クラス転移で手に入れた『天性』がガチャだった件~落ちこぼれな俺がみんなまとめて最強にします~

双葉 鳴

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一章

(2)冒険者への道

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「うちの子を送り届けてくれてありがとうございます」
「お兄ちゃん、おねーちゃん、またね!」
「これ、少ないですが」
「受け取れません」
「気持ちですから」

 獣人の少女を送り届けた後、お母さんからお叱りの言葉を受けていた獣人少女。
 割としょっちゅう迷子になってしまうらしい。
 陽の明るいうちは治安はいいが、日が暮れると途端に悪くなるのですぐいなくなってしまう娘に困り果てている様子だった。
 何かされる前に送り届けることができてよかったぜ、と俺たち。

 その上でお礼としてこの国で使えるお金をいただいてしまう。
 それは報酬としては少ない、お駄賃みたいなものだったのだろう。
 しかし俺たちにとってはかけがえのないものになった。

「今回は杜若さんの『カウンセラー』が大活躍だったな」
「ええ、ほんと。泣きじゃくる子供をあやすのってとても大変なのよ。それを杜若さんは話しかけるだけで解決してしまったわ。王国ではどうしてこれで無能判定を受けるのか意味がわからないくらいよ」
「きっと、それくらい成り手が多いのじゃないのではないでしょうか?」
「あぁ、需要を満たしてるから今更新しく求めていない?」
「そう考えるのが筋でしょう」
「だとしたら僕の『商人』もそういう結果か」

 今回のMVPは『カウンセラー』の天性を遺憾なく発揮した杜若さんで決定だった。
 俺は結局慌てふためくだけでまるで役に立てなかった。
 悔しいが、一緒に行動してる限りまだチャンスはあるはずだ。

「で、これの使い道なんだけど」

 薫が握りしめた5枚の銅貨の使い道を尋ねる。
 そのまま持ち帰って美談としてもいいが、城下町に出向いた証拠として何か買い物をしてもいいんじゃないかということになった。
 そこで行きがけに見つけた屋台のりんごっぽい果物に焦点が当たる。

「でしたら皆さんにお土産を持ち帰るというのはどうでしょう?」

 クラスのマドンナは心まで綺麗だ。
 ここで活躍をして見せたのが『識別』の天性を持つ委員長と、『商人』の天性を持つ薫だった。
 言語を理解できない俺たちに変わり、委員長はこの世界のデータベースから情報を引っ張ってきては蘊蓄を語り始める。
 そこで購入予定のリンゴが生食には向かず、傷みかけていることを理由に薫が値切り交渉を仕掛けたのである。
 これが功を奏して無事値切り完了、ここまで俺の活躍はゼロ。

 いたたまれない気持ちになりながら帰路に着く。
 そこで俺は残りのコインを持つ係になって……そこで俺の能力が開花した。

 どうも俺のガチャは銅貨を媒介にステータスを上昇させる力があるみたいだ。
 運を天に任せたガチャタイムが始まり、俺たちは見事に当たりを引いた。
 自分一人じゃどうしようもなかった俺の『天性』は、みんなの力を借りることで真価を発揮するタイプのようだった。
 普通なら回した俺にだけ恩恵があるのがほとんどだが、俺の場合はその場にいた全員のステータスを上昇させた。
 あまりにもチート! 
 結局コインは一枚も残さずステータスアップに使った。
 全員が満足していた。
 俺も活躍の機会があって嬉しかった。

 ホクホク顔で帰還した俺たちは今日の冒険をドヤ顔でクラスメイトに伝えた。
 当然、もっと反応があると思っていたからだ。
 けど帰ってきたのは冷めた反応だった。

「阿久津、お前の気持ちもわかるが……俺たちは遊びで訓練しているわけじゃないんだ。そのガチャはさ、お前達で使ったらいいと思う。俺たちには必要ないかな」
「えっ」

 理解が追いつかない顔を晒したと思う。
 その後野球部補欠の木下から成長速度、つまりはレベルアップごとのステータスの増加具合を聞いて口を噤む。
 俺たちの成長なんか雀の涙程度のものだって理解して打ちひしがれる。
 最初からスタートラインが違ったのだ。
 俺たちの喜びは、他のクラスメイトにとってはとっくの昔に通り過ぎた場所なのだと知った。

 強くなりたい。
 みんなに置いていかれたくない。
 そう思ったのは俺だけじゃなかった。
 翌日、特に打ち合わせもなく集まった俺たちは無言で城下町に向かった。

 成長するためのきっかけは得た。
 金だ。お金さえあれば俺たちは無辺に何度でも成長できる。
 俺のガチャはそういうものだから。
 けど、今の俺たちに金を得る手段があまりにもない。
 ないないづくしの補欠四人組。それが今の俺たちの現状だ。

「そう都合よく迷子は落ちてないか」
「阿久津君、それは流石にどうかと思うわ」

 逸る気持ちに本音が出て、委員長に咎められる。
 確かに今の発言にデリカシーはなかったな。
 まるで都合よく迷子が転がってくれたらいいだなんて、思っても口にするのはまずいだろう。
 その上で毎回都合よく駄賃をもらえる算段だ。
 自分で言ってて恥ずかしくなった。

「僕たちの能力でお金を稼げるお仕事があればいいんだけど」
「定番なのは冒険者とか?」
「私たち、戦う力なんて持ってないわよ?」

 ガチャに商人、カウンセラー、識別。
 誰一人戦闘に向いていない。
 その上で一般人より劣るステータス。上がったといえど、それは子供を脱却しただけに過ぎない。
 クラスメイトには程遠い差があった。

 それでも何かをしなければこのままだ。
 ステータスさえ上がれば冒険者としてもやっていける。
 そう思って冒険者の門を叩いた俺たちは、さらなる絶望を突きつけられる。

「え、登録料ですか?」

 俺たちは文無しだった。
 どちらにせよ昨日の稼ぎでは到底足りない金額を提示される。
 そこで薫の『商人』が機転を回し借金を背負うことでライセンスを前借りすることに成功する。
 今はただ、無心に強くなるための仕事を請け負う。
 少しでもクラスメイトに追いつくための覚悟を示した形だった。
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