ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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146話 クララちゃん頑張る 4

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 レクチャーと称した説明会は、大勢からの拍手で締め括った。
 正直、その能力があっても、探索者相手に交渉するのは難しいと考えていた人がちらほらいたのだろう。

「流石ですね、そこまでお考えになっているお方が一人いるだけで私共も気持ちが引き締まる思いです」

 そう述べたのはこの施設を統括している初老の男性だった。
 渋めのおじさん。
 しかし瞳の奥に老獪さを秘める、油断ならない存在感がある。

「お嬢さんが先程言ったように、ダンジョンでは我々の想像もつかないほどのアクシデントが渦巻いている。モンスターによる災害然り、ダンジョンによる特質然り。テレビで流れてくる情報が、その断片しか写していないこともあります。そして我々はそこに赴く皆さんへの支援を全面的に行なっているというわけです」

 いけしゃあしゃあとその口は回る。

 あれだけひっかけ商品を当たり前のように陳列しておいて、それは自分の知識のなさが露呈しただけのことと開き直った。
 それで誤魔化せると思ったのだろう。

「そして、我々もまたダンジョンという環境を甘く見ていた。それが用意していた商品にも反映してしまっていることをお許ししていただきたい!」

「そういうことなら仕方ないか! 問題はその先々に実際に行ってみないとわからないことだもんな。俺たちに課せられた責務は、その訪問先の問題をどれだけ取り除けるかだ。そういうことだろ?」

「素晴らしいお考えです! 皆があなたのような心がけを持っていてくれたら何よりですね!」

 ユウジが早速向こうの思惑に乗っかる。
 わざとか、はたまたそういう気質なのか。
 褒められて満更でもなさそうだ。
 
 あまり褒められない環境にいたからか、その表情はとてもだらしなくゆるんでいる。
 気持ちはわからなくもないけど。


 そしてそう言いながらも商品ラインナップは、一切変更するつもりがなさそうである。
 普通非を認めたら、退かすなりなんなりすると思うのだが、そうしないということは最初から私たちにポイントを無駄に消費させる狙いがあるからだろう。

 最初に大量のポイントを配っておくことで、ミスを誘発させる目的?
 または、素材加工によるポイントの増加が緩やかである可能性もある。
 稼げると事前に伝えておいて、ひどい罠だ。

 どうりで事前に一回使う毎に何ポイント入手できるかの説明がないわけだ。これは序盤にポイントを使いすぎない方が良さそうだ。
 ユウジは馬鹿正直に、自分にできることとして大量にものを買い込もうとしている。
 すっかり向こうの思惑に乗せられちゃって。
 世話が焼けるんだから。

「いやぁ、いいおじさんだな。俺たちも負けないように持ってく品を定めようぜ!」

「ただ闇雲に持っていくだけじゃダメそうね。ここは一つ情報交換の場を設けない?」

「でしたら専用の掲示板を設けております。そちらでマイナンバーカードを登録して、書き込みしていただければと思います」

 そんな私たちの会話を、資材受け取りセンターの統括が見越していたように申し出る。
 これ、私達が気づかない限り申し出ないつもりだったわね?

 どこまでも底意地の悪い。
 本当にダンジョン避難者を救出するつもりがあるのかしら?

 それともこの活動そのものが、何かの目眩しに運用されている可能性まであるわね。

「早速登録したぜ! なんか名前の横に俺のポイントまで乗ってんのが謎!」

 早速思惑に乗るユウジ。
 人を疑うことを知らないのかしら?
 でもこういう人がいるからこそ、私だけが割りを食わなくて済むのも事実。
 向こうもみんながユウジみたいな人だったら安心でしょうね。


「ポイントの透明化、ね。これはきっと、どうやってその額を稼いだか浪費した側を炙り出す目的があるのかも」

「それをしてどうするんだ?」

「情報を秘匿させないためかもね。民意は個人の稼ぎを許さないわ。出る杭は打たれるというでしょ?」

「別に、お得情報くらい流してもいいんじゃね? それでみんなが助かるんなら俺も嬉しい」

「そうね、それで現実社会にモンスター食材が溢れるならお互いにWin-Winだわ」

「じゃあ……」

「でもそれを秘匿して稼ぐ奴も出てくるわ。あくまでも書き込むことでポイントが透明化するのであれば、ROM……掲示板を見るだけで稼ぎを秘匿することもできるのよ」

「そんな意味ないことする奴いんのか?」

「世の中にはそういう変わった奴も居るのよ。自分が一番じゃなきゃ許せない、そういう心が狭い人。全員が全員、あなたと同じお人よしだったらいいんだけど」

「よくわかんねぇ。みんなが喜んでくれたら俺も嬉しいんだけどさ」

「ええ、私もそう思うわ。でもね、絶望が積み重なると、他人も同じ絶望の底に引き摺り込みたくなる、闇の深い人も居るのよ」

 虚空を眺め、先ほど高原レンがいた場所を見据える。
 彼はあのまま闇に飲まれてしまうのか、それとも……

「よくわかんねぇけど、俺たちは俺たちの仕事をしようぜ」

「そうね。ところであなた、どんな加工スキルを持ってるの? それによっては買い込むものも変わってくるのだけど?」

「それって明かしちゃっていいのか?」

「一緒に組むなら、知っていた方がいいわね。ちなみに私はモンスターを調味料に加工するスキルよ」

 言い渋ってる相手に、先制して明かす。
 こうする事で相手が秘匿するのはダサいという空気を作っておく。

 これで黙るタイプなら私の開示し損だけど、彼なら乗ってくるだろう。
 短い付き合いだけど、そんな気がするのだ。

「道理で買い物カゴに物が入ってねぇ訳だ」

 ユウジは自分のカゴと私のカゴを見比べて、持ち運ぶ物の量の違いに納得する。
 その上で自分の加工スキル名を明かした。

「俺はあんこ炊きでほぼバレたようなもんだが、特殊調理に類するスキルだ」

 特殊料理系!
 洋一さんや菊池さんと同じ素材に状態を付与するタイプね。
 その付与内容によっては、私の獲得調味料も変わると思う。

 これはいい買い物だわ! 誘ってよかった。
 

「熟成醗酵っていうスキルなんだけど知ってるか?」

「聞いたことはないけど、名前を聞く限り納豆やパンと相性が良さそうね」

「まぁ、普通はそこら辺を想定するよな。でも実際はそれ以上のモンだ。俺のスキルは酒まで作る。その過程で小豆を醗酵させる術を思いついた時、これだ! って思ったわけよ」

「お酒まで! でも素材は必要なのよね? お酒そのものを直接作れるわけではない?」

「まぁな。元となる食材が大量に必要になる。つーか、直接酒にできる奴なんているのか? もし居たら俺の完全上位互換だろ」

 「居るには居るわよ。でも用途が全く異なるわ。あなたの場合、その技能でダンジョンでもふっくらしたパンが焼けると思うのだけど、どうかしら?」

「そりゃ醗酵までなら可能だが、焼くのには別途窯が必要だぜ? そんなもん、ダンジョンに持っていく奴なんかいないだろ?」

 さっきお前が言った言葉だぜ?
 そう返されて私はぐうの音も出ない。

 けどそれを可能にする術士ならアテがある。
 今はまだ、それを真似できる術師が育ってないだけ。
 育ち切れば、可能性は出てくる。

 問題は起点となる穀物の入手だけど、資材受け取りセンターにはおいてなかった。
 あくまでも、必要最低限の支援物資。
 
 足りないものは、それこそ加工スキルで生み出せと言わんばかりの采配だった。

 資材受け取りセンターを出た私達は、早速最寄りのダンジョンセンター跡地へと向かう。

 そこには先ほどレクチャーに感銘を受けた人たちが、受付の人と何か言い合っていた。
 早速揉め事の予感、勘弁してほしいわ。
 ユウジは見てられない、とその場へ急行した。
 ワツィもそれについていく形で後を追う。

「ですから、そのランクではこのダンジョンに入ることは認められません。お引き取りをお願いします!」

「どうして? 話が違うわ! 私たちはこのダンジョンの避難者を救出するために来たんです! ここを通してください!」

「だから先ほどから何度も申し上げているでしょう、ランクが低すぎると!」

 どうやら入り口で門前払いされているようだ。
 ダンジョンに出入りできる権限を持たされたところで、本人が強くなったわけではないからだろう。

 それにしてもランク?
 そんな説明、講習会で受けてきてない。
 彼女たちが困惑するのもわかるというものだ。
 私はそんな彼女たちの間に割って入った。

「ちょっと、なんの騒ぎ?」

「ここから先はCランクダンジョン。政府公認のダンジョンデリバリーだからと入場を許可出来ないと申したまでです」

 受付にいたのは、政府子飼いの自衛隊員だった。
 そこでは、総合ステに応じて入るダンジョンに差を出そうという企みらがあるらしい。

「そう、けど私達は事前にその説明を受けてないわ。なのであなたの言い分は一見して理不尽に思える。詳しいお話をしていただける?」

 訝しむ自衛隊員に、私はマイナンバーカードの提示をした。
 総合ステータスS。
 そして元ダンジョンセンター職員という肩書を使った。

「これは失礼しました! 倉持クララ様。上層部からの説明をさせて頂きます」

 仏頂面だった自衛隊員は、私の肩書きに恐れ、そして「これはあまり表に出す情報ではないのだが」と前置きをしてから情報の開示をする。

 曰く、ダンジョンの出入りは総合ステータスの他に貢献度の取得が必要。それらをポイントで購入する必要があるそうだ。

 そうやって差別化を図るのね。
 つまりランクで再びカースト制度を成形させる狙いだ。

 これは本当に面倒な仕掛けね。
 つまり総合ステータスが高い私でも入場ができないのだそうだ。

 総合ステータスがなんの武器にもならない。
 それは探索者もまた、同じか。

 政府が何を考えているのか全くわからないわ。
 ううん、それ以上に……残された地上の人間がどうなってもいいみたいな采配。

 私の思い込みで済めばいいのだけど。

「その貢献度というのはどこに付随されるの? 稼ぎ方を教えてちょうだい」

「ダンジョンで加工したポイントの合計値で采配される仕掛けです」

 加工ポイントは、ダンジョン内で加工するだけでカードに付与されるのだという。事前に聞いた話では、各施設で納品するような話を聞いたのだが、違うのだろうか?

「そうなのね、講習会では加工物の納品を元められたわ」

「そちらの査定でもポイントはつくでしょう、しかしそれはおまけ、本質はダンジョン内での加工の方が高いと聞き及んでおります」

「まずは探索者と同じようにFランクダンジョンから始めよ、ということね?」

「その認識で概ね合っています」

 本当に意地悪な仕掛けね。
 ズルは許さないと最初から言ってるようなものよ。
 きっと、高額ポイント商品を物々交換で手に入れるのをあらかじめ予見してたのね。

 向こうの言い分は理解した。
 ユウジに向き直り、どこから赴くかの相談を始める。

「と、言うことらしいわ。そういう事くらい事前に説明して欲しいものね。ユウジ、さっきの掲示板で情報の伝達をお願い」

「オッケー」

 さっき散々情報の秘匿をする奴がいるんじゃないかと説明したが、こういう情報は早いうちに配っておいた方がいい案件だ。

 足並みを揃える意味でも、スタートダッシュは重要だ。
 それに、割りを食うのは先駆者の役割。

 あまりにも理不尽が多いと、誰もこの仕事に向き合わなくなりそうだもの。

「あの、助かりました」

「もし良かったら、お二人の行動にご一緒させていただいてよろしいですか?」

 そんな提案をしてきたのは、同年代の女性が二人。
 どちらも美しいゴールドブロンドに青い瞳。
 日本人とは遠くかけ離れてる風貌。

 ユウジはこういうタイプが好みなのかしら?
 若干鼻の下を伸ばしている。
 確かに、同じ女子から見ても綺麗なタイプではあるけど。
 こういう見た目の子に限って、陰湿だったりするのよね。

「ユウジはどうしたい? 私はそれに従うわ」

「いいんじゃねぇか? 一緒に行けば」

「わっ! ありがとうございます。よかったね、ニア」

「うん、私たちだけじゃ心細かったので助かります」

 彼女たちはニアとミーアと名乗った。

 不思議と、セカンドネームは聞き取れなかった。
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