ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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106話 エメラルドの輝き

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 俺の適合食材探しの旅はまだ続く。

 全員で30名からなるパーティで食べ尽くすにはグリーンドラゴンはあまりにもデカかった。

 しかしオリンはサイズを無視して持ち帰ることができるので、無理なく収納。

 腹ごなしに散歩でもしましょうか、と右も左も分からないどこかの国のダンジョンを練り歩いた。

 2分もしないうちに接敵。
 俺の目視による解体ショーが始まった。

 こいつは煮込んだらいい出汁が出そう、あいつは焼いたら美味いフライができそう。
 俺の創作意欲はむくむくと膨れ上がっており、手当たり次第にモンスターを加工していく。

 しかしそんな俺に非難の声が。

 それは今回の企画を主催してくれたミィちゃんからの呆れた感情の込められた視線と共に放たれた。

「洋一さん、あんまりぽんぽん倒されると私たちの立場が……」

「あ、ダメだった?」

 今日はゲストで招待したから、彼らに花を持たせて欲しい。
 そう訴える瞳で見られてしまい、やりすぎたかと反省した。

 これからは人の目につかないところでやろう。

 よもやこれで自信喪失まではしないだろうが、その人たちのホームで好き勝手しすぎてた自覚はあった。

 郷に入っては郷に従えとさっき心に誓ったばかりなのになぁ。

「ダメではないのよ? むしろSなのに足手纏いだと思われる方が損失でもあるわ。でも、今回は洋一さんのお披露目がメインだから、料理の腕前以上を披露すると、その……ヘッドハンティングが相次ぐと思うの」

「それはダメだな。俺はこれ以上探索者として上を目指すつもりはない」

「それはそれでもったいないと思うわ」

「あいにくと俺は料理一筋の男だからな。料理を振るう機会が世界にもある、そこで新しい発見があると思ったから俺は先を見据えて探索者ランクをあげたんだよ。根幹にあるのは全部料理なんだ。悪いな、そればかりは譲れないんだ」

「洋一さんらしいといえばらしいですが」

 それでは納得し難いという顔。
 まぁ、自分でも都合のいいこと言ってる気がしてたからね。

「ポンちゃん、ポンちゃん! 見てみて、これ、でっかい宝石!」

「お、すごいじゃん」

「さっきそこで採掘してきたんだ。ここで宝石取れるぞって教えてもらって。ヘッドマイク様々だよな!」

 ヨッちゃんが見せてくれたのは、エメラルドと呼ばれるタイプの鉱石だ。

 エメラルドグリーンというカラーがあるように緑色で透明に光ってる。幻想的な色合いに、見ていて心が洗われるようだ。

「キュ(こいつはモンスターじゃぞ? メタルゴーレムの死骸じゃな)」

 つまりゴールデンゴーレムの親戚ってことか。

 なら加工案件だな。
 クララちゃんのお土産に持って帰ろう。
 きっと喜ぶぞぉ。

「どこに埋まってた? お土産に持って帰ろうと思う」

「お、そう来なくっちゃな。轟美玲もきっと喜ぶと思うぜ!」

 なんでそこでミィちゃんが出てくるんだ?
 確かに磨けば綺麗な宝石だろうが、俺は加工した先でしか見てないのでピンと来なかった。

「宝石って言えば女性に贈る品物って昔から相場が決まってるだろ? オレは送る相手がいないが、ポンちゃんはモテるからなぁ」

「いや、俺にだって送る相手がいないよ」

「そういう鈍さはあまり表に出さない方がいいぜ? 轟美玲だって女傑と言われてるが根っこは女の子だ、それこそ好きでもない相手にコネでもなんでも使ってお前をこんなところに呼んだりしねーよ。自分の職場の友人、親しい人を紹介するのはご両親を紹介するのと同じ心境なんじゃねーの?」

 低ステータスにとって、親はいなくて当たり前。

 ステータスが上がった先で親になってくれる相手こそ出てくるだろうが、それは人気にあやかった肩書が欲しいだけで、本当の身内とは程遠い。

 ヨッちゃんはそれは俺に対するアピールではないのか? と教えてくれた。

 いつもの思い込みにしては、確かに思い当たる点も多い。

「しかし、彼女ぐらいになるとこの手のプレゼントは貰い慣れてるんじゃないか?」

「バッカだなお前。好きでもないやつからもらう宝石と、本命からもらう宝石じゃ価値が違うだろ? 安いとか高いは関係ねーんだよ。真心っていうの? それがどれだけ込められてるかで価値がぐんと上がる!」

「そうかな」

「そうそう。むしろ普段から料理のことしか考えてないポンちゃんが送る宝石だから価値があるんだよ」

 確かに。言われてみればそうだ。
 俺の提供するものは基本、その場に残らない。口に入れて消化されてしまうものばかりだ。

 一つくらいは彼女の手元に残る品を送るのも悪くない。
 でもこいつ、モンスターなんだよなぁ。

 贈ったところで悪さする未来しか見えない。

「キュ(活け〆した後熟成乾燥させれば良いのではないのか? 加工されたモンスターなら元に戻ることはないぞ?)」

 それだ!

 オリンの導きにより、俺は送ったら喜ばれるだろうサイズと輝きの強さ、色の濃さを中心に加工を加えた。

 メタル系モンスターは熟成乾燥させても縮むこともなく、より高度が高まった。

 それを包丁で整えるように魔眼で見た目を整えて、完成!

 俺は早速プレゼントをミィちゃんに手渡した。
 喜んでくれるといいのだが。

「ミィちゃん、これ」

「エメラルドですか? これをあたしに?」

「うん、俺っていつもミィちゃんに最高の料理を振る舞うことがプレゼントとしか思ってなくてさ。たまにはこういう形に残る贈り物がいいんじゃないかってヨッちゃんが。もちろんアドバイスこそもらったけど、俺がミィちゃんにプレゼントしたくて選んだものだよ。君に持ってもらいたいと思って、自分なりにアレンジしてみたんだ」

「ひょえっ(それってつまり愛の告白ってこと? エメラルドってそういうことよね? 何、今日の洋一さんてば随分と大胆な気がする。やっぱり同じ舞台に立てたからかしら? むしろこの機会を伺ってた? だとしたらあたしったら余計なお世話を焼いてたことに)……きゅう」

 ばたり。
 ミィちゃんは顔を真っ赤にさせてその場で卒倒した。

 彼女のこんな姿は初めて見る。
 いつもはその場に圧倒的な存在感を放ち、周囲を釘付けにさせる立場なのに。俺から形に残るものを送っただけでこの有様だ。

 もしかして今までのは世間を欺く気を張ってたポーズなんじゃないか?
 そんな疑問が頭に過ぎる。

 そしてその現場に駆け寄ったチームメイトがミィちゃんを解放しながら俺へと声をかけた。

『とうとう告ったか、ミスター』

『これで美玲も救われるわね、この子、ずっとあなたにアピールしてたのに、あなたったら全然気づかないんだもん』

 告白した?
 いや、プレゼントはしたけどそれとイコールにするにはあまりにも話が飛躍しすぎじゃないか?

 確かに散々世話になっておいて、宝石を一つくれたところで釣り合うかと言われたら釣り合わないけど。

 料理以外でのプレゼントがまず思いつかない時点で俺はダメなんだと思う。

『よせ、リンダ。あれはミレイのアピールが下手くそすぎる。あれを理解できるのは恋愛百戦錬磨の猛者か、同性くらいだ。特にミスターは奥手だ。低ステータスも相まって、それをそうとは受け取れる余裕もなかった。ミレイは急ぎすぎたんだよ』

『はぁー、男って本当にダメね。それくらい理解しなさいよ』

 随分な言われようだが、心当たりが多すぎる。

「申し訳ない。俺も料理一本でやってきたもので、そもそも男女の付き合いもなく今まで生きてきた。その中でも最上級のプレゼントは俺の技術の集大成である料理が基本に置かれてしまっているような男だ。それ以外が全く思いもつかないくらい、男女の関係に疎いことは認めよう。その件においてはそちらにも不義理を働いたように思う」

 改めて謝罪を重ねる。
 今まで無視したくて無視したわけではないこと。

 俺にとって最高のプレゼントは料理であること。
 女性が何を貰えば嬉しいかの知識に乏しいことを洗いざらい暴露する。

「だから彼女が俺に好意を向けていることは理解していて、その上で対応にも当たっていたんだけど、周囲はそう受け取らないことを今になって思い知っている。それと今回のプレゼントは今までの謝罪も含めたものだったのだが、突然プロポーズと言われて頭を抱えている。俺は一体彼女に何を送ってしまったのか、何を勘違いさせてしまったのか、それを含めて教えてほしい」

『ヘイ、ミスター。それは流石に世間知らずにも程があるぜ?』

『……ミレイ、可哀相な子』

 二人して可哀相な人に向ける目をされた。
 いや、確かに今回ばかりは俺が悪いが。

「え、プロポーズに送る宝石?」

『ええ、エメラルドは深い愛を奏でるときに贈られるものよ。それにこれほどの濃いグリーン、相当の技術がなくちゃ、これほど光り輝くことはないの。天然物であるほど、中に細かい傷がつくものだわ。これをもらった方はそれはもう勘繰っちゃうわよ』

 リンダさん曰く、相手が本命であればあるほどに効果は覿面だと言った。

 つまり俺は謝罪のつもりで送った宝石でプロポーズしてしまったらしい。

 そして彼女は昏倒した。
 返事はOK以外の何者でもない。

 念願叶って、俺たちはお付き合いすることになったのだそうだ。

 いや、急にそう言われてもな。
 お互いに奥手がすぎてぎこちない空気のままに、ダンジョンを巡った。

 彼女は自分のバトルスタイルを俺に見せてくれた。
 苛烈なまでに美しい返り血を浴びる彼女に心臓がどきりと跳ね上がる。

 俺は彼女がミンチにした肉をお腹に入れて活力が出るように調理した。
 彼女は普段気張ってるような顔をコロコロ変えながら、俺の前で百面相をした。

 普段の仮面を脱ぎ去り、今は少女の顔で俺の振る舞った料理を口に運ぶ。

 その傍には、俺の送ったエメラルドのネックレスが輝いていた。










 そんな一時を終え、武蔵野のホームに帰宅。

 クララちゃんにも同様にエメラルドを手渡す。
 ギョッとする彼女に、俺はあえてこう言った。

「新たに発見されたメタルゴーレムらしいよ?」

「メタルゴーレム!? やったー!」

 クララちゃんはすぐに特殊変化で調味料に変えていた。
 この子はまだまだ色気より食い気で助かるな。

 新しい食材を武蔵野支部に卸し、俺は一息つきながら調理談義に花を咲かせた。

 クララちゃんは新しく入手したホワイトソースでシチューを作ってあげたら喜んでいた。

 ゴールデンゴーレムのカレーには劣るが、こっちはレパートリーを増やせそうだと喜んでいた。
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