ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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105話 海外への進出

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 数日間の休暇を経て、俺のDフォンにミィちゃんから依頼があった。

 今まで立て込んでいた要件が全て終わったので、これから滞りなく呼べるようになったのだという。

「何か裏で手を回してくれてたんだって?」

『こちらで用意していたのは確かにありましたが、洋一さんは全て自分で解決してしまったので、サプライズし損ねました』

 とのこと。
 どうも俺たちがすんなりAからSになる手筈を整えてくれていたのだそうだ。

 それは悪いことをした。

 Sに上がるのにはそれなりの信用を得なければならないらしく、中には世界のSランクから腕前を認めてもらうなどのコネも必要だったらしい。

 俺はそんな理屈も知らないでSになっちゃったからね。

「でも、おかげさまでSまでたどり着けたよ。当日が楽しみで仕方ない。その日までにたっぷり調味料を仕込んでおくね」

『食材の方は仕込んでおかなくて大丈夫なんですか? 結構日本ダンジョンのモンスター食を楽しみにされてるメンバーも多いので』

「それは注文すればお取り寄せできるからね。それともダンジョンの地域が変わればモンスターの種類も変わるのかい?」

『そう言うわけではありませんが、私の好物はどうも日本にしか生息してない希少なモンスターらしくて』

 そうなんだ? じゃあ同じ適合食材を持つヨッちゃんも同様か。

 なんでわざわざ日本にまで食べにきていたのか納得する。
 モンスターそのものがレアだったのか。それは思いもよらなかった。

「なら事前に大量に仕入れておくよ」

『お手数をおかけしてごめんなさい』

「いいのいいの、ウチのヨッちゃんも適合食材それだし。ついでみたいなものさ」

『あたしのほうがついで……ですか?』

 妙な言い回しをするなぁ。

「ヨッちゃんの好物を回収するついでに多く仕込んでおく、と言うのは理由にならないかな? それともミィちゃんのためにたくさん用意しようか?」

『─────!』

 こうやって直接的に言うと固まっちゃうのは他ならぬ彼女の方なのにね。

「じゃあいろんなレパートリーをヨッちゃんを実験台にして増やしておくよ、楽しみにしててね」

『ふぁい……』

 結局脳内で処理できずに普段の彼女らしさが消えちゃうんだよね。

 一体俺のどこにそんな魅力があるのやら。
 好かれてるのは、まぁ嬉しいんだけどさ。

 Sランクに登って、少しは釣り合いが取れてたらいいんだけど。





 ダンジョンセンターに寄ると、ジュリがすっかり窓口のアイドルとしてもてはやされていた。

『旦那様! どうです? 私の人気っぷりは。すっかり人々をたらしこめてますよ?』

 褒めて欲しそうに俺の足元に擦り寄った。
 拾い上げ、定位置に乗せる。

 すっかり俺の頭の上がお気に入りだ。
 重くはないが、周囲からの視線がやけに気になる。

「あ、猫ちゃん……」

 新人なのだろう探索者は、俺の頭にさっきまで愛でていた猫が移動してしまったことを悲しそうに見送った。

 さっきまで自分の手元にいたのに、俺が現れるなり手元から離れてしまった事実を認めたくないといった感じだ。

「ウチのジュリを可愛がってくれてありがとうな」

『ご主人様、私の入念なリサーチで、この地域の特殊加工スキル持ちに唾をつけておきました。これで彼ら彼女らがスキルを使う度に私たちにエネルギーが回ってくる仕組みを作り上げました。すごいでしょう?』

 こいつ、余計なことを。

 どうやら尻尾を振っていた相手は高確率で加工スキル持ちとのことだ。
 縄張り的な感覚でダンジョンの都合を押し付けるんじゃありません!

「ちょっと用事ができたからジュリも回収しようとおもったけど、そういえばジュリは探索に必要なかったことを思い出してな。愛でてくれるのを続行してくれて構わないよ」

「いいの!?」

『ちょっとご主人様!? ギニャー!』

 唾をつけたであろう探索者にもミクチャにされながらジュリをその場に置き去った。

 近くにいても、遠くにいても面倒なことをするやつだ。
 これはオリンが信用をおかないのもよくわかる。

 君はそこで反省してなさい。

 それとなくクララちゃんに身体の様子に変化がないかをチェックしに行く。

 将来有望な探索者のスキルも気にはなるが、今はお得意さんのクララちゃんの安全確保が第一だった。

「クララちゃん」

「あ、洋一さん。すっかり人気者ですね」

「人気なのは俺じゃなくてウチの新入りっぽいけどね」

「北海道で拾った白猫ですっけ? なぜか特定の人物に懐く傾向にあるようですが」

「あれはどうも加工スキル持ちにのみ反応するようだ。俺に懐いてるのもそれが原因。クララちゃんのところにも来なかった?」

「きました。たっぷりゴロニャンした後、一気に冷めたみたいに違う人の方にトトトと去ってしまったので」

「きっと匂いでも擦り付けにきたんだろうな。それ以降体調の変化とかない? スキル使用中に妙に疲れるとか」

「特にはないです。なんだったら妙に使用回数の回復が早くなってたりですかね?」

 むしろいい事づくめだと彼女は述べた。

 ただ、どうしてそんな白猫が存在するのかを咎められてしまい、俺は洗いざらい白状した。

 ただしジュリがメタルゴーレムの系統であることだけは伏せて。

 彼女はゴールデンゴーレムの一件以来、適合食材確保に躍起になっているのを知っているからね。

 獲得しても俺達以外の全員が換金一択。

 なんせ末端価格百万だ。
 それを目的としてダンジョンに潜ってる人がほとんどである。

 それをわざわざ調味料に変える物好きはクララちゃんか俺達くらいしかいない。

 そんな状況で語れば、加工一択になってしまう。なのでその正体は明かさないことにした。

「では、オリンの同類だと?」

「うん、それも厄介なことに相当上位の存在で。その上放任主義らしいんだ」

「なんだかあちこちで問題を振り撒きそうな迷惑な存在みたいですね」

「北海道の件ですら、小規模のボヤで揉み消せる案件ぐらいに思ってるレベル」

「アレをですか?」

「俺が英雄だなんて担ぎ上げられる事件ですら、テレビの向こうのお話くらいの感覚だからね。問い詰めたところで私はやってない、部下の暴走だみたいな言い訳ばかりでさ」

「そんなの、仕事ができない人の典型じゃないですか!」

 すっかりこっちの業界に染まったクララちゃんは業務中の卯保津さんを見ながら言った。

「おい、なんで俺を見るんだよ。なぁ?」

「なんでもないです支部長、仕事しててください」

「そりゃないだろう。ポンちゃんからも何か言ってやってくれよ。最近クララが冷たいんだ」

 卯保津さんを片手で追い払って、話を続けるクララちゃん。

 なんだかすっかり上下関係が変わってるように思う。
 気のせいか?

「そう言うわけだからさ、ジュリを見張っておいてくれないか? あいつの悪戯の規模は世界クラスだ。何かあってからじゃ遅いと思ってる。それがこのダンジョンセンターを皮切りに巻き起こされたら、目も当てられない」

「そう言う事情でしたら、お任せください。私はそれなりにこの支部で顔が売れてますからね。最近受付も始めるようになりまして」

「なら、数人ジュリに気に入られてる探索者がいるようだから気にかけてあげて」

「わかりました。洋一さんの帰る場所を絶対に荒らさせたりはしません! 全てこのクララにお任せを!」

 んん? なんだか妙な言い回し。
 ミィちゃんに続いてクララちゃんまで一体どうしたんだ?

「キュ(すまぬのぉ、ジュリ殿の暴挙を止められぬで)」

 肩に乗ってたオリンが囁く。
 今まで不動だったのに、ダンジョンに入るなり急にだ。

 理由を聞けば、唖然とする。

 なんとジュリは日本列島を一時的にダンジョンとして占有、その上でどこかで加工スキルが使われたら察知して世界中を飛び回ってるようだ。

 最終的には俺が補うエネルギーを他所から引っ張ってこようと言う企み。

 その上で各地に広がる隠れ加工スキル持ちをサーチ、拾い上げるなりしてエネルギー取得難易度を下げようと企んでいた。

 オリン曰く、巡り巡って全て俺のためらしい。
 なら、事前に相談でもなんでもしてくれりゃいいのに。

「キュー(あのお方は一番殿しか上におらんでな。人の命令を基本的に聞かん。なんなら指示を出す側特有の傲慢さまで持ち合わせておる。生まれるのが早すぎたんじゃな)」

 自分だったらもっとうまくやれるといわんばかりの態度である。
 まぁ、反面教師にしたって限度があるもんな。

 そりゃ信頼できないか。

「なんだかそうやって聞くとダンジョン側も大変なんだなぁ。これ以上暴走を始める前に、少しだけエネルギーを稼いでおくか」

「キュ(それで止まってくれたらいいんじゃがのぅ)」

 オリンは一抹の不安を抱えるようにキュッと鳴いた。



 そして迎えた全世界出張屋台サービスの日。

 俺たちは見知らぬ土地の見知らぬダンジョン内へと呼び込まれていた。
 そこには傷だらけのモンスターが転がっており、サイズは見上げる程。

『早速こいつの料理を頼むぜ』

『あんたの腕前はミレイから聞いてる。今日はうまい飯を食わせてくれるって聞いて張り切りすぎちまってな』

 その結果が目の前のこれらしい。
 お互いに言語が異なるので、全ての会話を拾うことはできないと思っていたが杞憂だった。

 それというのも事前にミィちゃんから手渡されていたヘッドセットマイク。

 これらを装着してる同士は言語系統に違いがあっても、即座にコミュニケーションが交わせるのだそうだ。

 教育を怠った成り上がりの探索者は世界的に多く、まさに俺にうってつけのアイテムだった。

 数ヶ国語をマスターしてる探索者もいるようだが、スラングも含めると聞き取るのが難しく、結局これに頼ってる人がほとんどだという。

「キュ(あれはグリーンドラゴンじゃのう。SSランクといったところか)」

「早速調理に移りたいと思います。その前に好きな料理をおっしゃってください、できるだけ近いものを仕上げるようにしますので」

 包丁は添えるだけ、目視による斬撃がドラゴンを解体する。
 刃物を使わないからこそできる、理想の解体作業。

 使いすぎると眼精疲労が蓄積する一方だが、合間に食事を挟むだけで回復するのでつまみ食い推奨。

 味を見るのにどうしてもつまみ食いはするので、俺にとっては都合のいい能力だ。

『ホワッツ!? 目の前でこうも解体されていくと、俺たちの苦労が水の泡だな、こりゃ』

『おいおい、ミレイ。あんたの切り札はとんでもない実力なんじゃないか? Sになったばかりとは思えない実力だぜ!』

『こんなのが在野に転がってるだなんてちょっと俄かには信じられないわ』

 マイクの向こうではざわめきが聞こえる。
 なぜかミィちゃんは得意げだ。

 なら失望させないために俺の方も頑張りましょうかね。

「ヨッちゃんは輪切りにしたそいつを湯にぶち込んで臭み消し。オリンは尻尾肉を血抜きしておいてくれ。俺は骨を煮詰めて出汁を取りながら片手間に加工してくから」

「オッケー」

「キュ(任せておれ)」

 見上げるほどに積み上げられたモンスターの死体は瞬く間にその場から消え去った。

 こういう風景こそ、カメラに収めるべきなのだが、流石にカメラをNGにしてる探索者も多いので、こういうところでは回さないようにした。

 探索者は自分の手の内を明かさない。カメラを嫌う探索者の多くは、手の内を暴かれるのを恐れているのだそうだ。

 俺は別に気にならないんだけど、だからって押し付けは良くないもんな。

 郷に入っては郷に従えというやつだ。

 結局俺の解体技術に驚くばかりで料理の候補が上がらなかったので、好き勝手に調理した。

 煮つけ、天ぷら、フライ、ラーメン、うどん、そば、ステーキ。
 凝った料理もいくつかだしたが、食いつきは悪かった。

「どれもこれも本当に美味しいわ。でも、残念なことに彼らはジャンクフードの方が得意みたい」

 ミィちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。

 ジャンクフードにあまり覚えはないが、フライやハンバーガー、ステーキなどと言われたのでそれを提供する。

 そして酒の肴だ。
 これは種類問わずに飛びつく人が多かった。

 日本酒は飲みつけないが、ビールやウィスキーは飛ぶように売れた。

 中でもマンドラゴラ酒は大変珍しがられた。
 正体を明かした後の盛り上がりようは今でも忘れられない。

 霊薬の材料を酒にかえる富井さんは彼らの中で新たな伝説を作っていた。
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