ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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69話 値段設定の重要性

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「いやぁ、久しぶり。ようこそ新潟へ。昨日の配信も見てたよ」

「お久しぶりです、九夜城さん」

 以前探索者に誘われて訪れた新潟でお世話になったのがこの人。九夜城郁衣くやじょういくいさん。

 当然Aランクに上がる時にもお世話になっている。
 そして今日も、新潟のAランクダンジョンを世話して貰うために来ていた。

「あれから数ヶ月。Dだった人間がもうAか。時の流れは早いもんだ。まぁ、待たせてる人間が居るってんなら仕方ない。じゃあ、新潟県内のダンジョン情報を教えるな?」

 まずは糸魚川に1つ。長岡、柏崎に1つ。新潟市に一つ。と言うことらしい。

 新潟自体が縦に長いので、県内でも4つAランクダンジョンを内包してると聞いて驚く。

 オリンが言うにはここもゴロウの管轄内。
 その中で宇都宮だけ以上に成長してたのは、そう言う呪いがかかってたかららしい。

 オリンのダンジョンは平気なんだろうか?

 そう尋ねると「心配は無用じゃ。誰かさんがダンジョン内で飲み食いしてくれるおかげでエネルギーは溜まる一方じゃしの」とこぼしていた。

 そういえばゴロウの管理もオリンが統括してるんだったか。

 本人曰く、俺がエネルギーを使わないせいで余って余って仕方ないらしいが、ちゃんと割り振ってるんだろうか? そこだけが心配である。

「それとこれは以前から言おう言おうと思ってたんだけどね?」

「なんでしょう?」

「あまり技術の安売りはしないほうがいいよ。君の配信、普通にツッコミどころ満載だからね?」

「はぁ……」

「あ、この顔は分かってないな? 君からも言ってやってよ、ヨッちゃん。ポンちゃんの料理の腕前はもうとっくに一流だって。腕を振るう機会があればそこらの三つ星レストランにだって匹敵するってさ!」

「え、それはいいことなんじゃねーの?」

「ダメだ、この子も話が通じないタイプだ! そうよねー、F生まれだもんねー、自分の腕に自信がないのはわかるよ。でもね、新潟の料理人、主にレストラン界隈では閉店が相次いでる。原因は君だよ、ポンちゃん」

「俺が、ですか?」

「そうだね。自分のところより上手い料理が、ただの視聴者サービスで、安価で配られてみろ。客はもう寄り付かなくなるぞ?」

「だって数量限定ですよ? それに一つ所にいるわけでもないですし」

「チッチッチ。甘いなぁ、君の考えは何においても甘すぎる。君の料理ってね、また食いたくなる依存性があるんだ」

「あー、わかる」

 真面目な顔でお話中に、ヨッちゃんが適当に相槌を打つ。
 それを白い目で見ながら九夜城さんが続けた。

「と言うことで設定値段の見直しからよ!」

 そういって、俺たちの飯に経理がついた。

 素材の基本的な値段、市場価値から基づいて値段が割り出される。

 昨日食べた俺流ブラック焼きそばは単価70万に据え置かれ、おまけにつけた空ウツボの味噌漬けなんかは50万の値段がついた。

 昨日真っ先に買い付けたこの人が改めて食べた上で納得した値段だという。そこで経理を雇い、扱った素材を換算した上でこの数字というわけだ。

 今まで当たり前のように食ってたこの食品、まさかこんな高い食い物だとは気にもしなかった。

「以降、うちの部署に置く君の料理はこの値段で行く。他の部署は君の言い値が通ったかもしれない。けどね、それは君や買い手が良くても、レストランには大打撃なんだ。なんせ閑古鳥が鳴くきっかけだからね。私の実家は大衆レストランだった。君がこっちに遠征してきたとき、名物のブラック焼きそばを盛り上げてくれて感謝してた一方で、客が全部取られたと嘆いていたもんさ。理由はわかるかい? 君があまり料理の値段にこだわらずに安いお金でポンポン放出するからさ。店をやっててその値段で勝負されたら誰も敵わない。そしてその値段で食えるとなったら、近場の高い店を利用しようなんて思わなくなる。大衆食堂なんてモロにその憂き目にあっちまうのさ」

「そう、だったんですか。俺は今までとんでもないことをしてたんですね。今から何か挽回する手立てはありますか?」

 九夜城さんはその言葉を待ってました! とばかりに頷く。

「さっき言った通り、ポンちゃんの腕前は一流だ。だからここは各レストランとコラボして、そこでしか食えないポンちゃん監修の限定メニューをそこのレストランの値段設定で提供させる。これで失った客足は戻ってくるはずだ」

「なるほど。でも全部の店舗は回れませんよ?」

「全部じゃなくてもいいさ。大手レストランの立て直しと、基本的な価格の見直し。それに視聴者サービスそのものを無くせって言ってるんじゃない。それは今まで総理あってもいいが、今まで通りはやめて、元の値段から割引程度に済ませるように。君は自覚がないけど、打倒ポンちゃんを掲げてる料理人は結構いるぞ?」

 え、そうなの?

「Fランクだった頃は捨て置かれてたけど、今やAランク。目の上のたんこぶのように煙たがられてるよ。なじるにもなじれない厄介な成長したって」

 それは俺のせいじゃないよね?
 相手側の問題だ。
 それまで俺のせいにされたらたまったもんじゃない。

 というわけで、ダンジョンアタックを終えた後、実家のレストランにオリジナルレシピの提供という名のレストラン立て直し計画が始まった。

 要は地域おこしの一環だ。

 地域おこしせざるを得ない原因が俺だと言われた時は困惑したものだが、店主の対応でそれが嫌というほどわかった。

 九夜城さんのお母さんはすでに腰の曲がったお婆さん。

 この人が一人で切り盛りしていたという現場の環境を目の当たりにし、自分でとんでもないことをしていたと嫌でも痛感する。

 そうだよな、レストランだからって全員が自分と同じ年齢じゃない。場所によってはもっとお年を召した人だっている。

 そんな人から客を奪ったら、料理をする楽しみを奪われたら、自分の立場で考えたら、嫌だ。

「初めまして、九夜城さん。本宝治と言うものです」

「話は娘から聞いています。随分と美味しい料理を作るとかで」

「自分では、ただやれることをやっているだけなんですけどね。いつしか皆さんから絶賛されていました。ただその絶賛のされ方が過剰だった点と、同業者にこのような苦労をかけているなんて思いもしなくて……」

「御託はいいよ。それで、うちの食材でどんな仕上げをしてくれるんだい? 見ての通り、うちは貧乏人を相手にしてる下町食堂だよ。あんまり高い素材は仕入れられない」

「そうですねぇ、でしたらこの食材とかどうでしょう?」

「ハイラット? こんなドブネズミが食えるのかい?」

「解体の技術は必要ですが、美味しい部位があるんですよ」

「まずはお手並み拝見だね」

 安く仕入れた素材の解体は、手慣れたものだ。
 今回スキルの使用は見送り、料理人としての腕だけで勝負する。

「へぇ、枝肉にすると普通に食肉に見えるねぇ」

「こいつは腹肉がうまいんですよ。ヨッちゃん、水ー」

「おうよ」

 血抜きをしながらジャバジャバと水洗い。

 ハイラットそのものは野うさぎぐらいのサイズだが、血抜きするとなればそれなりに手間だし作業場も汚れる。

 しかし素材が安くて誰も買わないことから枝肉は安く売られていた。
 殆どが家畜の餌などに使われるが、これをうまく調理するのが今回の俺の仕事である。

「ではこちらの味噌と、卵をお借りします」

「味噌漬けかい?」

「どちらかと言えば味噌煮込みですね。主人、黄身焼きと言う技法はご存知で?」

「もちろん知ってるよ。うちは安くてうまいものを提供する店だからね」

「ならば知っておいてください。この食材はこれ次第で化ける。ゴブリンやラットを食ってきた俺が言うんですから間違いありません。今でこそ、扱う食材が高級品になりつつありますが、本当はもっと安い食材をうまく食うのが趣旨だったんです」

「へぇ」

 道を間違えたつもりはない。成長過程で周囲からの期待が俺たちの技術より先に高まっただけだ。
 そもそも、高級かどうかなんて周りが言ってるだけ。

「出来ました」

「これで仕上げかい?」

「俺のメニューは基本的に男飯、大雑把なものが多いんです。基本的に形に拘らず、規格もない。自分たちで食べるようが発祥ですから。ここからどうやって提供するかは主人が決めてください」

「そうさねぇ、ワタシならこうするね」

 九夜城さんの手によって、俺の料理がみるみるとこの店のスタイルへと塗り替えられていく。

 それは盛り付けだったり、切り分けられ方だったり。
 随分と様変わりする感じだ。

「まるで別もんだなぁ、ポンちゃん」

「本当に、店によってはさまざまなんだと痛感するよ」

「こんな感じで、材料費に手間賃、締めて単価2,500円くらいかね?」

「高くないですか?」

 ハイラットの市場相場は一匹300円。
 その一匹からこの料理にできる数だけ考えても明らかに値段が高すぎると感じた。

「そうさねぇ、うちの店に置くにしては高い。でも世間一般に出回る高級食品はこの程度じゃない。一食100万~なんてのもザラさ。オークメニューなんてそんなものだよ。それを坊や達はいくらで売った?」

「うっ……」

 俺たちはなにも言えなくなった。

 ちなみに、このメニューをわざと高く値段をつけた理由は、最初はこれを目当てに食べにきたお客さんに、もっと安くてお腹いっぱいになれる食事もできるよ、と通常メニューを売り込むためでもあるといった仕掛けがあるらしい。

 そこまで考えての値付けもあるのか。
 ただ仕入れ値と調理費のみで計上してたらいいと言うもんでもないらしい。

 俺たちは「ダンジョン美食倶楽部参上!」の幟を店の前に置き、次の店へと足を運んだ。
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