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140話 クララちゃん頑張る 1
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その日私は、政府からの呼びかけでとある講習会へと参加した。
その講習会の参加資格は加工スキルの有無。
不遇時代、どれほど助けを求めても見向きもしなかったのに。
今になって手を貸してくれというのはあまりにも身勝手。
虫が良すぎる話だろう。
そう思っているのは、私以外にも多いはず。
それは参加者の顔からも滲み出ていた。
何せ参加者のほとんどが総合ステが低い、F~Dに偏っているからだ。
その中で唯一私だけSに届いているのは洋一さんのおかげ。
あの人が私を拾い上げ、活用してくれたからこそ今の私がある。
そして、私がこうして怪しい講習会に赴いたのはもう一つ理由があった。
それが、ダンジョンに閉じ込められてしまった人々の救出。
あの日、私たちダンジョンセンター職員は、唐突に肥大化したダンジョンに巻き込まれる形で取り込まれてしまった。
その中には多くの探索者たちもいたが、どういうわけか入り口から地上に戻ることはできなくなっていた。
いや、厳密には制限されていたのだ。
入り口、ボスを討伐後の転送陣。
それを作動させられるのはたった一つのスキルを所持者。
それが〝加工スキル〟を持つ私。
なぜ、どうして私だけが?
最初はセラヴィと契約したからだと思ってた。
しかしそうではないと気がついたのは洋一さんの配信番組を見てから。
そこではダンジョン契約をしていない八尾さんまでが出入りをしていた。
リスナーが騒いだ原因に切り込む形で、洋一さんが手配したことだった。それで判明する切り札。
それが加工スキルを持つ、私に向けられた。
「クララ、お前だけが俺たちの希望だ」
いつになく、感情的になる卯保津支部長。
今生の別れみたいな覚悟のこもった瞳で、私の両肩を掴み、ダンジョンの外に向かうべく背を押した。
私一人で何ができるのか?
たった一人で全てのダンジョンに取り込まれた人間を助けられるほど、お人好しではない。
どこかで必ず助けられない人だって出てくる。
希望だ、だなんて押し付けられたって困る。
それが正直な感想だった。
家に帰れば卯保津支部長の家族が、支部長の帰りを待っている。
私たち姉妹はこの家に養われているのだ。
託された思いを無碍にして暮らしていくことは無理な相談だった。
でも、ダンジョンが周囲一帯のダンジョンセンター、職員、探索者、一般人を巻き込んだ事件も数日もすれば過去のことのように表に出てこなくなる。
それは私には信じられない話だった。
政府の情報もみ消しか?
はたまた騒がれすぎると都合が悪いからか?
そんな悪い感情が募り始めた頃、私の元へ一通の手紙が投函された。
それがこの、謎の講習会の紹介状だった。
『それでは時間になりましたのでお話しさせていただきます』
粛々と司会は進行される。
全員が政府に悪い感情を持ってる中での講習会。
自分たちは一体何をやらされるんだと懐疑に満ちた視線が司会者に浴びせかけられた。
内容をかいつまんで話せば、ダンジョン何への食料の支給。
そして物々交換として、ダンジョン内の出土品を持ち運び、政府に献上する運び屋の仕事。
そこで自分の得意分野の加工スキルを施すことで、臨時ボーナスを出すといった。
どうやらそれが最初からの目的のように受け取れる。
私のように加工スキルの熟練度が上がりきってるのならわかる。
けれど、今まで見向きもしなかった他の加工スキル持ちを、今になって重用し始めた理由だけがわからない。
もしかして政府にはダンジョンと契約してる者がいるんだろうか?
セラヴィのような下っ端ダンジョンのエネルギーをそれで解決しようとしてる?
加工スキルはダンジョンにおいてなかなか稼げないエネルギー問題を一夜にして解決してくれる魔法みたいな認識。
その片棒を担がされていると聞けば、悪感情も出てくるが。
それを知らない私以外は、その話にのめり込んでいった。
今まで迫害されてきた者だっている。
その者たちが、今回の話を受ければ堂々と日本各国を歩き回れる権利と、ステータスに縛られない自由な買い物を約束された。
つまりは制限の解除を理由に絆されようとしていた。
「あなたは、このお話を受けるんですか?」
隣にいた人へ呼びかける。
体格のいい男の人だ。
ここに参加してるくらいだから、加工のスキルを持つのだろう。
「そうだな、疑い始めたらキリがない。それと俺たち以外は割と乗り気だ。優遇措置、と一見聞こえはいいが、詳しい内容はトント明かさないときている。あんたも俺と同じで疑わしいようだな」
「ええ、メリットだけ提示してデメリットを一切提示しないのは詐欺の手段と同じです」
「詳しいな」
「そういう職業についていましたので」
「へぇ、もう働いていたのか。俺ぁてっきり」
「学生だと思ってました?」
「いやぁ、俺の口からは何とも」
男の人は照れくさそうに言葉を濁す。
私も何となくだけど、この人の気持ちはわかった。
ここにくる人たちのほとんどが同じ境遇だろう。
それは年齢による加護を一切受けてこなかった人たち。
だから、年齢にそぐわない職業についていても何らおかしくないのだ。
それなりに恵まれた環境にいた私でさえ、外に出る厳しさが身に染みている。
私は、今後ダンジョンセンターの後ろ盾をなしにこの先を生きていかなきゃいけないんだ。
だから、協力者は今のうちから欲しいくらいだった。
「自己紹介が遅れました。私はクララ。倉持クララと申します」
「俺はユウジ。長谷部ユウジだ。こう見えて菓子職人をしてる。まだまだ駆け出しだがな」
「長谷部さん、ですか」
「ユウジでいいぜ。多分同世代だ」
体格が全く違うからもっと年上かと思っていたけど、こう見えて17歳らしい。普通であれば高校にでも通ってる頃合いだろうが、彼は13歳から年齢を誤魔化して勤めていたらしい。
それだけ食べるのに困っていたとか何とか。
話をすれば、話題に困らない。
そんな関係は、怪しい講習会の中では何とも頼もしいものだった。
「しっかしあれだな、随分ときな臭い騒動に巻き込まれたもんだ」
「そう言いながら、ユウジは受け取ったじゃない」
「お前も受け取っておいて俺ばっかり責めるのおかしくない?」
同じ境遇に立たされたもの同士、いつの間にか馴れ馴れしい掛け合いが板につく。
そう、私たちは政府が私たちに何をやらせるのか、それを突き止めるために一時的に協力を結びつけた。
「ともあれだ。まずはこいつの威光を調べてみないとな」
そう言いながら、マイナンバーカードの上に講習会でもらったシールを貼り付ける。
こんなシール一つで何が変わるのか。
ダメで元々。
そんな感情がお互いの顔に映った。
最初に赴いたのは、総合ステB以上しか受け入れない会員制の喫茶店だった。
「頼もー」
意気揚々と飛び込むユウジに、私は恐れ多くなりながらも後をつける。
そしてマイナンバーカードを提示したと同時に訝しげなウェイトレスは一転和やかな態度で席へと案内してくれた。
たかがシール。そう思っていた私たちは、顔を見合わせることになる。
「やべー、まさか入れるとは思わなかった。金持ってねーぞ?」
「あなた、見た目通り結構無計画なのね」
「そういう倉持だって後をつけてきたじゃないか。お前にここの料金支払えんのか?」
「一応お金はもらってるわ。アルバイトした分だってあるし」
だからと言って推定B以上の支払いができるとはユウジは思ってないようだ。
あんまりこういうことをするのは良くないとは思っていても、この窮地を乗り切るには、実際に食べてみないことにはわからない。
「よーし、言ったな? じゃあお前に一つ貸しといてやる。さ、メニューメニュー。ここの店前から気になってたんだよなー」
どうしてこの人は貸しを作るのにこれほど前向きなのだろう。
自分とは違う生活を送ってきたのだけは間違いない。
どことなく、洋一さんと要さんを足したような性格に懐かしさを感じていた。
しかしそんな懐かしさはすぐに瓦解する。
「やべーぞ倉持。このメニュー、値段が書かれてねー」
「会員制なのよ? 値段なんて時価に決まってるじゃない。きっと、モンスター食材が使われてるんでしょうね。今のご時世だとモンスター食材は希少。価値だって当然上がるわ」
「やけに詳しいな、お前」
「言ってなかったかしら? 私はダンジョンセンターの職員をしてたの。元、とつくけどね」
「そっか。あんまり聞かないようにしてたけど、そういう事情か」
ユウジは一見何も考えてなさそうだけど、その実周囲の顔色をこれでもかと伺って話せる内容を選んで口を開く。
それが彼の置かれた環境下。それゆえの処世術といったところか。
「気にしなくていいわよ。お互いに事情があるくらい、心得てるわ」
「へへ、そういってくれると助かるぜ。じゃあ今回はお前に奢られてやらぁ」
「私の貸しは高くつくわよ?」
「怖いこと言うなよぉ」
気が強いんだか弱いんだかわからない人。
お互いに貸し借りをしながら、その喫茶店の味を堪能することに決める。
しかし一口入れた時の違和感に気がついた。
「ん? 何これ……」
「まっず。え、こんなの食ってみんな喜んでんのか?」
どうやら違和感を覚えたのは私だけではないようだ。
和菓子屋勤務の彼もまた、食感の悪さに気がついた。
彼が頼んだのは抹茶パフェ。
彼の扱う食材に慣れ親しんだものだろう。
対して私が頼んだのはパンケーキ。
ベリーやベリーソースがたっぷりかけられた、ふわふわの食感を売りにしたものである。
が、実際に感じた食感はネッチョリが先に立つ。
中途半端に生焼けで、期待を裏切られたと言う気持ちだ。
格下が無理を通して入ってきたツケだろうか?
ついつい疑いの視線を向けてしまうが、私の総合ステはS。
ユウジにだけ出すならわかるが、私にまでこの仕打ち。
考えられるのは食材の劣化だろう。
何せダンジョンが封鎖されてもう一週間以上は経つ。
新規購入ができなくなった店は、消費期限を騙し騙しするしかないのだろう。
「なぁ倉持。これってダンジョンが封鎖された影響だと思うか?」
ヒソヒソとユウジが声を顰める。
「でしょうね」
「これでフルプライスを取らざるを得ない店は信用を落とさざるを得ないよな。お前はどう思う?」
「どうであれ、これは店側の責任でしょうね。質を落としてでも店の経営を優先した。私だったらまず開けないわ」
「お前それ、店だって常連の期待に応えて頑張ってるかもしれないんだぞ?」
「そうだとしてもよ、一度失墜した信頼を取り戻すのは大変よ? だったら信頼があるうちに違うメニューの構築を始めるのが賢いやり方よ。ダンジョンが封鎖されたから問題ないって言ってるようじゃ、どちらにせよ先はないわ」
私のきつい物言いに、ユウジはそういう考え方もあるのか、と意気消沈した。気のせいか、それからあまりにウザく絡まなくなった。
その講習会の参加資格は加工スキルの有無。
不遇時代、どれほど助けを求めても見向きもしなかったのに。
今になって手を貸してくれというのはあまりにも身勝手。
虫が良すぎる話だろう。
そう思っているのは、私以外にも多いはず。
それは参加者の顔からも滲み出ていた。
何せ参加者のほとんどが総合ステが低い、F~Dに偏っているからだ。
その中で唯一私だけSに届いているのは洋一さんのおかげ。
あの人が私を拾い上げ、活用してくれたからこそ今の私がある。
そして、私がこうして怪しい講習会に赴いたのはもう一つ理由があった。
それが、ダンジョンに閉じ込められてしまった人々の救出。
あの日、私たちダンジョンセンター職員は、唐突に肥大化したダンジョンに巻き込まれる形で取り込まれてしまった。
その中には多くの探索者たちもいたが、どういうわけか入り口から地上に戻ることはできなくなっていた。
いや、厳密には制限されていたのだ。
入り口、ボスを討伐後の転送陣。
それを作動させられるのはたった一つのスキルを所持者。
それが〝加工スキル〟を持つ私。
なぜ、どうして私だけが?
最初はセラヴィと契約したからだと思ってた。
しかしそうではないと気がついたのは洋一さんの配信番組を見てから。
そこではダンジョン契約をしていない八尾さんまでが出入りをしていた。
リスナーが騒いだ原因に切り込む形で、洋一さんが手配したことだった。それで判明する切り札。
それが加工スキルを持つ、私に向けられた。
「クララ、お前だけが俺たちの希望だ」
いつになく、感情的になる卯保津支部長。
今生の別れみたいな覚悟のこもった瞳で、私の両肩を掴み、ダンジョンの外に向かうべく背を押した。
私一人で何ができるのか?
たった一人で全てのダンジョンに取り込まれた人間を助けられるほど、お人好しではない。
どこかで必ず助けられない人だって出てくる。
希望だ、だなんて押し付けられたって困る。
それが正直な感想だった。
家に帰れば卯保津支部長の家族が、支部長の帰りを待っている。
私たち姉妹はこの家に養われているのだ。
託された思いを無碍にして暮らしていくことは無理な相談だった。
でも、ダンジョンが周囲一帯のダンジョンセンター、職員、探索者、一般人を巻き込んだ事件も数日もすれば過去のことのように表に出てこなくなる。
それは私には信じられない話だった。
政府の情報もみ消しか?
はたまた騒がれすぎると都合が悪いからか?
そんな悪い感情が募り始めた頃、私の元へ一通の手紙が投函された。
それがこの、謎の講習会の紹介状だった。
『それでは時間になりましたのでお話しさせていただきます』
粛々と司会は進行される。
全員が政府に悪い感情を持ってる中での講習会。
自分たちは一体何をやらされるんだと懐疑に満ちた視線が司会者に浴びせかけられた。
内容をかいつまんで話せば、ダンジョン何への食料の支給。
そして物々交換として、ダンジョン内の出土品を持ち運び、政府に献上する運び屋の仕事。
そこで自分の得意分野の加工スキルを施すことで、臨時ボーナスを出すといった。
どうやらそれが最初からの目的のように受け取れる。
私のように加工スキルの熟練度が上がりきってるのならわかる。
けれど、今まで見向きもしなかった他の加工スキル持ちを、今になって重用し始めた理由だけがわからない。
もしかして政府にはダンジョンと契約してる者がいるんだろうか?
セラヴィのような下っ端ダンジョンのエネルギーをそれで解決しようとしてる?
加工スキルはダンジョンにおいてなかなか稼げないエネルギー問題を一夜にして解決してくれる魔法みたいな認識。
その片棒を担がされていると聞けば、悪感情も出てくるが。
それを知らない私以外は、その話にのめり込んでいった。
今まで迫害されてきた者だっている。
その者たちが、今回の話を受ければ堂々と日本各国を歩き回れる権利と、ステータスに縛られない自由な買い物を約束された。
つまりは制限の解除を理由に絆されようとしていた。
「あなたは、このお話を受けるんですか?」
隣にいた人へ呼びかける。
体格のいい男の人だ。
ここに参加してるくらいだから、加工のスキルを持つのだろう。
「そうだな、疑い始めたらキリがない。それと俺たち以外は割と乗り気だ。優遇措置、と一見聞こえはいいが、詳しい内容はトント明かさないときている。あんたも俺と同じで疑わしいようだな」
「ええ、メリットだけ提示してデメリットを一切提示しないのは詐欺の手段と同じです」
「詳しいな」
「そういう職業についていましたので」
「へぇ、もう働いていたのか。俺ぁてっきり」
「学生だと思ってました?」
「いやぁ、俺の口からは何とも」
男の人は照れくさそうに言葉を濁す。
私も何となくだけど、この人の気持ちはわかった。
ここにくる人たちのほとんどが同じ境遇だろう。
それは年齢による加護を一切受けてこなかった人たち。
だから、年齢にそぐわない職業についていても何らおかしくないのだ。
それなりに恵まれた環境にいた私でさえ、外に出る厳しさが身に染みている。
私は、今後ダンジョンセンターの後ろ盾をなしにこの先を生きていかなきゃいけないんだ。
だから、協力者は今のうちから欲しいくらいだった。
「自己紹介が遅れました。私はクララ。倉持クララと申します」
「俺はユウジ。長谷部ユウジだ。こう見えて菓子職人をしてる。まだまだ駆け出しだがな」
「長谷部さん、ですか」
「ユウジでいいぜ。多分同世代だ」
体格が全く違うからもっと年上かと思っていたけど、こう見えて17歳らしい。普通であれば高校にでも通ってる頃合いだろうが、彼は13歳から年齢を誤魔化して勤めていたらしい。
それだけ食べるのに困っていたとか何とか。
話をすれば、話題に困らない。
そんな関係は、怪しい講習会の中では何とも頼もしいものだった。
「しっかしあれだな、随分ときな臭い騒動に巻き込まれたもんだ」
「そう言いながら、ユウジは受け取ったじゃない」
「お前も受け取っておいて俺ばっかり責めるのおかしくない?」
同じ境遇に立たされたもの同士、いつの間にか馴れ馴れしい掛け合いが板につく。
そう、私たちは政府が私たちに何をやらせるのか、それを突き止めるために一時的に協力を結びつけた。
「ともあれだ。まずはこいつの威光を調べてみないとな」
そう言いながら、マイナンバーカードの上に講習会でもらったシールを貼り付ける。
こんなシール一つで何が変わるのか。
ダメで元々。
そんな感情がお互いの顔に映った。
最初に赴いたのは、総合ステB以上しか受け入れない会員制の喫茶店だった。
「頼もー」
意気揚々と飛び込むユウジに、私は恐れ多くなりながらも後をつける。
そしてマイナンバーカードを提示したと同時に訝しげなウェイトレスは一転和やかな態度で席へと案内してくれた。
たかがシール。そう思っていた私たちは、顔を見合わせることになる。
「やべー、まさか入れるとは思わなかった。金持ってねーぞ?」
「あなた、見た目通り結構無計画なのね」
「そういう倉持だって後をつけてきたじゃないか。お前にここの料金支払えんのか?」
「一応お金はもらってるわ。アルバイトした分だってあるし」
だからと言って推定B以上の支払いができるとはユウジは思ってないようだ。
あんまりこういうことをするのは良くないとは思っていても、この窮地を乗り切るには、実際に食べてみないことにはわからない。
「よーし、言ったな? じゃあお前に一つ貸しといてやる。さ、メニューメニュー。ここの店前から気になってたんだよなー」
どうしてこの人は貸しを作るのにこれほど前向きなのだろう。
自分とは違う生活を送ってきたのだけは間違いない。
どことなく、洋一さんと要さんを足したような性格に懐かしさを感じていた。
しかしそんな懐かしさはすぐに瓦解する。
「やべーぞ倉持。このメニュー、値段が書かれてねー」
「会員制なのよ? 値段なんて時価に決まってるじゃない。きっと、モンスター食材が使われてるんでしょうね。今のご時世だとモンスター食材は希少。価値だって当然上がるわ」
「やけに詳しいな、お前」
「言ってなかったかしら? 私はダンジョンセンターの職員をしてたの。元、とつくけどね」
「そっか。あんまり聞かないようにしてたけど、そういう事情か」
ユウジは一見何も考えてなさそうだけど、その実周囲の顔色をこれでもかと伺って話せる内容を選んで口を開く。
それが彼の置かれた環境下。それゆえの処世術といったところか。
「気にしなくていいわよ。お互いに事情があるくらい、心得てるわ」
「へへ、そういってくれると助かるぜ。じゃあ今回はお前に奢られてやらぁ」
「私の貸しは高くつくわよ?」
「怖いこと言うなよぉ」
気が強いんだか弱いんだかわからない人。
お互いに貸し借りをしながら、その喫茶店の味を堪能することに決める。
しかし一口入れた時の違和感に気がついた。
「ん? 何これ……」
「まっず。え、こんなの食ってみんな喜んでんのか?」
どうやら違和感を覚えたのは私だけではないようだ。
和菓子屋勤務の彼もまた、食感の悪さに気がついた。
彼が頼んだのは抹茶パフェ。
彼の扱う食材に慣れ親しんだものだろう。
対して私が頼んだのはパンケーキ。
ベリーやベリーソースがたっぷりかけられた、ふわふわの食感を売りにしたものである。
が、実際に感じた食感はネッチョリが先に立つ。
中途半端に生焼けで、期待を裏切られたと言う気持ちだ。
格下が無理を通して入ってきたツケだろうか?
ついつい疑いの視線を向けてしまうが、私の総合ステはS。
ユウジにだけ出すならわかるが、私にまでこの仕打ち。
考えられるのは食材の劣化だろう。
何せダンジョンが封鎖されてもう一週間以上は経つ。
新規購入ができなくなった店は、消費期限を騙し騙しするしかないのだろう。
「なぁ倉持。これってダンジョンが封鎖された影響だと思うか?」
ヒソヒソとユウジが声を顰める。
「でしょうね」
「これでフルプライスを取らざるを得ない店は信用を落とさざるを得ないよな。お前はどう思う?」
「どうであれ、これは店側の責任でしょうね。質を落としてでも店の経営を優先した。私だったらまず開けないわ」
「お前それ、店だって常連の期待に応えて頑張ってるかもしれないんだぞ?」
「そうだとしてもよ、一度失墜した信頼を取り戻すのは大変よ? だったら信頼があるうちに違うメニューの構築を始めるのが賢いやり方よ。ダンジョンが封鎖されたから問題ないって言ってるようじゃ、どちらにせよ先はないわ」
私のきつい物言いに、ユウジはそういう考え方もあるのか、と意気消沈した。気のせいか、それからあまりにウザく絡まなくなった。
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