量によって作られてることがわかる。

「粗茶ですがどうぞ」

「すまないね……! うん? これを粗茶だなんてとんでもない! どんな高級な茶葉でもこの深みは出せないよ? この茶葉は一体!?」

 この探究心、間違いない。
 俺と同じ料理バカだ。

「新しい階層で発見されたヒカリゴケを生やしたスライムから生成された茶葉です。ここにゴーストソルトをひとつまみ。すると心がホッとする味わいが生まれるんです。俺はまだまだこの界隈では新参もいいところです。親方ならこの素材をどう生かします?」

「こんな繊細な味わいなものは混ぜ物にはあわねぇ。私ならもっと濃く煮出して……煮出すことは可能かい?」

「ここに素材があります。ご自由にお使いください」

 粉末状の抹茶は缶に保存してある。
 親方にそれを差し出すと、変なことを心配されてしまった。

「見知らぬ他人を厨房に入らせていいのか?」

 親方曰く、ありえないという顔。

「盗まれて困るものはありませんから」

「懐が深いのか、はたまた不用心なのか。なんとも心配だねぇ。だがこんな機会は滅多にない。邪魔させてもらうよ」

 親方は調理場に立つと先ほどまでの気さくな気配を消失させ、職人の顔つきになる。

 苔スライムの粉末を持ち上げ、香りを嗅ぎ、ゴーストソルトを指に置いて一舐めする。

「ああ、こいつは凄いな。こんなすごい食材、私ならどう使うか……鍋を借りても大丈夫かな」

「ええ、自由にお使いください。ガスはダンジョンセンターから魔道コンロをお借りしてます。直接火は出ませんが、ガス台と同じ様な熱は入るはずです」

「では借りるとしよう」

 そう言って親方はコケスライムパウダーを鍋の上で炒り始めた。

 程よく熱し、余分な水分を飛ばすのだ。
 同時に香味をつけたし、それだけでさっきまでのパウダーと違う風味が生まれた。

「水は……」

「ダンジョンの湧き水を煮沸消毒して使っています。ミネラルウォーターが良ければ買ってきますが?」

「そこまでする必要はない。湧き水を使おう。この水はそのスライムの生息地の近くから汲んできたものかね?」

「はい。何か美味しさの関連があればと思い汲み出しました」

「良い着眼点だ。私でもそうする。煮沸の具合もちょうど良い、これをいただこう」

 親方の目が青く光る。
 何かのスキルだろうか?

 総合ステが高い人は生まれながら特殊なスキルを持つと言う。

 炒ったコケスライムの粉末に再度沸騰させた湯を落とす。
 調理器具から新しく取り出したのは刷毛だ。

「これもお借りしよう」

 押し付けながら伸ばし、コケスライムパウダーをペースト状に丁寧に伸ばしていく。

 俺はそのままお茶として提供したが、親方は持ち込んだ茶菓子、羊羹を開いてそれをカット、その表面に塗りつけて皿に盛り付けて俺の前へ配膳する。

「これが俺の最適解だ。あえて深く苦めに作ったのはこの甘味と合わせるためだった。一口舐めた時、この最終形が見えた」

 こんなことは初めてだと言った。
 俺自身も、差し出された手前拒否するわけにも行かずにいただく。

「!」

 最初に深い苦味が口の中を覆い、あまりの苦さにむせ返りそうになる。
 しかし噛めば羊羹の優しい甘さがそれを覆した。

 一噛み、二嚙みするたびに最初の苦味が嘘の様に消え、羊羹のいいアクセントとして味変していく。
 最後には程よい甘味と風味が口の中に残った。

「ありがとう、生涯の最高傑作がまた一つ誕生した。君には感謝しても仕切れないよ」

「いえ、お役に立てて何よりです。それでお話とは?」

「おお、そうだった忘れてた。実は私は失業一歩手前の職人でな。近年は何かにつけてダンジョン、ダンジョンだ。しまいにはダンジョン食材のない商品に価値はないと新規顧客を獲得できずじまいで……」

 老舗の看板を下ろそうと、決意していたそうだ。

「ですが看板を下さずに済んだ訳ですね?」

「ああ、君の発掘したスライムシュガー、それとゴーストソルトが私の店を救ってくれた。適合食材を調味料に変化させたのは君ではないと知っているが、その当事者が君のことをとてもよく褒めていた。ならば私も命を救われた身として謝礼をすべきだとこうして参ったわけだが」

「また新しい新商品のヒントを掴みましたか?」

「恐ろしいことに、まだまだ私の創作意欲の泉は枯れていない様だ。帰って試作を作りたくてうずうずしているよ。そうだ、先ほどの商品名はなんと言ったかな?」

「製品番号113-コケスライムパウダーです。ダンジョンセンターで取り扱ったばかりですので、在庫は少ないと思いますが」

「何から何までありがとう。困ったことがあったらいつでもここに連絡をくれ。さぁ、忙しくなってきた!」

 そう言って親方は風の様に去っていった。
 入れ替わる様にヨッちゃんが帰ってくる。

「あれ? 誰か来てたのか?」

 テーブルの上の菓子の包み紙を見て声をかけてくる。

「うん、クララちゃんの調味料で閉店間際の店が救われたって」

「それでなんでポンちゃんのところに来るんだ?」

「律儀な人だったんだろうね。わざわざ俺のところにまでお礼しに来てくれてさ」

「あ! このメーカー知ってる! 虎八じゃん! ここの羊羹はいつか食ってみたいと思ってたんだよなー。なぁ、貰いもんなら一個食っていいか?」

「いいよ。それはそうともっと上手い食い方があるんだけど試してみるか?」

「お、ポンちゃんの閃きか?」

「俺のじゃないんだけどさ」

 親方の真似をして刷毛でペースト状にしてから羊羹に塗りたくって提供する。
 炒り方は俺なりに似せたが、果たしてどうだ?

「苦っ!」

「あー、やっぱり」

「でも羊羹の甘さが全てをかき消してくれる」

「最初の苦味は?」

「あれ? いつの間にか消えてんな。むしろ甘すぎずに食べれていいアクセントになってる?」

 親方ほどの腕前には至れないが、まずは及第点てところか。
 甘味への道はまだスタート地点にも立っていないが、いずれそっちのレパートリーも増やしてみたいと思うのだった。
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