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一章
限定SS 冒険者への道(ver.水野)
しおりを挟むアリエルを仲間にして数日後、突然水野に話を振られた。
何やら必死な様子で、仕方なく話を聞いてやることにする。
「阿久津君、俺、冒険者になってみたいんだ」
「いいけどなんでまた?」
「俺も阿久津君みたいにちやほやされたい!」
いつ、俺がモテたと言うのだろうか?
確かに委員長は口を開かなければ可憐だし、杜若さんは意外と毒を吐くところに目を瞑ればお淑やかだ。
が、その二人はレギュラーから外された補欠という立場だからこそ一緒にいてくれてるわけで、俺が格好いいから一緒にいるわけでは断じてないんだぞ?
「言っとくが水野。冒険者になったからってモテはしないからな?」
「えっ」
ダメだこいつ、なんも分かってない。
理解不能といった顔をしている。
「そもそも俺の天性とお前の天性は違うじゃんか。お前はガチャで何でもかんでも出せないだろ? 言ってて悲しくなるが、正直俺のは食い物で胃袋掴んで得た信頼だ」
「言うじゃん。俺の天性がなんの役にも立たないと?」
「正直に言えば委員長や杜若さんの納得のいく成果が出せるかと言えば難しいところだな」
「そんな悲しいこと言うなよ、俺たち友達だろ?」
クラスメイトな?
俺はお前と友達になった覚えはないぞ?
それでも諦められないらしく、仕方なく一緒に連れて行ってやることにした。
「なんでまた冒険者なんて危険な仕事(笑)をしてみたいのさ」
冒頭から薫の毒吐き。
こいつ俺以外には塩対応なんだよな。
まだ知ってる顔だからギルドの猫耳受付嬢にほどヘイト向けてないが、仲間ヅラしてあちこちでやらかせばホトケの薫もオニの仮面を被らざるを得ない。
って言うか被るのが目に見えているからこその釘刺しだ。
「俺もモテたい」
「冗談は顔だけにしてよ」
「言うじゃん」
「僕は正論を述べている。ね、雄介」
そこで俺に振るなよ。
それと水野、そのすがるような目つきはよせ。
仕方ないので好きにやらせることにした。
一応薫の口利きで、借金を背負ってCランク冒険者に。
俺たちと違うのは初期スタートのステータス差か。
スタート地点が違うから、背負う借金もまた多い。
ランクCのライセンスとなると銀貨百枚相当。
要は金貨一枚の提出を求められた。
まぁそのステータスなら余裕でしょ、と将来性を見越してのことである。
なんせこいつは俺たちと違って戦闘力がある奴だ。
モンスターに対して命を刈り取る術がある。
要は勝ち組なのだ。
だと言うのに三上や木下なんかと比べるもんだから王宮での立場がないらしく、じゃあそれより下を見て自分の欲を満たそうと言う魂胆らしい。
じゃあ俺たちは薬草採取行ってくるからとその場で別れるも、数分もしない内に泣きついてきた。
「ごめん阿久津君、俺が愚かだった!」
「だから言ったじゃん、水野君に冒険者は生きづらいって」
「本当、冴島君の言う通りだった。いや、モンスターを倒すのまでは良かったんだよ。でもさ、討伐部位なんて初めて聞くしさ、それを持ってこないことには査定がされないとかでお金が一銭も入ってこないんだ!」
まぁ普通はそうなるよな。
俺たちの仕事は水野から言わせればたかが薬草採取だ。
そのたかが薬草採取で銀貨数十枚稼ぐ手腕は俺たちの天性を駆使してこその成果。
モンスターを倒すのに慣れていたところでそのノウハウを丸っと無視していればそうなるのは目に見えていた。
仕方ないので薬草採取に水野も加わる事になる。
「へぇ、薬草って言っても色々あるんだな」
「あ、それ素手で触ったら痺れるよ」
「ぎゃあ!」
素人が本職の仕事に手を出すんじゃねーよ。
いちいちリアクションが激しい水野は杜若さんの精神安定で大人しくなり、そして仕事を終えたあとこう言って頭を下げた。
「ごめん、俺には冒険者はまだ早かったみたいだ。レギュラーやってた方がまだ精神的に楽だったよ。勉強になった」
だから言ったじゃん。
その日から水野は上にばかり目を向けないで自分の立ち位置をしっかり見据えて行動するようになった。
めでたしめでたし。
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