ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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147話 クララちゃん頑張る 5

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 私とユウジは新たにニアとミーアを連れて、Fランクダンジョンに来ていた。

 元ダンジョンセンター職員というだけあり、武蔵野支部の管轄内の場所は把握してる。そこに土地勘も相まって、ユウジやニアたちから絶賛された。

 どうも私がいるだけで話がとんとん拍子に進むから頼り甲斐があるのだそうだ。
 ここにはまだ人が来てないのか、登録帳は空白だった。
 これで行き来してる人数を測る目的があるのだろうか?
 杜撰な管理体制が気になるのは元事務職員だからかしら?

 受付は自衛隊員しかおらず、人数は少数精鋭と言えば聞こえはいいが、どうにも人手が足りないようだった。
 どうせくるのは同業者だからと、それでも事足りるのかもしれない。

「ダンジョンデリバリーサービスの者よ、四名だけど通してくれるかしら?」

「ようこそお越しくださいました、ダンジョンデリバリーサービスの皆様。こちら、自衛用の装備となります、お受け取りください」

「ありがとう、いただくわ」

 四人分受け取り、各員に手渡す。
 こういう装備はあまり見たことがない。念じるだけで装着できるタイプなので男女別の差がないのも特徴だ。

 こんな薄い布に、どれほどの防刃性があるのかわかったものじゃないが、何も身につけてないよりはマシだろう。

「装備? そんなもん聞いてねーぞ?」

「ダンジョンではモンスターと遭遇する心配もあるのよ。閉じ込められた探索者だけではないの。そのため、先ほどのゲートではランクの低い者を入れるわけにはいかないと強情だったのね」

 戦うかもしれないと聞いてビビるユウジだったが、安全が確保されてないという理由を聞いて、納得する。
 それに比べてニアとミーアの姉妹は言われるがままに装備をつけていた。
 まるで慣れっこであるようだ。

 実はこんな見た目で戦闘民族だったりする?

 私は井伊世長官から直接指導されたからF~Cランクのモンスターは対処できる実力を得ていた。
 腐ってもダンジョンセンター職員なのだ。

 要救助者が出たら、救出しに同伴しなくてはならない。
 事務仕事だから危険はないと聞いていたのに、裏切られた気分だが、今となっては助かった。

「ほら、Fならそんな強いモンスターはいないから大丈夫よ」

「でもよぉ」

「ここにくるって決めた時、ある程度の危険性も話していたでしょう?」

「く、わかった! 男に二言はねぇ!」

 散々悩んだ後に覚悟を決めてユウジは装備を身につけた。

 ちょっとしたボディスーツだ。
 専用のスーツなのだろう、カラーは青で白いラインが入ってる近未来的な服装だ。

 ボディラインが思いっきり出るので、着付けない子はいるだろうなぁ。
 私はそういう羞恥心には慣れたものなので気にしない。
 ニアやミーアも慣れたものなのだろう。
 ユウジだけが恥ずかしがっていた。

 それと金属の筒。
 これでモンスターを脅かして追い払うのだそうだ。

 簡易的な懐中電灯のような構造で、手元のノズルを回すと光の剣が出る。
 モンスターにのみ反応して、人体には影響が一切ないそうだ。

 こういうダンジョンでは非常にありがたい装備といえよう。
 逆に探索者から奪い取られそうな気もするが、そこはそれなりの仕掛けがありそうだ。

 私たちの持つ加工スキル、それかマイナンバーカードに連動でもしてるトリックも疑っておこう。

 通路を進むと、接敵する前に人々が暮らしているであろう空間へと辿り着いた。

 そこは異様な風景だった。
 人工物ではないダンジョンを無理やり拾ってきたもので形作ってすんでいる。

 街角で段ボールで暖をとる乞食に似た生活スタイルをする集団の姿があった。

 当然、排泄物をそこら辺に垂れ流してる独特の匂いもする。
 思わず吐き気を催してしまうのは仕方のないことだ。
 人には慣れることと慣れないことがある。


「なんだあんたたち、見ない顔だな。どこかから流れてきた探索者か? ここは見ての通りFランクダンジョンだよ。ああ、それと同じ仲間と逸れないために、転送陣に入るのはお勧めしない。あれは総合ステータスによって行き先が勝手に変わる代物だからな」

 村人(?)Aは聞いてもないことまでズバズバ答えてくれる。

「ああ、いや俺たち外から来たんだよ。政府からの救援物資を届けに来たんだ。持ち込んだ品だけでどれくらい間に合うかわからないんだけどさ、それであんたの他にここには何人住んでるんだ?」

 全く話が通じないことに痺れを切らしたユウジが、自分が探索者ではなく、政府公認の外とダンジョンを行き来できるダンジョンデリバリーであることを話した。

「何を言って! まさか、本当に? なんて馬鹿なことをしたんだ!」

 ダンジョン遭難者は信じられないと私たちをジロジロ見た後「政府はとうとう一般市民にまで手にかけたか!」と落胆するように呻いた。
 どうやら誤解を与えてしまっているらしい。

「どうも一部のスキル所持者のみが、ダンジョンの出入りをパスできると判明して、それで選ばれた私たちが橋渡しをしようと集められました。最初は半信半疑でしたが、ゲートを行ったり来たりできたのでそこは安心してください。私たちは荷物の持ち運びだけでなく、遭難者の安否を家族に伝えるのも仕事としています。今ここにいる人員の数と、必要なものをこちらにお示しください」

 ユウジに任せていたらいつまで経っても話が進まないと判断した私は、被せるように会話に入り、主導権を握った。

 ニアやミーアはユウジとは違って自分たちが送り込まれた目的すら忘れてダンジョン内を見学してる。
 何しに来たのかしら、この子達。

「本当に、救援が来るなんて思わなかった」

 ようやく話が通じたかと思えば、感涙してまた会話が不能な状態に。

 助かったわけではない。
 ただ、ここで命を落とす可能性が幾分か減った事実に感涙し、そして伝令役としての使命を承ってくれた。

 文字通り、彼はこのダンジョン内での見張り役兼案内人だった。

 ここは集落の中でも随分と離れにあるようだ。
 モンスターの徘徊しだす手前の領域。

 間違って入ってきてしまった一般人を安全な場所に送り届ける役割も担っていたらしい。

 Fランクダンジョンだからと、総合ステータスFだけが暮らしているわけではないらしい。

「申し遅れたな、俺はゴロー。名久井ゴロー。このダンジョンで案内人をさせてもらってる。ここには甥っ子の引率としてきていたのだが、まさかこんなことになるなんてな」

 そう言って、見せてくれたマイナンバーカードにはDの英数字が輝いていた。
 甥っ子の引率で入った先で、ダンジョンブレイクに巻き込まれてしまったそうだ。

「そうだったんですね。駆け出しの探索者を数名預かっていただいて感謝しております。元ダンジョンセンター職員としてなんとお礼を言っていいものか」

「そうか、やたらダンジョン何の仕組みに詳しいと思ったら、お嬢ちゃんあんた……」

「申し遅れました。私は元武蔵野支部受付を担当しておりました倉持クララと申します。以後お見知り置きを」

「ダンジョンセンターはあれからどうなったんだ?」

「もうお察しでしょうが、近場のダンジョン拡張に飲み込まれた形です。私だけがあるスキルを持っていたがために、一人だけおめおめと逃げ仰た形となります。今の私にできることは、いち早くダンジョン封鎖の原因を解明して、ダンジョンセンターの復旧を促すこと。その礎となるべく、このような職業に身をやつしております」

「いい心がけだな。だが、無理はするなよ? 君はまだ若いんだ。甥っ子とそう歳は変わらないように思う。こういう時、大人の俺が先導するべきなんだが、くそ。俺はなんでこんな時に無力なんだ!」

 総合ステータスが他者より高かろうと、世の中ではちょっとしたことで爪弾きに会う。
 彼もまた、その一人。
 ランクがDであるからと、総合ステが低いわけではないだろう。
 Cに上がる条件を満たせず、足踏みしてる間にこのようなトラブルに巻き込まれた。

 そういう人は少なくないはずだ。

「あなただけが悪いわけではありません。ですが、あなたがこうして立ち上がってくれたからこそ、ここのダンジョンは守られた。それは誇れる行為です。尊敬に足る行動です」

「ありがとう、そう言ってくれたら気が楽になる。こっちだ。モンスター用のトラップが仕掛けてあるから気をつけてな」

 足元には、壁から伸びた糸が数本。
 この薄暗闇の中でそこまで気にかけるモンスターはいない。
 その糸に触れるたびに、連動した糸が天井に吊り下げられた木の板を鳴らす仕掛けになっていた。

 要は敵襲を知らせる合図だ。
 戦闘経験が浅い探索者見習いにとって、奇襲ほど精神をすり減らされるものはないから、有ると無いとではメンタルの消耗が大きく変わってくるだろう。

 これが経験の差だ。
 人生経験も、探索者経験も。
 FとDではこうも違うのだ。

「おじさん、その人たちは?」

 彼の甥っ子と思われる少年が声を上げる。
 その集団では活発そうな少年だ。
 唯一の身内がいるからこその心強さか、それともこれ以上は匿えないと私たちを非難しにきたのか。
 その視線はよそ者の私たちを鋭く捉えた。

「敬人、信じられない話だが、この人たちは外とダンジョンを行き来できるらしいんだ。それで、外に個々の状況を伝えるためのメッセンジャー兼補給物資の配達人をしてくれるらしい。そら、随分と我慢してきたろう? 今スープを用意してやろう」

「本当? あなたたちは僕たちを騙さない? おじさんを騙さない?」

 彼の瞳から光は消え去り、相当の疑心暗鬼に苛まれている。
 この形に行き着くまで、数多のトラブルがあったのは容易に頷けることだ。
 弱いものは淘汰される。
 弱肉強食のルールは何もダンジョンモンスターにだけ適用されるものではない。

 法の届かないダンジョン内で、数々の裏切り行為を受けて、こうまで心が荒んでしまったのだろう。

「安心して、私たちも助けたい家族がいる。あなたと同様に助けたい、家族がダンジョンに囚われているの。そして、ダンジョンを出入りできる私たちがあなたと同じように困ってる人に手を差し伸べるべく立ち上がったのよ」

「本当? 嘘ついてない?」

「すぐに信じてくれとは言わないわ。最初は疑って当然。でもね、私たちがあなたを助けたいというのは本当よ。だから、協力してくれる? ここに住む人たちを呼んできて欲しいの」

「何をするの?」

「炊き出しをするわ。私たちはそのために来たの。ここと同じように閉じ込められた人たちを救出すべく、いてもたってもいられずに来ちゃった」

「じゃあ、約束して」

 少年は小指を突き出す。
 ゆびきりげんまんだろうか?
 そういえば妹ともこうしてよく約束事をしたっけか。

「倉持だけじゃ安心できないなら、俺も混ざっていいか? 俺もお前たちを救いたい。そのために協力させてくれ!」

 ここにくるまで役立たずだったユウジも、この惨状を見て思うところがあったようだ。
 少年と一緒にゆびきりげんまんをして、誓いを立てた。
 このダンジョンを安心して暮らせる空間にすると。

 そのために必要な素材を集めるために、私たちは東奔西走することになった。



 ……そういえば、あの二人どこ行ったのかしら?
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