ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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77話 【長岡】深緑ダンジョン2

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 深緑ダンジョンはダイちゃんの実力を試すにはもってこいの場所だった。

 ちょっと捻くれた彼のアイディア「俺ならこうする」は、なんとモンスターにも通用したのだ。

 彼の飾り包丁は、モンスターを活け作りするのが真骨頂。

 要するに神経を残したままの解体だ。
 俺の特殊調理の対極にいる存在。

 これの何がすごいのかといえば、肉を別に確保してから、搾りかすみたいな骨と皮に俺のミンサーを使えばちゃんとミンチ肉が取れるということだろう。

 ここに来て強力な助っ人の参戦に、実力不足など微塵も感じさせぬ圧倒的強者感。

 なんでライセンス取らなかったんだろうと思えば「俺のやりたいことができないから」という我儘な理由からだった。

 このセンスの使い道は、飾り付けだけにするには勿体無いと思うのだが、そこは本人のやる気次第なのかね。

 とはいえ、極度のビビリなのは致し方ないこと。

 一抱えあるほどの果物や、見上げるサイズの昆虫は誰だってビビる。
 俺もビビる。

 さすがAランクに認定される場所だ。
 民間人ご禁制なのも頷ける。

 <コメント>
 :フツーに強いじゃんダイちゃん
 :なんでこんなのが在野に転がってるんだ?
 :高ステ生まれだと職業選びたい放題だからな
 :探索者なんて底辺の仕事だし
 :別に食い扶持あるのにわざわざ命かける意味
 :底辺の仕事を高ステに任せる矛盾
 :昔はダンジョンという脅威に立ち向かう勇者に与えられた仕事だった
 :今は娯楽の部分が強いからな
 :それはCまでの話よ
 :それ
 :Bから別世界だもんな
 :Sなんて今でも英雄扱いよ
 :ステータスがS行かないとなれない雲の上の話はやめろ
 :どっちにしろ底辺の仕事とかいうやつは妬みなんよ
 :食材を現地調達してくれる業者さんには感謝しなさい
 :ポンちゃんたち、業者扱いされてて草

「俺たち業者とかいう感覚ないけどな。割とやりたいことしかやってないと思う。モンスターを捌いて食う。それの余ったやつをお裾分けしてる感じだよな?」

「そうだなぁ。業者っつーのは自分たちの食い扶持を我慢して利益を稼ぐ人たちのことを言うんだろ? オレたちの真逆じゃん」

「俺は業者になるつもりは一切ないけどな」

 それぞれの主張が一方的すぎて、リスナーからは自由人だのなんだの言われた。

 だって別に、これで経済回してるつもりなんてないし。

 業者っていうのは、富井さんやJDSみたいな企業を指すんじゃないの?
 こんな零細経営者とっ捕まえて言う話じゃないって。

「とはいえ、マンドラゴラすら活け作りにしたのは笑ったな」

 そう、彼の技術は声帯を切った上で相手にダメージを負わせた感覚を持たせない超絶技巧にある。

 そいつを『熟成乾燥』で加工した干物はとてもいい出汁がでるのだ。

「マンドラゴラスープ、絶品だったなぁ」

「あれ単品で親父のお吸い物超えてくんの、マジで驚愕だった。俺は何入れてるのか知る由もないんだが、あれは結構な隠し味入ってると思うんだよ」

「へぇ、いつか飲んでみたいな」

「いつでも来いよ。親父がサービスしてくれるぜ?」

 そこは自分で再現するって言わないのがダイちゃんらしい。

 最初から自分は敵わないって思い込んでるのが惜しいよな。

 ダイちゃんのポテンシャルなら十分再現できる、そういう素質はあるんだが気づいてないんだろうなぁ。

 なんせヨッちゃんですら気付いてない隠し味に気づけるのだ。味覚は俺以上にある。

 だがそれを想像する下地が足りてないから自信に結びつかないのだろうな。

「さて、素材集めもここら辺にして。そろそろ最奥に進みますかね」

「よっしゃ。俺は親父にお土産持って家で応援してるわ。俺が一緒に受付通ったらまずいだろうし」

「そうしてくれ。親父さんによろしくな」

「あいよ」

 景気のいい声で屋台の奥へと消えていくダイちゃん。

 本当は彼の技術で助けて欲しい部分もあった。

 俺のミンサーやヨッちゃんの魔法では届かない痒いところに、彼の技術は届くから、戦闘に参加してくれたら心強いと思っていたのだが……

 世間一般の視点で見たら素人をボス部屋に連れていく非人道。

 カメラを回してる以上、それが表に出回る以上、無理はできないのは承知のことだった。

 ダイちゃん、ライセンス取ってくれないかなぁ?

 そうすれば俺たちも楽できるのに。
 神経を残したままの解体っていうのは、俺たち以上に小回りが利くスキルなのを、もっと自覚して欲しいものだ。

「さて、やりますかね」
 
「ボス見て、余裕があれば誘拐するか?」

 <コメント>
 :誘拐は草
 :ボスが被害者なのはダンジョンあるあるだけど、それができるのはゴリラだけだったし
 :屋良さんをゴリラ扱いするのはやめろ!
 :中身美少女だからな
 :え、あの人女性だったの?
 :メスゴリラ定期
 :女性をメスっていうな! かわいそうだろ
 :ゴリラなんだよなぁ
 :基本ウホしか言わないんだぞ?
 :それはゴリラだわ
 :ウホウホ

 深緑ダンジョンのボスは、さまざまなフルーツを実らせた大きな木。

 エレメンタルツリーと呼ばれるものだった。
 物理的に埋まってるので誘拐は無理かなぁ?

 <コメント>
 :有識者、これなぁに?
 :エレメントツリーってやつだな
 :オーク種の特殊派生
 :植物系モンスターの王様だ
 :攻撃手段はマップ全体上空からエリアモンスターを降らせての場外乱闘
 :その上で自分の木の実を投げつける
 :木の実が果実型モンスターな時点で有害モンスターよ
 :なお、マンドラゴラも果実として投擲される
 :害悪モンスターじゃねぇか!
 :腐ってもAランクの階層主だからな
 :ボスなのでその呼び方は不適当
 :階層主であってる。このダンジョン、二層式だから
 :何それ?
 :普通の洞窟タイプと自然タイプの融合ダンジョンって意味
 :だから階層主?
 :そう
 :普通は上層の自然マップで果実拾って生計立ててるやつが多いよな
 :下層まで行くのは踏破目的のS志望の奴らだけ
 :ポンちゃんたちは両方嗜んでるけどな
 :ちなみに害悪モンスだけど、手順さえ踏めば有能モンス
 :どうして?
 :探しても見つからない希少種含めて降ってくるから
 :マジックポーチ持ちは一攫千金しにここくるよな
 :なお、ポーチパンパンになっても攻略できるかかどうかは実力が試される
 :なお、ポンちゃんたちは脱獄が可能
 :おっと
 :これはわからなくなりましたね

「いや、いい情報をありがとうね。食材パニックか」

「ダイちゃん欲がしかったな」

「本人にその気がないのに誘うのも悪いし、ここは俺たちで乗り越えよう」

「しゃーなしか」

 いざ、実戦。

 開幕から人海戦術、ならぬ虫海戦術。

 雪崩れ込んでくる虫を切った張ったしてる上空から落下してくる果実系モンスター達。

 四方八方から襲ってくるのもあり、安全圏の確保が最重要なヨッちゃんは詠唱をなん度も中断させられて苦戦している。

 俺が前に出て戦えれば良いんだけど、そう言う戦い方はして来なかったので、劣勢だ。

「いて! こいつらぁ! いいかげんにせいやぁ!」

 怒気と共に放たれたアースブラスト。
 食材は全滅。
 食べるためより、今はこのピンチを乗り越えるのが先だ。

 勿体無いと言う気持ちは喉元まで出かかったが、すんでのところで飲み込んだ。
 料理も冒険も、命あっての物種だ。

「オリン、邪魔なものは吸収。一気に畳み掛ける!」

「キュッ(程々にの?)」

 程々にしたら、こっちが負けかねないので無論全力だ。

 握る包丁、飛びかかってくる昆虫の洪水。

 波に乗るように一直線にボスの元まで辿り着く。
 通った後は手足や胴体を切断されたモンスターが転がるが、生憎と解体してる余裕はなかった。

 <コメント>
 :つえー
 :どう見ても推奨人数10人以上です
 :二人で挑む系統のボスじゃない件
 :ヨッちゃんが防戦一方だ
 :タンカー欲しいよな
 :《大輝》じれってぇなぁ、あの場に俺がいれば助けてやれるのに
 :大輝は探索者じゃないので無駄死にするだろ
 :そうだぞ、そこはプロに任せとけ
 :《大輝》別に探索者なんて興味ねーし
 :じゃあどうして助けられるって思うんだよ
 :《大輝》手応えが残ってるんだよ。まだ俺の手の中に……

 何やらダイちゃんが葛藤してるっぽいが、そんなのに構ってられないほどの劣勢。

「熟成乾燥!」

 エレメントツリーの木の根元に向けてスキルを使う。

「ギギャァアアアアアア!!?」

 効果は覿面。真上から降ってくる果実が止まった。
 つまりエネルギーを必要とするってことだ。

「ヨッちゃん! 相手の弱点がわかった。土の中だ! 凍らせられるか!?」

「よっしゃあ!!」

 虫も植物も、寒さには弱い。

 俺は駆け回りながらモンスターの手足を切って行動不能にし、その隙にヨッちゃんが空間ごとビールを冷やすみたいにキンッキンにした。

 明らかに動きの悪くなるモンスター達。
 ちなみに俺たちの動きまでぎこちない。

「無理すんな、ポンちゃん」

 灯される熱。
 俺だけ自由を取り戻し、勝敗は決した。

 これは誘拐するとかそれ以前の食材だ。
 なので本体ごと熟成乾燥して持って帰った。

 あの大きさのものが、一抱えほどの塊になるんだからおかしなスキルである。
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