105 / 173
105話 海外への進出
しおりを挟む
数日間の休暇を経て、俺のDフォンにミィちゃんから依頼があった。
今まで立て込んでいた要件が全て終わったので、これから滞りなく呼べるようになったのだという。
「何か裏で手を回してくれてたんだって?」
『こちらで用意していたのは確かにありましたが、洋一さんは全て自分で解決してしまったので、サプライズし損ねました』
とのこと。
どうも俺たちがすんなりAからSになる手筈を整えてくれていたのだそうだ。
それは悪いことをした。
Sに上がるのにはそれなりの信用を得なければならないらしく、中には世界のSランクから腕前を認めてもらうなどのコネも必要だったらしい。
俺はそんな理屈も知らないでSになっちゃったからね。
「でも、おかげさまでSまでたどり着けたよ。当日が楽しみで仕方ない。その日までにたっぷり調味料を仕込んでおくね」
『食材の方は仕込んでおかなくて大丈夫なんですか? 結構日本ダンジョンのモンスター食を楽しみにされてるメンバーも多いので』
「それは注文すればお取り寄せできるからね。それともダンジョンの地域が変わればモンスターの種類も変わるのかい?」
『そう言うわけではありませんが、私の好物はどうも日本にしか生息してない希少なモンスターらしくて』
そうなんだ? じゃあ同じ適合食材を持つヨッちゃんも同様か。
なんでわざわざ日本にまで食べにきていたのか納得する。
モンスターそのものがレアだったのか。それは思いもよらなかった。
「なら事前に大量に仕入れておくよ」
『お手数をおかけしてごめんなさい』
「いいのいいの、ウチのヨッちゃんも適合食材それだし。ついでみたいなものさ」
『あたしのほうがついで……ですか?』
妙な言い回しをするなぁ。
「ヨッちゃんの好物を回収するついでに多く仕込んでおく、と言うのは理由にならないかな? それともミィちゃんのためにたくさん用意しようか?」
『─────!』
こうやって直接的に言うと固まっちゃうのは他ならぬ彼女の方なのにね。
「じゃあいろんなレパートリーをヨッちゃんを実験台にして増やしておくよ、楽しみにしててね」
『ふぁい……』
結局脳内で処理できずに普段の彼女らしさが消えちゃうんだよね。
一体俺のどこにそんな魅力があるのやら。
好かれてるのは、まぁ嬉しいんだけどさ。
Sランクに登って、少しは釣り合いが取れてたらいいんだけど。
ダンジョンセンターに寄ると、ジュリがすっかり窓口のアイドルとしてもてはやされていた。
『旦那様! どうです? 私の人気っぷりは。すっかり人々をたらしこめてますよ?』
褒めて欲しそうに俺の足元に擦り寄った。
拾い上げ、定位置に乗せる。
すっかり俺の頭の上がお気に入りだ。
重くはないが、周囲からの視線がやけに気になる。
「あ、猫ちゃん……」
新人なのだろう探索者は、俺の頭にさっきまで愛でていた猫が移動してしまったことを悲しそうに見送った。
さっきまで自分の手元にいたのに、俺が現れるなり手元から離れてしまった事実を認めたくないといった感じだ。
「ウチのジュリを可愛がってくれてありがとうな」
『ご主人様、私の入念なリサーチで、この地域の特殊加工スキル持ちに唾をつけておきました。これで彼ら彼女らがスキルを使う度に私たちにエネルギーが回ってくる仕組みを作り上げました。すごいでしょう?』
こいつ、余計なことを。
どうやら尻尾を振っていた相手は高確率で加工スキル持ちとのことだ。
縄張り的な感覚でダンジョンの都合を押し付けるんじゃありません!
「ちょっと用事ができたからジュリも回収しようとおもったけど、そういえばジュリは探索に必要なかったことを思い出してな。愛でてくれるのを続行してくれて構わないよ」
「いいの!?」
『ちょっとご主人様!? ギニャー!』
唾をつけたであろう探索者にもミクチャにされながらジュリをその場に置き去った。
近くにいても、遠くにいても面倒なことをするやつだ。
これはオリンが信用をおかないのもよくわかる。
君はそこで反省してなさい。
それとなくクララちゃんに身体の様子に変化がないかをチェックしに行く。
将来有望な探索者のスキルも気にはなるが、今はお得意さんのクララちゃんの安全確保が第一だった。
「クララちゃん」
「あ、洋一さん。すっかり人気者ですね」
「人気なのは俺じゃなくてウチの新入りっぽいけどね」
「北海道で拾った白猫ですっけ? なぜか特定の人物に懐く傾向にあるようですが」
「あれはどうも加工スキル持ちにのみ反応するようだ。俺に懐いてるのもそれが原因。クララちゃんのところにも来なかった?」
「きました。たっぷりゴロニャンした後、一気に冷めたみたいに違う人の方にトトトと去ってしまったので」
「きっと匂いでも擦り付けにきたんだろうな。それ以降体調の変化とかない? スキル使用中に妙に疲れるとか」
「特にはないです。なんだったら妙に使用回数の回復が早くなってたりですかね?」
むしろいい事づくめだと彼女は述べた。
ただ、どうしてそんな白猫が存在するのかを咎められてしまい、俺は洗いざらい白状した。
ただしジュリがメタルゴーレムの系統であることだけは伏せて。
彼女はゴールデンゴーレムの一件以来、適合食材確保に躍起になっているのを知っているからね。
獲得しても俺達以外の全員が換金一択。
なんせ末端価格百万だ。
それを目的としてダンジョンに潜ってる人がほとんどである。
それをわざわざ調味料に変える物好きはクララちゃんか俺達くらいしかいない。
そんな状況で語れば、加工一択になってしまう。なのでその正体は明かさないことにした。
「では、オリンの同類だと?」
「うん、それも厄介なことに相当上位の存在で。その上放任主義らしいんだ」
「なんだかあちこちで問題を振り撒きそうな迷惑な存在みたいですね」
「北海道の件ですら、小規模のボヤで揉み消せる案件ぐらいに思ってるレベル」
「アレをですか?」
「俺が英雄だなんて担ぎ上げられる事件ですら、テレビの向こうのお話くらいの感覚だからね。問い詰めたところで私はやってない、部下の暴走だみたいな言い訳ばかりでさ」
「そんなの、仕事ができない人の典型じゃないですか!」
すっかりこっちの業界に染まったクララちゃんは業務中の卯保津さんを見ながら言った。
「おい、なんで俺を見るんだよ。なぁ?」
「なんでもないです支部長、仕事しててください」
「そりゃないだろう。ポンちゃんからも何か言ってやってくれよ。最近クララが冷たいんだ」
卯保津さんを片手で追い払って、話を続けるクララちゃん。
なんだかすっかり上下関係が変わってるように思う。
気のせいか?
「そう言うわけだからさ、ジュリを見張っておいてくれないか? あいつの悪戯の規模は世界クラスだ。何かあってからじゃ遅いと思ってる。それがこのダンジョンセンターを皮切りに巻き起こされたら、目も当てられない」
「そう言う事情でしたら、お任せください。私はそれなりにこの支部で顔が売れてますからね。最近受付も始めるようになりまして」
「なら、数人ジュリに気に入られてる探索者がいるようだから気にかけてあげて」
「わかりました。洋一さんの帰る場所を絶対に荒らさせたりはしません! 全てこのクララにお任せを!」
んん? なんだか妙な言い回し。
ミィちゃんに続いてクララちゃんまで一体どうしたんだ?
「キュ(すまぬのぉ、ジュリ殿の暴挙を止められぬで)」
肩に乗ってたオリンが囁く。
今まで不動だったのに、ダンジョンに入るなり急にだ。
理由を聞けば、唖然とする。
なんとジュリは日本列島を一時的にダンジョンとして占有、その上でどこかで加工スキルが使われたら察知して世界中を飛び回ってるようだ。
最終的には俺が補うエネルギーを他所から引っ張ってこようと言う企み。
その上で各地に広がる隠れ加工スキル持ちをサーチ、拾い上げるなりしてエネルギー取得難易度を下げようと企んでいた。
オリン曰く、巡り巡って全て俺のためらしい。
なら、事前に相談でもなんでもしてくれりゃいいのに。
「キュー(あのお方は一番殿しか上におらんでな。人の命令を基本的に聞かん。なんなら指示を出す側特有の傲慢さまで持ち合わせておる。生まれるのが早すぎたんじゃな)」
自分だったらもっとうまくやれるといわんばかりの態度である。
まぁ、反面教師にしたって限度があるもんな。
そりゃ信頼できないか。
「なんだかそうやって聞くとダンジョン側も大変なんだなぁ。これ以上暴走を始める前に、少しだけエネルギーを稼いでおくか」
「キュ(それで止まってくれたらいいんじゃがのぅ)」
オリンは一抹の不安を抱えるようにキュッと鳴いた。
そして迎えた全世界出張屋台サービスの日。
俺たちは見知らぬ土地の見知らぬダンジョン内へと呼び込まれていた。
そこには傷だらけのモンスターが転がっており、サイズは見上げる程。
『早速こいつの料理を頼むぜ』
『あんたの腕前はミレイから聞いてる。今日はうまい飯を食わせてくれるって聞いて張り切りすぎちまってな』
その結果が目の前のこれらしい。
お互いに言語が異なるので、全ての会話を拾うことはできないと思っていたが杞憂だった。
それというのも事前にミィちゃんから手渡されていたヘッドセットマイク。
これらを装着してる同士は言語系統に違いがあっても、即座にコミュニケーションが交わせるのだそうだ。
教育を怠った成り上がりの探索者は世界的に多く、まさに俺にうってつけのアイテムだった。
数ヶ国語をマスターしてる探索者もいるようだが、スラングも含めると聞き取るのが難しく、結局これに頼ってる人がほとんどだという。
「キュ(あれはグリーンドラゴンじゃのう。SSランクといったところか)」
「早速調理に移りたいと思います。その前に好きな料理をおっしゃってください、できるだけ近いものを仕上げるようにしますので」
包丁は添えるだけ、目視による斬撃がドラゴンを解体する。
刃物を使わないからこそできる、理想の解体作業。
使いすぎると眼精疲労が蓄積する一方だが、合間に食事を挟むだけで回復するのでつまみ食い推奨。
味を見るのにどうしてもつまみ食いはするので、俺にとっては都合のいい能力だ。
『ホワッツ!? 目の前でこうも解体されていくと、俺たちの苦労が水の泡だな、こりゃ』
『おいおい、ミレイ。あんたの切り札はとんでもない実力なんじゃないか? Sになったばかりとは思えない実力だぜ!』
『こんなのが在野に転がってるだなんてちょっと俄かには信じられないわ』
マイクの向こうではざわめきが聞こえる。
なぜかミィちゃんは得意げだ。
なら失望させないために俺の方も頑張りましょうかね。
「ヨッちゃんは輪切りにしたそいつを湯にぶち込んで臭み消し。オリンは尻尾肉を血抜きしておいてくれ。俺は骨を煮詰めて出汁を取りながら片手間に加工してくから」
「オッケー」
「キュ(任せておれ)」
見上げるほどに積み上げられたモンスターの死体は瞬く間にその場から消え去った。
こういう風景こそ、カメラに収めるべきなのだが、流石にカメラをNGにしてる探索者も多いので、こういうところでは回さないようにした。
探索者は自分の手の内を明かさない。カメラを嫌う探索者の多くは、手の内を暴かれるのを恐れているのだそうだ。
俺は別に気にならないんだけど、だからって押し付けは良くないもんな。
郷に入っては郷に従えというやつだ。
結局俺の解体技術に驚くばかりで料理の候補が上がらなかったので、好き勝手に調理した。
煮つけ、天ぷら、フライ、ラーメン、うどん、そば、ステーキ。
凝った料理もいくつかだしたが、食いつきは悪かった。
「どれもこれも本当に美味しいわ。でも、残念なことに彼らはジャンクフードの方が得意みたい」
ミィちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。
ジャンクフードにあまり覚えはないが、フライやハンバーガー、ステーキなどと言われたのでそれを提供する。
そして酒の肴だ。
これは種類問わずに飛びつく人が多かった。
日本酒は飲みつけないが、ビールやウィスキーは飛ぶように売れた。
中でもマンドラゴラ酒は大変珍しがられた。
正体を明かした後の盛り上がりようは今でも忘れられない。
霊薬の材料を酒にかえる富井さんは彼らの中で新たな伝説を作っていた。
今まで立て込んでいた要件が全て終わったので、これから滞りなく呼べるようになったのだという。
「何か裏で手を回してくれてたんだって?」
『こちらで用意していたのは確かにありましたが、洋一さんは全て自分で解決してしまったので、サプライズし損ねました』
とのこと。
どうも俺たちがすんなりAからSになる手筈を整えてくれていたのだそうだ。
それは悪いことをした。
Sに上がるのにはそれなりの信用を得なければならないらしく、中には世界のSランクから腕前を認めてもらうなどのコネも必要だったらしい。
俺はそんな理屈も知らないでSになっちゃったからね。
「でも、おかげさまでSまでたどり着けたよ。当日が楽しみで仕方ない。その日までにたっぷり調味料を仕込んでおくね」
『食材の方は仕込んでおかなくて大丈夫なんですか? 結構日本ダンジョンのモンスター食を楽しみにされてるメンバーも多いので』
「それは注文すればお取り寄せできるからね。それともダンジョンの地域が変わればモンスターの種類も変わるのかい?」
『そう言うわけではありませんが、私の好物はどうも日本にしか生息してない希少なモンスターらしくて』
そうなんだ? じゃあ同じ適合食材を持つヨッちゃんも同様か。
なんでわざわざ日本にまで食べにきていたのか納得する。
モンスターそのものがレアだったのか。それは思いもよらなかった。
「なら事前に大量に仕入れておくよ」
『お手数をおかけしてごめんなさい』
「いいのいいの、ウチのヨッちゃんも適合食材それだし。ついでみたいなものさ」
『あたしのほうがついで……ですか?』
妙な言い回しをするなぁ。
「ヨッちゃんの好物を回収するついでに多く仕込んでおく、と言うのは理由にならないかな? それともミィちゃんのためにたくさん用意しようか?」
『─────!』
こうやって直接的に言うと固まっちゃうのは他ならぬ彼女の方なのにね。
「じゃあいろんなレパートリーをヨッちゃんを実験台にして増やしておくよ、楽しみにしててね」
『ふぁい……』
結局脳内で処理できずに普段の彼女らしさが消えちゃうんだよね。
一体俺のどこにそんな魅力があるのやら。
好かれてるのは、まぁ嬉しいんだけどさ。
Sランクに登って、少しは釣り合いが取れてたらいいんだけど。
ダンジョンセンターに寄ると、ジュリがすっかり窓口のアイドルとしてもてはやされていた。
『旦那様! どうです? 私の人気っぷりは。すっかり人々をたらしこめてますよ?』
褒めて欲しそうに俺の足元に擦り寄った。
拾い上げ、定位置に乗せる。
すっかり俺の頭の上がお気に入りだ。
重くはないが、周囲からの視線がやけに気になる。
「あ、猫ちゃん……」
新人なのだろう探索者は、俺の頭にさっきまで愛でていた猫が移動してしまったことを悲しそうに見送った。
さっきまで自分の手元にいたのに、俺が現れるなり手元から離れてしまった事実を認めたくないといった感じだ。
「ウチのジュリを可愛がってくれてありがとうな」
『ご主人様、私の入念なリサーチで、この地域の特殊加工スキル持ちに唾をつけておきました。これで彼ら彼女らがスキルを使う度に私たちにエネルギーが回ってくる仕組みを作り上げました。すごいでしょう?』
こいつ、余計なことを。
どうやら尻尾を振っていた相手は高確率で加工スキル持ちとのことだ。
縄張り的な感覚でダンジョンの都合を押し付けるんじゃありません!
「ちょっと用事ができたからジュリも回収しようとおもったけど、そういえばジュリは探索に必要なかったことを思い出してな。愛でてくれるのを続行してくれて構わないよ」
「いいの!?」
『ちょっとご主人様!? ギニャー!』
唾をつけたであろう探索者にもミクチャにされながらジュリをその場に置き去った。
近くにいても、遠くにいても面倒なことをするやつだ。
これはオリンが信用をおかないのもよくわかる。
君はそこで反省してなさい。
それとなくクララちゃんに身体の様子に変化がないかをチェックしに行く。
将来有望な探索者のスキルも気にはなるが、今はお得意さんのクララちゃんの安全確保が第一だった。
「クララちゃん」
「あ、洋一さん。すっかり人気者ですね」
「人気なのは俺じゃなくてウチの新入りっぽいけどね」
「北海道で拾った白猫ですっけ? なぜか特定の人物に懐く傾向にあるようですが」
「あれはどうも加工スキル持ちにのみ反応するようだ。俺に懐いてるのもそれが原因。クララちゃんのところにも来なかった?」
「きました。たっぷりゴロニャンした後、一気に冷めたみたいに違う人の方にトトトと去ってしまったので」
「きっと匂いでも擦り付けにきたんだろうな。それ以降体調の変化とかない? スキル使用中に妙に疲れるとか」
「特にはないです。なんだったら妙に使用回数の回復が早くなってたりですかね?」
むしろいい事づくめだと彼女は述べた。
ただ、どうしてそんな白猫が存在するのかを咎められてしまい、俺は洗いざらい白状した。
ただしジュリがメタルゴーレムの系統であることだけは伏せて。
彼女はゴールデンゴーレムの一件以来、適合食材確保に躍起になっているのを知っているからね。
獲得しても俺達以外の全員が換金一択。
なんせ末端価格百万だ。
それを目的としてダンジョンに潜ってる人がほとんどである。
それをわざわざ調味料に変える物好きはクララちゃんか俺達くらいしかいない。
そんな状況で語れば、加工一択になってしまう。なのでその正体は明かさないことにした。
「では、オリンの同類だと?」
「うん、それも厄介なことに相当上位の存在で。その上放任主義らしいんだ」
「なんだかあちこちで問題を振り撒きそうな迷惑な存在みたいですね」
「北海道の件ですら、小規模のボヤで揉み消せる案件ぐらいに思ってるレベル」
「アレをですか?」
「俺が英雄だなんて担ぎ上げられる事件ですら、テレビの向こうのお話くらいの感覚だからね。問い詰めたところで私はやってない、部下の暴走だみたいな言い訳ばかりでさ」
「そんなの、仕事ができない人の典型じゃないですか!」
すっかりこっちの業界に染まったクララちゃんは業務中の卯保津さんを見ながら言った。
「おい、なんで俺を見るんだよ。なぁ?」
「なんでもないです支部長、仕事しててください」
「そりゃないだろう。ポンちゃんからも何か言ってやってくれよ。最近クララが冷たいんだ」
卯保津さんを片手で追い払って、話を続けるクララちゃん。
なんだかすっかり上下関係が変わってるように思う。
気のせいか?
「そう言うわけだからさ、ジュリを見張っておいてくれないか? あいつの悪戯の規模は世界クラスだ。何かあってからじゃ遅いと思ってる。それがこのダンジョンセンターを皮切りに巻き起こされたら、目も当てられない」
「そう言う事情でしたら、お任せください。私はそれなりにこの支部で顔が売れてますからね。最近受付も始めるようになりまして」
「なら、数人ジュリに気に入られてる探索者がいるようだから気にかけてあげて」
「わかりました。洋一さんの帰る場所を絶対に荒らさせたりはしません! 全てこのクララにお任せを!」
んん? なんだか妙な言い回し。
ミィちゃんに続いてクララちゃんまで一体どうしたんだ?
「キュ(すまぬのぉ、ジュリ殿の暴挙を止められぬで)」
肩に乗ってたオリンが囁く。
今まで不動だったのに、ダンジョンに入るなり急にだ。
理由を聞けば、唖然とする。
なんとジュリは日本列島を一時的にダンジョンとして占有、その上でどこかで加工スキルが使われたら察知して世界中を飛び回ってるようだ。
最終的には俺が補うエネルギーを他所から引っ張ってこようと言う企み。
その上で各地に広がる隠れ加工スキル持ちをサーチ、拾い上げるなりしてエネルギー取得難易度を下げようと企んでいた。
オリン曰く、巡り巡って全て俺のためらしい。
なら、事前に相談でもなんでもしてくれりゃいいのに。
「キュー(あのお方は一番殿しか上におらんでな。人の命令を基本的に聞かん。なんなら指示を出す側特有の傲慢さまで持ち合わせておる。生まれるのが早すぎたんじゃな)」
自分だったらもっとうまくやれるといわんばかりの態度である。
まぁ、反面教師にしたって限度があるもんな。
そりゃ信頼できないか。
「なんだかそうやって聞くとダンジョン側も大変なんだなぁ。これ以上暴走を始める前に、少しだけエネルギーを稼いでおくか」
「キュ(それで止まってくれたらいいんじゃがのぅ)」
オリンは一抹の不安を抱えるようにキュッと鳴いた。
そして迎えた全世界出張屋台サービスの日。
俺たちは見知らぬ土地の見知らぬダンジョン内へと呼び込まれていた。
そこには傷だらけのモンスターが転がっており、サイズは見上げる程。
『早速こいつの料理を頼むぜ』
『あんたの腕前はミレイから聞いてる。今日はうまい飯を食わせてくれるって聞いて張り切りすぎちまってな』
その結果が目の前のこれらしい。
お互いに言語が異なるので、全ての会話を拾うことはできないと思っていたが杞憂だった。
それというのも事前にミィちゃんから手渡されていたヘッドセットマイク。
これらを装着してる同士は言語系統に違いがあっても、即座にコミュニケーションが交わせるのだそうだ。
教育を怠った成り上がりの探索者は世界的に多く、まさに俺にうってつけのアイテムだった。
数ヶ国語をマスターしてる探索者もいるようだが、スラングも含めると聞き取るのが難しく、結局これに頼ってる人がほとんどだという。
「キュ(あれはグリーンドラゴンじゃのう。SSランクといったところか)」
「早速調理に移りたいと思います。その前に好きな料理をおっしゃってください、できるだけ近いものを仕上げるようにしますので」
包丁は添えるだけ、目視による斬撃がドラゴンを解体する。
刃物を使わないからこそできる、理想の解体作業。
使いすぎると眼精疲労が蓄積する一方だが、合間に食事を挟むだけで回復するのでつまみ食い推奨。
味を見るのにどうしてもつまみ食いはするので、俺にとっては都合のいい能力だ。
『ホワッツ!? 目の前でこうも解体されていくと、俺たちの苦労が水の泡だな、こりゃ』
『おいおい、ミレイ。あんたの切り札はとんでもない実力なんじゃないか? Sになったばかりとは思えない実力だぜ!』
『こんなのが在野に転がってるだなんてちょっと俄かには信じられないわ』
マイクの向こうではざわめきが聞こえる。
なぜかミィちゃんは得意げだ。
なら失望させないために俺の方も頑張りましょうかね。
「ヨッちゃんは輪切りにしたそいつを湯にぶち込んで臭み消し。オリンは尻尾肉を血抜きしておいてくれ。俺は骨を煮詰めて出汁を取りながら片手間に加工してくから」
「オッケー」
「キュ(任せておれ)」
見上げるほどに積み上げられたモンスターの死体は瞬く間にその場から消え去った。
こういう風景こそ、カメラに収めるべきなのだが、流石にカメラをNGにしてる探索者も多いので、こういうところでは回さないようにした。
探索者は自分の手の内を明かさない。カメラを嫌う探索者の多くは、手の内を暴かれるのを恐れているのだそうだ。
俺は別に気にならないんだけど、だからって押し付けは良くないもんな。
郷に入っては郷に従えというやつだ。
結局俺の解体技術に驚くばかりで料理の候補が上がらなかったので、好き勝手に調理した。
煮つけ、天ぷら、フライ、ラーメン、うどん、そば、ステーキ。
凝った料理もいくつかだしたが、食いつきは悪かった。
「どれもこれも本当に美味しいわ。でも、残念なことに彼らはジャンクフードの方が得意みたい」
ミィちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。
ジャンクフードにあまり覚えはないが、フライやハンバーガー、ステーキなどと言われたのでそれを提供する。
そして酒の肴だ。
これは種類問わずに飛びつく人が多かった。
日本酒は飲みつけないが、ビールやウィスキーは飛ぶように売れた。
中でもマンドラゴラ酒は大変珍しがられた。
正体を明かした後の盛り上がりようは今でも忘れられない。
霊薬の材料を酒にかえる富井さんは彼らの中で新たな伝説を作っていた。
22
あなたにおすすめの小説
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます
内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」
――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。
カクヨムにて先行連載中です!
(https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)
異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。
残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。
一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。
そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる