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五章
16_勇者教会を立て直そう⑥
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いよいよイベント当日。
事前にエントリーした料理人の中にしれっと俺も混じり、みんなからの応援を受けながら会場にて腕を振るう。
その中でも俺の調理工程は極めて異質に映ったに違いない。
皆が刻んだり煮たり焼いたりしてる横で、謎の機械で一瞬にして乾燥させて、それを茹でて豆乳を作りだしたのだから。
みんなには黙ってるけど、大会当時に俺のスペースだけ時間引き伸ばしてるんだよね。
大豆のメイン工程だけやたら時間かかるから。
まぁズルと言ったらそれまで。イチャモンをつけられる前にチャチャっと終わらせて付け合わせ料理の下拵えを終わらせる。
豆腐、おからの準備はオーケイ。
バザーで仕入れたカラーピーマンみたいな植物を、ヘタだけ取って中身をくり抜く。
ここでお待ちかね、鶏肉に寄生させた龍果の登場である。
ちなみにこの世界、豚と牛は滅んでいる。
なんで鶏だけ生き残ったのかは不明だが、肉といえば鶏と兎と言えるほどポピュラーだが、それに寄生させた龍果ははっきり言って脈打っててキモい。
さっきまで凄い! という顔で見てた観客が一瞬にして距離を置くのが見えた。どうもゲテモノ料理人であると思われたようだ。
まぁ料理人なら料理で唸らせればいい事だ。
どうせ記念参加だしな。
本来の目的は龍果のお披露目的なものだ。
イベントなら有無をいわせず全員に食わせることができるからな。追加で龍果を調達しにいく時、アリエルから本当か何度も尋ねられたほどだ。
作り手からの信用がない作物なんてお前くらいだぞ、龍果。
さぁ、他の料理人が次々と仕上げた料理を大会規定の皿に盛っていく。豆腐を素揚げにして、用意した調味料に漬け込んでお稲荷さんを作ってしまおう。
なんと言っても観客全員が審査員だ。
最初は教会関係者に見せびらかす用で一品綺麗に仕上げるが、あとは流れ作業だ。
あれだけ興味をさらっておきながら、俺のメニューは一番最後の提出となった。
しゃーない。大会の規定時間は1時間。
それ以内に集まった住民分のメニューを仕上げるのは至難の業。どう考えても簡単な調理工程になるのは必須。
だというのに豆腐に油揚げまで馬鹿正直に作り、二次加工して全員分それを仕上げるなんてズルでもしないと間に合わない。
「全員、それまで! 盛り付けの段階に移ってるものはそのまま作業を続けてくれ。調理中の者は手を止めて、出来上がったメニューの盛り付け作業に移るように」
制限時間となり、ユースキーがよく通る声を上げた。
その一声で料理人はピタと止まり、もう少し時間があれば……という顔で作業を中止する。
イベントそのものが初めてでその量を作ってれば仕方ないと思うよ?
俺なんてピーマンの肉詰め、冷や奴、お稲荷さんの三品だからな。
他の人達は自分の得意料理のお供に5品は作り上げてる。
大豆のオリジナ料理なんてせいぜい1品だ。
メインはとっくに自分の中で決まってるって奴だな。
でもそれでいいと思う。
教会から認定された料理人なんてそのメニューこそが至高だと思ってて当然だ。ならお客さんもそれを食べたくて列をなす、いわば顔役。
なのでそのメニューは絶対並ぶ。
作り慣れてない料理が選ばれなくても、他ので評価されれば良いという顔をしていた。
その実審査員もそれを食べに来てる風である。
「流石ブロンスキさんのパージャル麺は最高だな。このクニュッとした食材は初めて食べるがなんだい?」
「これは今日という日の為のお披露目食材の“大豆”と呼ばれるご禁制品らしいですぜ」
「へぇ、ご禁制品! 教会も太っ腹だねぇ。大将の手にかかればご禁制品も立派なパージャル麺の一員だ」
「ありがとうございます」
パージャル麺、要はスパゲティのような乾麺を茹でてトマトと挽肉のソースで絡めたものだ。パージャルがどこから来てるか分からないが、多分店主さんの名前かな?
「ねぇ、あの気持ち悪い野菜を使ってる料理以外の食べ物はないの?」
ウチの屋台に顔を出したのは自称美食家の女性だった。
食べるものは綺麗でなくてはならないみたいな典型的な見た目で判断するみたいな、そんな人である。
「それでしたらこちらはどうでしょう?」
俺は冷や奴をお勧めした。
「これは……スプーンで掬って食べるのね? 恐ろしいくらいに柔らかいわ! それになんて香ばしい。大変美味ね! この料理のお名前は? そう、ヒヤヤッコと言うのね。変わった名前だけど大変美味しかったわ。皆に宣伝してきます。次に来る料理はヒヤヤッコであると! ではまた!」
そう言って女性はヒヤヤッコの椀をあるだけ持って行ってしまった。ああ言う上からの態度でくる人って基本的にもらって当たり前って思考してるから、褒められても嬉しさ半減なんだよな。
なんせ美味くて当たり前。不味ければ怒られる。
そんな不条理な人物だから(決めつけ)
「雄介! きたわよ」
「お、アリエルいらっしゃい」
「ご相伴に預かりにきたわ」
「坂下さんのお口に合うか分からないけど食べてってよ」
俺の本命はこっちだ。
「このヒヤヤッコというのは、スイーツなの?」
「見た目はそうね。でもご飯のおかずよ」
「見た目詐欺だわ!」
坂下さんとアリエルはすっかりと仲良くなってワイワイと言いながら龍果を一切使ってない冷や奴トークを交わしている。
それを堪能し切ったら、ピーマンの肉詰め、お稲荷さんの順で口をつけた。
「美味しいわ! なにこれ、なにこれ!」
「考えたわね。龍果のジューシーさをおからで包み込んで、後から脂っこさがガツンとくるのね。でもおからと一緒だから口の中がさっぱりして良いわ。お稲荷さんの味の染み込み具合も最高ね。普通にお稲荷さん出しても良かったんじゃない?」
「薫にもいわれたんだけど、五目ご飯のレシピに禁制品が混ざりすぎてて現状どれがなんだと説明する時にボロが出るからってお蔵入りになってる」
「あら。阿久津君の専売特許だから忘れてたわ。そうね、この世界ではとっくに滅んだ野菜や果実、山菜、キノコ類があると聞いて居るわ」
「こっちの緑色の野菜に包まってるのも美味しいわね! 恵、普段のメニューに追加できる?」
「阿久津君からお豆腐とおから、油揚げを仕入れたら可能よ」
「まぁ、1から作るのは専用の道具いるからな」
「すごく手間なのね?」
その会話の内容だけで、カニクリームコロッケ相当の手間がかかると知ったアリエルは、難しい顔をしながら腕を組んだ。
「ウチの商品として売り込もうと思ったのに」
「豆腐とかはガチャで出すより自作の方が当たり外れはある分、経験値が溜まっていくのを感じるな。普段食べるのはガチャで十分だが、特別な時は自作の料理を食わせてやりたいと思うよ」
「すっかり料理人ね」
「雄介! ライバル店の料理を持ってきたよ。一緒に研究しよ」
「お、ナイス薫」
すぐにこっちに来ないで、わざわざ人気店の屋台で料理を貰ってきたのだろう。お盆に大量に料理を持ってやってきていた。
それを見たアリエルがつまんなそうな顔でその料理達を見下ろす。
「これを当時は求めてたのよね」
「今はいいのか?」
「ウチの龍果の方が美味しいもの。過去は水に流すべきだわ」
「トラウマは払拭できたか?」
「要らないなら僕達で分けるけど?」
「別に食べないとは言ってないわよ!」
アリエルを除け者にして切り分ける薫に、当人が食ってかかる。それを見守りながらライバル店の料理を口にした。
「うん、ミートスパゲティ」
パージャル麺は見た目通りの味だった。
独特なスパイスとか使われてない、一般的な味わい。
乾麺とか普通に流通してたことに驚くが、一度いろんな文化が混ざったかことによる効果か日本人好みの味わいになっている。
「やっぱりミートスパゲティなんだ。チーズとかはないのかな?」
「牛が存在しないそうだ」
「じゃあバターやヨーグルトもないのね」
「考えられませんわ」
杜若さんは残念そうに香ばしく焼き上げたフライを口にした。
どう見てもフライドポテトだが、意外と美味しかったらしく無言で食べ続けている。
そこへ、先ほどの上から目線の女性が大勢の人を連れて再びやってきた。
「ごめんなさい、坊や。坊やのお店は不正をしてるのではないかとクレームが出たのよ。ねえ、そうでしょう皆さん」
アリエルや坂下さんが不躾な人達を見咎め、俺は早速釣れたかとユースキー呼び出しボタンをポチッと押した。
あとは待ってれば治安部隊が動き出すだろう。
勇者教会に溜まってる膿は全部出しちゃわないとな!
事前にエントリーした料理人の中にしれっと俺も混じり、みんなからの応援を受けながら会場にて腕を振るう。
その中でも俺の調理工程は極めて異質に映ったに違いない。
皆が刻んだり煮たり焼いたりしてる横で、謎の機械で一瞬にして乾燥させて、それを茹でて豆乳を作りだしたのだから。
みんなには黙ってるけど、大会当時に俺のスペースだけ時間引き伸ばしてるんだよね。
大豆のメイン工程だけやたら時間かかるから。
まぁズルと言ったらそれまで。イチャモンをつけられる前にチャチャっと終わらせて付け合わせ料理の下拵えを終わらせる。
豆腐、おからの準備はオーケイ。
バザーで仕入れたカラーピーマンみたいな植物を、ヘタだけ取って中身をくり抜く。
ここでお待ちかね、鶏肉に寄生させた龍果の登場である。
ちなみにこの世界、豚と牛は滅んでいる。
なんで鶏だけ生き残ったのかは不明だが、肉といえば鶏と兎と言えるほどポピュラーだが、それに寄生させた龍果ははっきり言って脈打っててキモい。
さっきまで凄い! という顔で見てた観客が一瞬にして距離を置くのが見えた。どうもゲテモノ料理人であると思われたようだ。
まぁ料理人なら料理で唸らせればいい事だ。
どうせ記念参加だしな。
本来の目的は龍果のお披露目的なものだ。
イベントなら有無をいわせず全員に食わせることができるからな。追加で龍果を調達しにいく時、アリエルから本当か何度も尋ねられたほどだ。
作り手からの信用がない作物なんてお前くらいだぞ、龍果。
さぁ、他の料理人が次々と仕上げた料理を大会規定の皿に盛っていく。豆腐を素揚げにして、用意した調味料に漬け込んでお稲荷さんを作ってしまおう。
なんと言っても観客全員が審査員だ。
最初は教会関係者に見せびらかす用で一品綺麗に仕上げるが、あとは流れ作業だ。
あれだけ興味をさらっておきながら、俺のメニューは一番最後の提出となった。
しゃーない。大会の規定時間は1時間。
それ以内に集まった住民分のメニューを仕上げるのは至難の業。どう考えても簡単な調理工程になるのは必須。
だというのに豆腐に油揚げまで馬鹿正直に作り、二次加工して全員分それを仕上げるなんてズルでもしないと間に合わない。
「全員、それまで! 盛り付けの段階に移ってるものはそのまま作業を続けてくれ。調理中の者は手を止めて、出来上がったメニューの盛り付け作業に移るように」
制限時間となり、ユースキーがよく通る声を上げた。
その一声で料理人はピタと止まり、もう少し時間があれば……という顔で作業を中止する。
イベントそのものが初めてでその量を作ってれば仕方ないと思うよ?
俺なんてピーマンの肉詰め、冷や奴、お稲荷さんの三品だからな。
他の人達は自分の得意料理のお供に5品は作り上げてる。
大豆のオリジナ料理なんてせいぜい1品だ。
メインはとっくに自分の中で決まってるって奴だな。
でもそれでいいと思う。
教会から認定された料理人なんてそのメニューこそが至高だと思ってて当然だ。ならお客さんもそれを食べたくて列をなす、いわば顔役。
なのでそのメニューは絶対並ぶ。
作り慣れてない料理が選ばれなくても、他ので評価されれば良いという顔をしていた。
その実審査員もそれを食べに来てる風である。
「流石ブロンスキさんのパージャル麺は最高だな。このクニュッとした食材は初めて食べるがなんだい?」
「これは今日という日の為のお披露目食材の“大豆”と呼ばれるご禁制品らしいですぜ」
「へぇ、ご禁制品! 教会も太っ腹だねぇ。大将の手にかかればご禁制品も立派なパージャル麺の一員だ」
「ありがとうございます」
パージャル麺、要はスパゲティのような乾麺を茹でてトマトと挽肉のソースで絡めたものだ。パージャルがどこから来てるか分からないが、多分店主さんの名前かな?
「ねぇ、あの気持ち悪い野菜を使ってる料理以外の食べ物はないの?」
ウチの屋台に顔を出したのは自称美食家の女性だった。
食べるものは綺麗でなくてはならないみたいな典型的な見た目で判断するみたいな、そんな人である。
「それでしたらこちらはどうでしょう?」
俺は冷や奴をお勧めした。
「これは……スプーンで掬って食べるのね? 恐ろしいくらいに柔らかいわ! それになんて香ばしい。大変美味ね! この料理のお名前は? そう、ヒヤヤッコと言うのね。変わった名前だけど大変美味しかったわ。皆に宣伝してきます。次に来る料理はヒヤヤッコであると! ではまた!」
そう言って女性はヒヤヤッコの椀をあるだけ持って行ってしまった。ああ言う上からの態度でくる人って基本的にもらって当たり前って思考してるから、褒められても嬉しさ半減なんだよな。
なんせ美味くて当たり前。不味ければ怒られる。
そんな不条理な人物だから(決めつけ)
「雄介! きたわよ」
「お、アリエルいらっしゃい」
「ご相伴に預かりにきたわ」
「坂下さんのお口に合うか分からないけど食べてってよ」
俺の本命はこっちだ。
「このヒヤヤッコというのは、スイーツなの?」
「見た目はそうね。でもご飯のおかずよ」
「見た目詐欺だわ!」
坂下さんとアリエルはすっかりと仲良くなってワイワイと言いながら龍果を一切使ってない冷や奴トークを交わしている。
それを堪能し切ったら、ピーマンの肉詰め、お稲荷さんの順で口をつけた。
「美味しいわ! なにこれ、なにこれ!」
「考えたわね。龍果のジューシーさをおからで包み込んで、後から脂っこさがガツンとくるのね。でもおからと一緒だから口の中がさっぱりして良いわ。お稲荷さんの味の染み込み具合も最高ね。普通にお稲荷さん出しても良かったんじゃない?」
「薫にもいわれたんだけど、五目ご飯のレシピに禁制品が混ざりすぎてて現状どれがなんだと説明する時にボロが出るからってお蔵入りになってる」
「あら。阿久津君の専売特許だから忘れてたわ。そうね、この世界ではとっくに滅んだ野菜や果実、山菜、キノコ類があると聞いて居るわ」
「こっちの緑色の野菜に包まってるのも美味しいわね! 恵、普段のメニューに追加できる?」
「阿久津君からお豆腐とおから、油揚げを仕入れたら可能よ」
「まぁ、1から作るのは専用の道具いるからな」
「すごく手間なのね?」
その会話の内容だけで、カニクリームコロッケ相当の手間がかかると知ったアリエルは、難しい顔をしながら腕を組んだ。
「ウチの商品として売り込もうと思ったのに」
「豆腐とかはガチャで出すより自作の方が当たり外れはある分、経験値が溜まっていくのを感じるな。普段食べるのはガチャで十分だが、特別な時は自作の料理を食わせてやりたいと思うよ」
「すっかり料理人ね」
「雄介! ライバル店の料理を持ってきたよ。一緒に研究しよ」
「お、ナイス薫」
すぐにこっちに来ないで、わざわざ人気店の屋台で料理を貰ってきたのだろう。お盆に大量に料理を持ってやってきていた。
それを見たアリエルがつまんなそうな顔でその料理達を見下ろす。
「これを当時は求めてたのよね」
「今はいいのか?」
「ウチの龍果の方が美味しいもの。過去は水に流すべきだわ」
「トラウマは払拭できたか?」
「要らないなら僕達で分けるけど?」
「別に食べないとは言ってないわよ!」
アリエルを除け者にして切り分ける薫に、当人が食ってかかる。それを見守りながらライバル店の料理を口にした。
「うん、ミートスパゲティ」
パージャル麺は見た目通りの味だった。
独特なスパイスとか使われてない、一般的な味わい。
乾麺とか普通に流通してたことに驚くが、一度いろんな文化が混ざったかことによる効果か日本人好みの味わいになっている。
「やっぱりミートスパゲティなんだ。チーズとかはないのかな?」
「牛が存在しないそうだ」
「じゃあバターやヨーグルトもないのね」
「考えられませんわ」
杜若さんは残念そうに香ばしく焼き上げたフライを口にした。
どう見てもフライドポテトだが、意外と美味しかったらしく無言で食べ続けている。
そこへ、先ほどの上から目線の女性が大勢の人を連れて再びやってきた。
「ごめんなさい、坊や。坊やのお店は不正をしてるのではないかとクレームが出たのよ。ねえ、そうでしょう皆さん」
アリエルや坂下さんが不躾な人達を見咎め、俺は早速釣れたかとユースキー呼び出しボタンをポチッと押した。
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