ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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120話 味のない食材

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「えっとつまり? ジュリ的にはあれで十分制限していたと?」

 オリンの許可を得てジュリのコアルームに押しかけた俺たちは、思ってもない返事を聞くことになった。

 ジュリ曰く、俺たち向けの接待レベルの安全度であり、危険は全くない。

 そういうことらしい。

 そもそもの話、ダンジョンで命をなくす人間は須く自らの実力以上の場所に潜るため。

 そこにダンジョン側の意思はないのだそうだ。
 実力不足でやってきて、死ぬのはどうしようもないとのこと。

 ダンジョンはいつだってモンスターの設定だけして世界中に出現させてはいるが、人類を滅ぼすつもりはない。

 しかしここに力加減のわからぬダンジョン管理者がいる。

 それが一番~三番の名を与えられた迷宮管理者である。
 二番目の名を関するジュリもそうだが、他に二名いると聞いて、今から頭が痛い。

 世界にはその手のバランスがぶっ壊れたダンジョンがあるのだという。

 四番からは真っ当だと聞くが、当事者のオリンが言うあたり、どこまで本当かはわからない。

 もっと下のダンジョン管理者から見たら、きっとジュリと遜色ないイメージを持たれてるんだろうなぁ。

 真相は闇の中だが、そこまで俺たちが介入するのものではないような気がするので口出しはやめた。

 そもそも、今更だ。

 過去に何人もの死傷者を出しているダンジョンを、俺の気持ち一つで方向転換していいものだろうか?

 それで今よりエネルギーの収集が良くなったとして。
 けれど俺がいなくなった後もダンジョンのエネルギー回収は続いていく。

 その時に俺の考えを押し付けてエネルギー回収が滞ったら、目も当てられない。

 ダンジョン管理者だってバカじゃない。
 考える知恵はある。

 自分一人でだって運営はできる。
 俺がいなくたって問題はない。

 けど、ジュリのように契約者を失って途方に暮れる管理者もいなくはないのだろう。

 オリンが人の営みには不干渉を貫くように、ダンジョン側にもルールや規則があるのだ。

 だから、今回のダンジョンが接待モードで、ボスモンスターが俺たちの滞在時間はそのエリアを徘徊しないことを口頭で伝えられても、あえて口出しはしないことにした。

 難易度がおかしかろうが、それがダンジョンの特色だ。
 あとのことは世界が判断する。

 俺は、出会った食材は全て食べると決めている。
 どんな難易度であろうと、必ず食う。

 そう胸に決めてコアルームを出ると……

 ギュゥ~~~
 唐突に腹が鳴る。
 おかしいな、さっきまであれほど満腹だったのに。

「ポンちゃん、すげー腹減らね?」

「ヨッちゃんもか?」

「って、もうあの三人と別れてから3日経ってんじゃん!」

 何気なく時間を見ようとDフォンを見たヨッちゃんが声を上げた。

「え? あぁ、そう言えば」

 俺はコアルームでの時の流れ方が違うことを話す。

 オリンも、ジュリも空腹を訴えない。
 人類との明確な差がそこにある。

「卯保津さんたちはうまくやってくれたかな?」

「3日もありゃあ、全国には伝わってんじゃね? 知らんけど」

「おい、元ダンジョンセンター職員」

「んなお偉いさんの仕事内容まで知らねーよ。オレは下っぱよ?」

「そういやそうだった。んじゃあ、お腹も空いてきたことだし、いつものやりますか」

「いいねぇ、オレたちならではのだな?」

 腹が減ったいい大人が二人。
 食べてない食材はオリンの次元袋の中。

 さて、どう調理する?

 腹が満たされてた時と違い、さまざまなアイディアがいくつも湧いてくる。
 今回はあれこれ作ろう。そんな気持ちが強まっていく。

「皆様お久しぶりです。今日も料理を作っていきますよ!」

「その前にいつものやんないと」

 突き出された空のグラス。

 取り出された焦茶の瓶から黄金色のアルコールがトクトクと並々と注がれ、顔を見合わせながら乾杯の儀式を始めた。

「カンパーイ!」

「いよっ」

 たった二人の空間に、ヨッちゃんの景気付けの拍手が鳴り響く。

 カメラを鉄板の上に向けて、油を満遍なく塗り広げる。

 溶け出した脂がぱちぱちと鉄板の上ではじけ、準備OKだと告げていた。

「さぁて、何食う?」

「魚だろ? 干物か?」

「ストレートはなぁ。居酒屋メニューにあるようなつまみがいいな」

「なら春巻きか?」

「ライスペーパーで巻くのか?」

「それか天ぷら」

「うーん、俺だったら普通に……」

 鉄板の上に生卵を二つ落とす。
 それを三角ヘラでまとめて半熟に。

 そこへ炊き立てご飯を投入して炒めつけて皿に。

 空いたスペースでミンサーで加工したミンチ肉でそぼろを作る。

 それを醤油、砂糖と味醂と混ぜて十分に熱を加える。

 あとは先ほどのチャーハンと混ぜてヨッちゃんの前に。

「初手チャーハンか」

「まぁ、食ってみようぜ。ダメだったら次だ」

「さぁて、どんな味かな?」

 チョウチンアンコウがどう化けるか?

 あまり好んで食べられる食材、モンスターではないが、俺の加工でどう変わるか。

 この時ばかりはいつもワクワクする。

「味つけが濃すぎる。そもそもの味が淡白なのか? ただのそぼろチャーハンだぞ?」

「あれぇ?」

 <コメント>
 :それってなんのお肉なんです?
 :待ってた!
 :なんか今日クッソ回線重くね?
 :世界中が注目してるから
 :安定の初手乾杯である
 :俺も開けた
 :3日ぶり!
 :ファンガスで伝説をつくったもんな
 :あれはある意味で飯テロ回だった
 :それって、あのクソデカ魚類のお肉です?

「あ、はい。半分以上は武蔵野支部に渡したんですけど、これはその残りですね。部位が悪いのかなぁ? ちょっとソーセージにして食べてみようか?」

「だな、よくわかんねーわ」

 ゴッゴッとビールを飲み干したヨッちゃんが仕切り直しとばかりにするめを鉄板の上に乗せた。

 今料理しようって言うのに他の食材を乗せないで欲しい。

 いや、自分で作っててここまで味を引き出せない素材も初めてだったけど。

 ソーセージを作って鉄板へ。

 腸もチョウチンアンコウから引っこ抜いたので、ランク不足で弾けると言うこともないだろう。

 それでも食べてみた感じは。

「うーん、味が薄いのか?」

「淡白にしたって、ちょっと薄すぎないか?」

「やっぱ春巻きにすっか?」

「素材の味全部死ぬやつじゃないか、それ?」

 ヨッちゃんの好物は紫蘇チーズ揚げ。

 そこに今回の食材を混ぜて生き残れるほど味の主張が一切ない味わいなのにこの選択肢である。

「へへ、バレたか。でもまぁ、作ってみて損はしないと思うぜ?」

「へいへい」

 <コメント>
 :分解しても岩だったってあれか?
 :干物にしても生きてるんだろ?

 コメント欄ではすでに公開された情報を持つ有識者がいた。
 しかしそれで要領を得た。

 つまりはこれ、ゴーストと同じ系統なのだ。

 あいつはソーセージにしてもハンバーグにしても旨味はゼロだったからな。

 だったら話は早い。
 ミンサーでミンチにして、ゴーストソルトで揉み込んでから余計な水分を出す。

 出るわ出るわ、不純物が。

 不純物を落とし切って、腸詰でソーセージに。

 これはそのまま揚げず、あえて分厚い衣に包んでから揚げる。

 ゴーストよりも薄い味なのだとしたら、脂が腸すら貫通しそうだ。

 なのでホットドッグの様な分厚い衣を纏わせて油にイン。
 低温でじっくり揚げること15分。

 内部に熱が籠るのを目で判断して、引き上げる。

 それを俺とヨッちゃんの前に置いて、味の確認といこう。

「肉にしてダメなものを揚げて食うのはゴースト以来だな」

「あれは刺身にして喉越しを味わうものだったからね」

「だからってこんな分厚い衣に包まなくてもさ」

「素材の味を引き出すのが料理人だぞ? なんでもやるさ。どうせなら旨く食いたいじゃん?」

「そりゃまぁそうなんだが」

「ってことで早速食べよう。文句は後からいくらでも聞くぞ」

「まずは何もつけずにそのままか」

「そうだな……ん!」

 やはりゴースト同様、しっかりと残された肉質。

 ザクザク、ともコリコリとも取れる謎の食感が気持ち良い。
 無駄な灰汁はゴーストソルトを揉み込んだ時点であらかた流せたと思ったが、ほのかに残る苦味。

 これは空ウツボのような独特のものだろう。

 つまりこれは特殊調理素材の一種だろう。
 そのまま加工しても食べられず、食べられないものとして認識させる偽装。

「味はねーけど食感は戻ってきたな! 面白い喉越しだ」

「だからって何でもかんでもカレー味にしちゃうゴールデンゴーレムスパイスは投入できないが」

「そうか? 俺はこの食感を生かしたツミレ汁を食ってみたいが」

「これをツミレにか?」

 なかなかの無理難題をふられ、うーむと悩む。

 いや、待てよ。
 結局高温で揚げてすらいない低温調理だった今回。

 いっそ衣に包まずとも低温調理すれば可能なんじゃないか?

 ツミレを作って真空パックへ投入。
 そのまま低音で、自ら熱を入れていく。

 何かパックが激しく動いてる気がするが、まるっと無視し、出汁をとった鍋と具材を煮込んでいく。

 <コメント>
 :ポンちゃーん、ツミレが暴れてますよー
 :沸騰してないのに不思議だなー?
 :やっぱあれ生きてるんじゃねーか!
 :とんでもない生存能力だ

 何やらまだ生きていると聞いて、なるほどなぁと感心する。動くのはまだ生きてるからだそうだ。

 俺の目の前では死んだフリをしてるのかな?
 きちんと食材として認識されてるのに。

 それとも、この魔眼のおかげで麻痺してるのか。

 どちらにせよ、調理する上で無駄なことはない。
 ささっと魔眼で活け〆してツミレの形状を保たせ、煮固める。

 二十分も茹でれば十分だろう。
 そいつを真空パックから開封、鍋に投入した。

「すげーいい匂いするな」

「正解は低温調理だったってわけだ」

「真空パックにべっとりうまみが残されてたりは?」

「食感を味わいたいんじゃなかったのか?」

「んま、それは後で考えりゃいいことか」

「そうそう、食いながら考えようぜ?」

 箸と汁椀を手渡し、二度目の乾杯!

 鍋物にビールは合わないので日本酒に変える。
 繊細な味わいにはやはり日本酒がよく合う。

「ツミレは正解だな。喉越しが最高!」

「出汁もよく吸って、肉汁も馴染んでる気がするな」

「これ、食べてわかったんだけど魚肉と肉の両方の食感が味わえるんかな?」

「ああ、確かに合わせたみたいな食感だよな。コリコリともグニグニとも取れるし、サックリと噛み切れたりと謎の食感だ」

「鍋の具材として収まってるのがなんとも滑稽だがな」

「きっとこいつよりもクセの強い強者がまだいるんだろう」

「え? 割と手こずった相手だぞ」

「俺たちならな。でもこの土地基準でならどうだ?」

「まだ二匹目だもんな。世界の広さを痛感しながら食う鍋か。それもまた乙だな」

「そうそう、ここは未開のダンジョン、鍋にふさわしい具材を揃えてこそだろ?」

「料理人の名にかけてか?」

「一応探索者としても来てるから」

 また何か食材を見つけたら、卯保津さんに丸投げしよう。そんな軽い気持ちで探索に乗り出た。

 やはり二人だと即動けて即調理に入れるので無駄がない。

 ミィちゃんたちも十分すごいんだけど、配信上、あまり俺たちが活躍しすぎてもな。ちょっと遠慮してしまうのもある。

 世間はまだまだ俺よりもミィちゃんに注目を集めているのもあり、どちらを贔屓にするかと言われたらやはりミィちゃんなのだ。

 けど、贔屓する相手がいなきゃ、俺たちも自由に動けるし、なんなら味見担当のヨッちゃんが見栄え気にせず評価をくれる。

 これこそが俺たちのやり方なんだよな。

 コラボも大事だけど、やっぱりこっちが俺たちらしい、初心に帰ったスタイルなんだなとモンスターを倒しながら思った。

 成果物は蜘蛛と木が一体化したトラップみたいなモンスターが一体。

 どっちにも頭脳があり、木が拘束、蜘蛛が捕獲と連携行動をとってくる。

 今回は干物以外を食べたかったので、生捕りにしてみた。
 今から味が楽しみだ。
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