ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴

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164話 ヨッちゃんの魔法講座 1

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 今日は久しぶりにクララちゃんと合流する約束をした。
 俺たちの拠点はすっかり増えた魚人に半ば乗っ取られつつある。

 最初のやつは兵士に繰り上げられ、新しく来たやつがルールの引き継ぎをせずにズカズカ居住区に乗り込んでくる悪夢み落ち落ち寝ていられないとヨッちゃんがキレ散らかした。

 あれらが一体何をしたいかは全くわからないが、門番の意味を呈してないことだけは確かだ。
 ルゥちゃんからは数が増えたら食べちゃっていいと言われているので、半ば間引き漁師の気分である。





「──と、言うことがあってね」

「ダンジョンの乗っ取りですか? 信じられません、あのルゥちゃんが……」

 やはり知り合いだったか。ルゥちゃんもクララちゃんを知ってる感じだったし。
 ただ、世界征服の夢までは語ってなかった感じかな?
 まぁ、あれは本人のというよりも、瑠璃(タコ人形)主導のものに感じたけどね。

「本人は唆されてる感じなんだよね、タコの人形に」

「人形持ちといえば、ニアさんやミーアさんも結構大きめな人形と行動を共にしてました」

「あれはああいうファッションじゃねーのか」

 一緒に行動してるユウジ君がツッコミを入れる。
 そんんわけないでしょ、とクララちゃんが嗜めるも、同年代のファッションについて詳しいわけではないの断言まではしなかった。
 もしかしたら流行っているのかもしれないし。

「ふむ、今若者の間でそういう流行がある?」

「私の近辺ではありませんが、もしかしたら何らかの共通項があるのかもしれません。それはそれとして、このお刺身……」

「うん、配信中に映ってたサハギンだね。ルゥちゃんから何匹かいただいたから捌いて食材にしちゃった」

「あんなふざけた存在なのに、普通においしくてびっくりしてます」

「食材に精神は全く関係ないと証明されたね。他にもつみれ団子にしたツミレ汁、魚肉ソーセージ、サハギンフライ、それをパンで挟んだフィレオフィッシュなんかもあるよ」

「でもこれ、普通に食べて大丈夫なもんなんですか?」

 パクパクと食べ進めつつ、疑問を呈してくるクララちゃん。
 食材そのものが何の味付けもせずに旨いことが疑問の中心にあるよね。

 俺はただこのおいしさをみんなに伝えたいと思って広めるつもりだ。
 何だったら自分たちで消費しきれなくなったら、切り身を広めて食べてもらうつもりでいる。

 ヨッちゃんも好きな味だがオーク同様サイズ的に過食部が多く、一匹で結構な量が取れてしまう
 それが大量だと、最初こそレパートリーの構築にいいが最終的に食べ飽きてしまうからね。
 だったらダンジョンデリバリーのクララちゃんと協力して、表にも流せないか交渉に来ていた。

 総合ステータスの高い加工スキル持ちなら、加工が可能なのでクララちゃんにはうってつけの素材でもある。

 俺の加工をさらにクララちゃんが別物に加工することで、市場にも安心して流せるって寸法だ。

 食材としての旨味の研究は、菊池さんや越智間さん、モーゼの元オーナーに丸投げしてしまってもいい。
 あとはあの人たちが勝手に最適解を求めるだろうから。
 そこにクララちゃんの調味料も合わせて販売してはどうかと提案した。

「食品と調味料の抱き合わせ販売ですか」

「俺からしたら、クララちゃんの調味料を買ってきたらよくわかんない魚肉がついてきた。ぐらいの認識だよ」

「普通は逆ですよ、と言っても私では当たり前になりつつあるこの加工スキルを望むの者は多いって意味ですよね。自分のスキルって、当たり前すぎていまいち価値がわからないんですよね」

「俺のもそんな感じ」

「オレもなー」

「藤本さんのは世界一の技量なので、自信を持ってください!」

「急に手のひら返しすごくない?」

 クララちゃんが急にヨッちゃんをベタ褒めし始める。
 今まではどこか目の敵にされてたのもあって、確かに手のひら返しがすごく感じるが。

「いえ、この数ヶ月。それぞれのダンジョンに出向いて理解しました。普段から見慣れてる藤本さんの魔法は、普通じゃないと」

「褒めたってキンキンに冷えたジュースぐらいしか出せねーぞ?」

「いただきます! んー! 程よい温度。この絶妙具合は職人芸なんですよ、ほんと。冷えすぎず、ほどほどに体温を奪ってくれる。この域に達するマジックキャスターはそう多くないですよ」

「今日はやけに褒めるじゃん。なんか裏がある感じ?」

 疑わしげに、クララちゃんを見つめる。
 普段の扱いが雑だから、流石に察するか。

「そんなモノないです、と言い切れないのがお役所仕事の辛いところと言いますか。実は各ダンジョンから住居の件で相談が来てまして」

「あー、流石にいちいち出向いてらんねーぞ?」

「ではなくてですね、それぞれのダンジョンにいるマジックキャスターにご教授願えないかというお願いです。段取りはこっちが決めて、各ダンジョンからFランクに誘導する形で。人為的にFに向かうためにオリンちゃんの協力もいただきたいと考えてまして」

「俺は別に構わないよ。でも、人をワープさせる機能があるってバレたら不味くない?」

「狙ってワープできると言っても限られた範囲内に限ると言っておきます。どうせ外には出られないんですし、遭難者の中にはダンジョンごとに離れ離れになって心配という声も聞きますから」

 あぁ、ダンジョン内で離れ離れのケースもあるわけね。
 だったら了承しないわけにもいかないか。

 そんなこんなで集まったのはフレッシュな新人! とはならずにそれなりに古参のメンバーが揃う。

 普通にマジックキャスターとして名前が売れてる人も居れば、前線でその腕を振るう人もいる。
 そんな人が今回、新しい挑戦をしようとヨッちゃんに頭を下げに来たと言う形だ。

「まぁ、オレの経歴なんて別に興味もないだろうから早速要点をまとめるぞ。まず肝心なのは水魔法。これの温度調節を自在にしろ。まずはそこからだ。それができなきゃ他の応用はできないと思え」

 いきなりスパルタなヨッちゃん。
 だが、言いたいことはわからなくもない。

「コツとかないのか?」

「コツなんてものはない。でもそうだなぁ、今日はキンキンに冷えた酒が飲みたい。それが最初のきっかけだった」

「ああ、心から望んでそこからスタートした訳か」

「一度底辺まで落ちないとここら辺はわかってもらいにくいが、そう言う意味ではあんた達は幸運だ。今を生きるのすら精一杯。今よりも環境を良くしたいと必死に足掻いてる。そう言う欲望を強く持ってる時ほど、スキルは変化しやすい。手本を一つ見せてやる」

 ヨッちゃんが魔法を行使する。
 手の中から溢れるほどの水の玉が浮き出る。
 しかし手の中で比率にまとまり、球の形を作り上げる。

 一般的なウォーターボールだ。
 これを瞬時に冷やしたり、温度を上げたりした。

「ポンちゃんがオレに求めるのは、初っ端から高難易度だった。そこにオレの工夫を掛け合わせたものが成長のきっかけとなったと思っている」

 え、そんな無理強いした覚えないよ?

「これは身に覚えがない顔だな」

「いや、だって野菜を洗い流す流水の勢いの調整を頼んだくらいで」

「ああ……そりゃキツイな」

 俺たちの会話を聞いていた参加者がヨッちゃんに同意するように頷く。

「だろ? 結構キツイ魔法行使をこともなげに言ってくるんだ」

「ああ、これと決めた魔法は瞬間出力から威力まで決めて行使する。普通それを野菜を洗うためだけに使うなんて愚の骨頂だ」

「中には身崩れしやすい豆腐とかも選択肢に入れてくる。もっと抑えて、とかさ」

「うわ、完全に水道の強弱でモノ語ってるじゃん。あんたも苦労してんだなぁ」

「おかげでここまで来れたってもんよ」

 何故か苦労話で盛り上がってる。おかしいなぁ、俺そんなに無茶振りした覚えはないんだけど?
 むしろお湯とか作れるようになったから、調理に使えないかって売り込んできたのはヨッちゃんの方からだったような?

 確かにアレコレ文句は言ったが、それを100%叶えたヨッちゃん。
 だからこう言うこともできないか? って要望が上がって行ったのもある。
 今更そんな昔のことを蒸し返して愚痴るなら、その時無理なら無理って言ってくれたらよかったのに。

「なんか俺が悪者にされて気分が悪いんだが?」

「まぁまぁ、オレがその時どんな要望をされて、それを再現したかってのがこの魔法が生み出されたきっかけだから」

 ぐぬぬ。
 今はここが俺が悪者になるべきところか。

 イジケついでに食事の準備をしてしまう。
 ヨッちゃんは魔法の講師にかかりきりだ。
 自分で火を起こそうとして、普段どんな無茶振りを行なってきたか、嫌と言うほど理解する。

 普通のマジックキャスターに、ここに種火を灯してくれと頼もうモノならば七輪ごと燃やし尽くす火種が投下されるのだとか。

 だったらライターで十分じゃん。
 魔法を使うまでもない、皆はそう思うそうなのだ。

 でもヨッちゃんは気軽に「オッケー」と返事をしてくれる。
 気配り屋さんで「水も出すか?」と聞いてくれたり、火の微調整なんかもお手のもの。
 俺の方もついつい頼ってしまっていた。

 当たり前の力だと感じてしまっているのは、良くないことだ。
 もし違うマジックキャスターと組む事態になったら、きっと心のどこかでヨッちゃんと同じ仕事を求めてしまうんだろうな。

 そんなことをぼんやり感じて、うまく回らない火にヤキモキしながら料理を始めた。
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